超次元偶像二宮飛鳥のセカイ   作:関ち出張所

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≪Review by Asuka≫

 

 ボク、二宮飛鳥がアイドルにスカウトされたのは、中学二年生に進級する前の春休みのことだった。

 

 その日、中古のラジオを購入した帰り道。自宅近くの公園を通りかかったときに、あることを思い出した。幼少の頃、ガラクタで構成されたラジオを持ってそこら中を徘徊していたという黒歴史のことだ。

 音の聞こえやすい場所を探し求めて、あっちへこっちへ。この公園はそのホットスポットの一つだった。

 ここで思い出したのも何かの縁だと、公園のベンチで買ったばかりのラジオを試用してみることにした。

 同封されていたマニュアルを一読して、スイッチオン! ……点くはずがない。鉱石ラジオではないのだから、電源が必要なのだ。このラジオを聞くにはコンセントが要る。

 普通は公園では無理だが、そこは勝手知ったる自宅近くの公園。町内会が管理する物置小屋の裏側にコンセントがあったことにすぐ思い至った。

 あまりよろしくないことだけれど、無性にそのとき、その場所でラジオが聴きたくなっていた。

 小屋の裏側に回ると記憶通り、外壁の地面に近いところにコンセントが埋め込まれていた。

 小屋の壁が面しているのは鬱蒼とした雑木林。寂れた公園のしかも普段は誰も用のない小屋の裏側に、ボク以外の人間が来るとも思えない。だから、多少電気を拝借してもバレることはないだろう。

 プラグを差し込んで、スイッチオン。今度こそは電源が点いた。鳴ったのはジジジという空電だったが、それでも妙に嬉しかった。

 地面に腰を下ろし、ラジオは膝に抱えて周波数ノブを回す。すぐに何かの番組にたどり着く。オーケストラ音楽だった。

 音量をボクにだけ聞こえる程度に小さく絞って、チューニングを続けていく。

 少しイケナイことをしているという非日常感からか、AMの下らない雑談やFMの耳にタコのCMがたまらなく面白く感じていた。童心に帰るというのは、きっとああいうことなのだろう。

 神にも見落とされるような狭間の場所で、セカイの声に耳を傾けているような気分。それがとても懐かしくてワクワクしてしまう。

 ちゃんと音の鳴るこのラジオならまだしも、昔のボクはよくもまぁあんなガラクタで楽しめたものだ。電波をキャッチするのも一苦労、よしんばキャッチできても音は小さいわ、ノイズも酷いわで、あれは今思えば苦行以外の何物でもない。

 

 ふと周囲を見渡せば日が暮れ始めていた。ちょっとのつもりが、随分と長くそうしていたらしい。

 門限を越えると母親が怖い。

 そういえば昔、底の抜けた風呂桶を天に掲げながら闊歩するボクの話題が町内会で挙がったとかで、顔を真っ赤にした母に父ともどもひどく怒られたっけ? それはまぁ、無理もない。でもその甲斐あって、ボクは初めてちゃんとしたラジオを買い与えられ、ボクの奇行は鳴りを潜めることになった。

 そろそろ帰ろうかと思い始めた矢先、前方の雑木林の奥からガサガサと音がした。

 犬か猫か、と目を凝らすまでもなく、大人の男がこちらに向かって一直線に向かって来るのが見えた。

 ヤバい、大人だ、電気を使っているのを怒られる!

 そう思い込み焦ったボクは、ラジオの音量を下げようとして逆に上げてしまった。それでほとんどパニック状態に陥った。

 ラジオの本体を力任せに引っ張ってコンセントを抜き、そのままバッグに押し込む。立ち上がり、ジャケットのポケットに手を突っ込んで、小屋の壁にもたれ掛かる。

 近づいてくる男はスーツを着ていた。

 国家の犬か? 益々ヤバいな。益々焦る。つい今しがた出してしまったラジオの音を誤魔化さなくては。そうだ、口笛の音だったということにしよう!

 

 だけど、ボクの口笛は上手くいかず、盛大に息を吹き出すだけになってしまった。

 

 丁度そのとき男は林を抜け、ボクの目の前に立った。

 ボクは外面の格好だけはつけて、しかし、内心ビクビクで男の出方を待った。

 ソイツはしばらくボクを見つめていた。ラジオを隠したバッグには目もくれずに。

 見えていなかったのか? ということは、盗電を叱りにきたのではないのかもしれない。

 ソイツは大人だけれど結構若く見えた。中肉中背。顔面はハンサムではないが、愛嬌のようなものが無くはない。つまり風貌だけなら、まぁ、どこにでもいそうな男だった。

 そんな二十歳半ばくらいの男が息を切らしながら、ボクをまじまじと見ている。

 そもそも何故、林の方からやってきたのだろう?

 もしかして国家の犬なんかよりももっとヤバいヤツなのでは? そんな考えに背筋がヒヤリとするかしないかのとき、ようやく男は口を開いた。

 

「聞こえたんだ、口笛が。その音を辿ってきたら、キミがいた」

 

 ボクの咄嗟の口笛のポーズから話を繋げてきやがった!!

 

 コイツは手強い。ボクの直感がそう告げていた。たぶん詐欺師か変質者、もしくはその両方だ。

 でも何故か、続きを聞いてみたくさせられていた。そう感じさせるような、不思議と心地よい声のトーンと間と表情だった。

 もし何かおかしな素振りを見せたらすぐさま脱兎と化す心構えだけはしておいて、少し話をしてみることにした。

 

 その男がPだったわけなのだけれど、思い返してみても見事な話術だったと感心する。

 悪漢の尻尾を出させようと、わざと大人を虚仮にするようなことを言ってみても、ゆるりと躱されてしまう。そればかりか逆に興味を引く返しをしてきて、知らぬ間にボクは自分のことを語っていた。

 ()()ことを言ってみてもクラスメイトや教師たちのように鼻で笑ったりしないし、だからといって相槌を打つだけでもない。彼なりの知見が加えられた意見を返してきた。話せば話すほど興味を引かれ、お互いの歯車が噛み合ってくるような感覚が無性に楽しかった。

 そして彼の「非日常への扉を開けよう」という言葉はボクの琴線に触れ、アイドルのスカウトを受けてしまった。

 

 彼から渡された名刺には、日本に住んでいるなら知らぬ者がいないくらい有名な芸能プロダクションの社名が印字されていた。

 会社のネームバリューのお陰かそれとも単に話術によるのか、会ったその日のうちにPは両親の説得をあっさりと成功させた。

 それから一週間経つ前に、彼は転居と転校の手続きも済ませてしまい、四月一日からボクのアイドルとしての生活が始まったのだった。

 

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