もうすっかり暑くなってきた。夏になるとすべてがだるくなって来る。特に体育なんか死にそうになる。だがそんな体育も次の授業から水泳になる。察しのいい人ならわかると思うがつまりそうゆうことだ。
「正宗。次の体育のことなんだけれど」
ほらきた、絶対来ると思ってたよ。
「なんだ。まさかとは思うが俺に泳ぎを教えてくれなんて言わないよな」
「あら、正宗ったら、私のことを少しずつ理解してきたんじゃないかしら。いい傾向よ、その調子で頑張りなさい」
まったく何が理解してきただよ。嫌でも一緒にいる時間が長いんだから、だいたい分かるんだよな。
「それで、どの程度泳げるんだ?」
「・・・・まあ、溺れはしないわよ」
「つまり、まったく泳げないんだな」
「まあ、言い換えればそうかも知れないわね」
わかってたよ、大体わかってた。期待した俺が馬鹿だったんだ。
「別に泳げなくてもよくね」
「25メートル泳げなかった人は夏休み補習なのよ」
「なんでそんな事知ってる?」
「別にいいでしょそんな事」
「あ、お前去年補習で学校きたんだろ」
「・・・別にいいでしょ」
「まあ、しょうがないから付き合ってやってもいいけどな」
「本当?」
「何だいまさらそんなこと言って、いつものことだろ」
「最近あなたばかりに頼ってしまっていて迷惑じゃなかったかしら」
何をいまさら言ってるんだ。だいたい迷惑をかけてるなんて初めて喋ったときからだろ。
「はぁ、別に俺は迷惑なんて思ってもいないし、それにもうなれてきたんだよ。あとなんだかんだ言ってお前といる時間は楽しいからな」
「ま、まあ正宗がそう思うなら別にいいけど。それに私もあなたといる時間は楽しいわ」
「お、おう。そうかありがとな」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
何だこの空気。居心地が悪いと言うか、むず痒いというか。
「そ、それで、いつ練習するんだ?」
「そ、そうね明日とかでどうかしら」
「明日なわかった」
「ええ、お願いね」
そのまま、湊は机に突っ伏してしまった。俺も前の方を見る。なんだか湊の顔を見るのが無性に恥ずかしかった。
そして翌日の放課後。近くの市民プールにやってきた。
「よし着替えてくるから、あとで合流な」
「ええ、わかったわ」
そのまま男子更衣室で着替え終わり湊を待つ。
「待たせたわね」
「よしじゃあ、始めるぞ」
「ええ、お願いするわ」
「まずは、どのくらい泳げるかだ。一回行けるところまで泳いでみ」
「ええ」
そう言って湊は壁を蹴り、前に進み出すがそれ以上進まない。
「ぷっはぁ。どう、半分はいったと思うのだけど」
「5メートル弱ってところだな」
「え!!流石にそんなことは」
「後ろを見てみろ」
「まあ、最初はこんなものね」
「開き直るな。現実を見ろ」
そんなふてくされた顔したって記録は変わらないんだよなぁ。
「よし、じゃあまずはバタ足の練習からしてみるか。」
「わかったわ」
「まずは手をプールサイドにつけてやるんだ」
「いやよ」
「あのなあ、まずはここからやんないと何もできないぞ」
「バタ足が嫌じゃなくて、プールサイドに手をつくのが嫌なのよ」
「じゃあ、どうしろと」
「はい」
そう言って湊は手を差し出してくる。
「何のつもりだ」
「正宗が手をつなぎなさい」
「はぁ、これでいいか」
「ええ、始めるわよ」
湊はゆっくりとバタ足を始める。
「いいか、まずは水に慣れることから始めるんだ。そうすれば自然と、体もついてくる」
「わかったわ」
「よしこのままあっちまで行くぞ」
「絶対に手を離さないで」
「わかってるよ」
離そうと思っていたが、何されるかわからないし。
「よし一回休憩するか」
「はぁはぁ、やっと休憩ね」
一時間ほどで湊はコツを掴んだのか10メートルちょっとは泳げるようになっていた。
「飲み物買ってくるけど何がいい?」
「冷たいものなら何でもいいわ」
「了解」
今回は湊のやつ頑張ってるな。少し奮発して高いやつを買ってやる。
