猫好きの湊さん   作:バーサク戦士

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調理実習

 筋肉痛がやばい。昨日のシャトルランで足の感覚がない。感覚がない足を引きずって学校に行く。

 

 なんとか自分の席にたどり着く。今日は確か午後から調理実習があったはずだ。そんなことを思い出していると隣から声がかかった。

 

「おはよう。正宗」

 

「よう、湊」

 

「今日はいつもより遅いな」

 

「ええ昨日の体育のせいで足が痛くて」

 

 いつものクールな表情を少し崩しながらそう言った。もともと体力のないこいつのことだ昨日あれだけ走ったのだから俺以上にきついはずだ。

 

「やっぱり湊もか」

 

「そう言う正宗も?」

 

「ああ、もう足の感覚がない」

 

「そう昨日はすごかったものね。足大事にしなさいよ」

 

「なんだ今日はやけに優しいな」

 

 やけに湊のやつが優しい気がする。正直言ってなんか企んでいる気しかしない。最近ずっと一緒にいるせいか何を考えているかわかってきた。

 

「あら、素直に足の心配をしてあげてる人を疑うの」

 

「どうせなにか企んでるんだろ」

 

「よくわかっているじゃない」

 

 やっぱりな。そんなことだと思ってたよ。

 

「で、今度はなにをすればいいんだい。湊さんや」

 

「今日って午後から調理実習だったわよね」

 

 湊はすごくニコニコしながら言ってきた。悪魔の笑みにしか見えない。

 

「そうだったな。今日はなにを作るんだったけな」

 

「今日は確かオムライスだった気がするわ」

 

 そうか、オムライスか。料理は人並みよりはできると自負している。と言っても、休日忙しいときに父さん頼まれて厨房に入るぐらいだが。オムライスは店の看板メニューの一つで父さんに厳しく仕込まれたから得意料理のひとつだ。

 

「正宗は料理得意よね」

 

「なんで、そう思うんだ」

 

 ここでそうだ。なんて言ってしまったらめんどくさいことになるのはわかっている。

 

「だって家の手伝いとかしているでしょう」

 

「あのなぁ湊、めんどくさがりな俺が家の手伝いなんかするわけないだろう」

 

「神に誓って言える」

 

「ああ、誓える」

 

 湊はそう、と言って引き下がった。ふー危ないところだった。

 

「あ、じゃあ正宗」

 

「なんだ、まだなにかあるのか」

 

「シロちゃんに誓っていえる」

 

 こ、こいつなんて恐ろしい女だ。まさかシロを出してくるとは。

 

「い、いいいい、言えるさ」

 

「私の目を見てはっきりと言って」

 

 そう、言って湊が顔を近づけてくる。やっぱり、湊のやつ目元がシロに似ている気がする。

 

「…………く、誓えません」

 

「そうじゃあ、今日の調理実習のペア組んでくれるわね」

 

「はぁ、わかったよ」

 

 結局俺は湊とペアを組むことを了承してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後の授業の開始のチャイムが響く。昼休みの間誰よりも早く調理室に来ていた俺は、いち早くエプロンと三角巾を身につけていた。正直言ってテンションが上がっている。なんせ料理は唯一の特技だからな。段々とクラスの連中も調理室に入ってきた。

 

「あら、早いわね正宗」

 

「何だ遅かったな湊」

 

「ええ、ちょっと話が長くなって遅れてしまったわ」

 

「なんだ、一緒に昼飯を食べるやつなんかいたのか」

 

 確かにちょくちょく昼休み教室からいなくなる日があると思ったが今日がそうだったか。多分隣のクラスのギャル子だな。よくよく考えてみたら湊とギャルの接点なんかないよな。やっぱり湊のやつパシリにでもされているのか。

 

 校舎裏でギャルにいじめられている湊の姿が容易に想像できる。

 

「湊、悩みがあるなら話ぐらい俺も聞けるからな。いつでも相談してこいよ」

 

「急になによ。気持ち悪いわね」

 

