キーンコーンカーンコーン。
テスト終了のチャイムが鳴る。やっぱりこの終った開放感は何度味わっても最高だな!あれから結局湊は徹夜で勉強したが結果はどうだったのか。テストの最中は真剣な顔で挑んでいたが。
「湊ー。どうだった?」
さっきから机にボーと座って要る湊に話しかける。
「正宗あなたとも今年いっぱいでお別れね」
…………こいつ冗談だろ。
「おい、まさか俺たちがやってきた努力が水の泡になったとか言わないよな?」
「そのまさかよ」
「待ってくれ。お前が留年したら俺はどうなるんだ」
「来年から一人ぼっちね」
「嘘だ!嘘だと言ってくれよ!!お前がいなくなったらまた俺は一人ぼっちじゃないか!」
「嘘よ」
「…………えっ」
「だから、嘘だと言ったのよ」
してやったりとドヤ顔で見つめてくる。
「じゃあ、テストの方は」
「まあ、赤点はないはずよ」
「そうか。よかった」
「全く本当に正宗は私がついていないとだめね」
それはどっちのセリフだよ。
「…………別にお前がいなくても、今井さんと同じクラスになればボッチが回避されるだろうから、やっぱ留年しろ」
「紗夜に報告ね」
「すいませんでした」
まったく紗夜さんを出すのはずるいだろ。どんな人かわからんけどなんとなくやばい人だと思う。だけど案外湊と一緒でポンコツの可能性もあるかも。…………いやないか。
「あ、そうだ、正宗ご飯行くわよ」
「急に何だ?」
まためんどくさいことを言ってきたなこいつは。
「めんどくさいからもう帰るぞ、俺は」
「友だちがいる人達はテストが終わったあとに打ち上げに行くらしいのよ」
「まさかとは思うがそれに行くとかないよな?」
「さあ、準備しなさい」
そう言って玄関までるんるんな足取りで向かって行った。しょうがない行くか。このワガママにも最近慣れてきたな。ルンルン気分で教室を出ていく湊の背中を追いかけた。
「で、どこに行くんだ?」
そうね、と言いながら顎に手を当て考える仕草をすると、
「ショッピングモールに行きましょう」
「却下だ」
これには即答した。この間のトラブルがフラッシュバックしてきた。
「なんでよ!」
「だってどこかの誰かさんが迷子になるから」
「あのね、私が迷子になるはずないじゃない。流石に馬鹿にしすぎよ」
「そう言って迷子になったやつを俺は知っている」
「じゃあ、その人はよっぽど間抜けなのね」
「…………そうだな」
ここでお前じゃい、と言わなかった俺は偉いと思う。
「じゃあ正宗は、どこがいいのかしら?」
「そうだなー」
面倒にならなければ、どこでもいいが。他の生徒も駅前に行くだろうしめんどくさいことに巻き込まれたくないので静かなところがいい。
「…………あ、そうだ。うちくるか?」
「きゅ、急に何言ってるの。まずは段階って物があるでしょう!」
「い、いやほら。今日うち休みだから誰もいないからいいと思ってさ」
「それこそ問題よ!誰もいないうちに誘って来るなんてやっぱりセクハラね。紗夜に報告するわ」
「そうか残念だな。せっかく誰もいないから猫たちを独占させてやろうと思ったのに、紗夜さんに報告されちゃ生きていけないからそれもできそうにないな」
「よし行くわよ正宗。案内しなさい」
「え、紗夜さんに連絡してもいいんだぞ。覚悟はできているからな」
「私がそんなひどいことするわけないじゃない。それよりも早くして、時間が惜しいわ」
「はいはい」
まったく、成長しててもこの単純さは変わらないんだな。湊のポンコツさを残念に思いながら家まで急ぎ足で帰った。
「ここが、猫の集いの場」
「何やってるんだ早く入れよ」
さっきから店の入口の前でそわそわしている。明らかに不審者の動きだ。
