これは前投稿していた作品に少し手を加えた作品になります。
もしよかったら読んでやってください。
視線を感じるときはどんな時があるだろうか。会社でプレゼンを発表するとき。バンドでステージに上ったとき。意中の相手を見つめるとき。いろいろな場面があるがこの場合は何だ。先日の席替えをしたときから隣からやけに視線を感じる。
あまりに視線を感じるので耐えきれず横を見ると向こう側を見ている。そして、また黒板の方を見るとまた視線を感じる。ここ一週間ずっとだ。俺が彼女になにかしたのか考えてみるが全くと行っていいほど心当たりがない。そして、今日こそはこの視線が何なのか確かめるべく自分から話しかけるそう決めていたのだ。
そんな事を考えているときに授業終了のチャイムがなった。
ちらりと隣を盗み見ると、友達がいないのか一人でスマホをいじっている。
彼女に対してわかったことがこの一週間でいくつかある。まず一つ目が友達がいないこと。二つ目がコミュ障気味なこと。最後はギャルにパシリとして使われていることだ。いつも昼になると隣のクラスのギャルがわざわざやって来てどこかに連れて行かれている。
そのギャルは友達がいない俺でも存在は知っているくらい有名な人物だ。そのギャルに目をつけられて毎日パシリに使われているに違いない。俺たちみたいなコミュ障はギャルなんかに反論しよう物なら学校生活が終焉を迎えることはわかっている。
それを助けて欲しくて、男の俺に話かけてこようとしているが、コミュ障を発揮してなかなか声をかけられずにいるのではないだろうか。
それが事実ならなんとかしてあげたい。
少し悩んだ末、意を決して話しかける。
「あの、俺になんかようでもあるのか?」
「っ‥‥いえなんでもないわ」
いきなり声をかけられて驚いたのか肩をビクッと反射的に動かした。
「そうか。すまん最近やけに隣から視線を感じるから、つい見られているのかと思ってさ」
「そう。ごめんなさいこれからなるべく見ないようにするわ」
いやなるべくですか。てか見ていた事は認めるんだな。すると向こうから質問が飛んできた。
「ひとつ聞いてもいいかしら」
「ん。俺に答えられることなら」
「あなたは猫が好きなのかしら?」
なんだもしかしてそれが聞きたくて一週間も俺のこと見てきたのか。
なぜそれが俺のことを見つめてくることに関係があるのかわからない。
「いや別に普通だけど」
「え・・・じゃ、じゃあそのカバンについてるキーホルダーはどこで手に入れたの」
もしかしてこれのことか。彼女が熱心に見つめているものは俺の鞄についているそのキーホルダーだった。別にこれと言って特徴らしいものはない至って普通なキーホルダーだ。
「あー、これかうちの店のキーホルダーだよ。うちの実家が猫カフェでさ試作品で作ったのを母さんがいつのまにかカバンに付けてたんだよ」
うちの母さんの趣味でキーホルダー作りがある。店のロゴの形をした猫のキーホルダーを作って店のレジ横で販売している。案外売れ筋が良くて母さんいわく人気商品らしい。
たまに休日で暇な時に手伝わされて作っている。
「もしかして猫が好きなのか?」
「い、いえ。人並みよ」
いや、めちゃくちゃ目が泳いでるじゃん。
明らかにその様子は、猫が好きであるような反応だった。
「え、えっと俺の名前は新宮寺正宗。君は確か」
「湊友希那よ」
そうだ湊だ。いつも基本的には一人でノートになにかを書き込んでいるか、イヤホンをして音楽を聴いているか、何を考えているのかよくわからないやつだ。確か一年のときから同じクラスだが、基本的にクラスの連中と話しているところを見たことがない。
「そのあなたの家の猫カフェの名前は、【猫の集いの場】て、名前じゃないかしら」
何だ知っているのか。まあこの辺の猫カフェて、うちしかないからな。猫カフェは、捨て猫を父さんが、拾ってくるうちにさすがに家が狭くなってきたところで、母さんが何なら家を猫カフェにしましょうと言って一階部分をリフォームして猫カフェにしてしまった。
それがうちが猫カフェになった経緯だ。
なんでも評判はよく常に予約で埋まっている。そのおかげで休日はキッチンで父さんの手伝いをしているから料理はそこそこできるようになってしまった。
「そうだよ。うちの店の名前は、猫の集いの場だよ」
「そう、やっぱり」
「なんならそのキーホルダーやろうか?」
「え、いいの?」
すごいめちゃくちゃ目が輝いている。湊ってこんな表情もするんだな。いつものクールな表情からは想像もつかない。
「ああ、うちにまだ在庫もあるだろうしさ」
「そ、それならもらってもいいかしら」
「ほら」
そう言ってカバンからキーホルダーを外し、湊に投げ渡す。それを湊は危なしげにキャッチした。
「ありがとう」
そう言って湊は猫のキーホルダーを大事そうに見つめていた。
「ふふ、にゃーんちゃん」
かすかな声で、そう聞こえた。
そんなことをしているうちに、授業の開始のチャイムがなった。
「みんな席についてー」
そう言って教室に入ってきたのは我がクラスの担任、今年がはじめてのクラス担任でやけに気合が入っている。ちなみに教科は数学だ。
「じゃあ今日は、先週言ったとおりに隣の人とプリントを解いてもらうから机くっつけて」
え、そんなこと聞いてないぞ。そんな事を考えているうちに、湊が机を隣に持ってきていた。
「なにをしているの。早く机を動かして」
さっきまでのゆるゆるな表情はどこに行ったのかいつものクールな顔に戻っている。こいつもしかして猫のことになると人が変わるやつか?
