あるゲイクイーンの話 withスプラトゥーン2   作:カトラス@リトルジャックP

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その演奏を好んだゲイクイーンと、彼に拾われた演奏家

 

…負け犬とは僕の事だろう…

キスミーショットガンが解散してもう三年も経つのか…

 

キスミーショットガンは僕の全てだった、五匹でハイカラシティに出て来た僕らはスターを夢見て居たはずだった。

 

 

しかし、今は名前も言いたくない僕の仲間達は…

 

ある者は都会の刺激的な生活に染まり音楽を辞め、

ある者は女を追い掛けてある日言葉もなく蒸発、

ある者は相次ぐメンバーの離脱と都会での目の出ない暮らしに折れて故郷に帰った、

ある者は犯罪に手を染めて懲役刑を食らってしまった、

 

そして残された僕は毎日毎日…ただ生きていた、

どこかで夢を見続けてサックスを吹き続けている。

 

もう無理なのは分かってる…それでも大して上手くもないサックスだけが僕が死に損ねて生きてる理由だ。

 

故郷にも帰れず、都会で成功もしない、敢えて言うなら

 

…負け犬だ。

 

 

そしてサックスを吹いていた時だ、あの子に出会ったのは…

 

金もない、成功の匂いもしない、くだらないストリートミュージシャンでしか無い僕に、

彼は「明日はどこに行くんだい?」と聞いてきた。

 

『明日も多分ここに居る』と答えたら、

あの子は微笑んで結構な額の金を置いて去っていった。

 

 

その翌日、彼は今度は水タバコを持って現れた、そのまま座って二時間聴き続けた後に誘ってきた。

 

…彼がボーイだったのは驚いたが、今更どうでも良い事だった。

 

彼はとても魅力的だと思うし、僕にとっては僕の演奏を評価してるだけで凄い救いだった。

 

 

 

曰く「とても似た雰囲気を感じたんだ」そうな、まあ寂しいヤツだと思われたのだろうさ…

 

そうして僕に良く演奏を求めてくる一人のファンであり一人のセフレを僕は得たんだ。

 

 

それからしばらくして…夢破れたまま日々を生きている僕は新しい賑やかしを得て、かわいい彼の親衛隊の演奏家としての地位を掴んでいる…

 

奇妙なものだが物凄く狭い範囲で”夢が叶った”のかもしれない。

 

ノリの悪さや彼に対しての愛着が周り程表層的じゃない事が他の親衛隊には冷めている様に思われているらしいが僕なりには感謝しているんだ。

 

 

それにおそらく実態としては僕みたいな静かで主張のない男が彼の好みなのだろう。

 

演奏して、セッ○スして、困る度にお金や食品を恵んでもらい、別れる、そんな繰り返し。

 

僕と彼は”利害で繋がっている”…僕自身、活動の為にパトロンに体を明け渡して居る感覚はある。

 

 

けれど、僕は彼が好きだ…僕なりには。

 

―ある演奏家の独白

 

 

―――

 

 

==サウドサイド==

 

~~~♪

 

今日もそれなりの具合だ、全く立ち止まる者は居ないが。

 

やはり都会ではジャズは受けないのかもしれないな…

 

 

『よう、サウド』

 

ああ、カトラス親衛隊仲間のジンタだ、彼とはとても気が合う。

 

~~~♪

 

彼は僕の隣に座って居る、まあ別に良いか。

 

 

==ジンタサイド==

 

相変わらずこいつの演奏は落ち着く。

 

本人に言うと「それでも成功出来なかった」だなんだとグチグチ言い出すのが難点だが…

 

