できそこないの竜の騎士(旧)   作:Hotgoo

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何でも魔法剣マン再び


10 決着

 天蓋を突き破り、雪崩れ込んできた混沌の濁流。

 それに押し流されるようにして落ちてきたのは、ぼろぼろになった冥竜王だった。最も、あれほどの攻撃を受けてそれだけで済むというのも大概ではあるが。

 そのまま周囲を見渡した冥竜王は周囲を見渡し、苛立った様子でアトリアに声をかけた。

 

 「グッ……アトリアよ、結界の解除はまだか?」

 

 「……いえ、ですが黒の核晶のほうは既に処理しました」

 

 「そうか……ん?」

 

 アトリアの微かな言い淀みとともに、その後ろで壁にもたれかかる少女を目聡く見つけるヴェルザー。

 だが、その弱弱しい様とは逆に滲み出る強者の力の片鱗を感じ、訝しんだ。

 

 「おい……その女は何だ?」

 

 「…………」

 

 ここでの沈黙は、後ろめたいことがあるといっているのと同義だ。

 

 「まさかその女が結界の術者では――」

 

 しかし、ヴェルザーの詰問は、大穴より降り立った一匹の化物に遮られた。

 

 「ヴェルザァァァァァ!!!!!!」

 

 継ぎはぎの怪物。竜になりきれない獣。その醜悪な姿からは、荒々しい力、深い知性、醜い執念――

 相反する性質を詰め込んだような、不整合性の塊ともいえる様が垣間見える。

 その怪物は、もたれかかる少女を見やり、こう吐き捨てた。

 

 「奴は……敗れたか。どうせ負けるのならば、黒の核晶で全てを吹き飛ばせばよかったものを……つくづく出来損ないだな」

 

 「……その女が結界の術者なのだろう、さっさとどうにかしろ」

 

 「ひっ……」

 

 二つの巨体からの敵意の視線。

 その中でも特に、失敗作に向けるような、侮蔑と失望に塗れた視線――それを向けられた少女は、激しい怯えを露にする。

 身が震え、額には脂汗が浮かぶ。余程の恐怖を刻み付けられていなければ、こんな形相は見せないだろう。

 その視線を遮るように、アトリアが少女の前に立つ。

 

 「……結界を解除しろ。出来るか?」

 

 やってみると言わんばかりに、結界の中心に向けて手をかざす少女。小さく震えるその手に、魔力が収束しかけるが――

 

 「やってみろ。またこの世のあらゆる苦痛を味あわせてやるぞ……!!」

 

 「あ……ああ……!!」

 

 少女の脳裏に心的外傷(トラウマ)が蘇る。手元がおぼつかないほどに震えが増し、歯がカチカチと鳴り始める。彼女の手に集まっていた魔力は儚くも霧散した。

 その様子を見ていた冥竜王が、遂に痺れを切らした。

 

 「もうよい。――その女を殺せ」

 

 だが、何時もならば粛々と主の命令に従うのみの人形は――

 

 

 「――拒否します」

 

 

 初めてその命を拒んで見せた。

 有り得る筈の無い命令拒否。だがそれを受けて冥竜王は、憤怒ではなく喜悦に口元を歪ませた。

 

 「ほう……ではどうする?」

 

 「無論――オレが奴を仕留めます」

 

 何のことも無い様に宣言してみせるアトリア。何も映していなかったはずの空っぽのその瞳には、一筋の光が宿っている。

 それは炎。凍て付いた心を溶かし得る暖かな種火。

 

 「クク……クハハハ……!いいだろう、やってみろ。オレは手を出さんぞ」

 

 アトリアは勝ち目の薄い闘いに身を投じることはない。そうなる前に、あの言葉(・・・・)がアトリアを縛り付けるからだ。

 

 ――あなたは、生きて。

 

 その言葉が故に大魔王にも頭を垂れ、冥竜王に付き従っている。だが今、偽りの竜王と対峙して尚、アトリアの覚悟は揺るがなかった。

 突如、背後から飛来した火炎弾を少し身を動かしただけで躱すアトリア。振り向くとそこには、憤怒に身を震わせた継ぎ接ぎの怪物――オラージュがいた。

 

 「黙っていればぺちゃくちゃと……!あの出来損ないに情でも沸いたか?そのくだらん情に絆されたせいでお前は死ぬ」

 

 「死ぬのは貴様だ」

 

 「減らず口を……お前はただの前座に過ぎん――さっさと死ね」

 

