十字軍の傭兵をやめた私は、あてもなく、どこまでも広がる平野を歩いていた。
周りには今のところ何も建造物は見当たらず、見えるのは遠くに壁のように広がる大きな山脈だけ。
たしか、ガラハド山脈でしたっけ その先にスパーダという国があると、聞きました。
どこかに村があれば、そこで準備をして山を越える準備をしたいですが、まだ集落一つ見つかりません。
しかし・・・お腹が空きましたね、十字軍では碌な物を買えませんでしたから、帽子の中に既に食べ物はありません。
さてどうしますか・・・飢え死だけは絶対に嫌なので、街道が見えるまでがんばりますか。
空腹に耐えながら、ひたすら歩く、平和なもので、モンスターひとつ出てこない。
魔族蔓延る魔大陸なんて言われていたが、実にのどかで、牧歌的なこの光景に、シンクレアの農村とあまり変わらない光景を楽しんではいるが、空腹なのは変わらない。
ようやく街道が見えてきたので、近くの木陰に座ると、急激な眠気が襲ってくる、この数か月、彼女にとっての十分な食事を取れていない体は、軽い飢餓状態になっていた。
食べた食事のほとんどが魔力に置き換わる体質に、あの環境は酷だったようで、すやすやと眠りに落ちてしまう。 幸か不幸か、この深い眠りが無ければ、彼女の価値観をも、見える世界をも変える恋とは出会え無かっただろう。
どれくらい寝ていただろうか。何か話声が聞こえる、そして甘い果物の香り? 『そこのお人』 久しぶりの甘い物のにおいに目を覚まし、声をかける。
相手の黒髪の人は驚いていましたが、小さな金髪の女の子がそれを分けてくれました、ガリっと齧ると、冷たくて甘い味は飢えた体に染み渡る。
思わず全部食べてしまい、小さな金髪の女の子を泣かせてしまいましたが、お腹がすいていたので、しょうがないでしょう。
この冷たくて甘いものはアイスキャンデーと言うらしいですね。
泣いてる女の子に新しい物が渡される、私もまだ食べたいので、帽子から金貨を出し、おかわりを所望するが、どうやら品切れらしく、残念です。
あそういえばお二人の名前を聞いていませんでしたね。先に名乗るのが礼儀でしょう。 そう思い、帽子からギルドカードを差し出す。
どうやらこちらのギルドカードはドックタグ型のようで、物珍しそうにしている、アイスキャンデーをくれた人。
しかし、あの冷たいお菓子は美味しかったですね、もっと食べたいです。 短い会話を終えた後、このまま街道を進めばイルズ村という所があるのを教えてもらい、少し振り返り、呟く。
『さようなら、アイスキャンデーの人 親切な御恩はきっとお返ししますよ』
ちょっと外に出ればあんなに美味しい甘いものを食べれるなんて、十字軍をやめて正解でしたね。思えば、人から何かを施してもらうなんて、久しぶりですね。
甘くて冷たい、先ほど食べた味を思い出しながら街道を歩いていくと、小さい村が見えてくる。 大きなリザードマンの門番が快く通してくれた。
私みたいな異国の人間を快く通すとは、どうやらこのあたりの治安はとてもいいみたいですね。
様々な異種族が暮らすのどかな村に、物珍しさを感じながら、村人に教えてもらった周りの家と比較すると大きなギルドに入り、登録の前に食事をすることにする。
一応貨幣が違うので金貨が使えるか受付嬢の猫獣人に聞いたが、物珍しそうに目を輝かせていたぐらいで特に問題はなかった。
色々にゃんにゃん聞いてきたがが、そんなことしてる場合ではない空腹だったので注文をする。
とりあえずお腹が空いたのと、金貨がどれだけの価値で使えるか分からなかったので、それで頼めるだけ頼むことにした。
輝いていた猫獣人の目が驚愕とひきつった顔をした後、慌ただしく調理場に向かっていった。