「ほら入るぞ」
そう言って湊の腕を掴み中に入る。
「ちょ、ちょっとまだ心の準備ができて「「「「「にゃーん」」」」」
「帰ったぞお前たち」
出迎えてくれたのは、うちの自慢の猫達だ。みんな可愛い。
「どうだ、湊。人生初の猫カフェの感想は」
「………………………………」
「お、おいどうした」
湊は固まったままその場で立ち尽くしていた。それを不思議に思ったのか、湊の周りに猫が集まっていく。すると
「もう、逃げられないわよ。これこそが私の狙っていた作戦、近づいてきたところをいきなり抱っこ作戦よ!可愛いわねにゃーんちゃん」
やばい。これは久しぶりで忘れていたがスーパー猫タイムだ!今の湊は危険だ気をつけなければ。
「フフ、どの子も可愛いわね。ここが、楽園ね。あ、シロちゃんはどこに要るのかしら」
「シロなら、多分俺の部屋に「にゃーん」おおシロ降りてきたか」
「こ、この子がシロちゃん。か、可愛い。触ってもいいかしら」
「ほら」
そう言って抱っこして湊に渡そうとすると、
「にゃ」
シロは湊に顔をそむけた。
「なっ!!」
「あー、ほらシロこっちのお姉ちゃんの方に行ってきな」
「にゃ!」
次は完全に俺の懐に入ってしまった。
「…………ふふ、シロちゃんずっと楽しみにしてたのにこんなことって」
「い、いや、シロは人懐っこいはずなんだけどなぁ」
湊は明らかに落ち込んだ様子でつぶやいた。
「ニャー」
その時一匹の猫が湊の足元に近づいてきた。
「この子は?」
それは一匹の黒猫だった。
「あー、そいつはクロだな。なかなか俺になついてくれないんだよな」
「か、可愛い。ほらおいで」
「ニャーン」
クロは湊の腕の中に飛び込むと懐で丸まった。いつも凛とすましている顔がふにゃふにゃになっている。
「まさかクロが湊になつくとはな」
「全く正宗は、どうせクロちゃんに酷いことでもしたんでしょ」
「いや、そんなことはないと思うけど」
そのとき腕の中のシロがクロに対して威嚇しだした。
「しゃー」
「シャー」
クロも負けずとシロを威嚇する。
「ど、どうしたの。クロちゃんたちは?」
「いや、昔から仲が悪くてな。近くにいるとすぐに喧嘩しだすんだよ」
「大丈夫なの?」
「ああ、毎回結局シロが勝ってクロのことを、いじめてるんだよな」
「そうなの、クロちゃんかわいそうに」
そう言って湊はクロの頭を撫でる。
「ニャー」
「本当によくなついてるな」
「正宗はシロちゃんがなついているから敵だと思われているんじゃないの」
「それはあり得るかも」
その後湊は猫の群れの中に突っ込んでいった。湊の周りに猫が雪崩のように覆いかぶさる。とても幸せそうな顔をしていた。
「そろそろ帰るわね」
「ああ、もうこんな時間か」
時計を見ると六時半になろうとしているところだった。そろそろ帰らないとご両親も心配する時間だろう。
「じゃあ、行くわ」
「ああ、気をつけてな」
湊が玄関の扉に手をかけようとしたときに玄関が開いた。
「ふー。疲れたわね」
「母さん、特売日だからって買い込み過ぎだよ」
「あら、そんなに荷物持ちが不満だったかしら」
「い、いやそんな事ないよ」
父さんと母さんがちょうど帰ってきた。
「正宗もういたのね…………え」
「母さんどうしたんだい…………あ」
「お、おじゃましました」
湊はそう言って横を通り過ぎようとしたが。
「ちょっとまって」
「は、はい」
母さんにがっしりと肩を掴まれる。
「あなた正宗に連れてこられたの?」
「は、はい…………そうです」
「正宗!女の子を家に連れ込むなんてどういうつもり!しかもこんなに可愛い子」