母さんもそうだから、湊がそうであっても驚きはしないが。
「あ、ああ。ごめん」
早くしろと飛んでくる圧に少し怯みながら席を動かす。
いくらコミュ障の湊だとしても顔は可愛いから席が隣になると少しドキドキする。そんなこと向こうはなんとも思っていないのか配られたプリントを睨みつけていた。
今日のプリントは二次関数だ。こう言ってはなんだが俺は数学があまり得意ではない。教科書の例の問題を見比べながらなんとかして、問題を解けるぐらいだ。暗記教科と体育は得意なんだけどな。
「湊は数学はできるのか?」
ふと気になって聞いてみた。いつも一人でノートになにかを書いているから勉強はできると思うが。
俺たちみたいな日陰者は勉強は青春が埋め尽くされることもありえるからな。
「勉強は必要最低限できれば問題ないわ」
ということは毎回赤点ギリギリなのだろうか。てっきりできると思っていたから意外だ。
「へぇ、意外だな。湊は勉強は得意だと思ってたよ」
「なぜ、そう思っていたのかしら?」
湊は不思議そうな顔で聞いてきた。
「いやだっていつも一人でノートになにか書いてるだろう。だから自習でもしていると思ってな」
「あれは勉強をしているわけではないわ」
「じゃあ何をやっているんだ」
「・・・・内緒よ」
「そうかい」
どうせ猫好きのこいつのことだ猫の絵でも書いているのだろう。
「それよりも、この問題なんだけど」
湊はそう言って問題を見せてきた。
「ちょっとまて今からやる」
そうしているうちに、先生の声がかかった。
「そろそろ終わったペアからプリント見せに来てね」
やばい湊と話しているうちに時間が経ってしまっていた。先生はその時間内にプリントが終わらないと宿題にしてくる。こんなもので俺の放課後の時間がつぶされるわけにはいかない。
「湊。俺は応用問題の方をやるから、基礎問題の方を頼む」
「ええ、わかったわ」
そう言って問題に取り掛かった。それから数分で解き終わったところで湊のほうをみると、まだ問題とにらめっこをしていた。
「おい、こっちは終わったぞ」
「ごめんなさい。まだ時間がかかりそうだわ」
湊はそう言ってきた。おいおい、いくら勉強ができないからと言って最初の問題もわからなかったら流石にまずいだろ。と思ったが口には出さずに湊のプリントを覗き込む。
「どこがわからないんだ」
「ここなんだけれど」
「あー、ここは確かに難しいからな」
正直言ってここはまだ簡単な方だが、彼女の名誉のために言わないでやるのがやさしさというものだろう。ささっと解いて湊にプリントを返す。
「ほら終わったぞ」
「ありがとう。正宗って案外勉強ができるのね」
「いやここは、まだ簡単なところだからな」
「…………そう」
言ってしまった。と思ったところで遅かった。見るからに湊のやつは落ち込んでいた。
「い、いや気にする必要はないぞ。高校の二次関数なんて社会に出ても使わないだろうしさ。それに勉強ができなくてもなにかひとつでも自分が胸を張って、これだけは誰にも負けないってものを見つけることの方が大切だからな」
慌ててそうフォローすると湊は真剣な表情で言ってきた。
「そうよね。勉強よりもなにかひとつ自分の得意なことを極めるほうが難しいわよね」
そう答えた彼女の顔はやけにキレイに見えた。
そのときちょうど授業終了のチャイムが鳴った。
「ただいまー」
そう言って家に入る。一階が猫カフェの我が家だ。そのまま二階の自室に行き部屋に入ると、
「ニャー」
そう言って出迎えてくれたのは一番最初に我が家に来た猫、シロだった。真っ白な色だからシロそんな理由で名付けた。そんなことを思い出してシロを抱き上げベッドに倒れ込む。
「なんか疲れたな」
でもそれは、いやな疲れではなかった。こんなにも学校で誰かと話したのは久しぶりな気がした。
「聞いてくれよシロ。今日学校で隣のやつにやっと話しかけたんだぜ。案外しゃべるやつでさ、猫が好きで勉強があまり得意じゃないやつだったんだよ」
「ニャー」
シロは興味なさそうにそう鳴いた。
「何いってんだ、俺は。だいたいシロに話したところでわからないよな。」
シロを抱き上げ目が合う。相変わらずキレイな顔だ。
「よく見たらシロお前湊に目元とか似てる気がするな」
いや気のせいか。そんな事を考えているうちに睡魔に襲われる。ちょっと夕飯まで寝るとするか。そのまま意識を睡魔に委ねる。
「おやすみ、シロ」
これが俺、新宮寺正宗と湊友希那の出会いだった。