美味しい象型のモンスターのステーキなど、この村で獲れた新鮮な食材を調理した料理に舌鼓をうち、無事久しぶりの満腹になれたので、満足げな魔女とやつれた猫獣人。
そのままギルド登録を行おうと思ったが、起き上がらない、困っていると、奥からハーピィの上司らしき人が代わりに対応してくれたので、無事ブロンズのプレートを入手できました。
猫獣人の方は引きずられていってますが、代金はちゃんと払ったので特に何も思わない、ご飯は美味しかったですね、ごちそうさまでした。
シンクレアでは最高ランクまでいけましたが、また一からスタートですね。普通にやってればランク5になれましたし、すぐにランク5に戻れるでしょう。
村の売店の店主から色々買ったり、情報を仕入れた私は、一番大きなアルザス村に向かうことにした。 ただ、一日で着く距離ではないので、途中にあるクゥアル村に1泊する予定です。
平和な街道を歩き、辿り着いた時には日は暮れていたが、知らない美味しいものでも舌鼓を打とうとした、その時でした。
朝までいた方角から、煙が上がっていたのだ。 どよめき、なんだなんだと眺める人たちの中で、一人だけ原因を知る魔女がいた。
(あぁ・・・思ったより早かったですね) 十字軍が、先ほどまで居たイルズ村で、略奪でもしているのでしょう。
どうやら新しく編成された十字軍は無事、ダイダロスを落とせたらしいですね、あの大きなドラゴンの王様を倒せるのは使徒ぐらいでしょうから、使徒も本国から出張ってきたのでしょう。
確かに先ほどまで滞在していましたが、今すぐ駆け出すほど思い入れもない、あれだけ亜人が住んでいた村です、無事では済まないでしょう。
無表情で何処かで食堂でも探そうと、歩き出そうとしたその時、親切に美味しいものをくれた、あの黒目黒髪の人顔が思い浮かぶ。
そういえばあの人、イルズ村の方から来ましたね・・・ こんな行き倒れた、知らない魔女に食べ物をくれるお人好しな方です、救援に向かうかも。
【これは、すぐにお礼が出来そうですね】 そう思ったフィオナの行動は早かった。 すぐさまギルドで謎の集団によるイルズ村襲撃を伝え、緊急クエストを発行させた。
一人でも1小隊ぐらいなら、全滅させることは可能でしたが、村に滞在するほかの冒険者達もすぐさま集結してくれたので、かなり楽に戦えそうです。
ギルドが馬を用意してくれたので早く着くことが出来そうです。
急いで向かった時、親切な黒髪のあの人は、無謀にも、一人で立ち向かっていましたが、呪いの武器に飲まれかけていて危ない状況でした。
とりあえず防御魔法でも、撃っておきましょうか。 詠唱してイグニス・シルドを撃っておく。
彼の前方に炎の壁が立ち上った時、私の存在に気付いたようで、どうしてここにいるのか分かっていないようだった。
そんなことはお構いなしに、ディスペルの魔法をかけ、彼の手から呪いの鉈が離れる。 これで万事解決ですね。
『随分物騒なモノを使うんですね』、手から鉈が離れた時、呪いの意思がここまで聞こえてきましたよ。
さて、残りの十字軍兵士達は、他の冒険者の皆さんにお任せして、アイスキャンデーの人を救護しておきましょうか。なんて思っていたその時だった。
空から怖い、羽の生えた知らない綺麗な人に、凄い顔で睨まれたからだ、 身の危険を感じたので、アイスキャンデーの人をリリースする。
どうやらあの時アイスを貰った可愛い妖精さんだったみたいですね。 随分大きくなりましたね。
なんと、味方として居ればあの時のアイスキャンデーをいくらでもくれるみたいです。 人助けするものですね。
既にフィオナの頭には、あの爽やかな冷たい甘味しかなかったが、周りには十字軍兵士の断末魔が響いていた。
そして、出会った大きな妖精と黒髪の狂戦士と運命的な出会いをしていたことも、知る由もなかった。