超次元偶像二宮飛鳥のセカイ   作:関ち出張所

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≪Observation by P≫

 

 セカイ分岐が起こったとき、俺は本当の自由を取り戻したののを感じた。それはちょうど一年ぶりのことだった。そして全てを思い出した。飛鳥に伝えるべきことがあったということも思い出した。

 しかし同時に、それは俺にはどうしたって伝えることが出来ないと諦めることになった。

 だから俺は「ぶちかましてこい!」と、そんなことしか言えなかった。

 

 実際、飛鳥と神崎ちゃんはよくやってた。

 俺でさえ見失いそうになるほどの速度で空を駆け、現実離れした方法で敵を倒していく。このままいけば本当に天使とやらを撃退できるんじゃないかとも思えた。

 

 飛鳥の様子がおかしくなった直後、神崎ちゃんがやられた。敵の攻撃をまともにくらい、墜落してきた。落下の衝撃の大半は翼が相殺したようだが、既に重傷。あと数分も持ちこたえられないだろう。

 となると問題は飛鳥だが、呆然と空を漂ったままでいる。飛鳥へと必死に呼びかけても反応が薄い。そんでやっぱり落ちた。

 

「ずおりゃああッ!」

 

 飛鳥の落下予測地点へ向け、俺は疾走する。陸上界真っ青の弾丸スタートダッシュだ。

 このまま落下地点に到達して飛鳥を無事に受け止めることは容易い。そんなこと俺には朝飯前。

 んでも、現実はそんなに甘くはないよなぁ。てか現実って何だ。笑えないぜまったくよぉ。

 飛鳥が落ち始めてからまだ一秒も経っていないのに、落下速度は既に終端速度を超え、更に増大していく。なんつー加速度。天使は重力エネルギーを操るらしいから、こんなのお手のものってか。

 

 ――じゃあ急がねぇとな!

 

 俺の肉体の全細胞一つ一つに指令を下し、最適な走法で疾駆する。身一つで空気の壁をぶち破った三人目の人間、それが俺。

 

 そのとき、俺の理性が『待った』をかけてきた。『死ぬことになるぞ』と。『どうせ二宮飛鳥も助けられないぞ』と。だから『無意味に決まってる』と。

 

 ――うるせええええええ!!!

 

 今この瞬間だろうがよ、俺がずっと求めていたのは!

 理性が拒絶し、確率にそっぽを向かれて、それでも尽きない心の底からの衝動! しょうもない()()にずっと抑えつけられてきたソレが、今この瞬間には解放されている。

 しかも『決まってる』だと? 逆だろうが! 分岐したてのこのセカイはまだ何も決まってねぇはずだ!

 それに何より! プロデューサーがアイドルほっとけるかよ!!

 

「――ッ!!!!!!!」

 

 落下地点には俺が先に着いた。

 脚部の骨にヤバい感じのヒビが入っている。まぁいい。もうあまり関係ないし。痛覚遮断も必要ない。こっからの俺の仕事は痛みを感じる前に終わるから。

 目と鼻の先には半端ないスピードで俺の胸に飛び込んでくる二宮飛鳥。問題はここからだ。

 脳の処理速度を最大限に引き上げる。足りない。脳の限界を超えて引き上げる。疑似的な時止めが実現した。

 コマ送りの世界で、俺は注意深く飛鳥の身体に手を伸ばしていく。

 まずは両手で飛鳥の重心に触れ、僅かな運動エネルギーを回収する。そして左手は上半身へ、右手は下半身へ滑らせていく。滑らせながら運動エネルギーを回収し続ける。飛鳥の肉体に負担をかけないよう少しずつ。回収した運動エネルギーは剛体化した細胞を伝わせて左の足先へと伝達し、解放――爪先から土踏まずまでの体組織が粉々に分断された。

 運動エネルギーの回収を続行する。超速で動かしている両腕があっという間にズタボロになっていく。ギリギリ形を保っていればそれでいい。

 

 左踝が、左脛が、左膝が、右爪先が、右踝が、右脛が……。

 

 ――まだだ。まだ全然スピードが殺せていない。

 

 左膝が、右膝が、左腿が、左大腿骨が、右腿が、右大腿骨が……。

 

 ――あぁ、クソ、そういうことかよ。ここにきて加速度増してんじゃねーか。容赦無さ過ぎだろ。

 

 臀部が、骨盤が……。

 

 ――クソ。クソ。クソ。

 

 腹筋が、大腸が、腰椎が……。

 

 ――クソ。クソ! クソ!!!

 

 アバラが、肺が、心臓が……。

 

 ――ああああ!くっそおおおおお! 飛鳥! 飛鳥!!

 

 頸椎が、顔面が、頭蓋骨が……。

 

 ――飛鳥! 飛鳥! 飛鳥!!!!

 

 脳が……。

 

 ――――――!!!

 

 

 

 ――パァンッ!!!

 

 

 

 こうして俺の肉体は粉々に弾け飛んだ。

 俺の肉体を使い尽くしても結局、飛鳥の落下速度は半分にもできなかった。

 しかし飛鳥を助けることには成功した。

 それは何故か?

 いやそもそも、今のこの思考はなんなのか?

 

 つまりはそういうこと。

 

 なかなかやるだろ、俺ってさ。

 

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