超次元偶像二宮飛鳥のセカイ   作:関ち出張所

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≪Observation by Asuka≫

 

 とても順調だ。

 第一幕では未曾有の舞台演出でオーディエンスを圧倒し、第二幕ではボクたちの世界観にグっと引き込むことができた。確かな手応えがある。

 台詞も歌も振りもほとんど完璧。地獄のレッスンは確かに報われた。

 最新の技術による演出も正常に機能している。流石はボクらのプロデューサーが監修し、調整しただけある。

 後は第三幕において蘭子と今日初めての共鳴を果たせば、公演としては成功裡に終わるだろう。そして今日に限っては共鳴が不発となることは有り得ないと確信している。いや、確信して()()。第二幕が終わるまでは……!

 

 第三幕が開始する前にはやや長い休憩時間が取られていた。その間にボクたちは衣装を着替え、息を整えた。それでもまだ時間に余裕がある。既に開演から三時間以上経過しており、この休憩の主目的はオーディエンスがお手洗いに行くことだから。

 

「…………」

 

 次に立つステージの袖で静かに佇む。

 裏方のスタッフさんたちはキビキビと動き続けている。彼らの指揮をしているのはPだ。遠目からでも的確な指示を飛ばしているのが伺える。

 蘭子はボクよりステージに近い場所で神崎Pとじゃれ合っている。その表情には気力が漲っていた。蘭子には何の心配も要らなさそうだ。

 ボクはステージをじっと見据える。傍から見れば、クライマックスに向けてコンセントレーションを高めているように思われるかもしれない。しかし、違った。蘭子の漆黒と対になる、浮世離れした美しい白銀の衣装に身を包みながら、ボクはただの中学生のように思い悩んでいた!

 

「…………っ」

 

 昨夜、神崎Pに『やってやる』と大見得を切ったのにも関わらず『結局ボクは何も掴めていないのでは?』という不安が首をもたげてきたのだ。心身のコンディションは最高だから過去最高の共鳴になることは確信していたのだけど、それは例えば0.1だったものが0.2になる程度のもので、目指すべき境地には未だ遠く及ばないのかもしれない、と。

 神崎Pはボクの『理解が浅い所為』だと言っていた。そもそも理解とは一体何だ? ボクは共鳴を、なんとなく雰囲気でやっているだけなのに。これまでも、そして今日も()()でやろうとしていた。それは神崎Pの意図していることとは全く異なると、今になって気付いてしまったのだ!

 認めなくてはならない。ボクはまだ何も理解していない!

 

「ぁ……マ、マズい……」

 

 考えれば考える程、理解らなくなっていく。まさにドツボ。

 最悪なのは、いつものようにノリでやっていれば、完璧ではないにしてもこれまでで最高の共鳴ができて公演は大成功していたはずなのに、今ではもうそれすら危うくなってしまっていること……。こんな余計なことを考えまくってしまっている状態では、生気漲る蘭子と対等に響き合うことはまず不可能だ。

 

「スゥ~~~、ハァ~~~……」

 

 まずは落ち着こう。うん。クールになれ二宮飛鳥。Be cool 。深呼吸で自律神経を落ち着けて……あれ? 寧ろ息苦しい……吸い過ぎか?

 Be cool だぞ二宮飛鳥。別の方法を採ろう。こういうときは、なんだっけ……精神統一するのに良い方法があったような……えっと……ルーティン? そうだ、ルーティンだ。久しぶりだなこの単語思い出すの。実のところ、ボクにはルーティンらしいルーティンはないんだけどね。敢えて言うならPとの会話だろうか? 何かしら不安があるときには大抵P が話しかけてきて、バカバカしいやりとりをしている内に気分が楽になっていたりするんだ。Pの手が空いたときを見計らって声を掛けるか――

 

「………おや?」

 

 ()()を見つけたのは、このときだ。

 何の気なしに視線をやや前方に流してみると()()を見つけた。一辺2センチ程度の小さな立方体。各面に付けられた点の印によって1から6までが表現されているタイプの、つまりは最も一般的なサイコロが、床に転がっていたんだ。