 き、気持ち悪いだと。人がせっかく心配してやってるのに。

 

「ほ、ほらたまに隣のクラスのギャルに昼休み連れて行かれてるだろ。だから、パシリにでもされているんじゃないかと思ったんだよ」

 

 湊は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして答えた。

 

「あのねぇ、彼女は友達よ。昔からのね。幼馴染と言うやつかしら」

 

「え、湊お前友達いたのか」

 

 嘘だろ。湊と俺は友達がいないはずだ。それなのにまさかあのギャルが友達だったなんて。

 

 確かにギャルにも二種類いてヤバいやつと俺たちみたいなぼっちにも声をかけてきてくれるいいギャルだ。

 

「当たり前じゃない。友だちがいない人なんているはずないじゃない」

 

「嘘だ…………俺と結んでたぼっち同盟はどうなったんだよ」

 

「そんなもの、結んだ覚えはないわ」

 

 畜生、ついに湊に負けることができてしまったのか俺は。少なくとも今のところは俺が負けていることはないと思っていたのに。

 

 そんなことをしているうちに湊はエプロンに着替えている。

 

「猫柄」

 

 ニコニコしながら身につけたエプロンは猫柄のエプロンだった。

 

「ふふ、どう可愛いでしょ。リサがこの日のために作ってくれたのよ」

 

 湊は明らかに上がったテンション(スーパー猫タイム)で訪ねてきた。

 

「クールな湊に合わせた色合いと猫の模様めっちゃ似合ってるぞ。きっと作ったそのリサって人は湊のことよくわかってるんだな」

 

「そのリサがさっきあなたが言ってたギャルよ」

 

「…………マジで」

 

「ええ、マジよ」

 

 はぇーあのギャルいや、リサさんは見かけによらず家庭的なのかもしれない。…………家庭的なギャル。悪くない。

 

「はーい。じゃあ着替え終わった人からペア同士で私の周りに集まって」

 

 先生がみんなに向かって声を掛ける。

 

「ほら、行くわよ正宗」

 

 湊は急ぎ足で先生の方まで向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ今説明したものをペアで作ってね。くれぐれも火と包丁の使い方は気をつけるように」

 

 はーいと声が調理室に響く。湊は例の如く俺の横で真剣な表情で話を聞いている。こいつがこの顔をしている時は真面目にやってる時だと思うが、やること全てがポンコツなのは言わない約束だ。

 

「じゃあ湊は食材と調味料を持ってきてくれ。俺は調理器具を持っていくから」

 

「ええ、わかったわ」

 

 そのまま、湊は食材の方に向かっていった。俺は調理器具をとってきて席に戻ってくる。

 

「よし、じゃあ始めるぞ」

 

「まず私は何をすればいいかしら」

 

「じゃあ湊はハムを1センチに玉ねぎをみじん切りにしてくれ。できるか?」

 

「ええ任せて頂戴」

 

 いくらポンコツの湊といえど野菜を切ることぐらいはできるだろう。俺はそのうちにケチャップライスを作るか。

 

 フライパンを温めているときに湊の声が聞こえた。

 

「痛ッ」

 

 声がした方を見てみると湊が指先を握って目をつぶっていた。明らかに指先を切っていた。それを見た瞬間コンロの火を止めて湊に駆け寄る。

 

「大丈夫か!湊」

 

「…………ええ大丈夫よ。ちょっと指を切っただけよ」

 

 湊はそう言って指を隠す。こいつのことだ俺に迷惑をかけたくないとか言う後ろめたい理由だろう。

 

「おい、切った指見せてみろ」

 

「これぐらい大丈夫よ。正宗は作業に戻って」

 

 あーもう強引なやつだな。俺はそのまま湊の手を掴み水道の方に向かった。初めて握った湊の腕は俺と違って細くて柔らかかった。

 

「だから大丈夫っていってるでしょ‼︎」

 

「いいからおとなしくしておけ…………きれいな指に傷跡でもついたら大変だろ」

 

