ロドスカレッジ   作:鳥籠のカナリア

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 なにも背負わず大学生活をエンジョイしてほしいよね。


lecture1

 大学教授というのは高齢の人間が多い。何故なら、博士課程を修了するのが最速で二十の半ばだからだ。そこから准教授になり、やっとの思いで教授になる。なるほど、若年層が貴重だと言われるのも道理だろう。

 

 さて、そんな中で弱冠30歳にして大学教授になったのがドクターと呼ばれる博士だ。十数年前に見つかった鉱石病を専攻としており、その道では権威とすら言われるほどの秀才。

 

 そんな彼の朝は、研究室の扉を開くところから始まる。鍵を差し込み、開く独特の音を聞きながら、扉を開けようとするが……開かない。どうやら鍵を閉めてしまったらしい。

 

「……昨日閉め忘れてしまったのだろうか」

 

 疲れが溜まっていたのだろうか。なんと不用心なことか。大切な資料が多くある自分の研究室に忍び込まれでもしたら問題だというのに。自戒しながら改めて扉を開く。

 

「やぁ、先生(ドクター)。お先にお邪魔してるよ」

 

「……モスティマさんか」

 

 彼は思わず肩を竦めた。モスティマ。彼の研究室に足繁く通う大学院生の女性だ。彼の研究内容に興味を持って入学したらしく、他の教授に対しては不遜な態度を取る問題児だが、成績自体は非常に優秀だと学内では有名な話である。ドクターの前でも不遜さこそ拭えないが……彼女なりに敬意を払っていることは伝わってくる。

 

「うん、好きに入っていいと言ったのは私だけど、教授より先に研究室に入ってるのはどうなんだ……?」

 

 やれやれ、とドクターは肩を竦める。モスティマが自分より先に研究室に入っているのは特段珍しいことではないからだ。

 

 あまりに熱心に研究なモスティマに関心し、自分が居なくても研究が出来るようにと研究室の鍵を預けるようになってから彼の研究室に居る時間が格段に増えた。

 

 とは言っても、モスティマが居るのはドクターが研究室に来そうな日だけなのだが。

 

「私はそんなの気にしないけど?」

 

「だろうね。そもそも気にしてたらここには居ないでしょう」

 

 呆れたようにため息を吐いて、研究室の中に入り資料が置いてある棚を眺める。今日はどんな授業が入っていたんだったか……。研究に注力しすぎるせいで、最近曜日感覚が乏しくなっているかもしれない。

 

「──今日の授業は入門編の方じゃなかったかな」

 

「……」

 

「ん? どうかした?」

 

「いや、合ってはいるんだが……」

 

 なんで教授である自分より生徒である彼女の方が把握しているのだろうか。いや、そもそも彼女は自分の授業を全て履修してくれていたんだったか。だからといって覚えているかと疑問に思ったが、そういうものだろうと割り切った。

 

 腕時計を見て曜日を確認すると、確かにその授業が入っている日だった。

 

 しっかりしなくてはなと自分を戒める。そんなドクターを、モスティマは心底楽しそうに目を眇めて眺めていた。

 

 そろそろ試験の内容も組まないといけないのだったか……バインダーから資料を取り出しながら試験内容を組む。

 

 そういえば、と。ふと疑問に思ったことを尋ねる。

 

「院の方の試験ってそろそろだったと思うんだが……」

 

「……そういえばそうだね」

 

「モスティマさん……?」

 

「ウソウソ。忘れてないから安心して。それとも、信用できない?」

 

「いや、信用はしているけど……テスト期間くらいしっかり勉強した方がいいと私は思うんだが」

 

 モスティマという少女はいつもそうだ。どれだけ忙しい時期だろうと研究室に顔を出さない日はない。自分の研究している分野に興味を持ってくれるのは嬉しいからと、毎回受け入れてしまうドクターにも非はあるが。

 

「それに、歳の離れた私と居るより、同年代の子たちと交流を持った方が……」

 

 四六時中ドクターの研究室に居れば同年代との交流はお世辞にも多いとは言えない。モスティマの元来の性格も相まって、聞きたくもない陰口を聞いてしまう始末だ。

 

 モスティマは気にしないだろうが、彼女には可能性がある。いざ前に進むときに、人間関係が足枷になることはあってほしくない。

 

「──つまり、私がここに居るのは迷惑と、そういうことかな?」

 

「いや……そういうわけではないが……」

 

 慌てて否定する。彼女が居るのはドクターとしても嬉しいのだ。教え子に対して抱くべきではないかもしれないが、頼りにしている面もある。居なくなったら困るのは明らかだった。

 

「ドクター、私にだって将来の目標くらいある。ドクターがその道の患者たちを救いたいと思ったのと同じようにね。私のことを心配してくれるのは嬉しいけれど、それは余計なお世話というやつだよ」

 

 表情は笑っている。目も、笑っている。しかし、長い付き合いになる。踏み入ってはいけない領域に踏み入ってしまったのは分かっていた。

 

「……そうだな。今のは忘れてくれ」

 

 また説得出来なかった。どうにも自分はモスティマに対して弱いようだ……。年下に負けることに対する呆れではなく、押し切れない自分の弱さを悔いた。

 

「コーヒーと菓子でも用意しようか。そこから講義の準備だ」

 

 逃げるように備え付けのコーヒーメーカーに足を向けるドクターを眺めながら、モスティマは独り言つ。

 

 

 

 

 

 

「ねぇドクター。私の目標はこの分野で成功することじゃないんだ」

 

 初めてこの人の講義を聞いたとき……いや、出会ったときから決めていた。この人の元ならば自分は楽しくやっていけそうだと。

 

「……? なにか言ったか?」

 

「気のせいじゃない?」

 

 少女の告白が伝わることはなく、ただニマニマ笑う少女と、それに呆れた表情を返す男だけが残った。




 とある先生の作品と発言に触発されて書きました。続いたらいいな。

 アークナイツのみんな、背負いものが大きすぎると思う。

 
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