オレはやっぱ思う、ラッちゃんが本当に必要としてるのはこう言う癒やしなんだと思うと共にその方針を親衛隊では徹底周知していくべきだと考えてる。

 

~~~♪

 

こいつを一言で言うなら自虐系根暗野郎だ、口を開けば最低限のコミュニケーションと夢破れた事しか言わない。

 

 

まあそれは良いや、オレにとってはラッちゃんを喜ばせる演奏が出来るだけでこいつが羨ましくて仕方ねえからな~。

 

そして演奏が終わってヤツが声を掛けてきた。

 

『…何か用か?ジンタ君』

 

『ああ…昨日なんだが、ラッちゃんの情緒が不安定でな…』

 

するとこいつは若干動揺した、まあ自己評価が低いんだよ。

 

『いいや違う!お前の所為じゃない…昔の事思い出したんだそうだ』

 

そう聞いて、何となくオレが来た理由を察した様に聞いて来た。

 

『じゃあ、僕らの姫の為に演奏したら良いかな?』

 

『おお!頼むぜ名演奏家さん。』

 

オレ達は二人でさっそく向かった。

 

――

 

==ワプスタサイド==

 

今日は相棒の家でゲームをしている。

 

やっぱレトロゲームは良いな、もちろん最新のモノも良いがね!

 

何でもジンタの野郎からヤツの調子が不安定だと聞いたからな、今はヤツと二人で宇宙農業ゲーをやってる。

 

 

ピンポーン!

 

『誰か来たぞ』

 

『ジンタ達だって、入って良いよー!』

 

相棒が玄関に向かって叫んだ、すると入ってくる音がする…念の為にスシコラに手を伸ばす。

 

 

入ってきたのはジンタとサックス奏者のボーイ、良く相棒の集まりで演奏を聴くが口を利いた事はないな。

 

『ワプスタさん!居たんですか』

 

『おう、念の為にな』

 

俺はジンタと互いにハイタッチ、こいつは俺にとっても舎弟みたいなものだ。

強くなろうと努力するヤツは見てて気持ちがいい!

 

『どうも、サウドです』

 

サックス奏者はそう名乗って頭を下げてくる、このボーイは演奏してないといつも以上に陰鬱なオーラが漂っている。

 

『おう、よろしくな』

 

『あんまりいじめないでくれよ親友、彼はシャイだから』

 

相棒がそうフォローを入れてくる、まあ気に障る事が無ければ俺もいびったりはしない、

 

”気に入らなければぶん殴る”が。

 

 

==カトラスサイド==

 

とりあえず全員座った、飲み物も行き渡った。

 

そして人数が増えたのでゲームをプロレスゲームに変更した、自分でレスラー作れるヤツだ。

 

私の作った柔術家と親友のルチャドールが激闘を繰り広げている、作ったレスラーがCPU操作で試合するのを眺めるのがこのゲームの醍醐味だ。

 

 

レスラーの動きに一喜一憂しつつ、ジンタ達が新しいレスラーを作り、昼も過ぎて四時頃。

 

 

『ワプスタ、今日はどうする?』

 

『このままミリオンサーモンズやってちゃ駄目か?』

 

ついには私のセフレへのサービスをやめてアクションゲームの一人用モードを始めた親友はそう返した、コントローラーを手放す気もない。

 

『だそうだ、今日はエッチは無しだね、帰りたければ帰って良いよ…彼はコントローラーもテレビも譲る気はないだろうし』

 

私は二人にそう告げた、この二人は気が知れてるから安心だ。

 

『いやぁ、まあラッちゃんがかわいいからいくら居ても良いんすけどね!』

 

『しかし用事もないのに長居しても迷惑だろう、僕は夜もストリートに出ないと…』

 

二人は程々に帰り支度を始めた、まあ埋め合わせはいつでも出来るさ。

 

『ワプスタ、二人が帰るって』

 

親友はゲームをポーズして荷物を漁り出す。

 

『おいサウド、ほらよチップだ』

 

そう言ってサウドに300Gを差し出す親友、サウドは上官の前の軍人の様に恐縮しながら受け取った。

 

『ありがとうございます、気に入って貰えた様で何よりです』

 

そのまま足早にサウド達は玄関に向かった、私だけ付いて行って見送る。

 

『また来てね…心配させてごめんね』

 

そう言って二人に手を振ると二人は嬉しそうに返した。

 

『はい!また来ます!』

 

『じゃあまた』

 

二人が去っていく、やはり心配させてしまったのかな。

 

 

==ジンタサイド==

 

何と言うべきか…邪魔して悪かったなぁ…

 

さっさと退散して正解だった。

 

『ジンタ君はワプスタさんに嫉妬しないんだね』

 

唐突にサウドがそう聞いて来た。

 

『え?そりゃあな、オレ達よりワプスタさんの方がラッちゃんを知ってるんだ、ラッちゃんの気持ちや価値観もワプスタさんの方が良く分かるはずだ』

 

『ふぅん、もっと独占欲があるのかと思ってた』

 

『ハハハッ』

 

ハハハッ笑っちまった、

そりゃ少しも無いとは言わないが…な。

 

『もしワプスタさんにまで嫉妬するぐらいだったら今の奔放さを許す訳無いだろっ、ハハハッ』

 

ハハッ、当たり前の事を言ってるのが一番面白い!

 

『…なんで笑うんだ?』

 

あまりに真面目なトーンに思わず振り返る、なんとこいつには本当に分からないらしい。

だからオレは平静を取り戻し、親衛隊幹部として答える事にした。

 

『サウド、オレはな。ラッちゃんに幸せで居て欲しいんだ…オレだけのモノになったってラッちゃんが幸せでなきゃオレには何の価値もない、分かるか?』

 

『…まあ』

 

『そんでオレだって頑張ってラッちゃんを分かろうとしてるが…あの子はオレ一人の力じゃ幸せになれねえ、たくさんの男を取っ替え引っ替えしてなきゃ幸せで居られないんだよ』

 

『だろうね』

 

『オレだって悩んでる、時折慰め切れなくて無力を痛感してる、けどオレの結論はこうだ!ワプスタさんを中心に親衛隊を組織してラッちゃんを不幸にするヤツを徹底的に排除して、オレ達が可能な限り力の限りラッちゃんを幸せにするんだ!その為に強くなるんだ!!』

 

『…その親衛隊の一角に演奏家の僕が居るのか』

 

…いかん、ちょっと熱くなりすぎた、周りがみんな見てるしサウドは軽く引いてるな。

 

 

==サウドサイド==

 

…親衛隊…か。

 

そういう熱意をあの頃の僕らは何故持てなかったんだろう……

 

『素敵だね…僕はジンタ君のそういう所は好きだよ』

 

それは本音だ、心からの。

 

『まあみんなの思想までは分からないけどな、ラッちゃんに危害を加える者とラッちゃんの気分を損ねる者は絶対的に許さないって共通認識は共有してるな!』

 

『まるでアイドルだね』

 

『おう、アイドルの親衛隊をモチーフに組織化してみたんだ』

 

彼は無邪気に格好つける、なんて誇り高い姿だろう。

 

『まあ、僕もラッちゃんのお情けで拾われてる音楽家だし…君の思想に概ね賛成だ』

 

『おう!周りからは疑問に思われてるらしいが、オレは信じてるぜ、サウド』

 

僕達は肘をぶつけ合って誓い合う。

 

 

『じゃあストリートに行くよ、じゃあね』

 

『じゃあな、サウド』

 

…そうしていつもの場所に行き、

 