 そう言うと湊はおとなしくなった。

 

「ほらこれで大丈夫だ」

 

 綺麗に消毒をしてから湊に指に猫の絆創膏をつけてやる。

 

「ありがとう」

 

「あとは俺がやるから湊はおとなしくしておけ」

 

「…………わかったわ」

 

 少ししょぼんとした顔で椅子に座った。明らかに落ち込んでいた。

 

 他のグループと大分差がついたな。よし、じゃあ本気をだすとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 彼と話すようになったのはここ最近のことだ。最初は彼のカバンについてる猫のキーホルダーを見つけたことがきっかけだ。

 

 それは猫好きの間では有名なキーホルダーだった。【猫の集いの場】その伝説の猫カフェは予約が取りづらくて有名だ。

 

 そこのキーホルダーはさらに数が少なく一番の人気商品かもしれない。そのキーホルダーを彼が持っているのを見つけてしまってからは彼のキーホルダーをずっと見つめていた。

 

 そんなときに彼から急に声をかけられた。そこから彼とよく話すようにもなった。案外勉強ができること。スポーツが得意なこと。基本的に楽をしたいこと。でもやると決めたからにはやる人。そして、案外優しい人。

 

 さっきわたしが怪我をしたときに強引だったけど私の心配をしてくれたそんなところが優しいのかもしれない。そんな事を考えているとき、「猫の集いの場、特製オムライスおまちどうさま」と声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「猫の集いの場、特製オムライスおまちどさま」

 

 湊はやけに落ち込んだ表情で椅子に座っていた。まださっきのことを気にしているのか。

 

「どうした湊やけに落ち込んでるな」

 

「正宗」

 

「ほらできたから、食べるぞ」

 

「これは」

 

「ああ、うちの特製のオムライスだ。一応自信はあるぞ」

 

 それは猫がケチャップで書かれている猫の集いの場のオムライスだ。何回も作った料理だ。味には自信がある。

 

「…………可愛い。写真撮ってもいいかしら」

 

「ああ、父さんいわくSNS映えするように頑張ったらしいからな」

 

 湊はそう言って、写真を連写する。

 

「…………おい、食べるぞ」

 

 とんでもないシャッター音が聞こえてきたがやっと満足したのかスマホをしまった。

 

「…………そうね」

 

「「いただきます」」

 

 うん。いい出来だ。隣を見ると湊のスプーンは全く進んでいなかった。

 

「…………どうした?湊進んでないぞ」

 

「食べれないわ。こんな可愛いの私は食べれない」

 

 もう、めんどくさいな。俺は湊の猫をスプーンで伸ばした。

 

「ほらこれで食べられるだろ」

 

「…………正宗。あなたなんてことするのよ」

 

「ま、まあほら食べてみろよ」

 

 湊は渋々と口にスプーンを運んだ。

 

「ん、美味しい」

 

「おお、そうか。そいつはよかった」

 

「ええ、本当に美味しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからは湊も会話もなくただ静かに食べていた。他のグループも食べ終わり片付けの時間になった。 

 

「正宗」

 

 やっと食べ終わり食器を持ってきた湊がやってくる。洗い物をしているときに声をかけられた。

 

「ん、何だ湊」

 

「…………さっきはありがとう」

 

 素直に驚いた。こいつがお礼を言ってくるなんて。

 

「…………何よその目は」

 

「なんでもない。さっきのことは別に気にしなくてもいいぞ」

 

「言っておかないと、私の気がすまないのよ」

 

「何だ律儀なやつめ。まあ湊を見ていなかった俺も悪いしな。気にするな」

 

「そう、じゃあ私は食器戻してくるわね」

 

 湊は小走りで食器を戻しにいった。とてとてと走っていき途中でつまずいて転んでしまった。急いで泡を落として駆け寄る。

 

 前々から思っていたが案外湊のやつはポンコツなのかもしれない。掴んだ手を見ながら俺はそう思った。

 

 

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