朝だ、セシリアとの関係を直すため、今日から本気で頑張っていかなければならない、そんな事を考えながら旅館の廊下を歩く、もうすぐ朝食の時間のため目指すは大部屋だ。
「それにしても、今のセシリアとどうやって話そう、話しかけようとしても逃げられそうだし」
独り言を呟きながら廊下を歩いてると、庭に何かの耳?が生えている、しかもご丁寧に看板もセットで置かれている、昨日ここを通った時にこんな物はなかったはずだ。
「引っ張ってください…無視したら殴られそうだしな、っとと!?」
そう考えて思いっきりその耳を引っ張ると想像よりあっさりとその耳が抜ける、何かあるわけではなく、ただ鉄の棒が引っ付いているだけだった。
「何だこれ?って何の音だ?空からしてるような…!?」
その音が遥か上空からしている音だと理解し、空を見上げるとそこには人参型の何かがこの旅館に向かって降ってきているのが見えた。
そして程なくしてとてつもない衝突音と共に俺の目の前に着陸する。
「な、何の音ですの!?っ!光希さん!」
「セシリア!?」
その音を聞いてセシリアが来てしまった、お互いに顔を合わせるが気まずくて喋ることができない。
気まずい沈黙、間に大きな人参、なんだこの絵面、そう思って何か話題を探してセシリアを見るとある事に気づいた。
「セシリア、ネックレス外したのか…」
「え、ええ、流石にもう付けているわけにはいきませんから」
そういうと気まずそうに笑うセシリア、彼女のそんな顔を見ると気が狂いそうになる、自分で蒔いた種だ、セシリアはこれの何倍もの苦痛を受けているのだ。
耐えろ、俺、それでちゃんと説明するんだ。
「実はセシリア、この前の事なんだが」
「あーっと!ラブコメはそこまでだ!」
俺が意を決して話そうとした瞬間、降ってきた人参が良く知っている声で話し出した。
よく聞いたことのある声、余りにも普通の常識から外れた代物、そしてこんな事が出来る人物に俺は一人だけ心当たりがあった。
程なくしてその人参は煙を上げながら真っ二つに割れ、中から良く知る人物が出てきて俺に笑いかけてくる。
「引っかかったねコー君!ハロハロ~」
やはり、そこから出てきたのは天災篠ノ之束さんだった、束さんはいつも通りのハイテンションのままに俺に話しかけてくる。
「もう少し空気を読んでください、束さん」
「え~反応が薄いよコー君、まあいいや、それよりコー君、箒ちゃんは何処かな?」
「知らないです大部屋じゃないですか?」
「まあ、私の開発したこの箒ちゃん探知機で直ぐ見つかるから大丈夫!じゃあねコー君!また後でね~」
そう言って彼女何処かへ行ってしまった、こちらの要件など一切無視で自分の意見だけ押し付けていく。
まさしく
束さんの姿が見えなくなるのを確認して大部屋に向かおうとすると、セシリアが怒った声で声をかけてきた。
「光希さん…?」
「ど、どうしたセシリア」
「誰ですの今の方?とても親しげに会話していらっしゃいましたが、貴方まさかシャルロットがいながら他の方とも」
そう言いながら彼女は俺に詰め寄ってくる、余りの勢いに慌てながらも何とか言葉を繋げる。
「ちょっとまて、今のは篠ノ之束さん!箒のお姉さんで昔お世話になっただけ!セシリアが想像してる関係じゃない!」
「本当ですの?」
「本当本当!束さんとは何もない、何もないから」
「くすん、コー君酷い、あんなに愛し合った仲なのに」
「束さん!?」
セシリアに弁解をしている最中、気づけば俺の後ろに泣いている束さんが立っていた、いやどう見ても嘘泣きだ、でもセシリア本人からすればそんな事は関係ない、セシリアはゴミを見るような目でこちらを見ている。
「最低です、見損ないましたわ」
「ちょっと待ってセシリア!本当に誤解だから!束さんも余計な事しないでください!」
「えー楽しそうだったからつい!」
「楽しそうで弟子の関係を拗らせないで!?あ、セシリア!本当に待って!」
こうして今日という日が慌ただしく始まっていった。
そして朝食を食べて少しした後、専用機持ち達に召集がかかった、朝から散々な目にあったので出来れば穏便な物がいいな、因みにセシリアにはちゃんと束さんの件は誤解だと伝わった、シャルとの件を話そうとしたら露骨に逃げられたので話せていないので、根本的な解決にはなっていないのだが。
召集場所は、他の生徒達とはかなり離れた場所、俺がお前たち最後らしく他の専用機持ち達は全員揃っていた。
それを確認して織斑先生が話始める。
「良し、これで専用機持ちは全員揃ったな」
「ちょっと待ってください、箒は専用機を持っていません」
しかしこの場には一人だけ専用機を持っていない箒もいた、それに関して織斑先生が説明しようとすると。
「やっほおおおおおおおおお」
何処からともなくまたあの天災兎がやってきた、何で崖を降りてきてるんですか…しかも織斑先生に抱き着こうとしてアイアンクローされたり、箒にセクハラしようとしてシバかれたり、いつも通りだな。
「皆酷いと思わない?いっくん、コー君」