~~~♪

 

サックスを奏でる、未だに答えは見えない。

 

僕は果たして音楽を諦めたのか?諦めきれないのか?

 

 

一つ確かなのは、中途半端に生きている僕を拾ってくれた。

かわいくて美しい少年の為に演奏する事で、あるいは多くの客と二人のVIPを楽しませる栄誉ある演奏家になれたのかもしれないって事。

 

負け犬なのは分かっている、だが…

 

【負け犬かい?こうして君を絶賛する私が居てもそう思うのかい?】

 

あの悪戯な笑顔を見た僕は、確かに今日までサックスを続けた意義があったと思う。

 

 

―――

 

その頃、カトラス宅

 

『…ねえワプスタ』

 

『なんだ?』

 

ワプスタは見向きもせずゲームをしている。

 

『やっぱり300Gは少ないよ、あの子は演奏と大して強くもないナワバリだけで生計を立ててるんだよ?』

 

そう言いながらカトラスはのんびりとストレートティーのロングペットボトルを直飲みしている。

 

『そうか?バイトを紹介してやれば良かったな』

 

ワプスタのその一言にカトラスは想像を巡らせ、

 

『…あの子は絶対足を引っ張ると思うな…』

 

と言う結論に達した。

 

『そんな弱いのか』

 

とか言いながらもゲームをし続けている、ゲーム内では激しいシャケの攻勢がまさに起きている。

 

『スパイガジェットの扱い自体は上手いんだけど…戦闘センスが無いよね』

 

するとやっとポーズを押したワプスタは力こぶを作って言う。

 

『今度鍛えてやるか!』

 

『あんまりいじめないでね』

 

カトラスもそれににこやかに返した。

 

 

しばし沈黙が在り。

 

『なあ、カトラス』

 

『なに?』

 

カトラスからすると「なんでポーズ解除しないの?」ぐらいのノリで聞き返す。

 

『お前は何を基準に愛人を選んでるんだ?今日も思ったが当たりも外れも含めてどうも一貫性を感じない』

 

珍しくそんな事を聞かれたカトラスは少し思案し、

 

『…私に対して”だけ”でも優しい子、かな』

 

と、少し疑問符を浮かべて答えた。

 

『…なら良いんだ』

 

ワプスタは何故か嬉しそうにそう返した。

 

『……何が?』

 

『…いや、とにかく良いんだよ』

 

それだけ言い切ると、彼はポーズ解除した。

ゲーム音がまた部屋に響き、カトラスは話をやめて隣に寝っ転がった。

 

 

(いいんだよ。

お前に、【お前さん自身が”幸せになろう”】って意思があるならそれだけで良いんだよ、本当は俺だってそこの一貫性は感じてんだ、

 

 

あの頃から変わらず、どうかずっと”そう思い続けてくれ”…)

 

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