結局昨日はそのまま逃げられてしまった。だから今日は、作戦を考えてきた。それもズバリ湊を放課後にうちに誘うというものだ。単純だがやつの猫好きな性質を利用すれば成功するはず。よしそうと決まればすぐに誘うまでだ。
「おはよー」
何だ結局普通に戻ってるじゃないか。
「何だ湊。今日は気分がいいな。って今井さん!なんでここに!?」
「いやー、今日はちょっと早く家を出てきたんだよね」
「あ、そうなんですか。じゃあ湊のやつは」
「まだ、家じゃないかなあ~」
なんだ結局いつも通りか。それにしても今井さんにも見捨てられるとか今日は遅刻確定じゃないか。
「でもなんで今日は早く?」
「それは正宗に用事があったからね」
俺に用事。正直イヤな予感しかしない。今井さんがこの表情の時はろくなことを考えていないことを最近になってわかってきた。
「何の用事ですか?」
「今日放課後時間ある?」
ほらでた。今井さんが放課後誘って来るなんて嫌な予感しかしない。
「ありますけど。具体的にはどんな用事ですか?」
「それはね~」
やけにニヤニヤしている気がする。
「正宗とデートしてみたいって言ってる子がいるんだよ!」
…………マジ!?い、いや騙されるな俺。どうせ、何かの罠だ。断る勇気を持て。
「本当ですか!是非お願いします!」
おかしいな。断ったはずなのに口が真逆のことを口走っていた。
「うんうん。そう言うと思ってたよ」
い、いや違うんだよ。本当は断ろうと思ってたんだけど、勝手に口が開いててさ。
「ど、どんな子なんですか」
それよりも一体どんな子なんだろうか?
「そうだね~」
今井さんは考えるような仕草をすると、ニッコリと笑顔で答えた。
「とても厳しいんだけど、本当は誰よりも周りのことを考えていて努力家でとっても真面目な子だよ」
何だ最高じゃないか。まさに男の理想を表している女の子だ。
「ほらこの子だよ」
今井さんはそう言って自分のスマホの画面を見せてくる。
「こ、これは」
それは一人の美しいエメラルドグリーンの髪色をした女の人が子犬を抱き上げて頭をなでている写真だった。
「なんですか!この美人さんは‼︎」
「どう、可愛いでしょ」
「いや、これは可愛いと言うよりも美しい系と言ったほうが正しいですよ‼︎まさかこんなきれいな人がデートに誘ってくれるなんて人生何があるかわからないもんですね」
「じゃあ、放課後校門で待ち合わせにしてるから。よろしくね!」
「はい、わかりました!」
伝えたいことは終わったのか今井さんは教室を出ていこうとすると。
「あ、それと、アタシは用事があって行けないから、よろしくね」
「了解しました」
いやーそれにしても楽しみだなぁ。早く放課後にならないかなぁ。このときはまだ楽観視していたが、あんな地獄になるとは、予想もしていなかった。
リサSIDE
いやー、こんなにうまくいくとは思わなかったな。やっぱり正宗は単純だなぁ。そうだ、紗夜に連絡しておかなくちゃ。ルインを開いて、紗夜のトーク画面を開く。
(誘うことに成功したよ!)
スタンプと一緒に送信した。するとすぐに返事が帰ってきた。
(ありがとうございます。どのような反応でしたか?)
(そうだね~。すごく楽しみにしているって感じだったよ)
(楽しみですか?)
(うん、紗夜と出かけられるの、すごく楽しみだってさ)
(なめなれていますね、完全に)
(そ、それはそうとして。どんな作戦で行くの?)
(そうですね。具体的なことは決まっていませんね。今井さんはどのようにしたらいいと思いますか?)
(例えば、最初は普通にでかけて、最後に友希那の話を持ち出すほうがいいんじゃないかな)
(なぜ、最初にでかける必要があるのですか?)
(そうすれば、最後の方には油断して、本音をすぐ吐いちゃうんじゃないかな)
(なるほど。最初にこちら側を信用させるということですね)
(そうそう、そのほうがいいんじゃないかな)
(わかりました。では放課後そちらに向かいますね)
(了解!あ、あたしは後ろから気付かれないように尾行してるね)
(はい、よろしくおねがいします)
よしなんとか、紗夜も誘うことに成功したね。あとは・・・
「おはようリサ、こんな廊下の真ん中で何をやってるの?」
きたきた、あとは友希那を誘えば。
「おはよー、友希那。今日は遅かったね」
「別にいつも通りよ」
「あ、そういえば風のうわさで聞いたんだけど」
「何かしら?」
「放課後、正宗デートするらしいんだよ」
その言葉を聞いた瞬間友希那の目つきが変わった。
「ふ、ふーん。そうなのね。べつに正宗が誰とデートしようと勝手だけど」
「でね、その相手が紗夜らしいんだよ」
すると今度は背中のオーラが変わった。なんか虎が見えるんだけれど。
「そ、それは、何かの間違いよね」
「いや、それがホントらしいんだよね。さっき正宗に聞いたらはぐらかされたけれど、やけにテンション高かったし」
「正宗ったら、何をしているのかしら。こないだのオハナシじゃ足りなかったみたいね。今度はオシオキしなくちゃだめね」
「ま、まぁ、友希那まだ証拠があるわけじゃないんだから」
「それは、そうだけど」
「だから、放課後正宗のことを尾行しようよ。それで怪しい動きをしたらオシオキってことで」
「…………わかったわ。それもそうね、私は正宗のことを信じているから大丈夫だと思うのだけど」
「うん。それじゃあ放課後、教室で待ち合わせね」
「わかったわ」
そう言って友希那は自分の教室に入って行った。