「は、はあ…」
「そっすね」
何かシバかれた事に同情を求められたけど当然だと思うので特に思う事もない。
と言っても他のメンバー、特に束さんを初めて見るメンバーにはやはり驚きだったり、感じる部分があるようで、全員の目は何処か有名人を見る目であった。
しかし、束さんはそんな物をいつも通り気にしていなくて、自分勝手に話を進める。
「さあさあ!大空をご覧あれ!」
そう言いながら束さんが指さす先には、大型のモノリス結晶2つ降ってきていた。
それは俺たちの目の前に着陸すると束さんの手によりその姿を現す。
一つは赤い機体、そしてもう一つは俺のマスラオに酷似した、黒と白の機体であった。
「じゃじゃーん!これぞ箒ちゃん専用機こと紅椿!全スペックが現行ISを上回る束さんお手製だよ!なんて言ったて紅椿は天災束さんが作った第四世代型ISなんだよ」
「第四世代、各国でまだ、第三世代型の試験機ができた段階ですのよ…」
余りのぶっ飛び具合、そして余りにも早い第四世代の登場に流石の専用機持ち達も動揺を隠せずにいた。
しかしその中で俺だけは、特に気にせずにいた、目線も一人だけ紅椿ではなく、もう一つのISに向いていた。
「お!?コー君はやっぱり、こっちが気になる!?」
「まあ、そうですよ、これあれですよね」
「うんうん!コー君の予想通り、これぞ!コー君専用機第三世代型IS!スサノオ!」
「第四世代ではないんですね」
「え~だってスサノオって第四世代って感じしないんだもん、それに~愛しい箒ちゃんの頼みがあったからコー君のは手を抜いちゃった!ごめんね☆」
「別にいいですよ、いつもの事です」
束さんは楽しそうに俺の目の前のISの紹介をしてくれる、第四世代ではないが、今の俺のISが第二世代である事を考えてもかなりのパワーアップが見込める、それだけで心が躍りそうだ。
「じゃあ二人ともフィッティングとパーソナライズを始めるよ~」
そういうと二つのISが展開し、搭乗者が乗れる形に変形する。
箒が紅椿に搭乗したのをみて俺も乗ろうとする。
俺がスサノオに触れると突如として電撃が発生し俺に襲い掛かってくる。
「痛ってえ!?何!?電撃!?」
「あれ~?コー君何か忘れてない?スサノオに乗るんだったらあれがないと!」
あれ…、あれかぁ。
「付けなきゃダメですか?」
「ダメダメ、何のためにわざわざ設定したと思ってるの?」
そんな無駄な機能付けなくていいから、って言っても無駄だともうわかっているので、仕方なく例の仮面をつける。
瞬間、自身の意識が無理矢理押し込められるのを感じる。
「プロフェッサー、これでいいのか?」
「うんうん!あ、マスラオの待機携帯そのまま持って入ってね!めんどくさいからそこから引っ張るし!」
「承知した、この機体を、私色に染め上げて欲しい」
二人のフィッティングとパーソナライズ作業は一瞬で終わった、元々先行してデータを入れていたのと、元からあるデータを引っ張ってきたのも関係しているのだろう。しかしそれ以上に、あの篠ノ之束がやっているという要因が大きかった。
「はい、フィッティング終了、二人分でもチョー早いね流石私!そんじゃ試運転も兼ねて飛んでみてよ、二人のイメージ通りに動くはずだよ」
「ええ、それでは試してみます」
「行くぞ!遅れるなよ?」
そう言って二機のISが大空へ飛び出す、全員が驚いたのは、まずその加速と速度だ、現行のISでは考えられない速度が初速から発生していた、
「あれが第三世代!?」
「紅椿も速いけど、光希のISも第三世代にしては速すぎる!」
「よーし、じゃあ次は二人とも切り合ってみよう!箒ちゃんのは右が
「皆まで言うな、先刻承知だ」
「…そっかあ!じゃあ開始!」
「ちょっと!姉さん!?」
束による唐突な試合開始の合図、箒はそんな気は一切なかったのだが、光希はそうはいかない。
気づけば箒の目の前に迫ってきているのだ。
「いざ、尋常に勝負!!」
「くっ!やめろ光希!」
「モビルスーツの性能の差が、勝敗を分かつ絶対条件ではない」
「そういう事では!ああもう!」
そこまで言われて漸く箒も攻撃行動に移る、右手にあった雨月を振るいエネルギー刃を放出、しかしそれを光希のスサノオが両手の強化サーベルを振るい弾き飛ばす。
「サーベルでビームを弾くなど!」
「心眼は鍛えている、このシラヌイとウンリュウに切れぬものなどない!」
そう言いながら光希は2本の柄を連結させることで、双刃の薙刀のような形態へと変化させ再度突撃を仕掛ける、箒もそれに合わせて迎撃体制をとる、しかしその決着は。
「いくぞ!ガンダム!」
「私はガンダムでは!」
「そこまでだ!二人ともテスト稼働は中止だ!戻ってこい!」
織斑先生からの命令で終わってしまった。
結局あの後戦いどころか試験稼働も中止、専用機持ちはそのまま一室に集められた、織斑先生の話によれば
…いやいやいや、おかしいおかしい、ほら一夏も驚いてる、鈴に驚くなって言われてるけど、一介の高校生にやらせる事ではなくない?