プールサイドに戻ると、湊は一人でバタ足の練習をしていた。
「どうした、今回はやけに頑張ってるじゃないか」
「今回はできるだけ自分の力でできるところまで頑張りたいの」
なんだ、今日の湊は少しなにか変だ。
「何か悪いものでも食べたのか?」
「そろそろ、私も正宗に頼るのも控えようと思っただけよ」
「なんでまた急に」
「・・・・なんでもいいでしょ」
「まぁ、そのほうが俺も助かるからいいんだけど」
「よし、じゃあクロールの練習するか」
「ええ。そうしましょう」
「まずはクロールはできるのか?」
「見ていなさい」
そう言って湊は泳ぎだすが、顔が上がってこない。ぷっは、と顔を真赤にして上げる。
「おい。大丈夫か」
「ゲホ、ゲホ。クロールって呼吸できないから嫌なのよ」
「いや、呼吸しろよ」
「できないから、嫌なのよ」
「はぁ、まずクロールのやり方はな」
そんなこんなで閉館時間までみっちり練習したあと解散となった。
「今日は頑張ったな」
「まあ、それなりにね」
「その何かあったのか?」
「急に何よ」
「いや、途中で一人でやけに頑張ってただろ」
「だから言ったでしょ。正宗に頼らないで、自分でできるところまでやろうと決めたのよ」
「・・・別に頼ってもいいんだぞ」
正直、湊に頼られるのは別に嫌ではない。それどころかここ最近は湊に頼られることが楽しみになってきている。やっぱり、俺がいじりすぎたのか。
「正宗にこれ以上迷惑はかけられないわ」
「・・・・・そうか」
やけにその答えが寂しく感じられた。
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「今日は頑張ったな」
正宗が声をかけてくる。
「まあ、それなりにね」
「その何かあったのか?」
その一言で心臓がドキッとした。
「急に何よ」
「いや、途中で一人でやけに頑張ってただろ」
「だから言ったでしょ。正宗に頼らないで、自分でできるところまでやろうと決めたのよ」
「・・・別に頼ってもいいんだぞ」
その言葉が無理をしていってるようにしか聞こえない。やっぱり正宗を頼りすぎるのはいけない。これ以上正宗には自分の弱いところを見せたくなかった。いつかこのままじゃ愛想を尽かさせてどこかに行ってしまうかもしれない。そうなるのが怖かった。
「正宗にこれ以上迷惑はかけられないわ」
「・・・・・そうか」
その返事がやけに寂しく聞こえた気がした。
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結局そのまま解散して家に帰ってきた。だけど、この胸のもやもやは消えてくれない。
(クッソ、なんなんだ。やっぱり湊になにかしてしまったのだろうか)
考えてみるが答えは一向に出てこない。
(腹減ったな)
まだ帰ってきてから胃に何も入れていない。キッチンに向かって、冷蔵庫を開ける。
(オムライスでいいか)
卵を割りかき混ぜる。そのままフライパンに流す。ぼー、としていたらフライパンから焦げた匂いがしてきた。
(はぁ~。やっちまった)
焦がした卵をケチャップライスに乗せる。自分の部屋に持っていき食べる。
(そういえば、湊のやつ俺のオムライスのほうが好きって言ってくれたな)
卵は焦げているのに味がまるでしなかった。
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結局あのまま帰ってきてしまった。何もする気が起きずにベッドにダイブする。
(正宗。怒っていたかしら)
それもそうか。いつもこき使っていたのに急にあなたの力はいらないといってしまったようなものなのだから。
(こんなもの部屋にあったかしら)
それは猫のぬいぐるみだった。よくよく見てみるとクロちゃんに似ている気がする。
(なんだかこれを抱きしめていると、安心するわね)
なんだか昔から大切にしていた様な感じがする。
(これでよかったのよね)
体は疲れているのになんだか寝付けなかった。