これで友希那が少しでも嫉妬してくれて自分の気持ちに気づいてくれればいいのだけど。
それにしても放課後が楽しみだなぁ。そのまま自分の教室に向かった。
さて放課後になったわけだが。たしか、校門で待ち合わせだったよな。カバンを担ぎ教室を出る。
お、あの人かな。
「あの、すみません。新宮寺さんですか?」
「は、はい。自分が新宮寺です」
そう言って現れたのは今井さんに見せてもらった画像より綺麗な人だった。
「そうですか。あなたが」
そう言って目の前の美人さんはジロジロと観察するように見てきた。
「あのー」
「ああ、すみません。自己紹介が遅れました。私の名前は氷川紗夜といいます」
え、この人があの噂の紗夜さん?思ってたよりも全然怖くないんだけど。この人がどこに怖い要素があるんだ。
湊の方がよっぽどおそろしいじゃないか。
「はい。それでは行きましょうか」
「ええ」
「どこに行くか決まっているんですか」
「そうですね、ショッピングモールとかどうでしょう?」
あそこならいろいろなものもあるから大丈夫だろう。
「ええ構いませんよ。では、行きましょうか」
そのまま、2人で並んでショッピングモールまで向かった。
「何か見たいものとかありますか?」
「そうですね。あ、授業で使うノートがなくなったので文房具屋さんに行っても大丈夫でしょうか?」
「はい、全然問題ないですよ。じゃあ、行きましょうか」
久しぶりに来たけどやっぱりここの文房具屋はすごい種類の文房具がおいてある。
「ノートもたくさんあるんですね」
「はい、こうも種類が多いと自分がいつも使っているやつがどれなのかさっぱり」
「氷川さんは勉強は得意なんですか?」
「そうですね、得意といえば得意ですね。だけど、毎回絶対一人の生徒に勝てないんです」
確かに氷川さんの見た目なら勉強もスポーツも万能そうだ。湊とは正反対だな。
…………だがまああいつが完璧だったら俺が面倒を見れなくなるから程々でいいが。
「そうなんですか」
「ええ、今の目標はその人に勝つことなんです」
「そうなんですか。頑張ってください」
「ええ、必ず勝って見せます」
そう言う氷川さんの目には固い決意が宿っているように見えた。
「私の買いたいものは買えたので、次は新宮寺さんの行きたいところに行きませんか?」
「俺の行きたいところですか?そうですね。あ、雑貨屋さんなんてどうですか?」
「別に構いませんよ」
「では、行きましょうか」
「氷川さんは好きな動物とかはいないんですか?」
「そうですね、しいて言えば犬が好きですね」
「犬ですか」
この人もクールに見えて犬の前だと性格が変わるのだろうか。いや氷川さんはどう見てもポンコツそうには見えないよな。失礼なことを考えてしまった。
「あ、この犬の置物かわいいですね」
「そうですね、小さくてとても可愛らしいです」
「良ければ、プレゼントしますよ」
「い、いや。そんなの悪いですよ」
「そんな事言わず、受け取ってくださいよ」
「そ、そこまで言うのなら」
「じゃあ、買ってきますね」
そのままレジに向かうときに猫のコーナーがあった。その中に一つだけ特別に飾られているネックレスがあった。
…………これ湊に似合いそうだな。気がついたら無意識に持っていた。値札を見るとゼロがたくさん並んでいた。
いや、これは高すぎるだろ。…………でも小遣いとバイト代でぎりぎり買えなくもない。悩んだ末買うことにした。最近あいつにはかまってもらえなくて寂しいからな。これで機嫌直してくれるといいんだけど。
「おまたせしました。よければ、もらってください」
「ありがとうございます。では、せっかくなのでいただきますね」
「そろそろ、夕飯なので帰りますか?」
「あ、それなら寄りたいお店があるんですけど」
「なら、そこ行きますか」
「はい。行きましょう」
ついた。まさかのファーストフード店だった。まさか氷川さんがこんなところをチョイスするなんて、意外にもジャンクなものが好きなんだろうか?
「どうしました?」
「い、いえなんでもないですよ」
「じゃあ、先に席とっておきますね」
「はい、お願いします」
先に席をとって待っていると、氷川さんが大量のポテトをトレーに乗せてやってきた。
「おまたせしました」
「い、いえそんな。それにしてもすごいですね。ポテト好きなんですか?」
「ま、まあ人並みには好きです」
いや、それ人並みって量じゃないから。思わず突っ込みたくなる。
「ごほん、それで新宮寺さんに聞きたいことがあるんですが?」
「はい、何でしょうか?」
「今井さんのことはどう思っているのでしょうか」
「今井さんですか。そうですね。いい友達といったところでしょうか」
「いい友達ですか?」
「はい、今井さんとはそのくらいの関係ですよ」
「そうですか。なら湊さんはどうですか」
「湊ですか」
湊のことか、俺はどう思っているんだろう。
「あいつは、バカで、運動もできなくて、スタイルも良くなくて、その上ポンコツで、かまってちゃんで、最近なんかよくわからないことで怒っていて、うざいやつですよ。でも、」
その時いきなり胸ぐらを掴まれて叩かれた。
「…………湊。どうしてここに」
「正宗なんて大っきらい」
一瞬何が起こったのかわからなかった。そのまま、湊は走って店を出ていった。その最悪の空気のまま今日は解散となった。
家につき寝ようとベッドに入ったが寝付けなかった。叩かれた頬より胸のほうが何千倍も痛みを感じた。