「それでは作戦会議を始める、意見のある物は挙手するように」
「はいはーい!これなんで俺達がやるんですかね!?アメリカ軍の開発してたやつなんでしょ?ならそっちに任せて…」
「現状向こうの軍に対処策はなく、近場で最も戦力があるのはここ、国を通しての命令、そして、シルバリオ・ゴスペルはこちらに向かって飛んできている、何か言いたい事は?」
「ないです!俺らが最適解って事ですねわかりました!」
何でそんな都合よくなってんだよ、どうしようもないじゃん。
結局その後、シルバリオ・ゴスペルのスペックの開示をセシリアが要求し全員の前にデータが展開される、超音速飛行、オールレンジ、シールド武装、何この僕の考えた最強のIS、しかもコンタクトは一回切りって…
「一夏、頼んだ」
「え!?俺!?」
「いや、こんなのお前の零落白夜しか無理だって、任せた任せた」
「いやいや、無理だって!」
一夏は最初は嫌がったが、織斑先生に言われた事で結局やる事になった、だが、肝心の一夏を目標まで連れていく手段を考えなければいけない、俺のTRANS-AMだと多分持続時間が持たないし…
「ちょっと待った~その作戦はちょっと待った何だよ~」
「また出た」
「どこから出てんすか束さん」
俺の真上、屋根裏から蓋を開けて束さんが顔を出してきた、どうやら紅椿を使えとの事らしい。
「それにね、スサノオも連れて行った方がいいと思うんだ!」
え?俺も?
「スサノオを?だがどうやって連れて行くんだ?」
織斑先生は当然の疑問を束さんにぶつける
「それは、ほら、そこの君!」
そういうと束さんはセシリアを指さした。
「わ、私ですか?」
「そうそう、きみきみ!君のISって確かBT兵器をスラスターにしたパッケージがあるよね??それでコー君を連れてってほしいんだ!」
「で、でも私のISはそこまでの速度は…それに量子変換もまだ…」
「大丈夫!束さんが見てあげるから!ほらほら行くよ~」
「ち、ちょっと、篠ノ之博士!?」
そういって束さんは無理矢理セシリアを連れて部屋から出ていってしまった。
「大丈夫なの?あれ?」
「…多分」
俺はセシリアの無事を祈る事しか出来なかった。
その後すぐに、箒の紅椿とセシリアの追加パッケージがうまく稼働するかの調整をするため近くの森の湖にきていた。
この場にいるのは作戦に参加する俺達と束さんと織斑先生だけだ。箒とセシリアだけは少し離れた場所で飛行テストやISの機能テストをしている。
その様子を見て束さんは満足気に頷く
「うんうん、この様子なら問題なさそうだね!それにしてもあれだね~、海で暴走っていうと10年前の
そう言いながら俺と織斑先生を見ながら束さんは笑いかけてくる。
「…そうですね」
「そうだな」
「うふふ!白騎士と天使って誰だったんだろうね!?私の予想ではガンダム好きとバスト八十」
「「ふん!」」
何かいらないことを言いそうになったので、俺は手刀を、織斑先生は持っていたファイルで束さんの頭を叩く、束さんは痛がったふりをしてしているが、ぶっちゃけ俺の手の方が痛いと思う。滅茶苦茶硬いんだよねこの人の頭。
「うう~コー君もちーちゃんも酷い!束さんの頭が二つに割れちゃう!」
「割れても問題ないでしょうに」
「まったくだ、所で束、あとどれくらいかかる」
そんな束さんなど知らんと、織斑先生は束さんに問いかける。
「え~後、七分って所かな?」
「よし、本作戦は織斑、篠ノ之、神峰、オルコットの四名に目標の追跡及び撃墜を目標とする。ペアは織斑と篠ノ之、神峰とオルコットだ、作戦開始は30分後、各員準備にかかれ!」
そういうと、織斑先生は旅館へと戻っていく、居残り組はオペレーターとしての参加になる。
一夏と篠ノ之に関しては問題ないが、俺とセシリアはそもそもだ、作戦が始まる前にどうにかしないと…
そう考えていると不意に背中を叩かれる、振り向くと一夏が笑顔でそこにいた。
