結局、セシリアの誤解を解けないまま夕食の時間になってしまった。
何度か話しかけるタイミングはあったのだが、セシリアが俺を見つけると即座に逃げられてしまいどうしようもできなかったのだ。
そして何もできないままこうして夕食の時間、席は自由に選んでいいとの事なので適当に一番角の席を取る。
(今は誰とも話したくないし、それに)
ちらりとセシリアを見れば彼女は俺とは反対側のテーブル席の方に行ったようだ。
これなら、間違っても顔を合わせる事はないだろ、そう考えていると誰かが声をかけてきた。
「ねぇ、隣いいかな?」
「シャルか、ああ、いいぞ」
「えへへ、お邪魔します」
そう言ってシャルは俺の隣に座る、程なくして開始の挨拶が行われ、皆思うように食事を楽しみ始めた。
「これが日本の旅館料理なんだね!何だかキラキラしてて凄いよね!」
「ああ、そうだな」
シャルもこう言う所で料理を食うのは初めてなんだろう、目の前の様々な彩りや飾り付けされた料理に興奮気味だ。
俺もそれに適当に相槌を打ちながら料理を食べる、旨い、と思う。
嫌、旨いのだが、なんだろうな、学園で食べていた昼飯より何故か味気なく感じる。
「ねえ光希、どうしたの?顔色悪いよ?」
「え?そ、そんな事ないぞ?」
「そんな事あるよ、もし体調悪いなら無理しない方がいいって」
「…それも、そうだな」
余りにもボーっと食べているせいかシャルに心配されてしまった、体調が悪いのか、確かに胸のあたりが先ほどからずっとズキズキするのは確かだ、束さんにやられている時でさえこんな事はなかったのに。
「もし体調が悪いんだったら、僕から先生に言っておくから部屋で休んでなよ、ね?」
「…そうするよ、悪いなシャル、もし欲しかった俺の料理食ってくれていいから」
そう言って、俺は一足先に席を立ち大部屋を後にする、他の女子生徒の達がどうしたのだ?という騒がしい声が聞こえてきたが、今はそれすら聞きたくなかった。
「光希さん…」
その中に一人の少女の声があるとも知らずに。
「どうしたんだろう、俺」
結局、部屋に戻ったのはいいが、ゲームをする気にも、あれだけ見ていたガンダムを見る気にもなれず、何をするわけでもなく部屋で転がっていた。
「風呂には入ったしな、消灯にはまだ全然早いけど、先に寝ようかな…」
そう考えて布団の準備を始める、といっても適当に広げるだけなのだが。
そうして時間を潰していると、襖をノックする音がした。
「誰だ?」
「光希、僕だよ、入ってもいいかな?」
「その声は、シャルか、いいぞ」
そう言うとお邪魔します、といいながらシャルが部屋へと入ってきた。
「どうした?何か用か?」
「用って程じゃないんだけど、聞きたい事があってさ」
「…セシリアとの事?」
「わかってるんだ、なら聞くね、セシリアと何かあったの?ここに来る前にセシリアの所にも行ったんだけど、何も教えてくれなかったし」
「それは…あいつに対しての誤解が解けてないからだよ…」
「誤解?それはセシリアが光希に対して何か誤解してるって事?」
「そういう事になる」
多分、そういう事になる、嫌、どうなんだろうか、半分は誤解だが半分は間違ってはいない、だからこそ俺もセシリアになんて言えばいいのかわからなくなっている。
「待ってよ、そもそもセシリアは何を誤解してるの?」
「それは、俺とシャルが付き合ってるっていう事だよ」
「…へ?え!?」
そう言うとシャルの顔は真っ赤になり慌てふためき、その場で硬直してしまう。
「お、おいシャル?大丈夫か?」
「え!?うん!大丈夫、大丈夫、そっか、セシリアが…」
心配になり声を掛けると今度は体を丸め、何かを考え出す体制になってしまった、何かブツブツと言っているが流石に声が小さい上に体を丸めているため良く聞こえない。
そして、しばらく待っているとシャルが顔を上げ真剣な声で尋ねてくる。
「ねえ光希、何処でそれを言われたの?」
「え、今日の夕方、俺が一人で見回ってる時に…」
こうして、誤解される経緯となった経緯をシャルに細かく話した、最初は親身に聞いてくれていたシャルだったが、その内どんどんと顔を強張らせていった。
そして。
「これで最後の質問、光希は何で僕たちを避けてたの?」
「それは」
「言い訳なんていらない、ちゃんと答えて」
「…お前たちから逃げたかったから、お前たちの好意を理解していながら逃げてたんだ」
「っ!」
そこまで言うと、シャルは激昂して俺の頬を全力で叩いてくる、叩かれた頬を抑えながらシャルを見ると、彼女は大粒の涙を流しながら泣いていた。
「どうして、叩いたと思う…?」
「…俺がお前たちから逃げてたから」
