超次元偶像二宮飛鳥のセカイ   作:関ち出張所

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≪Observation by Asuka≫

 

「皆様~~本日は~~お忙しい中ご足労いただき~~まことに~~まことに~~ありがとうございますぅ~~」

 

 明日の大一番に備えたレッスンを終え、蘭子とPの居室に来てみればコレだ。蘭子もとうとうPの奇行に慣れ切ってしまったようで、ボク同様眉一つ動かさない。

 

「本日お集まりいただきましたのは~~他でもありません~~」

 

 Pの居室は以前と比べると随分と広くなった。室内の調度品もたぶんかなり高価なものだろう。仕事ぶりを認められて会社から良い待遇を受けるのは正当な権利だが、こうも頻繁に部屋が変わるとどうにも落ち着かない。ただ、これからは居室が変わることはそうそう無いらしい。

 

「そういうのはいいから早く始めろ」

「約束の刻まであと僅か」

「P、真面目に」

 

 すでに室内にいた神崎Pにも嗜められ、Pが頬を膨らませた。イラっとくるだけで、壊滅的に可愛くない。

 

「はいはいわかりましたよ。ちゃきちゃき進めりゃいいんですね。わかりましたよ。わかりましたから」

 

 不貞腐れながらPが壁際のホワイトボードに文字を書きつけていく。

 

『二月公演 とても大事!』

 

 いつも思うが書く必要があるのかそれは?

 

「明日の二月公演の出演順がさっき決定した。それがこれだ」

 

 渡された紙に目を落とす。まず最初に見たのはトリ。そこには――。

 

「トリはやはりLiPPSか……」

「そして我らはその前座……血が滾るわ」

「つまり。今、ダークイルミネイトが二番手」

「そうだ。俺たちは間に合ったんだ」

 

 年に四回ある一際大きなライブの中で、明日開催される二月公演は他とは異なる趣旨がある。UL総選挙の投票日直前であるため、特に公演の後半は実質的な頂上決戦の様相を呈することになるのだ。そのため、出場ユニットと順番は選挙レースの動向を反映したものとなる。だからこそ前日になってようやく出演順が決定されるのだ。そして当然、公演のトリは最有力と目されるユニットに任される。

 選挙レースが始まってからのボクたちの目標は、二月公演時点で二番手につけておくことだった。

 

「そんで、こっちの()()()ももう終わってる」

 

 Pが携帯にSNSのタイムラインを表示させながら、悪そうな笑みを浮かべる。

 

「まるでヴィランだなボクらは……フフ」

 

 ()()()とは扇動。つまり『この二月公演を最も盛り上げたユニットに投票しよう』という世論誘導。数か月の選挙レースでやってきたことや各ユニットの地盤をすべて一度フラットにして、最後の一発勝負で決めてしまおうという、クイズ番組の最終問題もかくやの恐ろしい風潮を意図的に作り出したのだ。どんな方法でこれを成したのか全く理解らないが、Pと神崎Pにかかれば可能らしい。

 この展開にはLiPPS側が乗り気だったのもプラスに働いたのかもしれない。彼女たちは負けるはずがないと思っているのか、それともただ単に面白そうだからなのか……。後者のような気がする。

 

「明日、ダークイルミネイトがステージに立ち、()()を成功させれば、勝つことができる」

「約束された勝利のミサー!」

「ついにここまで来たか……」

「蘭子のおかげでね」

 

 いちいちうるさいなこの女は。

 

「そ~こ~で~、今の状況を改めて鑑みてみるわけですがぁ~~」

「ん……?」

「世間的には知名度も実力もLiPPS圧勝で『ULはLiPPSで決まりでしょ~~?』って感じじゃん? でも、ダークイルミネイトのライブを知っている人間にとっては、ひょっとしたらgiant killingもあるのでは? なんて思っていたりいなかったり……」

「フム……」

「うむうむ……」

「そんな何かが起こるかもしれない大一番のライブを前に、キミたちが気を付けるべきことは、なんでしょーかっ? はいそこ、早かった二宮飛鳥さん!」

「えっ!? いや、挙手した覚えはないんだが……」

 

 まぁいい。Pの言動にツッコんでいたら日が暮れて朝が来る。

 

「……ひねりの無い回答で申し訳ないが。十全なパフォーマンスを発揮できるように、心身共に万全の状態でステージに臨むこと……かな」

 

 身体の調子を整えておくことは当然として、ボクと蘭子の()()には、特に精神的なファクターが強く関わっている。ライブに対して意欲的な気持ちを共有出来ていることは必須だ。

 

「ほーん、具体的には?」

「…………健康的な食事と早く寝ること」

 

 自分で言ってて面白みが無さ過ぎて悲しくなる。『具体的には?』って嫌な言葉だ。神崎Pが薄く鼻で笑ったのがイラつくけど、見なかったことにする。

 

「あぁ、あと就寝前に蘭子に電話しようかな」

「するーー!」

「チッ……」

「おーけーおーけー、まぁ、いいだろう」

 

 Pの言葉に若干の引っかかりを覚えなくもないが、これ以上何に気を付けるのか、とも思う。だから気にしないことにした。

 それから程なく打ち合わせは終わった。蘭子と神崎Pは以前から予約していたレストランへ行ってから帰るのだという。「二人で」とやたら強調してきた神崎Pがウザかった。

 

「じゃあ、ボクも帰ることにするよ」

「おう、おつかれちゃん。出来れば飛鳥も食事に連れて行ってやりたかったんだけど、予定が入っててな」

「構わないよ。その代わり……というわけでもないけど、明日のライブ後は空けてあるんだろうね?」

「もっちろん」

「ならいい。豪勢な食事というのは特別な日に食べるくらいが性に合っている。それに、これでも体重が気になるお年頃なのさ」

「そんな気にしなくてもいいのになー。もっと肉つけた方が健康的だし」

「おや? キミはふくよかな女性が好みなのか? これはますます太るわけにはいかないな」

「……最近さぁ、飛鳥も神崎ちゃんも俺への当たり強くない? 泣いていい?」

「フフッ。まずは自分の奇行を省みることをお勧めするよ」

 

 バカみたいな軽口を叩き合いながら、ボクも部屋を出ようとドアノブに手をかける。そこで「飛鳥」と、やや真面目な声音で呼び止められた。

 

「明日は十一時きっかりに飛鳥のマンションに迎えに行く」

「ん? それはさっき聞いたが……?」

 

 そしてPと共にライブ会場へ向かうのだ。明日のライブでは久しぶりに早めに会場入りして、夕方の開幕までの間ゆっくりと英気を養っておくと、さっき打ち合わせで話していた。

 

「一応言っておくが、それまでは玄関のドアを開けないことをお勧めする」

「……? あぁ、物騒な世の中だしね……?」

「んーー、そゆこと!」

 

 改めて言う程のことかと思わなくもないが、心配してくれているのだから有難く受け取っておこうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

≪Observation by the greatest mercenary≫

 

「Hey guys! Make sure your weapons are in perfect condition! After work tomorrow, you'll all be millionaires!!」

 

「「「「「「「「「「「yeahhhhhhhhhhaaaaa!」」」」」」」」」」」

 

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