超次元偶像二宮飛鳥のセカイ   作:関ち出張所

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≪Observation by Asuka≫

 

「ふざけるな! こんな結末認めないぞ!!」

 

 ダンッ、とダッシュボードを叩いた手がジンと痛んだ。それで事態が好転するはずがないのは理解っていたが、じっとしていることに耐えられなかった。

 運転席のPは大きくリクライニングさせた背もたれに身体を預けたまま、瞑想するように目をつぶっている。……いや。もしかしてただの昼寝?

 

「おいP! 起きろ! 状況が理解っているのか!」

「ンゴッ!?」

 

 お腹をはたいてやるとPは豚のように鳴きながら跳ね起きた。やはり昼寝をしていたな。呑気か!

 

「ふにゅ~~……。もう来たん~?」

「変な声を出すんじゃない。警察もクレーン車もまだ来ていない。だから、考えるんだろう! ここから脱出する方法を!」

 

 車内から周りを見渡しても三十分前と変わらない光景が広がっていた。横転した数台の大型車によって、高速道路上の車の流れは完全にストップしたまま。行く手を阻まれた数十台の乗用車の持ち主たちは、ある者は車外で煙草をふかし、ある者は何処かへ電話を掛け続け、そしてある者はPのように座席を倒して不貞寝をしている。そうしながら、救助車両の到着を待っている。

 

「時間が迫っているっていうのに……っ! クソ!」

 

 郊外のライブ会場へと向かうため、高速道路を走行している最中にソレは起こった。前方を走っていた大型のタンクローリーが、緩いカーブに差し掛かったときに突然横転したのだ。そして何十台かが停車して、誰ともなくタンクローリーの運転手の救出作業に取り掛かった頃、後方でもほとんど同じこと――大型トラック数台の横転事故――が発生した。

 見た目はアクション映画のクライマックスシーンのように大変なことになっているけれど、現在のところ爆発や炎上の恐れは無く、軽傷者しかいなかったのは不幸中の幸いといえる。しかし、高架になっている場所での事故だったので、前後は元より、道路外に出ることも出来ない。つまり、ボクたちは高速道路上に閉じ込められてしまったのだ。

 

「いくら何でも遅すぎないか……?」

 

 この状況になってからもう二時間以上経っているのに、クレーン車はまだしも、警察さえ到着しないなんて、明らかに異常だ。

 会場入りの予定時刻はとっくに過ぎている。それどころか、進行に問題が無ければライブはそろそろ折り返しの頃だ。いくらボクの出番が最後だといっても、こんなところで一秒だって油を売っていられないというのに。

 

「んとな、ここに救助車両が到着するのはな、どうやら三時間後らしい」

「三時間!? ライブ終わってるじゃないかっ! 警察は一体何をしているんだ!」

「まぁまぁ、そう言ってやるなって。ここ以外にも前や後ろの方でも同じような事故が六か所で発生してるからしゃーないべさ」

「は? 六か所……? そんな莫迦なこと……」

 

 しかし携帯で『高速道路、事故』と検索してみると『○○自動車道の数か所で大型車両による事故発生』という見出しがすぐに目に入った。身体から力が抜け、携帯が膝の上に滑り落ちる。

 

「……なぁ、P。もしこのままライブに間に合わなかったらどうなるんだ?」

「神崎ちゃんに不戦敗するとか以前に、クビになるだろうな」

「っ……!」

 

 亜季さんと涼さんがノロでダウンしたことは、上の人間には「自己管理がなっていない」と相当マイナスに判断されているらしい。ここで頼みの綱のボクがライブをすっぽかしたら、火に油を注ぐようなものってワケか。不可抗力だろうと関係なしって、世知辛すぎる。

 

「………あ」

 

 ふと、この絶望的な状況にデジャヴを感じた。ボクのデビューライブの日の泰葉さんとほとんど同じ状況なのだ。あの日、泰葉さんは大渋滞に捉まって、絶対に出なくてはならないライブに間に合わなかった。何のお咎めもなかったのは、ユニットメンバーが公表されていなかったのをいいことに、ボクが代役を務めたから。

 しかし、今回はボクの代役を出来る人なんていない。あの時とは違い、ボクが出るっていうことはもう周知されているから。ボク自身がライブに出る以外に助かる方法はない。

 

「なんだこれは……? こんなの本当に……」

 

 運命がボクを敗北させようとしているみたいじゃないか――と嘆く寸前、ボクは頭を振ってそれを拒んだ。運命とか神の台本だとか、そんな胡散臭いモノに屈服したくないと、強く感じたのだ。

 

「そういえば……!」

 

 そして思い出した。あのデビューライブの帰り道でPが、泰葉さんがライブに間に合う方法は何通りもあったと言っていたことを。

 

「あるのか……? ライブ会場へ辿り着く方法」

「…………当然だろ? へへっ!」

「っ! それはどういうっ?」

「フッ……」

 

 不敵な笑みを浮かべるP。それは『当ててみろ』という挑発だった。

 車外に出て、改めて周囲を見渡す。停車している数十台の乗用車とその乗員。前方と後方で進路を塞いでいる横転したままの大型車。今見るべきは前方だろう。タンクローリーが道路の進行方向とほとんど直角の向きに横転している。フロント部分は道路側面の壁にぶつかって、密着したままの状態。リア部分も逆側の壁にめり込んでいる。何台かで牽引すれば動かせなくはないみたいだけど、タンクの中身が有害物質であるため、やはり不可。専門の重機による慎重な撤去が必要。

 道路両側の壁はそこまで高くない。それにブロック塀よりかはよっぽど幅があることに気が付いた。

 

「……ちょっと怖いけど、壁の上を伝って向こう側へ行くことは可能か…」

「ふーん。んで、そこを乗り越えてからどうするんだ? ずっと歩いていくのか?」

「あ、そうか……クッ!」

 

 前の方でも何か所かで事故が起こっているらしいから、少なくともそれを全部越えるまで歩かなくてはならない。数キロか下手したら十キロとか? それにはどれだけの時間がかかるだろう? ライブの出番が刻一刻と近づいているっていうのに、そんな時間的余裕はない!

 

「飛鳥、考え方がやや平面的だな。もっとさ、Dimension意識してこうぜ?」

「は? でぃめん、しょん? ……っ!」

 

 Dimension……Dimension-3……三次元。そうか!

 道路の端まで駆けて行き、背伸びして壁から下を覗き込む。十メートルほど下方には一般道が走っていた。そこの交通の流れは正常のようだ。

 

「P、キミのことだ、車にロープぐらい積んでいるんだろう?」

「まぁな」

「やはり! それでこの高架道路から下まで降りる。やれなくはないはずだ。そしてタクシーを捕まえて会場へ。これしかない!」

「俺らが乗ってきた車はどうする?」

「それは……そうだ! ここで足止めを喰らってる他の人に乗って行ってもらうように依頼して、後で引き取りに行くっていうのはどうだい?」

「ふむふむ。100点中のぉ~~~」

 

 Pが目を細め…たかと思えば見開き、口をもにょもにょ、眉間の皺をぐにょぐにょ蠢かせる。なんだ? 正解発表前の茶番か?