「違う!」
彼女は俺の考えを強く否定する。
「そんな事、僕はどうだっていいんだよ、君の気持だってわかるし、それで怖くなったのだってわかる、僕だって最初この学園に転入してきた時、失敗したら死んじゃうんだって、ずっと怖かった」
「じゃあ」
「けど!僕が怒ってるのはそこじゃない、どうして!どうして僕やセシリアを信用してくれないの!君が嫌なら僕は家柄だって捨てられる!セシリアだって!君と一緒にいるために色々としてくれる!」
「それじゃあ、俺がお前たちの重しにしかならないだろ!だったら俺よりも他に家柄とか、もっといい奴がいるだろ!」
「君がいいんだ!君じゃなきゃ駄目なんだよ!」
とうとうシャルは俺の胸倉を掴んで押し倒し、俺の腰の上に馬乗りの形になる、けれどその涙は止まる気配を見せない。
「僕は、君が、神峰光希が好きなんだ!」
「…」
徐々に俺を掴んでいる腕の力が弱まっていく、それに比例してシャルの涙はより一層あふれ出してくる。
「楽しそうに笑ってる君が!一夏達と一緒居る君が!少しけだるげに他の子に勉強を教えてる君が!僕を守ってくれる言ってくれた君が!」
シャルは止まらない、涙声で、もう声も枯れかけているのに、止まらない。
「何より、セシリアと楽しそうに笑ってる君が!僕は好きなんだ!今の君は僕の好きな神峰光希じゃない!」
「シャル…」
そこまで言うとシャルは俺から手を放して、乱暴に自分の目を拭う、そして、覚悟を決めた顔をする。
それは、まるで負けだと分かって進むことを辞めない、そんな顔だった。
「ねえ、僕は君が好きだ、神峰光希が世界で一番好きだ、けど、光希は違うんでしょ?」
そう、先程までとは違う穏やかな顔で問いかけてくる、それは彼女からの一世一代の告白だった。
「聞かせて、君の答えを」
「俺は…」
俺は、シャルの事をどう思ってるか、いい友人だ、話も合う、趣味も合う、可愛くて、料理も出来て、少し甘えん坊で、誰よりも周りを見ていて、困ってる人をほっとけなくて、そんな奴だ。
けど、
「ごめん、俺はお前の気持ちに答えられない」
「…それは、僕の家のせい?」
「違う」
そんな言い訳はもうしない、自分の心にも噓をつかない、それに何より。
「そんな言い訳のために、二人から、シャルとセシリアから逃げていること自体がとんでもなく失礼だって今更気づいた」
「なら、どうして?僕じゃダメなの?」
「…シャルはいい奴だ、ガンダムで盛り上がれる数少ない女の子で、しかもこんなに素直で可愛くて、俺には勿体ないくらいだ、けど」
「けど?」
「俺は、セシリアが、あの面倒くさくて、お節介で、糞真面目で、嫉妬深くて、素直じゃなくて、料理も下手糞で、未だにザクとグフの違いも分からなくて、自分の事に一生懸命な、セシリア・オルコットが好きなんだ」
「…そっか、やっぱりね」
そう言うとシャルは、さっきまでの穏やかな顔から少しだけ泣きそうな顔になる。
「シャル…」
「ごめん、やっぱり、分かってても辛いんだ、僕じゃ駄目なんだって」
「ごめん」
「謝らないでよ」
「でも、俺は、二人を、シャルを避けてたんだから」
「本当に悪いと思ってる…?」
「勿論」
「なら」
そう言うとシャルは俺に完全に体を預けて、抱き着いてくる。
小さな泣き声が聞こえる。
「少しだけ、少しだけでいいから、こうさせて」
「…」
それを俺は、ただ、黙って受け入れた。
「ごめんね、こんな時間まで」
「いいよ、それより落ち着いたか?」
「おかげさまでね」
消灯までもう少し、結局、こんな時間まで彼に甘えてしまった、でも彼はそれに対して何も文句は言ってこなかった。
やっぱり、君は優しいよ。
「それじゃ、僕も部屋に戻るから、お休み光希、セシリアと上手くいくといいね」
「ああ、ありがとう、お休みシャル」
「うん…」
そう言って彼の部屋から出る、最初はゆっくり歩いていたけど、離れていくにつれて少しづつ歩幅が大きくなる。
「やっぱり、悔しいな…」
彼は僕じゃなくて、セシリアを選んだ、分かっていた事だ、だって普段の生活から彼がセシリアに向ける笑顔と、僕に向ける笑顔では全く違っていたんだから…当人達は気づいていなかったけれど。
「そんな所もきっとお似合い何だろうな」
そんな事を呟きながら自分の部屋へと向かう、向かう途中に顔洗っていかないとな、こんな顔じゃ色々と心配をかけてしまう。
そう思って自分の目元を触ると、また、少し濡れていた。
「…光希め、上手く行かなかったら許さないんだからね」
そこには、枯れたと思った涙が、また新しく流れていた。
主人公うううう!!??
(作`Д´)=O)主´Д`)オラァァァァァァァァァァァ!!!!