魔女が運命と出会うまでの話   作:ボロス

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シチューと雪崩

一面の白い大地に、雪を含んだ風が吹き、冷たい感触が肌を触れる。 今、私は、雪原のダンジョンに来ている。

 

こういった寒冷地に来たのは、特に理由はない、ただいつものきまぐれと、寒いところの美味しいものが食べられそうだと思ったからというだけ。

 

ただきまぐれといっても、寒冷地の対策は必要なので、いつもより厚手のお手製コートを制作しました。これで寒さの対策もばっちりですね。

 

それに厚手の川手袋と、マフラーも用意したので、寒さが私の行く手を阻むことはありません。

 

そして雪道を歩くために、浮遊のエンチャントが施されたブーツも準備しました。 これで深い雪道でも普段通り歩けますからからこういった環境でも何の支障もなく、活動出来ます。

 

ただ・・・結構蒸れるので普段使いは出来ませんね・・・。 あまり履きたくないのでこういった環境だけで使った方がいいですね。

 

そんな完璧な装備で、雪原を探索し、受注したクエストの目的の魔物を発見する。 しかも大きな群れだった。 『これは幸先がいいですね』 受けたクエストが早速達成できそうなので、上機嫌に準備をする。

 

獲物に対して、愛杖のアインズ・ブルームではなく、カスタム・ファイアーボールを取り出す。 

 

学院時代、少しでも魔法のコントロールを改善しようとした、悲しい努力の結晶であり、新入生だらけの列に並んで、恥ずかしい思いをしながら買った記憶を思い出す。

 

魔力を込めれば一定威力の炎魔法が出る初心者用の杖を改造して、最下級炎魔法のイグニス・サギタを連射して放てるようにした改造した短杖

 

迎撃や、牽制に大いに効果を発揮してくれたので、いいものを作ったと自覚はしています。 ただ、これを使っても味方の人を巻き込んでしまうのは余り、変わらなかったですね。

 

魔力を込めた分だけイグニス・サギタが連射されるので、前より悪化したような気がしないでもない。

 

まぁ、普通に魔法を使った方がいつもは早いので、便利なサブ扱いですが。

 

そんなことを思いながら、今日のご飯代になる獲物に向かって、カスタム・ファイヤーボールを向け、魔力を込め、放つ。

 

炎の球が凄まじい数連射されていき、獲物だったものは悲鳴をあげる前に加熱された肉に変わる。 美味しくなさそうなので食べませんが。

 

周りには誰もいないので何も気にせずに、魔法を放っていた、その時だった、着地点に雪に隠れた岩でもあったのか、1秒分の炎ががあらぬ方向に跳ね返った。

 

跳ね返った炎の球には、本人は気づかなかったが、それが原因の災害に意識を向ける。

 

『やっぱり起きましたか・・・』

 

起こすつもりはなかったが、起きてしまったことはしょうがないぐらいにしか思わなかった

 

別に今更、これくらいのことは気にしない、魔法で巻き込んだ方が色々言われますし。

 

討伐した証を切り取ったあと特に気にせず去ったフィオナは、この後めんどくさいことに巻き込まれると、微塵も思いもしなかった。

 

下には人がいたのだ、しかもめんどくさくなるタイプが。

 

『くそ! 何処のどいつだ! 雪崩を起こしやがったのは!』

 

『滅茶苦茶な爆発音が聞こえたから多分上で魔術師が起こしやがったみたいだぜ』

 

『上に行ってシメてやろうぜ 俺たちに手ェ出したらどうなるか思い知らせてやる』

 

3人のチンピラが下にいた 雪崩から奇跡的に無傷で生還した3人は沈む足で丘を登ったあと、そこにあったのは魔物の焦げた死骸だけだった。

 

『くそ! ここにいた奴はどこへいった!』

 

『どうやら、ここにいた奴は炎魔術師のようだな』

 

残った痕跡から、ここにいた者のクラスが判明したあと、この後のことを話し合う。

 