「頑張ろうぜ、光希!」
「…珍しいな、こう言うの結構緊張するたちのくせに」
「そりゃあ俺一人だけならあれだったけど、今回はお前もいるしな、それにしても難しい顔してどうしたんだよ」
「いや、少しセシリアとな…」
「何かあったって事か、なら今話して来いよ、時間もあるしこういうのって後になればなるほど話しにくいんだぜ」
「でも、調整がかかるだろう?」
「そんな事はないよ!なんて言ったって後は紅椿の作業だけだからね、こっちの作業は殆ど終わってるよ!」
俺と一夏が話していると束さんが紅椿の作業をしながらそう言ってきた。
「ならセシリアを借りても?」
「ノープロブレム!」
そう言われたので、急いでセシリアに駆け寄る、彼女も今回の作戦のために俺のスペックデータを読んでいたところだった。
「セシリア、少しいいか?」
「光希さん、ええ、でも私に構っていていいんですの?シャルロットの所に行った方が」
「違う、俺がお前に話がある、シャルロットの話だ」
「…それならもう知っています」
「違う、そうじゃないんだ、頼む、ちゃんと話がしたいんだ」
「…わかりました、でしたら向こうでお話しましょう」
そう言ってセシリアが指さしたのは、森のさらに奥だった。
程なく歩くと、誰の声も聞こえなくなり、聞こえる音とすれば木々が風邪で揺れる音だけになった。
「ここなら誰にも聞かれませんわ、それで、話って何ですの?」
「まず、セシリア、俺とシャルは付き合ってない、キスもしていない、あれはお前が見間違えただけだ!」
「でも、あの時あなたはシャルロットに押し倒されていて」
「確かにそうだが、別にそんな関係だったからじゃない!そうなってしまっただけだ」
「でも拒まなかったのでしょう!なら、彼女とそういう事になってもいいと思ったのでは!?」
「違う!確かにシャルはいい奴だが、俺には好きな人がいる!」
「っ!?」
お互いに言葉が強くなる、声が大きくなる、主張が必死になる、それはお互いが本音で話しているから。
「そ、それは誰ですの?」
「それは…言えない…」
「やっぱり!ここで言えないのであれば、そんなのただのデマカセでしか」
「でも、この作戦が終われば必ず言う、断られるかもしれないけど」
「…どんな方ですの、本当に好きでしたら、名前は出せずともそれくらい言えますわよね?」
そういうとセシリアが訝しげにそう聞く。
俺は少しずつ話し始めた。
「最初は仲が悪くてな、よく喧嘩したし、最初は決闘もした事がある、ガンダムを馬鹿にされた事もあるし、俺に対してよくお節介を焼いてくる奴だったんだ」
「…え?」
「でもな、少しずつ仲良くなってさ、そいつ凄いんだ、周りの奴らからの評価も高いし、優等生だし、美人で怒りっぽいけど、時々見せる顔が可愛いし、料理が下手糞だったけど上手くなろうと必死に努力してたり、俺と一緒に戦おうといろんな人にISの事教えてもらったりしてな、その後風邪で寝込んだけど、それに俺のあげたネックレスを肌身離さずつけてくれてたんだよ、俺すっごい嬉しくてさ」
「そ、その方って」
「でも、俺はそいつを傷つけた、謝っても許されるかもわからない、だけど、俺はそいつの事が好きなんだ、どんな事があってもそいつから離れたくない、そう気づいたんだ、だから」
「も、もういいですわ…」
「…まだまだ言いたい事あるんだけど」
「もうわかりましたわ!それでその方は、その」
「ああ、だからセシリア」
そう言って、少しずつセシリアに近づき、彼女に手を伸ばす。
「今日の夜、俺の部屋に来てくれるか?そこで伝えたい事がある」
セシリアは最初は迷いながら、でもゆっくりと手を伸ばしてくる。
「ええ、喜んで」
そこには最初の歪んだ顔ではなく、俺の好きなセシリア・オルコットの笑顔があった。
「なら、必ず成功させようぜ」
「ええ、私達、皆で」
ほーん?やるやん主人公