 

「15点ってとこだな」

「なっ!?」

 

 全然ダメじゃないか。

 

「岡崎ちゃんのときならその方法で良かったんだけどな。今日はダメだ。下道に降りても、会場に近づくにつれ激混みしてくるだろうな。そういう“感じ”がする」

「え……じゃあ、じゃあ……どうすれば……っ!」

「だから、三次元だ。まだあるだろう?」

「は?」

 

 前も後ろも下もダメ。なら残るは上だ。でもそこにあるのは厭味ったらしいくらいの青空。

 

「……P、良い事を教えてやろう。人間はね、飛べないんだよ。鳥の字を名前に持つボクだって例外じゃない」

「………そうかな?」

「……何を、考えているんだ?」

 

 何かすごくイヤな予感がした。青空に負けないくらいにいやらしく、Pがニヤついていたから。

 

「まぁまぁ、とりあえず、コレ着けてよ。そろそろだからさ」

「な、何コレ? いや、そろそろって……?」

 

 Pが差し出してきたのは、ベルトが数本つながったような、あまり見たことのないモノだった。これが何なのかPに確認しようとしている間に、気がつけば装着させられていた。いつの間に!?

 腹と胸と太ももでそれぞれベルトが締まって、ボクの身体にガッチリと固定されている。それでも尚、絞められていないベルトが何本か残っている

 

「ちょっと、これってハーネスとかいう……」

「おっ、見えてきた。コ、コ、ダ……っと」

 

 Pが遠くの空に腕時計を向けると、何度か連続的に光を放った。すると直後、その方向から応えるようにチカチカと光るものがあった。光ったのは上空に浮かんでいる米粒大の影で、それが少しずつ近づいてくる。独特の風を切る音を纏いながら。

 

「既に呼んでたんだ。俺が待ってたのは救助車両じゃねぇ」

 

 ()()はもう視認できる距離にまで近づいてきていた。

 ババババ! という、周期的な轟音の到来に周囲の人間が空を見上げる。

 

「ヘリ、だと……っ!?」

「だが、ちょっとばかし問題があってな」

「な、なんだって……?」

 

 ボクが着けたハーネスから垂れたままベルトをPが掴む。そしてそれを自身の胴体へと巻き付け――。

 

「――ぐえっ!?」

 

 ベルトを引き締められ、ボクの前身はPの背に密着固定された。

 そのとき、ヘリから何か長いものが垂れ下がっていることに気付いた。それは縄梯子だった。ヘリは道路と平行に、外側数メートルのところを航行して向かってくる。

 脳内に或るイメージが湧き、ゾッと背筋が寒くなる。

 

「な、何を考えている!? 着陸するスペースなら前の道路が空いてるだろ!」

「残念なことに、もうそんなに時間がねぇんだ。だから横着しちゃう」

「待てっ! ねぇ!? 待って!ねぇったら!」

「あぁ、心配するな。車のことなら、さっき友達になった気の良い兄ちゃんに頼んである」

「そんなことは聞いてな――」

「掴まってろ、よっ!」

「――ちょあああーーっ!」

 

 Pが猛然とダッシュし始める。彼の頭をタップしても止まるどころか、笑いながらぐんぐんとスピードを増していく。

 この男、正気か!?

 ボクはPの首に両腕を回し、腰を両脚でカニばさみせざるを得なかった。

 

「うあああーーっ!」

 

 Pは道路の中央を真っ直ぐ前方へ駆けていく。その先には横転したタンクローリー。倒れていても高さは優に二メートルはある。しかしPは加速を続けていく。

 いやそれよりもなんだこのスピードは!? 人が出せるものなのか!?

 

 ダン!ダダっ!

「――ヒッ!?」

 

 数発の衝撃と直後の浮遊感。そして回転。頭上? いや、下? に見えたのはタンクローリー。は?

「跳んっ!? ふあああーー!」

 

 そして着地。止まらない疾走。わけがわからない。

 一切の障害物が無くなった道路でPは更なる加速をしていく。背後ではヘリの音がますます近づいてくる。Pの進路がゆっくりとズレ始める。中央から徐々に左側――ヘリが来ている側――へと近づいていく。

 ああ、畜生、勘弁してくれ!

 

「やだやだやだあああーーー!」

 

 渾身の絶叫は雷鳴のようなプロペラ音にすべて掻き消される。

 すぐそこにヘリがいた。疾走するボクたちの左真横数メートルのところに、スラッシュ状態の縄梯子が静止して見えた。「行くぞ」と聞こえたような気がした。Pが道路側面の壁を易々と駆け上がっていく。そして――。

 

「We can fllllllllyyyyyyyyyy!!」

「んあーーーー!!!」

 

 さっきとは比べ物にならない浮遊感。

 頬を切る風。地面の植生。空の青。

 白んでいく視界。

 

 あぁ、これが、気ぜ――――――

 

 

 

 

 

≪Observation by 蜈?ココ蠖「≫

 

「さぁ、行きなさい蘭子。もうこれ以上ファンを待たせるわけにはいかないわ」

「で、でもぉ~……飛鳥がまだ……」

「大丈夫、Pなら必ず間に合わせるわ。蘭子は心配しなくていいの。それに二宮飛鳥のことに気をとられて、ライブ進行を滞らせたり、酷いステージになってしまっただなんて、それを知って一番悲しむのはあの子じゃないかしら?」

「それは……!」

「だからあの子のためにも、蘭子が今すべきことは精一杯歌うことだと、私はそう思うわ」

「………う、うんっ!」

 

 スモークが焚かれたステージ上へと蘭子が向かって行く。

 我ながら白々しいことを言ったと思う。しかし蘭子の為だから仕方がない。蘭子をトップに導くためには全てが肯定されるのだ。

 

 スモークが晴れ、蘭子の姿を認めた観客達が歓声を上げる。それを蘭子は瞳を閉じたまま一身に受ける。そして開眼。音楽が流れ始めた。

 

 歌い出しのワンフレーズを聴いただけで、蘭子がまだ二宮飛鳥のことを案じているのがはっきりと分かった。

 このステージでは“力”を発現させることは難しそうだ。何よりもまず精神コンディションが万全であることが必須だから。

 

「フン……」

 

 二宮飛鳥め。よくも蘭子の心を掻き乱してくれたな。本当に忌々しい。

 思えば蘭子のデビューライブ以来、ことあるごとに二宮飛鳥との対戦の流れを作ろうと画策したものの、ほとんど上手くいかなかった。Pの不可解ともいえるチグハグなプロデュース方針を読み切ることが出来なかったからだ。全く以て腹立たしい。

 だがしかし。二宮飛鳥を踏み台にすることを諦めかけていた矢先、今日のライブ構成が大幅に変更されるという報を、偶然いち早く受けた。それによって私はPが干渉してくる前に、二宮飛鳥を潰すための出演順を仕組むことに成功したのだが――。

 

「………フッ」

 

 ――それは思ってもみない形で奏功しそうだ。

 Pたちの到着が遅れているのは、高速道路上での同時多発事故が原因らしい。ニュースサイトを見る限りにわかに信じがたい事故だったが、それでもやはり、彼らはここに来るはずだ。おそらくはあと数分もしない内に。その程度の芸当、Pならば軽くやりおおせることは分かっている。