『ここにいないなら、どうやって見つけるよ』

 

『この討伐した魔物と、やつのクラスが判明していれば、ある程度は見つかるだろうよ』

 

『このことは必ず落とし前を付けさせてやる』

 

男のうちの一人がが復讐を燃やしているが、冷静な男がうっすら浮かぶ太陽を見ながら告げた。

 

『ギルド行って情報収集するか、日が暮れないうちに戻りたいしよ』

 

時刻は既に昼と夕方の半ばに差し掛かっていた、そろそろ戻り始めなければ、日が暮れてしまう。

 

3人はギルドに戻っていった。 人を揺すれば金になる、下卑た顔を浮かべて。

 

一方、フィオナはギルドに戻り、達成したクエストの報告をしているところだった。

 

規定の討伐数をかなり超えた数に、それなりの報酬を受取り上機嫌そうな顔をしていた。

 

『今日はいつもより沢山食べてもよさそうですね 寒かったですし』

 

いつも沢山食べていることは置いておいて、今日はいつもより沢山食べる予定の魔女は、ギルドにある食堂に向かう。

 

鼻歌まじりでメニュー捲っていると、魔女のお腹を刺激するメニューを発見する。

 

『この特盛ビーフシチューセットっていうの美味しそうですね』

 

食い入るようにメニューを注視したあと、すかさず通りがかった店員に注文をする。

 

『これください』

 

いつものペースを崩さずに、それでも勢いよくメニューの文字列を指さし、注文が完了する。

 

『早く来てほしいですね・・・寒かったのでお腹が空きました』

 

寒い環境ではいつもよりエネルギーを使うものだが、魔女の燃費もいつもより悪かったようで、胃袋も音を鳴らしている。

 

永遠のような十数分の待ち時間が経った後、運ばれてきたシチューは、鍋で運ばれてきた。

 

このギルドの食堂の名物メニューだったらしく、普通であれば数人で頼んでも食べきれない量を食べれるため、ランクの低い冒険者にも人気だったようだ。

 

そんなことはどうでもいい魔女は、ぼんやりとした目を輝かせて、置かれる鍋を見る

 

芋などの野菜に加え、大きめに切られた肉がゴロゴロと入った、見た目からして美味しそうなシチューを取り皿についだあと、

 

素早くスプーンを動かし、頬張る。 表情は動かないが、かなり美味しいようで凄まじい速度でシチューが腹に収まっていく。

 

鍋の底が見え始めたころで、デザートを注文する。

 

残ったシチューを食べながらデザートを待っていると、知らない男3人組が、怒鳴りながら入ってきた。

 

『なんですかあの人たち・・・』 楽しい食事をしているのに、うるさく、不快な物が来店してきたことに不満の声をあげる。食事の手を止めはしないが、意識をそちらに向ける。

 

『雪崩を起こしやがったのはどこのどいつだ!』 まるで強盗である。起こした人を揺するつもりなら,目立たない所でやればいいのに。

 

残ったシチューを口に運びながら、呆れ気味に3人の輩見る。ん? 雪崩?

 

思い当たる節が数時間前にあるが、特に気にしていなかったので半ば忘れていたことを思い出す。

 

もしかしてあの時、下にいたのでしょうか・・・、これはめんどうなことになりましたね・・・。

 

見たところそれほど強くはなさそうなので命の危険はないでしょうが、めんどくさいですね。 

 

ここで注文していたデザートが運ばれたので、無視して食べようとしたその時、男たちの一人がこちらを向いた。

 

『おい、その三角帽子、お前魔術師だろ』 『え、はい』 事態が悪化した。

 

椅子に帽子を引っかけていたのが目に入ったのだろうか、ずかずかと男がよってくる。

 

傍から見れば、男に脅される少女だが、フィオナに恐怖はない、はやく目の前のデザート食べたいとしか思っていない。

 