 先端に竜の(あぎと)を備えた幾つもの触手が、オラージュの背から生まれ、アトリアに向けて飛来する。矢の如き速度で放たれたそれを、剣先で捌くアトリア。しかし――

 

 「馬鹿め」

 

 オラージュの狙いはそこではない。周囲に散った触手の顎から、雷が弾ける。一つ一つが電撃呪文(ライデイン)に匹敵する雷の吐息が、あらゆる角度から放たれた。

 

 「ぐあっ……!」

 

 どこに避けようと射線が通っている緻密なる雷の牢獄。アトリアを貫いた紫電がその身を焼いた。

 だが、アトリアもただでは終わらせない。両手に握る双剣の刀身が、荒れ狂う竜巻を纏う。振りぬいた剣圧と真空が、周囲の触手を全て両断した。

 

 「真空・かまいたち……!」

 

 勢いもそのままに走り出すアトリア。怪物とリソースの削りあいをしても敗北は必然。狙うべくは一撃必殺だといわんばかりに、オラージュの首へと目掛けて一直線。

 

 「ふんッ!」

 

 だが、その歩みは吹き付ける暴風によって止まる。オラージュの8つの竜翼の羽ばたきが生み出した風圧が、アトリアを押し返す。足が止まったその一瞬、襲い掛かるのは呪文の絨毯爆撃だった。

 

 「べギラマ」 「メラゾーマ」 「ライデイン」 「イオラ」 「バギクロス」

 

 怪物の体ならではの呪文の多重詠唱。塵も残すまいという気概が感じられるほどの集中砲火。

 その暴威がアトリアを破壊しつくす前に、超爆発の魔法剣が全てを吹き飛ばした。

 

 「邪魔だ……!爆裂・魔神斬り!」

 

 巻き上がる爆煙の中でアトリアは思案する。地上での闘い、ここまでの道程、少女との闘い。さらにそれに加えて極大魔法剣の二連続。ここに来てアトリアの魔力にも限界が近づいていた。

 

 ――呪文は使えて後3・4回といった所か……ここで決めるしかない。

 

 爆煙を切り裂き飛翔呪文(トベルーラ)で飛び出すアトリアに、数多の触腕が襲いかかる。鋭爪をもって降りかかる刃の雨を躱し、弾き、斬り飛ばす。肉と刃の雪崩を掻き分けたアトリアの眼前に現れたものは、視界を埋め尽くすほどに肉薄した尻尾だった。

 

 「ぐ――がぁっ……!?かはっ……」

 

 骨が砕け、肉が裂ける生生しい音が響く。尻尾を叩きつけられ、オラージュの頭上まで打ち上げられたアトリアに、九つの頭が顔を向けた。

 

 「前座風情が手こずらせおって……!これで終わりだッ!消えうせろォォ!!」

 

 九つの頭の口に、それぞれのエネルギーが収束し始める。紫電が奔り、暴風が吹き荒れ、闇が広がる。火炎が迸り、冷気が漂い、腐毒が沸く。

 放たれ、一つとなったそれは、絵の具を全て混ぜたときのような、濁った黒色の奔流となって押し寄せる。

 

 迫り来る黒の奔流を前にして、アトリアは――

 

 

 

 小さく、笑ってみせた。

 

 

 

 何事かを呟き、剣を交差し構えるアトリアを、混沌の濁流が呑みこんで行く。

 

 「フ……フハハハハ!さあ、次は貴様だ、冥竜お……!?」

 

 ゆっくりと、しかし確実に。混沌の濁流が十字に切り裂かれてゆくさまをオラージュは見た。

 有り得ない、信じられない、そんな馬鹿な――そんな形相が向けられた先には、薄青の光を纏う双剣を手にしたアトリアが、闇を切り裂き飛翔していた。

 

 「なんだ……これはッ……!……まさか!?」

 

 アトリアが剣に纏わせたもの――それは圧縮された防御光幕呪文(フバーハ)

 元来この呪文は竜の吐息(ドラゴンブレス)を防ぐためのもの。呪文を防御する効果は副次的なものに過ぎない。

 それを圧縮し剣に纏う魔法剣ならば、如何な威力であろうが突破できると踏んだのだ。

 相手が絶対の自身を持つ攻撃を正面から破った時に発生する一瞬の隙。そこにアトリアは全てを賭けた。

 

