おかしい、なぜだか今日も視線を感じる。昨日で問題は解決したはずだ。なのになぜ今日も視線を感じるのか、理由は明白だ。隣の席の湊友希那だ。やっぱりまだ何か俺に用があるのだろうか。
足りない頭で必死に考えるが全く思い当たることがない。そもそもあれから話していないのだから見つめられる理由がわからない。
それとも昨日言ってしまったことをやっぱり気にしていたか、そんなことを考えていると、隣から声をかけられた。
「正宗、今いいかしら?」
「は、はい何でしょうか」
思わず敬語になってしまうほど俺は焦っていた。
こいつ昨日の猫の話の時は目を輝かしていたのに、平常の時はクールキャラになるから少しビビる。
「あなたクラスの係何にするか決めた?」
ク、クラスの係?何だそのことか内心焦ったがそんなことだったか。
そう今は春先のクラスの係決めの時間だった。周りのクラスメイトは友達同士で席を立ちどの係にするか自由に話あっている。
そんな中俺たちはいつものようにぼっちブームをかましていた。側から見たら明らかに浮いていた。
「ああ、一応決めているけどそれがどうかしたか」
「正宗はどれにするの?」
「決まっているだろ。ストーブ係だ」
そう、ストーブ係とは冬の時期、朝来たらストーブのスイッチを入れるだけの係だ。俺は中学二年生からずっとストーブ係だ。
何故かだって、そんなの決まっているだろう。一番楽だからだ。中一のときに庶務係というのをやったがそれがもうめちゃくちゃ大変で二度とやりたくないと心に誓っている。あれは、ただの小間使いだ。
それに比べてストーブ係のいいところはまだある。基本はペアで組む係決めだが、ぼっちの俺にとってはストーブ係は一人でやれるからとても楽だ。
「どうせあなたのことだから、一番楽できるとかそんな理由でしょ」
湊に思っていることをあっさり当てられる。こいつもぼっちでめんどくさがり屋だから俺の思考が読めるのか。それが少しムッとした。
「なんでわかったんだ」
「あなたがわかりやすいのよ」
「へーへーそうですかい。おれはわかりやすい人間ですよ」
俺て、そんなにわかりやすいのか。なにげにショックだ。湊も猫のことになるとこれほどわかりやすいやつはいないのに。
「じゃあ、逆に聞くが湊は何の係にするんだ」
「私?私はそうね・・・何にしようかしら」
「何だ、まだ決めてなかったのか」
「ええだから、あなたは何にするのか聞いたのよ」
「参考になりましたかお嬢様」
さっきの仕返しとばかりに、言い返す。
「ええありがとう。参考になったわ」
そういい、湊はいつものノートに視線を戻した。正宗は気づかなかったが、その頬は少し赤くなっていた。
「じゃあ、係決めを始めたいと思います」
「まずは、係の一覧を黒板に書き出すから、何にするかみんな周りと話し合ってね」
先生はそう言うと黒板に係の一覧を書き出していく。
話し合いなんか不要だ。俺は最初からストーブ係と決めているからな。
「じゃあこの中から決めたいと思います」
ん。おかしい。黒板の隅から隅を見回してもストーブ係の文字が見えない。もう一度見るがやっぱりない。なぜだ、なぜストーブ係がない。こんなことは一度もなかったぞ。
この非常事態に俺は少し戸惑っていた。
「ストーブ係ないわね」
その事実を淡々と認めるかのように隣からそんな声が聞こえた。
「クソ、こんなこと今まで一度もなかったぞ」
「認めなさい現実を。ストーブ係はないのよ」
そうだ、無いんだったらしょうがない今できることはどの係が、一番楽をできるかということだ。全体的にこれといって楽そうなのはなさそうだ。そもそもストーブ係以外どんな仕事内容かよくわからないというのが事実だ。
「湊は決めたのか?」
「そうね、保健係とかかしら」
「保健係?具体的には、どんな事をやるんだ?」
「例えば、身体測定の手伝いとか。体育祭での救護係とかよ」
明らかにめんどくさい。それに明らかにペアでやる仕事だから俺にとっては地獄だ。
「うーん。なんか仕事多そうだな」
「あら、私は去年やったけどそんなに大変じゃなかったわよ」
「いや、なんか仕事多そうだし却下だ」
「正宗こんなこともめんどくさがると、将来困るわよ」
湊は残念なものを見る目でそう言ってきた。なんなんだそのごみを見る目は。
「いいか、湊。学生にうちはできるだけ楽をしたほうがいいんだ。社会に出たら楽はできなくなるからな」
確か正月に親戚で集まったときにいとこの兄ちゃんが酔いながら熱弁していたことを思い出した。あの時はいつも真面目な兄ちゃんが酔った勢いで普段から溜まっているストレスが爆発したのだろう。
社会人の闇を見てしまった。
「はあ、あなたがそれでいいのならいいと思うけど」
「湊は、保健係に決めたのか?」
「いえ、もう少し考えるわ」
「そうかい」
湊と話し終えたタイミングで先生から声がかかった。
「まだ決めてない人は、残りの係で決めてください」