俺が家に友達も呼ばずいきなり女の子を呼んだからか目の眼光が尋常じゃない。
「いや、母さん普通につれてきただけだよ」
「嘘おっしゃい。あなたが女の子を連れてこれるはずないじゃない!!」
「本当だって!」
「あなた、名前は?」
「湊友希那です」
「そう、友希那ちゃん。正宗になにかされなかった?」
「い、いえ何もされてないです」
「本当に?脅されているとかじゃないわよね」
「そんな脅されているなんてことは」
「逆にいつも俺のほうが脅されている気がするけどな」
「…………正宗、嘘も大概にしてくれないかしら」
「なんだ、ホントの事を言ったまでだ」
「そんなあることないこと言って本当にあなたって最低よ」
「はぁー。いっつも俺のこと脅しているくせに。こないだのテスト勉強のときがいい例だ」
「それは、あなたが私のこと無視するのがいけないんじゃない」
「まあまあ、ふたりとも落ち着いて」
「父さん」
「2人が仲がいいのはわかったから」
「「よくない(わ)」」
「まぁ、当事者はわからないかな」
「友希那ちゃんはもう帰るの?」
「はい。いまちょうど帰ろうとしたところで」
「それなら、ご飯食べていきなさいよ」
「そんな、悪いですよ」
「ちょうど食材も買いすぎちゃったからね。ちょうどいいわ」
「湊、諦めろ。こうなった母さんは止められない」
「わかりました。ご迷惑でなければ」
「うんうん。じゃあすぐ作るねー」
「はーい。できたよー」
母さんが机に料理を並べていく。二人して今日は張り切って作っていた。その間湊と二人で動物のドキュメントの番組を見て時間を潰していた。
「…………おいしそう」
「そりゃあ、正宗がこんなにかわいい子をつれてきたんだ。気合も入るってものさ」
「それにしても父さん気合い入れ過ぎだよ」
こんな豪華な食事クリスマスぐらいのときしかないぞ。
「ほら、2人とも座って」
「「いただきます」」
「うーん。すごく美味しい。こんなに美味しい料理食べたの初めてだわ」
「まあ、父さんの料理は本当に美味しいからな」
「はい、おまたせ。オムライスだよ」
「こ、これが伝説のオムライス!」
「そんな、伝説だなんてものじゃないよ」
湊は震える手でオムライスをすくい上げ、口に運んだ。
「ッ…………おいしい」
「そんなに美味しいか?」
「当たり前じゃない。本当に美味しいわ」
「そうかい」
その時、自分のとどっちがうまいのか聞きそうになったが、口から出てこなかった。父さんのほうが美味しいと言われるのが無意識のうちに怖がっていた。たっく、何だこの感情。
湊はそんな事気にすることもなく、次々とオムライスを口に運んでいた。
「じゃあ、今度こそおじゃまします」
「はーい。いつでも来ていいからね。友希那ちゃん」
「はい。機会があればぜひ」
「あ、正宗送っていってあげなさい」
「はぁ、わかったよ」
薄々そうなることはわかっていた。外出るとあたりは真っ暗だった。
「今日はありがとね」
「なんだ急に。気持ち悪い」
「あら、人が素直に感謝しているのにその態度…………紗夜に報告かしら」
「すみませんでした」
たっく、紗夜さんは卑怯だろ。
「最近暑くなったわね」
「そうだな」
会話が続かん。お互い沈黙のまま結局湊の家の前までついてしまった。
「それじゃあ、明日」
「ああ、またな」
湊が玄関を開け中に入っていく。
「あ、正宗」
「なんだ」
「おなたのお父さんのオムライスも美味しかったけれど、私はあなたが作ったオムライスのほうが好きよ」
「え」
「それじゃあ」
そう言って今度こそ家に入っていく。
「それは卑怯だろ」
暗い夜道を一人で歩く。家に帰るまでこの胸の鼓動は続いていた。