 最初に天蓋を打ち破ったあの一撃を見てから、こうするとアトリアは決めていた。無策に飛び出したのも、吐息(ブレス)が撃ちやすいような場所にわざと吹き飛ばされたのも。

 

 全てが――この一瞬のため。

 

 

 「ギガデイン!」

 

 例え記憶がなかろうと、その戦の技だけは、身体に刻まれている。

 二振りを天に掲げ、大穴より降り注ぐ剛雷を受け入れるアトリア。眩いばかりの光を放つ二刀を、大上段に構えてみせる。

 狙うはその首、九つの頭の中心。雷竜に酷似したそれが、この怪物の司令塔であると確信していた。

 これこそは竜の騎士の最終奥義。三界の均衡を保ち、あらゆる邪悪の命運を絶ってきたその秘剣の名は―― 

 

 

 ――ギガブレイク。

 

 「まだだッ!」

 

 最後の抵抗を試みんとして、オラージュが動く。

 硬質化した触腕を挟み込むが、全てあっさりと両断される。

 首筋の筋骨が盛り上がり、刀身に纏わりつくように阻害するが、剣が纏う紫電の熱量が、それらを全て焼き尽くす。

 今動かせる闘気を総動員し、首を守る。ようやくその勢いが弱まった剣は、首の半ばでその動きを停止した――

 

 ――神代に謳われる真魔剛竜剣ならばまだしも、凡俗な剣ではオレの首は断てん!

 

 「勝った――」

 

 はずだった。

 

 停止したかに見えたその剣はあっさりと首から抜き去られ、その勢いのままにアトリアが一回転する。

 瞬く間に行われたその動作によって、未だ雷光を纏う反対側の剣が遠心力をも加え、先程切り込んだ位置に再び到来する――!

 

  

 「ギガブレイク――――W!」

 

 

 全く同じ箇所への、2重の斬撃。半ばで止まっていた切れ込みは下へ下へと広がっていき、遂には首を落として見せた。

 激しく動いていたオラージュの体が止まる。切り落とされた頭部が地面に落ちるのに少し遅れて、怪物の巨体が大きく音を立ててくずおれた。

 

 「終わった……か……」

 

 闘いが一段落し、昂ぶっていた精神が静まる。抑えられていた痛みが表出し、アトリアが膝を突く。

 ゆっくりと立ち上がり、よろよろとおぼつかない足取りでヴェルザーの元に戻った。

 それと同時に、地面に刻まれた六芒星が薄れ、消えていく。少女のほうに目をやれば、その震えは完全に収まっていた。

 アトリアと少女の視線が交差する。先程の邂逅のときの無機質なそれと違い、互いの瞳には確かな色が宿っている。

 創造主の呪縛から抜け出した少女が、恐る恐る疑問を口にする。

 

 「なんで……わたしを殺さなかったの?」

 

 「さあ……な。強いて言うなら……思い出したからだ」

 

 「それはどういう――」

 

 アトリアがピタリと動きを止める。その後ろで物音がした。大きな何かが蠢くようなそれの後に間をおかず、狂気と苦痛に満ちた咆哮が響き渡る。

 

 「ガアアああぁアアァあ゛あ゛ぁァァ――!!!!」

 

 振り向くと、倒れていた異形の怪物が暴れだす。切り落とされた首の断面から、泡立つ様に肉が盛り上がる。

 その箇所だけではない。怪物の身体の様々な場所から、爪や牙、腕や翼、終いには頭が飛び出す。

 

 「なっ……こいつ、まだ――!」

 

 今のオラージュの状態を例えるなら、頭の取れたぬいぐるみ。

 頭が取れたのをきっかけに緩んだ縫い目から、綿が溢れ出しているような。

 制御を失い、内側に秘めていた竜の因子が暴走している。最早それは無秩序に暴れまわる肉塊とでも表現できそうな醜悪さ。

 

 これが高みに焦がれ、届かぬ領域に手を伸ばした代償か。

 はたまた、多くの命を弄んだ悪辣な男の末路か。

 それは誰にも知れないが、現実としてあるのは、力の限りを尽くして斃した怪物が、再び起き上がった。

 

 ただそれだけのことだ。

 

 「くっ……!」

 

 無造作に振るわれた怪腕を前にして、二人はただ立ち尽くす。最早二人に闘う力は残されておらず、眼前に突如現れた死に、何をすることも出来なかった。

 

 だが。

 