 しかし今日が、二宮飛鳥のアイドルとしての命日になるだろう。

 

 ――――ぎぃ……きしっ……

 

 広大な公園に建てられた特設の野外ステージ。それを取り囲むように建てられた煌びやかなセットを見渡せば、既に()()は顕れ始めている。蘭子がステージに立っている間は問題ない。それでも()()は必ず起こる。

 

 二宮飛鳥はこのステージに立つことはできない。

 

 

 

 

 

≪Observation by Asuka≫

 

 ――ゆっさ、ゆっさ、ゆっさ。

 

 ……ゆりかご? にしては随分とアップテンポ。首ブランブランで心地よくないし。ほっぺたもエクステで擽られて――。

 

「――んふぁっ!?」

「おっ、目ぇ覚めたか。おはよう飛鳥」

「へふ……? P? あれ……?」

 

 目の前に覗き込んでくるPの顔。背中と脚に自分以外の体温。それはPの腕。あぁこれ所謂()()()()抱っこだ。

 

「はっ? なんで? いや、ちょ、ちょ、ちょっと待って。降ろして」

「大丈夫か? 無理すんなよ」

「だ、大丈夫だから……っ!」

 

 Pの腕から逃げるように地面に降りる。

 一歩目はふらついたけれど、何度か屈伸をするうちに身体の感覚が戻ってきた。そして気付いた。ここはライブ会場のバックヤードだ。スタッフの人たちがあちらこちらへ走り回っている。

 

「そうか、無事着いたのか……」

「おうともよ」

「あれ? この衣装……いつの間に?」

「あ、あー安心しろ。着替えさせたのはヘリに乗ってきてもらってた明ちゃんだ」

「いや、そこの心配はしていないが……」

 

 ボクの服装は気絶前の私服とは変わっていた。どうやら会場で着替える時間がないことも見越して、ヘリに衣装を積んできてもらっていたらしい。

 

「これは……前に、宣材写真を撮ったときのものか……」

「用意できる衣装がそれしかなくてな」

 

 腹部を大胆に露出したトップスとショートパンツ。二の腕あたりまであるアームカバーと、サイハイブーツ。身体の各部に巻き付けた白の細身のベルトと黒のマント。そして腰に着けたキーを象ったオブジェ。それは宣材写真を撮るだけにしか使わなかった衣装だった。

 ALDの出目の所為とはいえ、気に入っていたのに勿体ないと思っていたから丁度いい。本来着る予定だった衣装のテイストとは全く違うけれど、どうせボク一人なんだから趣味丸出しの衣装でも問題ないだろう。

 

「フッ、悪くない……!」

「ほい、これも」

 

 Pが差し出してきたベレー帽を受け取り、かぶる。Pが頷いてヘタクソなウインクをしたので、ボクが見本を見せてやった。

 そのとき会場中に歓声が響き、イントロが流れ始めた。聞き覚えのあるそのメロディは蘭子の曲だ。

 確かに間に合ったらしいが、ゆっくりもしていられない。ボクとPはステージの袖まで足早に向かった。

 

 

 

「あら、来たのね」

「だって俺だぜ?」

 

 舞台袖にいた神崎Pがボクたちを見て早速悪態をついたが、Pは全く気にも留めず軽口を叩き始める。

 彼らの下らないやり取りなんて放っておいて、ボクはステージ上の蘭子の様子を伺った。

 

 ―――――!

 

「……ん?」

 

 蘭子の歌声は疑いようも無くハイレベルなモノだけど、奇跡というほどの響きは感じられなかった。観客席も普通に盛り上がっているだけで、以前のライブで目の当たりにしたような異様な雰囲気はない。

 何故()()なのかは理解らないが、これならば、蘭子の後でもボクの歌はちゃんとオーディエンスに響くのでは……? 少なくとも、アイドルとして心が折れるほどの酷いステージにはならなさそうに思える。

 

「P、これなら――」

 

 振り返り、Pを見る。

 

「かぁ~~っ!そーきたかぁ~~…」

「え? 何が?」

 

 さっきまで間抜けな顔して神崎Pといちゃついていたくせに、今Pは神妙な顔でステージを、いや、ステージの裏側の方を見ていた。そして直ぐに「ちょっと様子見てくる」とそちらの方へ駆けて行った。

 

「……なんなんだ?」

「フッ……」

 

 そんな彼を見送った神崎Pは嘲るような微笑を浮かべながら近づいてきて、ボクの横に立った。

 

「………」

「………」

「…………」

「…………」

 

 いや、何か喋れよ! ほんっと大人げないなこの人! 別にいいけどさ! 仲良くなりたいだなんて一ピコグラムも思ってないし!

 ボクと神崎Pはそのまま無言で蘭子を見守り続ける。

 

「おっけー、おっけー。大体わかったわー」

「……P、一体どこに行って……?」

 

 ボク史上最も不愉快な一分間が過ぎる頃、Pが舞台の裏側から戻ってきた。その後ろには作業着を着た、ただならぬ雰囲気の壮年の男性を連れている。その人は異常なほど汗をかいていてしかも明らかに挙動不審だ。

 

「……すよぉ……もう……まいだぁ……ふぅぅ……んで……なんで……」

 

 まるで呪詛がごとく何事かをボソボソ呟いてる。いや、恐いんだが?

 

「P? そ、その人は……?」

「あぁ、このおっちゃんは――」

「――ぎっ、ギリギリなんですよぉ! おおおお大手さんの無茶ぶりを! いつだって少ない人数でどうにかしてるんですよぉ! そそそっそれなのに別の会場が中止になったからって! こっちでそのセットを使えなんていきなり!そんなの、そんなのぉ……っ!」

「えぇっ……?」

 

 男性は急に捲し立て始めた。怒りを露わに、口角には泡を溜めている。意味不明だ。しかし――。

 

「すっ……! すすいませんでしたぁああっ!」

「えぇっ!?」

 

 一転して土下座である。ついていけない。

 

「もうだめだぁおしまいだぁ! 会社つぶれるぅぅ~~~っ」

「まぁまぁ、おっちゃんよぉ、そんなに気ぃ落とすなって」

 

 泣き出してしまった男性の背中を、Pがさすって慰める。つくづく意味不明だ。

 

「な、何を見せられているんだボクは?」

「まず要点から言うとな。今神崎ちゃんが立ってるステージ、もう限界なんだ」

「……は?」

「神崎ちゃんが歌ってるうちは問題ない。だが、飛鳥が歌い始めてイイ感じに盛り上がってきた頃、ステージを取り囲んでるハリボテやら骨組みやらが一斉に崩れ始める」

「………はあっ!?」

「ひーーーーーいいんっ! ごべんなじゃーーーあああいいいいっ!!」

「おっちゃん元気出せってばよぉ~~。鼻水すごいから」

 

 どうやらむせび泣くこの男性が、この野外会場の設営を請け負った会社の社長さんらしい。問題は、開催が中止となったライブ会場で使う予定だった舞台セットを、急遽この会場で使用するよう押し付けられたこと。あまりに急な指示であったため、組み直すための時間も人員も足らず、至る箇所で手抜き施工にならざるを得なかったのだという。

 Pの見立てでは、その手抜きが祟り、最終的に舞台上のセットはほとんど全てが倒壊する。つまりステージは滅茶苦茶になるというわけだ。

 

「フフッ……」

 

 愕然とするボクに、神崎Pが視線を送りながら失笑を漏らした。まさかお前が仕組んだのか?