 公演の小道具にサイコロなんてない。ということはスタッフの誰かの私物だろうか? ポケットに入れていたのがポロリと転げ落ちたりしたのかもしれない。

 そこにある理由はともかく、人が忙しなく行きかう場所だし、万が一誰かが踏んづけて転んだりしては大変だ。そう思ってボクはそのサイコロを拾い上げた。

 

「フフッ……」

 

 それはやはり何の変哲もないただのサイコロだったのだけど、それによって呼び起こされる記憶があった。数か月前までの、あらゆる選択肢をALDに委ねていた賑やかな日々のことだ。

 蘭子と神崎Pに潰されまいと藁にも縋る思いだったとはいえ、改めて考えても奇行以外の何物でもないな。そういえば、ステージ崩壊ライブ以後はALDはめっきり振らなくなったし、ALDを見た神崎Pが血相を変えた一件からは完全に封印扱いで、いつしか意識することも無くなっていた。

 

「フム……」

 

 ナイスアイデア……かどうかは不明だが、とにかく一つのアイデアが降りてきた。このサイコロとPを使って、ボクの調子を取り戻すためのアイデアだ。

 以前ALDでやっていたように、このサイコロの1から6の面それぞれに特定のアクションを設定した後、振って、出た目のアクションをPにやらせよう。あの男にはこれまで散々無茶なことをさせられてきたんだから、このくらいのお遊びに付き合わせてもいいだろう。寧ろまだお釣りがくるぐらいだ。それも大量に。

 

「1は、拳を突き合わせるヤツ……フィストバンプ、だっけ?」

 

 洋画なんかでお決まりの挨拶だ。クライマックスシーンの前にさり気無くやると、結構絵になるんだよね。

 

「2は…………」

 

 やれやれ、早速詰まってしまった。1はすんなり出てきたことから考えるに、ボクが深層心理的に求めているのはフィストバンプなのかな? とはいえ折角思い付いたアイデアだし、このまま引き下がるわけにはいかない。

 

「2は、ハイタッチ……」

 

 1と同じようなものかもしれないけど、まぁいいや。

 

「3は…………」

 

 やっぱりなかなか浮かばないな……もう面倒くさくなってきた。適当に決めてやろう。

 3は、宴を愉しむバイキングたちが腕を組んでグルグル回るヤツ。4は、ボクの良い所を十個言わせる。5は……、頭を、撫でてもら……いや、撫でさせる。6は………アレにしよう。うん。まぁ、そうそう6なんて出ないし? 出ないよね? 六分の一?

 

「えいっ……」

 

 そして、近くにあったコンテナボックスの上へサイコロをほうった。

 コンコロコロと、勿体ぶるように焦らすように転がるサイコロ。それはまるで踊っているかのようでもあったが、然る後、物理法則に従い、ピタリと、有無を言わさず静止した。

 

「あっ……」

 

 出た目は6だった。マーフィーの法則、侮りがたし……。

 振り直すことも考えたけど、ALDのときのルール、『振り直さない』、『出目は絶対』を思い出してしまう。

 

「ま、まぁ……仕方ないよね……」

 

 それに、ボクとPはともにアイドル界という戦場を駆け抜けてきた戦友みたいなものだし?ここで変に意識するのはそれこそ変だし? 欧米では普通のことだし? まぁ、ここは欧米ではないんだけども、この公演は全世界に配信されているしグローバルな感覚を身に付けることは決して悪いことじゃないからね?

 

「よし……」

 

 遠くにいるPを見ると、ちょうど彼の作業も一段落したようだった。

 何度か手を振るとPはこちらに気付いてやってきた。

 

「飛鳥、今まで何処にいたんだ?」

「着替えてからはずっとここにいたけど……?」

 

 幕間に入るとまずは控室で衣装を着替えた。その後はすぐにこの舞台袖へとやってきて悶々としていたのだが。

 

「あっれぇ~? マジでぇ?」

「何かおかしいかい?」

 

 珍しく驚きの声を上げながら、ボクの顔をじっと見つめるP。

 

「あ、マジらしいな……」

 

 そして彼は納得の言葉を口にしたのだけど、その表情は全然納得いってなさそうだった。何がそんなに引っかかるのか理解らない。というか、ボクからPが見えていたのだから、Pからもボクが見えていて当たり前だろうに。光の加減であちらからは見えなかったのかな? それか忙しさのあまり、Pでさえも注意力が散漫になっていたとか? いや、そんなことは別にどうでもいい。

 

「そ、それよりも、P……っ!」

「んお?」

 

 あ……。なんて切り出そう……? 改まって言うとなると、これかなり恥ずかしいヤツでは……!?