 頭上より振り下ろされた前足に、巨腕は為すすべも無く潰される。見るからに格が違うと分かるほどのあっけなさ。束縛から開放され、戦意を滾らせたその者は、立つ次元そのものが違うと思わせるほどの覇気を纏っていた。

 

 「大儀であったぞ、アトリア――後はオレがやる」

 

 竜を縛る結界は消え、休んだことである程度体力も回復したヴェルザー。彼は王者の風格をもって、暴れ狂う肉塊へと歩みを進めていく。

 

 「ヴぇェルザぁアあア゛ァァ!!」

 

 当然それは看過されるはずもなく、肉塊から突き出した数本の腕が、冥竜王を貫き、切り裂かんと襲い掛かる。

 流石と言うべきか、呆れたものだと言うべきか。このような有様になっても、辛うじて竜王への執念をオラージュの成れの果ては保っていた。

 

 「くだらん」

 

 向かってきた腕を事も無げに掴みとり、束ねるヴェルザー。そしてそれを、力任せに、無造作に引き千切って見せた。

 

 「グぎィャア゛アァアア!!」

 

 呆れるほどの膂力。小賢しい能力を抜きに、全ての竜の中で一番強い。故に竜王。

 その間も、ヴェルザーはペースを崩さずに、ただ歩む。規則正しいその音は、まるで死刑を宣告するカウントダウンのようで。

 心なしか怯えたようにも見える怪物は、胸に生えた五つの頭から、炎の吐息を放つ。

 

 「煩わしい」

 

 ヴェルザーが腕を振る。たったそれだけのことで、放たれた業火は霧散した。

 そして遂に、その歩みは止まる。肉塊の前に立ったヴェルザーは大きく息を吸い――

 

 「竜の吐息(ドラゴンブレス)とはこういうものを言うのだ……!」

 

 そこに秘められた火炎を開放した。

 

 先程のオラージュのそれを業火と評するならば、これ(・・)は煉獄。

 太古から語り継がれるかの大魔王の不死鳥にも比肩するその熱量が遺憾なく発揮され、オラージュの全てを焼き尽くす。

 

 「ア゛ア゛ア゛アッッ!」

 

 魂すらも灼かれていきそうな程の火勢に包まれ、悲痛な叫び声を挙げながら肉塊は炭の塊となった。

 しかし。

 

 「――まだ生きているのか……」

 

 黒焦げの塊が蠢き、表面の炭がぱりぱりと割れていく。そこから現れた新しい竜鱗を見て、ヴェルザーは溜息をついた。

 

 「馬鹿げた不死性だな……よかろう、貴様のその執念に敬意を表し、塵の一つも残らんほどに消してやる……!」

 

 そう言うとヴェルザーは振り返り、忠告の言葉をかけた。

 

 「黒の核晶を持ってここから離れろ。死にたくなければな」

 

 「……御意」

 

 そういうとアトリアは、黒の核晶を回収するために中央塔へと向かおうとするが、やはりその足取りはおぼつかない。

 いつもの仏頂面ではなく、少し穏やかな表情で、隣の少女へ手助けを求めた。

 

 「肩を……貸してくれるか」

 

 「……うん」

 

 二人は互いに支えあい、中央塔へと歩いてゆく。

 少し経ってから、瞬間移動呪文(ルーラ)の光が大穴から出て行くのを見て、ヴェルザーは己の暗黒闘気を高め始める。

 これから放つのは必殺の一撃。方向性は違えども、大魔王の天地魔闘と同じく、くり出すからには相手は確実にこの世を去る。

 

 そしてそれは――今回も例外ではない。

 

 「教えてやろう――これが力というものだ」

 

 翼をはためかせ上へと舞い上がるヴェルザー。大穴を抜け、さらに上へと。程なくして、ヴェルザーは魔界の天蓋へと辿り着く。

 地上と魔界を分ける無慈悲なる壁と、怨念と暗黒闘気が渦巻く暗雲。魔界の空にあるのはそれのみだ。

 

 「オオオオォォ……!!」

 

 ヴェルザーの闘気に呼応し、周囲の暗雲が集ってゆく。その様は引力を発する恒星のようで。

 自身に集ってくる怨念と暗黒闘気を全て取り込み、己が物とする。暗雲を晴らし、黒く輝くその姿はさながら魔界の太陽か。

 

 そして――魔界の落日が始まる。

 

 一直線に降下を始めるヴェルザーのあまりの速度に、表面が赤熱し、炎を纏う。

 