 

「何なのかしらその目は? これは不幸な偶然が積み重なった結果の、ただの手抜き施工。それ以上でもそれ以下でもないわ」

「うーん辛辣ゥ。でもその通りなんだよなぁ」

「お゛お゛ぉ゛ー゛ー゛ー゛ん゛ん゛ん゛っ゛!!」

 

 男性の嗚咽が地面を虚しく震わせる。

 会場を包み込んでいた音楽がオーディエンスの歓声に取って代わられた。蘭子の歌が終わったのだ。蘭子は持ち前の独特な語彙で観客席へ感謝を伝え始める。それが終わればボクの出番だ。もう時間がない。

 Pを見ると、彼もボクを見ていた。いや、たぶん、ボクが見るのを待っていた。ボクの言葉を、決断を、選択を、待っているのだ。

 

「ッ……!」

 

 ()()という単語が頭によぎると同時にALDを想起した。ALDで決めてはどうかなんて考えが浮かんだんだ。この三か月、数えきれない程繰り返した遊戯。ALDを振って、演るか、演らないか、を決めたりなんて………。

 

「ボクを……舐めるなよ……っ!」

 

 ボウ、と。熱いものが胸の奥で燃え始める。

 一体何のためにここに来たのか? 酷い足止めでやきもきさせられた挙句、空を飛び、死ぬ思いまでして、ここに来たのは何のためか? 無論、あのステージに立つためだ。ならば選択の必要なんてない! だからALDを振る必要もないっ! 振ってたまるかっ!

 

「ボクが演ることは確定事項だ!ボクはあのステージに立つ。何の選択の必要も無くね。何故なら、ボクが既にそう決めているからだっ!」

「………」

「ハリボテが倒れかかってくる? 骨組みが崩壊する? フンっ! そんなもの躱してやる! P! ボクは演るぞ! これは確定事項だ! いいな? いくらキミがダメと言ったって――」

「フヒッ!」

「……P?」

 

 ギラついた笑みをPは浮かべていた。それはいつもながらにいやらしく、同時に異常なまでの頼もしさがあった。

 

「フヒヒッ! 誰がダメと言ったって?」

「え、Pが……」

 

 あれ? 言ってなかったか……。

 

「ステージが崩れるとは言った。だが、ライブが出来なくなるなんて一言も言ってねぇぜ、俺はよぉ!」

「P……!」

 

 しかしミスリードを狙っただろう? まったく食えない男だなキミは。まぁ、いい。

 

「だがもし()()()決めようとしてたら、辞退させるつもりだったがなっ!」

「……ハハッ! ボクを見縊らないで欲しいなっ!」

「ふっ、て……?」

 

 ()()云々はボクとPにしか理解らない符丁。神崎Pが表情に疑問符を浮かべるのも当然だ。だが教えてやる理由はない。

 

「とはいえ、飛鳥の反射神経だけで躱しながらライブってのは、流石にキツイだろうな」

「ムッ…! なら、どうすれば……」

「だから俺が裏で手伝う。崩壊自体は止められないが、崩れ方を制御することなら――」

「死ぬわよ? 二宮飛鳥」

「っ……」

 

 神崎Pが口を挟んでくる。なんて不吉なことを言うんだこの女は。

 しかし実際問題、ステージ上のセットが全て崩壊するとなると、瓦礫の山が出来上がるだろう。その中で無傷でいられる方が不思議な気もする。

 

「なんだよ神崎P、俺の力がその程度だと思ってるのか?」

「いくら貴方でも……いえ、人間の能力では、この状況を制御することは不可能よ」

「……なるほど。お前にはそう見えているのか。ハハッ! 飛鳥、このねーちゃん案外分かってねーや」

 

 ボクの背後に回ったPがボクを支えるように、両肩にその温かな手を乗せる。神崎Pの言葉で大きくなりかけた不安は、しかし「俺たちならやれる」というPの囁きで霧散していく。

 

「俺たちを! 見縊らないで欲しいんですけどぉっ!」

 

 Pが自信満々に言い放つ。おそらくは不敵な笑みを浮かべて。そしてたぶん、ボクも同じ表情になっていることだろう。

 

「ボクの台詞をパクるんじゃない。フフッ」

「……忠告はしたわ」

 

 神崎Pはボクたちに興味を無くしたように背を向け歩いていく。その胸に今しがた舞台袖に戻ってきた蘭子が飛び込んだ。

 ボクの姿を認めた蘭子が安堵したような表情を見せ、その場にへたり込んだ。その様子から、蘭子はボクの到着が遅れていたことを案じていたのだとすぐに理解った。

 

「ありがとう、蘭子。頑張るよ」

 

 蘭子の元へ駆け寄りたい気持ちを抑え、そう独り言ちる。

 それから崩壊していくステージの攻略法について、Pのレクチャーを受けた。それは実にシンプルだった。

 

 

 ジャケットを脱ぎ、ワイシャツを腕まくりしたPがボクの目を見て頷く。不運な社長さんの顔は相変わらずドロドロ。

 そんな二人と蘭子に見送られながら、ボクはステージへと駆け出た。

 

 

 ―――――!!!

 

 五千を優に超えるオーディエンスの関心がボクへと殺到する。が、それはすぐに舞台袖へと向けられた。おそらくは本来一緒に登場するはずだった、亜季さんと涼さんの登場を期待して。あるいは病欠となったその二人の穴を埋めるべく、楓さんか茄子さんがサプライズで登場することを期待して。しかしボク以外に出てくる者はいない。

 これは二宮飛鳥一人だけのステージなのだと、そう理解するに至った観客席に落胆ムードが広がっていく。

 

 ――あの五人の中で、なんでよりにもよって二宮飛鳥なんだ。

 ――デビュー当時ゴリ押しされていたくせにパッとしない中堅アイドルの。

 ――てゆーか、そんなヤツがトリっておかしくない?