『お前か 雪崩を起こしたのは 残った痕跡から起こしやがったのは炎魔術師みたいでよぉ』男に高圧的に言い寄ってくる、

 

完全に私の起こした雪崩の話みたいですね、膝に帽子を置いて隠しながら短杖をいつでも抜けるようにしておく。

 

『いえ、知りません』 魔女は嘘をついた。面倒なことになるのは分かっていたが、こうゆう手合いは正直に言っても、お金でも揺するつもりなのだろうから。

 

『嘘をつけ、丘に残ったモンスターの死骸のクエスト受けたのはお前だったのは既に分かっているんだよ』

 

受付嬢でも脅したのか、はたまたクエストの報告をしていたのを見られていたのかは分からない。

 

既に証拠は握られているらしい、こんなやつらにお金は払うつもりはありませんが。

 

『中々認めねぇなぁ 魔女の嬢ちゃん 俺たちだってこんなことしたくないんだよ ただ払うもの払ってくれればいいだけだ、あまり強情だとこっちも手が出ちまうかもしれねぇぞ』

 

男が舌なめずりしながらそんなことを言っているが表情一つ変えない魔女に、男も堪忍袋の緒が切れる

 

『さっさとやったと言えばいいんだよ! 痛い目に合いたくなかったらなぁ!』 ずっと食べたかったデザートが乗った皿を、盛大に床にぶちまける。

 

『あ』 魔女の表情が揺れたことで、男勝利を確信した、その時だった。

 

帽子の下にずっと握っていた短杖 【カスタム・ファイアーボール】がサムライと呼ばれる剣士クラスの居合の如き速さで抜かれ、無詠唱で大量の炎を噴き出す。

 

爆発音が十は聞こえた後、吹っ飛んだ男とその余波を食らったお仲間が逃げていく。 逃げていく様を眺めて、ふと周りを見る。

 

先ほど座っていた机と椅子は跡形も無く吹き飛び、着弾点の床に使われていた木材に焦げた穴が開いていた。

幸い火事になりそうな気配はないが、メインウェポンの【アインズ・ブルーム】で魔法を、撃っていた場合、ギルドが崩壊していたかもしれない。それなりに手加減できたことにを内心喜んでいた束の間、ギルドの職員が駆け込んできた。

 

『何事ですか?! うわなんですかこの穴は?! 説明をお願いします!!』

 

『えーと・・・これはその・・・・』 事情を説明し、小言を少々と壊した床と机代を弁償し、飲食代も払ったが、あのデザートは食べられなかった。

 

事情は伝わったので追い出されることなく、ギルドの宿に泊れたので寝転んでいるが、頭にあるのはあの食べられなかったデザートだけ。

 

別に何かを壊すのは今に始まったことではないので特に後悔はしていないし、さっきの男たちのことは既に頭になかった。

 

あんな風に何かの拍子に意味のない脅しを受けることはあったが、大体は相手の体にちょっと火を付ければなんとかなったので今更問題にもならない。

 

私に近づいてくるのは、あんな悪い人間か敵意のある人間だけだった。たまに好意を向けてくる変な人もいましたが。 私みたいな人間を受け入れようとする人はよほどのお人よしなのでしょうね。そんな人はいるとは思えませんが。

 

『はぁ・・・魔法を使ったので小腹が空きましたね・・・』 先ほどの大量のシチューもある程度魔力に変換されたようで、微妙な空腹感に頭を悩ませる。

 

帽子のディメンジョンを漁るが食べ物は特に入っていない。 なので今日やることはもう寝るだけ、明日のことでも考えていれば、すぐに夢の世界に行けるでしょう。

 

雪原は寒いのに飽きたので、今度は別の温かい所に行きたいですね。 目的も決まったので、目をつぶる。

 

明日にはもう魔女はいないだろう、きまぐれでまた知らない所に行き、今日も明日も一人できまぐれに生きていく、それが私の、日常なのだから。

 

 


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