え、ちょっとまってまさかもう決め始めていたのか。湊と話していたせいで、気が付かなかったのか。
どうする、本格的にまずいぞ。そもそもこの空気の中じゃ手も上げづらいし。
そんなこんなで結局最後まで、湊と残り、「じゃあ、新宮寺くんと湊さんはゴミ捨て係でいいかな」
「はい。大丈夫です」
湊は力強くそう答えた。そうして結局俺は湊と一緒にゴミ捨て係になったのだった。
放課後になった。ゴミ捨て係とは、基本的には掃除後のゴミを集めて焼却炉まで捨てに行く係だ。それもほぼ毎日。正直言ってめんどくさい。毎日放課後ゴミを集めて焼却炉まで持っていくとなると結構大変だ。
今はゴミを集めて焼却炉に向かっている途中だ。なんで俺がこんなめんどくさい仕事になってしまったのだろう。
すべての原因はストーブ係がなかったからだ。
「どうしたのそんな顔して」
湊が話しかけてきた。そうだ、忘れていたが湊ともほぼ毎日放課後を過ごすことになるというわけだ。少し憂鬱になった気分の中話しかけてくる。
「いや、俺の愛おしい放課後ちゃんにさようならをしていただけだ」
「はあ、あなたにとって放課後は一体何なのよ」
「俺にとっての放課後?そんなもの決まっているだろう。切っても切り離せない関係だよ」
と言ってもとくにやることもないけど、学校にいるよりは家にいてシロたちと遊んでいる方が楽しいしな。あぁ、早く帰って猫たちと戯れて癒されたい。それだけを希望に焼却炉に向かっていた。
「はぁ。ごめんよシロ今日から帰るのが遅くなりそう」
気がつくと、自然と口からそんな言葉が出てきていた。そろそろいつもは帰ってる時間なのでいつもの場所で一人で待っているだろう姿を思い出して悲しくなってくる。
「シロ?」
湊が首をかしげて聞いてきた。おかしい。ほんの小声で呟いただけなのになぜ聞き取れたんだ。こいつもしかして耳がものすごくいいのかもしれない。
「ああ、うちの猫の一匹さ。多分一番長く一緒にいるかもなぁ」
「そ、それってどんな子なの?」
急に湊のテンションが上がった気がした。まるで、昨日のキーホルダーの時のようなテンションになっている。
「あ、ああ白猫でさ結構人懐っこくてさ、すごく可愛いんだよ」
「写真とかって無いのかしら」
やたらグイグイ来るな湊のやつ。猫の話になると、人が変わったように喋りだす。まあ、そこが話してて面白いやつなんだよな。普段とのギャップってやつなのか。
「ほらこいつだよ」
そう言ってスマホの中にある厳選したシロの写真を見せてやった。ああ、いつ見ても可愛いなぁ。
「こ、この子がシロちゃん可愛い」
す、すごく嬉しそうだな。まあ、シロが世界で一番可愛いからその反応はわかるけどな。
「湊。やっぱりお前猫が好きだろ」
何気なく訪ねてみると、急に我に返ったのか慌てた様子で答えてきた。いつものきつめの顔に戻って口を開いた。
「な、何を言っているのかしら正宗は。いいだいたい猫が可愛いなんて当たり前のことじゃない。それとなんで猫が好きということにつながるのかしら。可愛いものを可愛いと思うのはふつうのことよ。そもそも可愛いと好きという感情は似ているようで違う感情なのよ。あとh「わかったお前が猫を好きではなく可愛いものとしてみていることはよくわかった」
「そう。わかってもらえてよかったわ」
「お、おう」
なぜだか知らないが湊は猫が好きだということが他の人に知られたくないらしい。あと、猫は好きか?という質問もおもしろ半分に聞いてはいけないということも学んだ。
そのままゴミを捨て、今日は解散となった。
「ただいまー」
「あら今日は少し遅かったのね」
そう言ってきたのは、猫カフェ【猫の集いの場】の店員でもあり俺の母さんでもある。
「いや、ゴミ捨て係になってさ。これからは放課後はこの時間ぐらいになるかも」
「あら、あなたがストーブ係以外をやるなんて、珍しいこともあるもんね」
「まあ、いろいろあってさ」
「その、いろいろを母さんは聞きたいんだけどなー」
うちの母さんは結構おしゃべりな方で、話し出すと止まらない性格の人で湊とは正反対の性格だ。
「また今度ね」
「えぇ~そんなこと言って今まで話したことないでしょ」
「母さん、正宗も困っているからそれぐらいにしてあげたらどうだい」
そう言って店の厨房から出てきたのは、【猫の集いの場】のマスターでもあり俺の父さんだ。
「ほら今のうちに上に行きなさい。シロも待ってるよ」
「ありがとう父さん」
父さんは俺が母さんに捕まったときに助けてくれる。
部屋の扉を開けるとシロが勢いよく飛び込んできた。いつもより遅く帰ってきたからスリスリとすり寄ってくる。
「ごめんな、シロ今日から少し帰るのが遅くなるのかもしれない」
「ニャー」
何となくその鳴き声は寂しそうに聞こえた。
「そうだ、シロ。今日なお前の可愛さに気づいた人がまたできたんだ。昨日話した隣の席のやつ、湊ていうんだけど湊もシロの事可愛いてさ」
「ニャーン」
今度の返事は少し嬉しそうに聞こえたような気がした。