 ――まーたゴリ押しかよ。

 

 会場のそこかしこから厳しい言葉が聞こえてくる。まぁ仕方ないだろう。

 

「………悪いね」

 

 誰にも聞き取れないぐらいの――ヘッドセットマイクにも拾えないぐらいの――極微な声量で呟いた。そのつもりだった。しかし――

 

『構うこたねぇ。ぶちかましてやろうぜ』

 

 ――予期せぬイヤホンからの言葉に、思わず笑みが零れる。

 

「言われるまでもないさ」

 

 この会場の雰囲気はボクにとってはアウェーと呼んでも差し支えないだろう。だがアウェーごとき、今のボクには些末事でしかなかった。いや、アウェー程度ならヌルく感じてしまう程だ。

 想定では蘭子のパフォーマンスに魂まで魅了された観客を相手にすることになっていたんだからね。それからすれば、全然マシだ。二宮飛鳥の失点を探そうと耳目を集中させてくれるなら尚良い。観客席の無思慮なざわつきには、心躍りさえする。

 

「さぁ――」

 

 客席側の高い位置に設置されたスポットライトがボクを指向し、ステージ側のライトは一旦照度を落とす。ちょうどそのとき遠方2時の方向で、太陽が遠方の山中に没した。

 

「It's Showtime!!」

 

 ボクの叫びをヘッドセットが拾い、会場に響き渡る。リハも出来なかったというのにマイクボリュームの調整は完璧。流石はPだ。

 オーディエンスたちは口を閉じ、瞳を皿のようにしたのは彼らの習性か。ボクはくるりと身を翻して、観客席に背を向け、最初のポージング。

 

()()()のは四十七秒後からだ。それまでは普通でいい』

 なるほどね。了解だ。

 

 ステージの左右に配置された、数メートルの高さのある特大のスピーカーが音を吐き出し始める。聞きなれた軽快イントロ。この一か月間、何度も歌ってきた曲のはずだが、これほどまでに新鮮な気持ちで向き合えたことがあっただろうか?

 ハハハ、良い、良いぞ。コンマ一秒でも早く動きたくて、歌いたくて堪らなくなっている!

 旋律に乗り両手を開いてダンスを開始する。ステップを刻み腕を振り回すと、爪先にまで神経が通っている感覚。確信。ボクは今、最高のコンディションにある。

 遥か遠く彼方を指差して、歌を叫び始める。

 

 まったく……。ただステージに立って歌うだけだというのに、遥か遠くの月面に立とうとするような困難な道のりだった。だからだろうか? 今ここに立っている意味を否が応でも考えてしまう。

 それは叛逆の印であり勝鬨。

 ついさっきまで、ALDを振りまくった三か月間は全て無意味だったのかも、なんて考えてしまいそうになっていた。でもボクとPの叛逆には、確かに意味があったのだ。ボクの歌は、今こうして、オーディエンスたちに届いているのだから!

 

 ――――――!

 

 彼らは正直だ。色眼鏡でアイドルを見ることもあるけれど、良いパフォーマンスには必ず良いレスポンスをくれる。それがボクの胸を更に熱くしていく!

 

『くるぞ』

 

 そして曲が始まってから四十七秒後。サビへの突入と共に()()は始まった。

 

『後ろへ三歩。タン、タン、タン』

「ッ――!」

 

 Pの刻むリズムに合わせて後退る。その刹那の後――

 

 ――ガラァアアンッ!!

 

 ボクがいた場所目がけて、ステージ左側から長くて太い金属パイプが倒れ込んできた。

 目の前の一万を超す瞳が見開かれ、何事かと息を呑む。それは舞台裏も同じ。不穏な緊張感が急激に高まる。そしてボクの全身には強烈な悪寒が駆け巡る。

 本当に始まった! 分かっていたけれども! まともにぶち当たればタダじゃ済まないぞ! クソ! 止まるな! ビビるな! 逆だ! ビビらせろ! オーディエンスをっ!

 

『踏め』

「っ!」

 

 バウンドを続けようとしたパイプを踏みつけ、不協和音を黙らせる。

 サビの歌詞を詰まらせなかったのはほとんど奇跡だった。しかしそんなことを知らせる必要はない。ただ笑ってやればいい。いつも見せられている、最高に不敵な笑みを!

 

 ――――――!!!

 

 瞬間、会場が沸騰した。

 その通り! これは演出さ! こんな演出見たことがないだろう! なんてったって神様が()()してくれているんだからね! ざまぁ見ろ!

 

 Pは言った。「ステージの崩壊はもう止められない。だが、崩壊の仕方を制御することなら出来る」と。Pにはステージ上の安全地帯が理解る。だからイヤホンからの彼の指示の通りに、次から次へと安全地帯を渡りながらパフォーマンスを続ければいい。ステージの崩壊は舞台演出だとオーディエンスに思い込ませるのだ。

 ボクがPの言う通りに動けなければそこで全ては終わる。神崎Pの言ったように、怪我で済まないことも起こり得る。しかし、不思議と不安は無かった。成功する、という漠然としていながらも確固たる自信があった。Pが「出来る」と言ったから。それ以上に説得力のある根拠をボクは知らない。

 

『次。優雅に左へ九歩。タァン、タァン、タァン――』

 

 今度はステージ奥側のハリボテが襲い掛かってくる。平静を装い、寸でのところで躱していく。まるでボクが倒壊ウェーブを起こしているような気分だ。

 雄叫びのような歓声がボクの歌声に拮抗する。弾け合うその衝撃はなんて心地いいのだろう。

 

『舞い散る落ち葉のように右へ十三歩。ヒラ、ヒラリ、ヒラ――』

 

 帰り道はハリボテを支えていた金属の骨組みが崩壊。ガランガランと、けたたましい音が会場に響く。しかしそれは、曲のテンポと意外な調和をしてみせた。

 

「ハハッ!」

 

 思わず笑ってしまう。

 Pのヤツ! そこまで制御しているのか! 一体何をどうすればこんなことが出来る!?

 チラリと舞台セットへ視線を向けると、未だ健在な骨組みの上に一瞬だけ人影が見えた。それはすぐに消え――

 

『中央へ向かってトカゲのようにステップ四歩。シャッ、シャッ、シャッ、シャッ、』

 

 ――人影がいたあたりから崩れ始める。

 まさか、骨組みの上を駆け回って!? 猿、いや、忍者かPは。ていうかさっきからその指示は何だ? ボクじゃなければ伝わらないぞ、まったく。

 

『チュートリアル終わり。間奏後からが本番だ』

「ハァ、ハァ……ッ!」

 

 サビ後の十秒に満たない間奏の間、ボクはダンスを放棄して、精神と身体を整えることに注力した。

 

 ギィィィィィ~~

 

 ボクを包囲するステージセットの骨組みが、軋みを響かせる。それは恐らく、今すぐにでも崩壊せんとしているのをPが抑えつけているが故の悲鳴。足元にはパイプとハリボテが散乱しているが、未だ大量の構造物が健在だ。既に崩壊したのは精々が五分の一程度だろう。曲が終わるまでに残りも全て崩壊するなら、ここまでとは比較にならない修羅場が待っているということ。

 オーディエンスもそれを直感的に理解しているのか、歓声を上げるのも忘れてボクに熱視線を送ってくる。

 大音量の音楽は変わらず流れているのに、不思議な静けさがあった。

 そして、二回目のAメロに突入する。

 

『五秒、そのまま動くな』

 

 ――オオオオオーーッ!!??