 それは槍。ひたすらに研ぎ澄まし続けた、天にすらも届き貫く、神殺しの槍。

 それは星。赤黒(せっこく)の輝きを放ち、見たものの悉くに滅びを与える死兆星。

 それは災い。万人が逃れることも、抗うこともできぬ厄災。

 

 

 幕引きを告げる赤黒の彗星が、地に堕ちる。

 

 

 「ディザスターエンド!」

 

 眼も口も耳も焼かれた哀れなる肉塊(オラージュ)は、眼前に迫る終わりを感じることはできない。

 見えず、聞こえず、感じず。自我すらも漠然と漂っていた意識は、突如として訪れた終幕を前に、声を発することもなくただ呑まれていった。

 

 そうして全てが終わった後に残ったのは、ひたすらに広がった破壊痕のみ。塵の一つも残さないという宣言の通り、そのクレーターの中心には元から何もなかったかのような虚無のみがあった。

 冥竜王の奥義の余波は凄まじく、黒の核晶の砲身となるべくして造られた外壁全体へと亀裂が伝播してゆく。中央で施設を支えていた中央塔は真中から折れ、無惨な姿を晒していた。

 

 「興が乗りすぎたか。ここはもう長くは持たんな……

 ――さらばだ、オラージュよ。その強き執念だけは、ボリクスの血脈にふさわしいものであったぞ」

 

 竜王の威厳を示し、勝鬨を上げるため。

 ヴェルザーは羽ばたき、大穴から外へと脱出していく。

 程なくして施設の崩壊が始まる。瓦礫の山に突き刺さる半ばから折れた中央塔が、地中に埋もれたオラージュの墓標となっていた。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 「第4軍3番隊隊長よ――100の首級を挙げたその戦果に報いて、貴様を1番隊隊長に昇格とする」

 

 「はっ!ありがたき幸せでございます……!」

 

 戦が終わり、束の間の平穏が訪れる。現在ヴェルザーの城では、幹部級を集め論功行賞の場が開かれている。冥竜王軍きってのつわもの達が、竜王の間に軒並みを揃え、並んでいた。

 

 「では最後に――第4軍団長代行、アトリアよ」

 

 「ここに」

 

 「単身で敵の本拠に乗り込み、黒の核晶の起爆を阻止し、敵の首魁に痛打を与えたその力と働き――賞賛に値する。その褒章として、禁書庫への立ち入り、及びその蔵書の閲覧を許可する――精々その力を磨き、励むがよい」

 

 告げられた褒美に竜王の間がざわめく。魔界において最も価値あるものは金でも地位でもない、力だ。

 ましてやこれまで誰も見ることを許されなかった、雷竜の秘儀が収められた書庫への立ち入り許可。

 その異例の報酬が、アトリアの示した力の大きさを表していた。

 

 「ありがたく」

 

 そういって頭を下げるアトリアの目は、いつもどおりの空虚なもの。しかしその仏頂面は、何かを懸念するように少し眉をひそめていた。

 

 「――以上だ。今回ばかりではなく、その力を持って働きを示したならば、オレは分け隔てなく栄光を与えると約束しよう。――ただし、その逆もな。ゆめゆめそれを忘れぬことだ……下がってよいぞ」

 

 その言葉を受け、統率の取れた動きで次々と竜王の間を出て行く幹部たち。少しの時間が経ち、やがてそこに残ったのは、冥竜王とアトリア、そしてその横に小さく控える少女のみ。その顔に少しの怯えが伺えるのは、自らの処遇が不定なためか。

 先程とはうって変わった静寂のあと、ヴェルザーが口を開いた。

 

 「それで……被害のほうはどうなっている?」

 

 「前線に立たされた第4軍の死者が1600ほどで……最初の混乱でやられた第一軍の損耗が500ほど。合わせておおよそ2100の戦死者が出ました。やられた部隊長以上の者は蘇生液で回復中です」

 

 その報告を聞き、フンと鼻を鳴らすヴェルザー。不服ではあるが仕方ないといった風情。

 

 「まだ地上侵攻を控えているというのに不甲斐ない――まだ何か用か?」

 

 「は……彼女の処遇について伺いたく……」

 

 意を決し話を切り出すアトリア。先程の論功行賞の中では、その隣にいる少女の処遇については一切語られていなかった。

 

 「クク……そうだな、もし殺せといったらどうする……?」

 

