今日も今日とて眠い目をこすりながら学校につく。席替えをしてから後ろの席から毎時間ボールペンで突かれたり、絵しりとりの紙が回ってきたりする。しかも最初の絵は絶対に猫だし。まったくあいつは暇なのか。
「おはよう。正宗」
「おっす、湊」
「そろそろ、テストだけど正宗は勉強してる?」
「そんな面倒なことするわけないだろ」
そうか、そろそろテストの時期か言われるまで気が付かなかったな。その時湊が席を立つ。
「どこ行くんだ?」
「本当にあなたはデリカシーがないわね」
「なんだ、トイレかならそうといえばい、グハァ。ごほ、蹴ることはないだろ」
「ふん」
「やけに最近暴力的になってきてる気がする」
でもあいつがいないといないでやっぱり話す相手がいないのは寂しいな。こんなぼっちの俺に話しかけてくれるやつは同じぼっちの湊だけなのか。
「ねえ、君」
ほら、ついにはこじらせすぎて幻聴まで聞こえてきた。悲しいなぁ。
「ねぇ、ちょっと聞こえてるなら無視するな~」
「ッ、なんだ!びっくりした」
気がついたら目の前に人がいた。しかもぼっちが一番苦手とするジャンルの人間ギャルが。
「君、名前は?」
何だこいつはやけになれなれしいと言うか、距離感がないと言うか、とにかく近い。
「えっと……新宮寺正宗です」
ギャルのコミニケーション能力は高い。そしてなんだかいい匂いがする。湊からは何も感じないのに。
「新宮寺くんかぁー。ふーん」
なんだこのゴミを見られるような目は。まだなにもしてないだろ。いや別にするつもりもないんだけど。
「あたしは今井リサ。友希那の幼馴染てやつかな」
そうかこの人が例のリサさんか。なるほど納得した。つまり湊に用があって来たのだろう。だが湊がいないから、俺に場所を聞くために話しかけたとかそんな理由だろう。
「悪いが湊ならいないぞ」
「いや、友希那に用はないよ」
……だったらなぜ俺に話しかけてきたんだ?
「じゃあ、何しに来たんだ?」
「新宮寺くん今日、放課後時間ある?」
俺の聞き間違いでなければギャルに誘われているのか。
「えっともしかしてデートのお誘いですか?」
「ふふん。そう捉えてもらってもいいかなぁ」
それはまさしく人生初の女性からのお誘いであった。唇に指を当てて誘ってくる。この人自分の武器を全て理解してる。
「ああああ、ありますよ」
「そう、よかった。じゃあ放課後、校門で待ち合わせでいい?」
「は、はい。あ、湊はどうします?」
「友希那には内緒で、2人きりでっ。ね」
可愛くウィンクをしながら答えた。…………2人っきり。なんとも甘美な響だろうか。
「了解しましたー」
「じゃあ、放課後楽しみにしてるね」
そう言って今井さんは自分の教室へ帰っていった。
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あれはリサ?なぜここに要るのかしら。もしかして私に用があったのかしら。その時リサの声が聞こえてきた。
「新宮寺くん放課後時間ある?」
え、正宗に用なのかしら。あの二人の接点はわからないけど。
「えっともしかしてデートのお誘いですか?」
「ふふん。そう捉えてもらってもいいかなぁ」
「ああああ、ありますよ」
なに動揺してるのかしら正宗は。しかも心なしか私と話しているときよりもニコニコしている気がする。…………それにしてもリサが正宗を誘うなんてどう言うことよ。
「何なのよ全く」
「そう、よかった。じゃあ放課後、校門で待ち合わせでいい?」
え、どう言うことかしら。なぜリサが正宗なんかと。
「は、はい。あ、湊はどうします?」
「友希那には内緒で、2人きりでっ。ね」
「了解しましたー」
なにがなんだかさっぱりだった。正宗とリサが放課後2人きりで出かける、私に内緒で?そんな馬鹿な。その事実に胸が少し傷んだ気がした。
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ついに来た。このときが。いやー長かったな放課後まで。まさか、あのリサさんとお出かけができるとは夢にも思わなかったゾイ。心做しか湊の元気が一日中なかった気がする。
「おーい、待ったー?」
遠くから走ってくる音が聞こえる。
「いやいや、全然待ってませんよ。隣のクラス終わるの遅かったですし、遅れても仕方ありませんよ」
「そっかそっかならいいけどさぁー。じゃあ、行こうか」
「はい」
リサさんの隣を歩く。いやーまさか女性と隣を歩ける日が来るとは、思わなかったな。心なしかいい匂いがする気がする。やっぱり女性は細かいところに気を使ってるんだなー。
「ねえ、あそこでいい?」
「ここは」
そこは、商店街の中にあるこじんまりとした喫茶店だった。
「全然構いませんよ」
「じゃあ、ここにしようか」
中に入り奥のテーブル席に案内される。
「ねえ、なんで今日あたしが、新宮寺くんを誘ったかわかる?」
「えっと、俺達に関連していることって湊だけですよね」