 

 歌い始めたと同時に、色めき立つオーディエンスたち。何が起こったのか、気付いたのは彼らの方が早かったようだ。

 目の前がまるで砂嵐、右肘を掠める冷たい感触、足元から巻き上がった大気でエクステが跳梁――ボクの前後左右で夥しい量の鉄パイプがステージの土台を打ち付けていく。それは正しく鉄塊の雪崩。ボクが立っていたそここそが唯一の安全地帯だった。

 五秒経過。視界が拓ける。その先には狂奔のオーディエンス。ある者は歓声を、ある者は絶叫を、ある者は悲鳴を上げている。

 

『疾風のように前へ五歩。ヒュッ、ヒュッ――』

 

 危険地帯と化したそこを脱出すれば、数瞬遅れて背後で倒壊音。足元からは衝撃の凄まじさが痺れるほどに伝わってくる。当たれば重傷間違いなしの破壊の嵐。それがボクを追いかけてくる。想像を超えるカオス。

 前へ後ろへ左へ右へ、躱しても躱しても追いかけてくる。きっとボクらがヘマする瞬間を虎視眈々と狙っているのだ。だけど、お生憎さま。その期待には沿えそうもないよ。

 

「フフッ!」

 

 集中力が果てしなく高まっていく。この感覚には覚えがある。Dimension-3での初ライブ、志希と共鳴し合ったときのアレだ。視界が全方位へ広がるような、産毛の一本にまで神経が通うような……いや、あのときとも少し違う?

 

 ――理解る。何がどう崩れるのか理解る。Pがどんな指示を出そうとしているのかも理解る。何故か理解る。

 

 ボクとPが共鳴している? それでPの認識力を借用出来ている?

 嗚呼! なんて万能感だ!

 溜息どころか息継ぎの間だって碌にない過酷なステージなのに、終わらないで欲しいと、ボクは思ってしまっている。無事に終わればそれで良い、なんて思っていたけれど、とんでもない。魂の鼓動はとっくに振り切れている。今このライブこそが、最高の二宮飛鳥だ! もっと歌っていたい、叫んでいたい、魂の赴くままに!

 

『次は――』

 

 二回目のサビが終わり間奏に入ったとき、ボクはステージの右翼あたりにいた。ここから眺めるに、残っている骨組みはもう半分もなかった。それも刻一刻と崩れていく。ボクの立っている付近にはもう何も残っていないから、このままここで歌えば無事にライブを終えられるだろう。でも――

 

『ナハッ! そうだ! このまま終わるなんて勿体ないよな!』

 

 ――ボクは倒壊の渦中へと歩み始める。

 

 ―――――!!!

 

 待ってましたと言わんばかりの歓声。

 ガラガラと瓦解していく鉄の嵐の中で、ボクは舞う。ボクだけじゃなくPも一緒だった。Pがボクの手を引いて導いてくれる。離れていても、確かに彼を至近に感じる。何て心強いんだろう。

 

『これで、最後だ……!』

 

 曲の中で一番ゆったりと歌い上げる箇所に入る頃、ステージを彩っていたハリボテと骨組みの全ては崩れ、物言わぬ瓦礫と化した。今ステージの上にあるのは左右の特大のスピーカーと、中央の瓦礫が積み重なって出来た小さな山。随分とさっぱりしたものだ。

 Pに言われるまでも無く、瓦礫の山を上がっていく。鉄パイプの絶妙な積み重なり方で階段状になっているのは、Pの心憎い演出か。頂上にはハリボテだった板が載っていて、それは狭いけれど、ボク一人が歌うには十分なスペースだった。

 曲調と合わせるように、オーディエンスは穏やかに佇んでいる。だが目は煌々と輝いている。ラスサビに向けての溜めだ。

 

『ふぅ~~……』

 

 Pの安堵の深呼吸。その意味するところ――もう安心。

 実際、成功に向かっているのをありありと感じられる。寧ろもう失敗のしようがない。例え歌詞がトんだとしても、強引に誤魔化してラスサビまで繋げることだって出来る。今のボクになら余裕だ。

 つまり! 勝ったのだ! ボクとPは!

 

『……ッ!?』

 

 神の台本に!

 

『下がれええっ!!』

「――ッ!!??」

 

 ガッギィャンッ!!

 ブツン――――ッ

 

「くっ………!?」

 

 その瞬間に起こったこと。ステージ右側にあったスピーカーの転倒。数メートルの高さはあろうかという特大のスピーカーがボクに向かって倒れかかってきて、即席のお立ち台が粉砕された。

 何とも触れていないのに、風も吹いていなかったのに、何の前触れも無く、転倒した。床の固定ボルトを引きちぎって転倒したのだ。まるでその空間だけ天地の方向が九十度回転したかのような動きだった。さっきまでの物理法則に従った骨組みの倒壊とは一線を画する、明らかに異常な動き。すなわち未知の現象。

 ここまでするのか。アイドル二宮飛鳥をここで終わらせるために。運命ってヤツは。

 まぁ、どうにか躱せたのだから、スピーカーが倒れたこと自体は別に構わない。というかPの言葉で咄嗟にバックステップしてお立ち台から降りたのに、尻もちつかずに華麗に着地できたボクってかなりスゴイ?

 だがしかし。ダメなのは、最悪なのは、致命的なのは、音楽が止まったこと。ブツン、と、咳払いのような掠れた音を立てたっきり、止まった。スピーカーが倒れた拍子に、別の機器に繋がっていたコードが何本も抜けてしまったのだ。数本のコードが、引っこ抜かれた勢いで宙を舞っている。その先端の金属製のジャック部分は、これ見よがしに、照明の光を受けて煌めいていやがる。コイツらをまた機器に挿入し直してやらない限り、音楽が鳴ることはない。

 このままアカペラでいく? 却下。それが許されるのは、その方が盛り上がるケースのみだ。今は明らかにそのときじゃない。コードを拾い集め、ボクが挿しにいく? 却下。不格好過ぎる。スタッフに出てきてもらっ――却下。ステージの失敗を宣言しているようなもの。

 

 ――待て!

 何秒経った!?

 三秒か五秒か、それとももう十秒いった!?

 この非常時に余計なことを考えている時間はない!

 オーディエンスたちはまだ、これも演出の一部かと思って騒いだりしていな――

 

「――!?」

 

 彼らは皆、目を丸くしたまま、動かず、何も言わず叫ばず、固まっていた。

 時間が、止まっている……!?

 宙を舞っていたコードは、さっき見たときのままの状態で、中空にピン留めされているかのように不動。

 何も聞こえない。まるで絵の中にいるように何の音もない。

 いや……? あくまでスローモーションなのか……? コード先端の金具の煌めき方が、極僅かずつ変化していくから。

 何故か確信できた。これはPが普通に見ている世界なのだと。理屈も原理も理解らないけれど、ボクとPが共に舞い、共鳴したことによってボクにも齎されたものだと。

 Pの底知れない能力の片鱗。なんだいこれは。チートどころの話ではないぞ。

 とはいえ、当のPはといえば、冷静ではないらしい。こんなPは珍しい……いや、初めてか。

 

 ――運命、修正力、理不尽、結局、不可変、無意味、徒労、結局結局結局、悲嘆、失敗、敗北、諦観――

 

 理解を越えた経路で伝わってくる、Pの断片的な思考と感情。いずれもネガティブ。

 そして萌芽するボクの感情X。一も二も無く、手を伸ばし、掬い上げてやる。

 

「……フッ……ククク……ハハッ! アーーッハッハッハーーー!!」

 