 僅かに口元を歪ませながら告げられたその言葉に、アトリアは鋭い視線をヴェルザーに向け、こう言い放った。

 

 「――無論、逆らってでも止めさせて頂きます」

 

 「絶対に勝てないとわかっていてもか?」

 

 「当然」

 

 ヴェルザーが笑う。その圧倒的な覇気を叩きつけられて尚、オラージュに立ち向かった時と同じ光を宿す瞳を見て。

 しかし一瞬で張り詰められた緊張と沈黙は、冥竜王の高笑いで霧散した。

 

 「フ……フハハハハ!何がお前をそこまで突き動かすかわからんが……その面構えのほうが俄然オレの好みだぞ、アトリアよ」

  

 「……試したということですか」

 

 「いかにも。それで、その女についてだが……好きにすればよいではないか」

 

 予想外の言葉をかけられ、かすかに瞠目するアトリア。

 

 「それは……」

 

 「お前が自分の力で勝ち取ったものだろうが。そもそもオレが下賜するまでもなく、全てお前が決めることだ――それが力を持つ者にのみ許される振る舞いよ、己がしたいようにすればよい」

 

「……ありがとうございます――行くぞ」

 

 アトリアが少女の手を引き退室していく。その背中を見つつ、ようやく戦の終わりを実感するヴェルザーは、宿敵との因縁の終わりを感じ、暫し物思いに耽っていた――

 

 

 

 冥竜王の居城の廊下に、コツリコツリと足音のみが響く。

 手を繋ぎ、横並びに二人で歩くアトリアと少女。その二人の間に流れていた沈黙を破ったのは、少女の口からぽつりと呟かれた言葉。

 

 「…………ありがとう……」

 

 「気にするな……やりたいようにやったまでだ」

 

 「私だって、言いたいから言っただけよ」

 

 それを聞き、いつもの無表情が崩れ、ふっと小さく微笑むアトリア。そのあとに、そういえばという様子で、一つ問いを投げかけた。

 

 「ふっ、そうか……ところで、名を聞いていなかったな」

 

 「…………ないの」

 

 「なに?」

 

 「名前さえ付けられなかったの……!あいつ(オラージュ)にまともな扱いをしてもらったことなんて一度もないわ」

 

 過去に受けた仕打ちを思い出してか、少女の顔が曇る。それを払拭するように、アトリアは少女の頭に手を乗せ、優しく撫でた。

 

 「名前……か。もしよければ――オレに決めさせてくれないか」

 

 「…………うん」

 

 少しの逡巡のあと、少女は頷いた。一度は殺されかけたとはいえ、あの地獄から命を賭して救ってくれた男なら――といった様子。

 アトリアも、問いかける形は取ったものの、付ける名は既に頭の中に浮かんでいた。

 しかしそれは、偶々思いついたというものではない。思い出したというべきか、封じられた記憶から浮かび上がってきた形。

 その名は地上の空を彩る星のひとつ――

 

 

 「スピカ――今日からお前の名はスピカだ」

 

 

 




バーンの技名が頭にカラミティつける形なんで、ヴェルザーはディザスターにしました。

あと原作で戦ってないキャラしか今出てないんで、強さの目安がいまいち分かりにくいかなと思ったのでここに書いておきます。

変身前オラージュは本気だしたアルビナスと同程度くらいですかね。高速移動しながら上級呪文ぶっぱしてくるので。

弱体化ヴェルザーは能力的には昇格ヒムと同じくらいですが、最大HPだけは弱体化されてないんで馬鹿みたいにタフです。しかも死んでも生き返るし。

変身オラージュはまあ、最終盤のヒュンケルを万全の状態にしたのと同じくらいです。竜魔人バランなら問題なく勝てるくらい。ドルオーラで消し飛びます。

でも戦いには相性ってものがあるんで一概には言えないです。例えば自分の中では多分ヒュンケルはキルバーンには負けると思ってるんですが(搦め手に弱いので)、キルバーンはオラージュには絶対勝てません。広範囲でのバ火力をかまさないとほぼ際限なく再生するので。でもヒュンケルはグランドクルスを決めれば多分勝てます。

ちなみに全力ヴェルザーは杖あり老バーンと同程度ですかね。普通の竜の騎士より上の領域までくると相性関係なくパワーですべてが決まります。

今回でオラージュ編終わりです。次回から過去編少し挟んで次章行きます。
次のお話は竜の騎士 バラン襲来編です。お楽しみに 
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