 

「え、えぇと………っ」

「……ふむ。不安か? 飛鳥よ」

「っ!」

 

 本当にこのPという男はよくわかっている……。でも見透かされているとか、値踏みされているとか、そういう感じではない。どれかというと、見守られている、というのが近いようで、決して悪い気はしない。

 

「もしかして喉乾いてんじゃない? ここにホラ、ちょうど飲み物が――」

 

 Pが差し出してきたのは色々と論外な品だった。

 

「……公演中に炭酸を飲むわけにはいかないね。それに何より、それはキミの飲み差しだろう?」

「バレたか!」

「フフッ!」

「ヘへッ!」

 

 いつかの記憶がフラッシュバックする。こうしてふざけたやり取りをしていると、さっきまでの不安がバカバカしくなってくる。実を言うとこの時点で既に気分は晴れていたかもしれない。

 まぁでも、出た目は絶対だからね……?

 

「ん………」

 

 Pに向かって、両腕を軽く開いて見せる。

 ()()()()()をしたのは初めてだけれど、ビジュアルレッスン等の様々な修行を積んできただけあって、ボクの意図はPに確と伝わったという手応えがあった。

 

「え…? ちょ、ま? え、まっ、ちょえ……?」

「オイ……ボクにだって羞恥心はあるんだが……?」

 

 異様に挙動不審になるP。そんな反応をされると、何かおかしなことをしているような気になるじゃないか…!

 

「だって……なぁ? こう来るとは思わなかったっていうか……え? いいの?」

「女の子が()()してるんだ。わざわざ言葉にするのは野暮だと思わないかい?」

「た、たしかに……!」

 

 一歩、Pが近づいて。そして――

 

「ぁ………」

 

 頬で感じるPの体温はとても心地よかった。吸い込む空気に混じる、いくつかの匂い。ワイシャツの洗剤の香りと、その奥の彼の体臭。芳香とはいえないけれど不思議と落ち着く匂いだった。

 

「……もう少し、強くてもいい」

「はいよ」

「んっ……」

 

 腰に掛かる力が強まる。あばら骨で感じるPの指先には妙にゾクゾクするものがあった。知らず、ボクの腕の力も強まっていた。少し窮屈で、少し息苦しい。それなのに、このまま眠れそうなくらいの安心感がある。

 

「今日、この日……。気付いてるか、飛鳥?」

「あぁ……愚問だね……」

 

 今日は3月25日。一年前の今日、ボクはPに出逢った。それまでのボクは、空想を膨らませることはあったけれど、こんな未来を想像したことはなかった。たった一年でボクのセカイは変わってしまった。

 

「この一年、お前には無茶ばかりさせたな」

「本当にね? ボク以外の子に同じことをさせるのはお勧めしないよ」

「ごめんて。次の一年はじっくりいくからさ」

「へぇ、どんな風に?」

「これまではライブに偏り過ぎてたけど、アイドルにはもっと色んな可能性がある。たとえばラジオ番組持ってみたり」

「それはマストだね。うん。必ずだよ」

「アイアイサー」

「他には?」

「もちろん、映画やドラマに出演するとか、舞台もいいよな」

「いいね。……でも、今日の公演を越えるモノが作れるだろうか?」

「飛鳥がいて、俺もいるわけじゃん? イケるでしょ」

「Pがそう言うならそうなんだろうね。とても楽しみだよ」

「……俺も」

 

 そのとき、「ふわぁぁぁ~~!」と可愛らしい鳴き声が聞こえた。蘭子だ。やれやれ見られてしまったらしい。

 