 すると、笑わずにはいられなかった。生まれて初めてレベルの、高らかに過ぎる哄笑だった。

 緩慢なセカイが躍動を取り戻す。

 イヤホンの向こうのPが、ボクの笑い声に息を呑んだのを感じた。彼を少なからず驚かせることが出来たのは純粋に痛快だ。

 音楽の消失という不規則事態にザワつくオーディエンスたち。彼らを見据えて再びの哄笑を轟かせ、不審がるザワめきを一掃し、逆に期待感へと変換させる。

 

「ハーーッハッハッハーーー!!」

 

 ボクの奥底が――脳が、心臓が、そのどちらでもない何かが――燃え盛っていた。すごい熱だ。マグマなんて目じゃない。太陽の熱量すらも凌駕するだろう。

 掬い上げた感情Xとは、怒り。セカイの構造への怒り。つまらない台本を押し付けてくる神への怒り。そして、諦めかけたPへの怒り。

 Pのヤツ……。以前ボクに、諦めるまで失敗じゃない、みたいなこと言ったクセに、なんだその体たらくは! ボクより沢山のことが視えているから諦めるしかないって? ここを切り抜けてもどうせまた、って? 優等生ぶっているのか!? ボクの知ったことではない! キミがボクを焚き付けたんだろう? そのキミがボクよりも先に諦めるなんて許さないぞ! ボクはまだ諦めていない! 理不尽に何度晒されようと、その度にボクは笑ってやる! ボクとPならやれるんだろう? 既に言質はとっているんだからな!

 嗚呼、本当に、カチンときた。

 

「フハーーッハッハッハーーー!!!」

 

 三度目の哄笑。流石にザワつきが再燃し始める。

 だからP、これは罰ゲームみたいなものだ。キミにならこの状況を打開することが出来るんじゃないか? いいや、やってもらうぞ。死に物狂いでね。なんてったって、キミはボクのプロデューサーなのだから。

 キミにも全部、伝わっているんだろう?

 

『四十秒もたせろッ――!』

 

 そう彼が言い終わるや否や、イヤホンからは風を切る音が聞こえてくる。おそらくは超スピードで走り回り始めたんだろう。頼むぞ、P……!

 

「どうしたんだい? そんなに目を丸くしてっ――!」

 

 観客席へ向けて、全力の声量でボクは問い掛ける。言わずもがな、これは戯言。この状況をPが何とかしてくれるまでの繋ぎ。つまりは時間稼ぎ。

 マイクはやはり死んでいる。しかしボクの声は、不思議と会場にいる全員にはっきりと届いている手応えがあった。

 

「ライブの最中に、音が止まることがそんなに可笑しいかい?」

 

 可笑しいに決まってるだろ! くっ! たったの四十秒とはいえ、咄嗟にイイ感じのメッセージを吐くのは難しいな。

 数か月前の志希とのライブの記憶が頭に過る。志希はあのとき、今のボクと同じで何の事前準備もなく、しかし歌とダンスをこなしながら、ボクのメッセージを受けたマイクパフォーマンスをしてみせた。

 なぁんだ。アレに比べれば、この状況は随分と楽じゃないか。ただ四十秒を凌げばいいだけなのだから。ボクはこれでも志希のパートナーを務めたんだ。この程度、切り抜けられないでどうする!

 

「飾り立てられたステージ、一糸乱れぬダンス、外れることのない音階……。キミたちが見たいのは、そういうのかな?」

 

 首肯、否定、困惑……。ザワつきが膨れ上がっていく。

 

「それも良いだろう……。ああ、良いだろうともさ!」

『――ンハハッ!』

 

 ちょっとパクったくらいで笑うんじゃない! こっちは秒を稼ぐのに精一杯なんだから!

 

「でも残念だったね。ボクが見せるのは、そのいずれとも違う。ボクが見せるモノ、それは――」

 

 ボクの答えに耳を傾けるように、会場がピタリと静まる。

 

「――叛逆」

 

 そのとき、足元付近で何かが横切るのが見えた。そこにあったのは抜けた何本ものコードの先端。目を凝らすと、舞台袖からそこへと釣り糸のようなものが何本も伸びている。

 

『いつでもいいぞ。合わせる』

 

 既に四十秒経っていたらしい。

 Pは投擲したんだ。十数メートル離れた舞台袖から、糸に付けた粘着質の何かを。地を這うような軌道で、散らばって落ちている何本ものコードの数センチしかない先端それぞれに正確に。まったく、メジャーリーガーも真っ青だな。

 コードは引かれることなく、そこに静止したまま。()()()()……そういうことか。

 

「舞台が崩壊しようと、運命が牙を剥こうと、ボク()()は抗い続ける……ッ!」

 

 オーディエンスの期待感が手に取るように理解る。

 

「覚悟はいいかい? ここからだ。始まるよ。さあ……」

 

 観客席へと向けた右手を、大きくゆるりと回して――

 

「Climax だ!!」

 

 ――天空へと一気に跳ね上げる。同時に、地面にあった何本ものコードが一斉に数メートルの高さまで飛び上がった。

 客席からは糸は視認できないだろうから、彼らにはボクがサイコキネシスで動かしたように見えただろう。今日一番のどよめき――いや歓声が会場中を席巻する。

 飛び上がったコードは舞台袖へと吸い込まれてゆき、そして。

 

『ご、よん、さん――』

 

 空気の微振動からマイクの復活を察知。

 

『に、いち――』

 

 空気の揺らぎ、音楽のリスタート。

 奇しくも、途切れたのは曲中で最も静かなパートだった。故に再開はシームレスに成し遂げられた。そしてワンフレーズ口ずさむ内に、ボクもオーディエンスもトップギアにまで達していて、数十秒間の中断があったというのが遠い過去のよう。

 問題はあった。スピーカーが倒れた拍子にどこかイかれたのか、吐き出す旋律の音階が狂っている。だけど、そんなこと気にする人間は最早どこにもいなかった。超常的な演出により音楽は確かに復活したということだけが重要なリアル。何より、彼らが聴きたがっているのはボクの歌声なのだから。

 そしてそのままラスサビに入り、圧倒的な勢いで駆け抜けた。

 

 ―――――!!!

 

 アウトロの終焉と同時に、ボクは会場中の喝采を一身に受けることになった。

 そしてオーディエンスに「また会おう」とだけ伝えてステージを後にした。

 

「――ハァッ、ハァッ、ハァッ………クッ!?」

 

 舞台袖に戻ったボクは強烈な眩暈に襲われた。極度の緊張と興奮状態からの解放と、軽い酸欠のせいだ。

 ヘタリ込もうとするところで、背後から肩を支えてくれる人がいた。

 

「なんだよ、ヘトヘトじゃねーか」

 

 とても熱く、しかし妙に心地の良い体温。見上げると、小憎たらしいPのニヤケ面。

 

「……キミこそ、随分と汗をかいているようだが?」

 

 彼をよく見ると、汗以外にも埃やら油のような汚れが全身についている。舞台裏や骨組みの上で飛び回っていたときについたのだろう。

 

「まぁな……もしかすっと人生で一番頑張ったかも」

「……奇遇だね、ボクもだよ」

「へへ……」

「ハハ……」

「「――アハハハハ!!」」

 

 ヘトヘトのボクたちはお互いを支え合いながら、しばしの間馬鹿笑いをした。

 