「そう、友希那のことだよ」
「湊がどうかしたんですか?」
「…………単刀直入に言うね。新宮寺くん友希那にこれ以上関わらないでくれるかな?」
急に今井さんの雰囲気が変わった。
「……………理由を聞いても?」
「それは自分が一番わかっているんじゃないかな」
おれが、湊にしたことか。………………わからん。いろいろありすぎて。
「えっとそれは無理ですね」
「どうして?」
「俺が関わらなくなったとしてもあいつから俺にかまってアピールがすごいんですよ。最近何か特に」
「まさかもうそこまで、調教済みだったなんて。こうなったらやるしかないよね…………みんなごめん約束守れないかも」
「なにか言いましたか?」
小声でボソボソ言っているがよく聞こえない。
「ううん。なんでもないよ」
「そうですか、ならいいんですけど」
「じゃあ、新宮寺くんひとつ条件をつけよう」
「条件?」
「うん。そうしたら友希那ともこれ以上かかわらないで。友希那にも言っておくから」
「別にいいけど、条件とはなんですか?」
すぅ、と息を吸い込むと今井さんは大きな声でいった。
「…………私の体なら好きにしていいから、友希那にはもう手を出さないで!!」
「…………は?」
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放課後になった。私は急いで荷物をまとめて教室を出た。理由はひとつしかない。あの2人を尾行するためだ。だいたいリサはともかく、正宗は私にこのことを隠してるのかしら。理由を聞かなければこの胸のいらいらは収まりそうもない。
「きたわね」
相変わらずのまぬけづらだ。全くリサはあんな奴のどこがいいのか。
「おーい、待ったー?」
「いやいや、全然待ってませんよ。隣のクラス終わるの遅かったですし、遅れても仕方ありませんよ」
なにがありませんよだ。あんなかっこつけて何なのかしら。そのまま、2人は行ってしまった。そして適当な喫茶店に入った。あとに続いて中にはいる。
「いらっしゃいませー。おひとりさまでしょうか?」
「ええ」
「カウンターのお席にどうぞ」
案内された場所からは、2人の場所が見えない。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「コーヒー。ミルクと砂糖多めで」
「かしこまりました」
さて、ついてきたはいいけれど、どうしましょう。そんな事を考えているときにリサの声が聞こえた。
「…………私の体なら好きにしていいから、友希那にはもう手を出さないで!!」
…………は?
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何をいってるんだ、今井さんは。
「えっとどうゆうこと?」
「とぼけないで!!もうぜんぶわかってるの!」
今井さんが泣きながら訴えてくる。
「…………なにが?」
「友希那の弱みを握って、脅して毎日屋上で友希那にいやらしいことしてたんでしょ!」
はぇー。こいつはとてつもない勘違いをされていらっしゃいますね。
「あのね、今井さん。俺はあんな貧相な体に欲情しないから。どっちかって言うと今井さんのほうがめっちゃタイプだから」
「嘘ばっかり!そんなこと言って友希那の体を弄んで、あの小柄な体型が大好きなんでしょ!」
「いやいや、ホントだって。胸もない、身長もない、くびれもない、あのたるんだ腹。どこに欲情する要素があるんだ」
「胸も、身長も、くびれも、たるんだお腹で悪かったわね」
「えっ」
「ごきげんよう、正宗」
「ごごごごごごごご、きげんよう湊。」
「正宗あとでゆっくり話し合いましょうね」
「あ、ごめんそろそろ家の手伝いがあるから帰らなきゃ」
「い、い、わ、よ、ね」
「…………うっす」
「友希那どうしてここに?」
「あなたたちがこそこそとあやしい動きをしてたからあとを付けてきたのよ。全く何があったのよ、話してみなさい」
「実はね」
「はぁ、なるほどね。理由はわかったわ。ごめんなさいリサ、私がここ最近変な態度をとったばかりに勘違いさせてしまって。あとであの三人にも謝らなければね」
「でも、よかったよ~。私達の勘違いで」
「そう、誤解よ。だいたいわたしがこんな、バカで、デリカシーもなく、約束も破り、人をいじることが大好きなクズにいいようにされるわけないじゃない」
「み、湊さんやそれは言い過ぎでは」
「クズはだまってなさい」
「…………うっす」
「じゃあ、そろそろ帰ろうかしらね」
「うん、いい時間だしね」
「あ、そうだクズ。あなた私達のぶんも払っておきなさいよ」
「…………うっす」
「行くわよ、リサ」
「あ、待ってよー友希那ー」
「あ、それと正宗、明日からの学園生活楽しみね」
「…………………………」
「返事は!!」
「……………うっす」
こうして長い一日が終わった。俺の学園生活と財布の中の野口さん数枚を犠牲にして。