「フン。こんなときに何をしているのかしらね」

「シーー!! 邪魔しちゃダメーー!」

 

 ボクとPは彼女たちの声を聞かなかったことにした。第三幕の開演までにはまだ少し時間があるし、もう少しこの温かさを感じていたかったから。

 

「フフッ」

「どうした?」

「ん~ん、何でもないよ……フフ」

 

 ボクがいて、Pがいて、蘭子がいて、あと、神崎Pもいて……。最高の舞台があって、オーディエンスたちがいて……。

 ()()が此処にあると感じていた。

 ボクの目の前には、無限の可能性が広がっている。間違いなく、最高に素晴らしい未来が待っている。可能性とは希望のことなのだ。惜しむらくは、一歩一歩進む度に未来が過去へと確定していくこと。そのときにはもう、今この瞬間に感じている無限の可能性は収束しきっているのだから。

 いや……。ボクの共犯者は、ボクの片翼は、そんなに大人しくはないか。そのときにはきっとまた別の無限の可能性を生み出しているだろうね!

 だけど今は敢えて、こう言おう。心の底からの――ボクの魂からの――呟き。

 

「時よ止まれ。セカイはかくも美しい」

 

 出来ることならば、()をずっと留めておきたい。そんな荒唐無稽の願いを、つい、抱いてしまった。

 

「そういやさぁ。さっきお前に呼ばれたとき、俺はてっきりアレかと思ったんだけどな」

「アレって?」

「フィストバンプしたいのかなって」

「え……?」

 

 しかしPの何気ない一言に、ボクの高揚感は霧散していく。

 

「俺の()()も案外あてになんねぇな。それかもう、とっくに()()なんて――」

 

 不気味な違和感が、踵の先から一気にうなじまで立ち昇ってくる。心地よかった圧迫感が、今ではもうただの息苦しさになっている。Pの言葉も耳に入ってこない。

 当たっている……。フィストバンプは確かに第一案だった。いや、ボクがサイコロを見つけなければ、そして変なルールを付けて振ったりしなければ、必然的にPにはフィストバンプを求めることとなっただろう。つまり、Pの予測を超えたのはボクではなく、あのサイコロで――

 

「うっ……!?」

「なっ!?」

「あっ……!?」

「っ!?」

 

 ――唐突に。あまりに唐突に、ボクたち四人は同時によろめいた。

 眩暈のような感覚があった。周囲のスタッフたちは変わらず作業を続けている。異常を感じたのはボクたちだけらしい。

 

「なっ、なんだ……!?」

 

 視界がおかしい。目に映る全ての輪郭がブレている。自分の掌さえもがブレて見える。

 

「っ……!」

 

 風圧を受けたような感覚が全身に走る。その直後、()()が遠ざかっていくのが見えた。

 

「……は?」

 

 遠ざかっていくのは()()だった。二宮飛鳥が遠ざかっていく。あれは間違いなくボクだ。でも、何かおかしい。身に付けているのは部屋着なのだ。しかもそのボクが居るのは自室……それも静岡の実家の自室だ。自室のベッドに寝そべり、死んだ魚のような目で携帯の画面を眺めている。その画面に映るのは、豪華絢爛なステージで、独り舞い歌う神崎蘭子……?

 

「蘭子、だけの、UL……?」

 

 蘭子の方へ振り返ろうとして、しかし、ボクが見たのはまた別のボクだった。それはボクが、東京から静岡へ向かう新幹線に乗車する瞬間だった。

 そのボクの向こうにまた別のボクがいる。ステージから楽屋へ戻って来るなり膝をついて、床に爪を立てている。

 その向こうのボクは……顔を青くして、舞台袖から蘭子のステージを眺めていた。

 そして見覚えのある部屋――まだ小さかったPの居室。そこでボクたちは向かい合っていて………。そこにはボクが二人いた。一人は手にALDを持っている。もう一人はコーヒーカップを持っている。そこが終わりらしい。

 

「ボクは何を見て……っ!?」

 

 コーヒーカップを持った方のボクが遠ざかっていく。どんどん。加速度的に速く、遠ざかっていく。

 見えなくなるまではあっという間だった。おそらくもう二度と見ることが出来ない程の遥か彼方へ行ってしまったのだろうと、何故かそう感じた。

 

「今のは、一体……?」

 

 白昼夢? いや、デジャヴ、の方が近いだろうか?