 場内アナウンスがライブの全工程が終了したことを伝えている。会場の熱気が静まっていく。

 スタッフの人たちが撤収作業を開始し、慌ただしく動き始める。その中に例の可哀想な社長さんがいたけれど、今はもう活き活きとした表情で幾人ものスタッフに指示を飛ばしている。ボクたちに気付いた社長さんは深いお辞儀をしてきた。どうやら、手抜き設営によるステージの崩壊は、サプライズ演出ということで通ったらしい。

 よくよく考えると、彼が窮地に立たされたのは、ボクたちにも若干の原因があるような……? まぁ、結果オーライということで許してもらおう。それとこれから彼の会社が貧乏くじを引かされることがないように祈っておく。

 

「……P」

「なんだ?」

「ボクたちは、運命を……変えられたのかな?」

 

 舞台袖の隅の地べたに座って、ボンヤリと撤収作業を眺めながらPに聞いてみる。

 

「それは…………正直わからん。このライブ結果は台本とは全く違っているが、()()()もまだ消え去っていない感じがする」

「……その()()()が人間皆が普通に感じているものという可能性は?」

「ん~~……なんとも言えない。それか、もしかするとまだ分岐点上にいるのかもしれんなぁ……」

「ふぅん……?」

 

 ちょっと感覚的な話過ぎて理解らないな。

 

「……だが今日、一つ分かったことがある」

「あ……それって」

 

 ボクも一つ、今日の一連の出来事を経て、()()()のようなものを得ていた。

 

「おそらく、運命を変えるのに、必ずしもALDが必要なわけじゃない」

「うん……」

「あのとき……俺が諦めそうになったとき。飛鳥が突き進んだことは、完全に俺の予測を超えていた」

「フッ……それは嬉しいね……」

「あの熱はきっと、運命を変えられる力だと思う」

「うん……ボクもそう思――」

「あっ、神崎ちゃん」

「――へ?」

 

「あーーすくわぁあああーーーっ!!」

「ぐぼぁーーっ!?」

 

 猛ダッシュしてくる蘭子の姿が見えたと思ったら、それは流星と化しボクの胸部で炸裂した。

 

「あすっ! あすかっ! さっきの! なんぞ!? 舞台っ! グルグルガシャーンてっ!」

「ら、蘭子……っ!? ゲホっ……! 落ち着いてっ!」

「飛鳥カッコよかった~~っ! 我っ! アレ好き~~っ! 我も! 我もしたい~~っ!」

 

 蘭子は控室にボクがなかなか戻ってこないので探しにきたのだという。

 どうやらさっきのカオスなステージは、蘭子の琴線をかき鳴らしたようだ。鼻息荒く感動を伝えてくる彼女を見ていると、蘭子に敗北するだとかいうことを気にしていたのが馬鹿らしくなってくる。

 

「………チッ」

 

 熱烈にハグされながら、蘭子がやって来た方を見やるとあの女がいた。蘭子に愛されているボクを、それはもう悔しそうに見ている。最高の気分だね。

 邪魔者は放ったらかしにしておいて、ボクと蘭子は最近のことを報告し合う。

 

「やぁ! ここにいたのかい!」

 

 そこに水を差してきたのは、ボクの知らない人物だった。遠くからでもよく聞こえる大きな声を上げながら、恰幅の良い壮年の男性が近づいてくる。とてもエネルギッシュな雰囲気の男性だ。

 Pの知っている人物のようで、前に進み出て対応する。

 

「常務……。観覧されていたのですね。ご挨拶に伺えず申し訳ございませんでした」

「いやいや、いいんだよ、P君。急に予定が空いてねぇ。たまたま近くにいたから、お忍びで来てみたのさ」

「……そうでしたか」

「お忍びで来て、お忍びで帰るつもりだったんだけれどねぇ。あんな素晴らしいステージを見せてもらって、黙って帰るワケにはいかないよ!」

 

 常務、ということはこの男性がうちのプロダクションの実質的なNo.3だ。言われてみると、この顔は社内報か何かで見覚えがある。

 Pはまだ若手社員のくせに、常務とは顔見知りらしい。まぁ、彼のことだから、どんなコネクションを持っていても今更驚かないけど。

 Pが意外そうな表情を見せたことから察するに、こんな大物がここにいるのは“修正力”によるもので、この人がボクの遅刻ないし棄権を糾弾する流れになるところだったのかもしれない。

 

「いやぁ~~、血沸き肉躍った! やはり現場は、いや、アイドルはいいねぇっ! プロデューサーをやっていた頃を思い出してしまったよ」

「常務の現場時代の伝説は私も聞き及んでおります」

「ハハハ。伝説なんて言われてるのかい? 恥ずかしいじゃないか。でもP君もかなりのモノだと思うよ? 君の評判はここ最近あまり聞かなくなっていたけれど、なるほど、全ては今日のための布石だったというわけか」

「……私だけではここまで来れませんでした」

「そうだね。僕たちはアイドルあってこそ」

 

 そこで常務がボクを真正面から見つめてきた。Pが常務とボクに互いの紹介をしてくれる。

 

「二宮飛鳥だ。ボクのステージを気に入ってもらえたのなら嬉しく思うよ」

 

 ボクが名乗ると、常務は目を細めて「ほう……」呟き、Pは得意げにニヤついた。それから改めて常務から直々に賞賛を受けることになった。

 

「――おや? その子は……」

「ぴっ!?」

 

 常務がボクの後ろの――ボクの陰に隠れるようにしていた――蘭子に気付いた。

 自身とは真逆と言っていい()の気に当てられ、蘭子は小動物のようにビクついている。

 

「ご無沙汰しております。常務」

 

 そこですかさず神崎Pがガードしたのだが、常務の興味は蘭子に津々といった様子。割って入ろうとした神崎Pを「ちょっとごめんね」と横に動かし、蘭子をジロジロと舐めるように見つめる。

 震え上がる蘭子。

 即座に神崎Pがキレそうになったのが分かったし、ボクもイラついた。

 今度はボクが蘭子をガードすると、「おっ、なるほど」とボクと蘭子を並ばせて、仕舞には両手で作ったフレームでボクたちを狙ってくる。そして――

 

「ティンときたっ!!!」

 

 ――と叫んだ。会場中に響き渡りそうな大きな声だった。

 常務は興奮した様子で、Pと神崎Pに何事かを捲し立てるように伝えていく。それを聞くPはニヤついて、神崎Pは眉間に皺を寄せていた。

 そして常務は謎のサムズアップをボクと蘭子に向けると去っていった。ボクと蘭子はポカンとするばかりだった。

 

 

 

 その後、Pと焼肉店で打ち上げをしている最中に、Pの社用携帯が一件のメールを受信した。

 添付されていたファイルは、常務の署名が記された正式な命令書の写し。

 

『神崎蘭子及び二宮飛鳥は一定期間デュオユニットを結成すること』

 

 伝説の幕が開けた瞬間だった。

 

 なんてね。

 




評価、お気に入り登録、ありがとうございます!
とても嬉しいです!

物語は中盤に差し掛かったぐらいです。
もうしばらくお付き合いくだされば幸いです。
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