 幻覚にしては異様に生々しいのに、思い返そうとするとあっという間に記憶から消え去っていく。実際一呼吸置くと、ただのデジャヴと変わらない程に何もかもが曖昧になっていた。

 不可解な点があるとすれば、四人の人間が同時にデジャヴを見るなんてことは寡聞にして知らないことだ。

 

「この感覚は……まさか……!」

 

 Pがいつになくシリアスな表情で呟いた。Pは何か思い当たることがあるのだろうか?

 

「振って、しまったのね……」

 

 神崎Pが元から白い顔面をより一層白く、いや蒼白にしながらそう言った。

 神崎Pの『振る』という単語にボクはすぐに思い至った。さっき振って6の目が出たサイコロのことを。

 

「ふ、振ったって、コレのことかい?」

 

 ポケットに入れていたサイコロを取り出して三人に見せる。

 

「でもこれは……さっきそこで拾った何の変哲もない――」

「――なんだそれっ!? そんな完璧な立方体がこの世にあるワケが……」

「えっ?」

 

 Pが血相を変えて自分のスーツの胸ポケットをまさぐる。

 

「はぁっ!? マジかよ! ()()ぞ!?」

「えっ? えっ?」

「な、なんぞ? さっきから何が起こってるの……?」

 

 Pと神崎Pの視線がボクの掌の上のサイコロに注がれる。

 改めて見てもやはりそれはただのサイコロで――え?。この面、目が消えている……あっ、こっちの面もだ……いや、見た瞬間に消えた? そもそもこんな色をしていたか? 面毎に違う色だなんて、こんなの……こんなのまるで……!

 

「そう……騙されたのね……」

 

 ボクが手にしていたのはALDだった。見るのは久しぶりだけど、その淡くも美しい色を忘れるわけがない。

 いつの間にサイコロから入れ替わっていたのだろう? 騙されたって? もしかして元からALDだったのか? 何故こんなことを? いや、誰が……?

 

「今、セカイが分岐したわ……。そして……」

 

 いつだって不遜な態度の神崎Pが、自分の肩を抱きながら、教師に叱られる直前の児童のように震えていた。

 

「来る……!」

「っ……!」

 

 やや強引にPに手を取られ、ボクは彼の背中側に引き寄せられる。その拍子に手から転がり落ちたと思ったALDは――転がり落ちるはずのALDは――物理法則を無視して空中で静止していた。

 

「えっ…!?」

 

 立方体が歪んで見えた。いや、変形……平べったくなっていく…? 目を瞬いているといつの間にか、ただの正方形になっていた。立方体がただの薄っぺらい正方形になっていたのだ。その形は更に変わっていく。正方形の上辺が下がっていく。すぐにぱっと見でも正方形ではなくなる。その面積を段々と減らし、長細くなり、上辺と下辺が重なり、線となった。

 その異様な光景をよく見ようと、Pの背中から顔を出そうとすると、Pに止められる。

 今度はその線が短くなっていく。それは導火線のようにも見えた。この線の両端が一点に重なるとき、何かが起きる予感があった。

 そして、線は点となり、蒸発するように消滅した。

 

 

 ――――■■■■■■!!!!!

 

 

「うおおっ!?」

「くっ!?」

「きゃあっ!?」

「ぅっ……!」

 

 名状しがたき不吉な音がどこからか鳴り響いた。

 音の発生源は空からのようでもあり、耳元からのようでもある。それと同時に襲ってきた強烈な悪寒にボクは、ボクたちは、一様に呻き声を上げた。

 たじろいでいるのは、ボクたちだけじゃなかった。そこかしこで悲鳴が上がり始めていた。周囲のスタッフたちも、会場の数万のオーディエンスたちも、同じものを味わっているらしい。

 数多の悲鳴さえも掻き消すように、不吉な音は鳴り続いている。終末の到来を知らせるラッパの音というのは、あるいはこれだったのかもしれない。

 

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