昼休み。学生のみんなはそれを待ち望んで学校に来る人も多いだろう。だがボッチは違う。昼休みとはボッチにとって一日の中で一番苦痛な時間なのだ。昼休みのボッチの行動パターンは、寝る、スマホをいじる、図書館に行く。だいたいこの3パターンになる。
あとボッチだと昼ごはんを食べ終わるのがすごく早くなる。誰も喋る相手がいないのでだいたい5分以内には食べ終わっている。さてなんでこんな話をしているかと言うと今日俺は弁当を家に忘れた。
いつもだったら、食べずに耐えるのだが、あいにく今日は午後から体育があるので、食べないわけにはいかない。めんどくさいと思う気持ちを押し殺して財布を手に取り、食堂まで向かった。
さて食堂についたがどうしようか。手頃なもので手短に済ますかせっかくなので、ガッツリ頼むか。5秒ほど考えた結果ガッツリ食べることにした。
せっかく久しぶりの学食だ。少しぐらい贅沢をしてもいいだろう。
「おばちゃん、激辛麻婆豆腐とラーメンセットで」
頼んで列に並ぶ。おぼんの上はすごい重量感だった。これで麻婆豆腐とラーメンを組み合わせることで麻婆ラーメンにできる。
これが密かな楽しみでもあった。
さて問題はここからだ。ボッチが学食を嫌いな理由のひとつに席の確保の問題がある。食堂を見渡してみるがカウンター席がひとつも空いていない。
「おいおい、流石に俺でも一人でテーブル席で食べる勇気はないぞ」
すると、遠くの方のカウンター席がひとつ空いた。
チャンスとばかりに急ぎ足でその席まで向かう。座ろうとした瞬間横から割り込む影が見えた。その影は席に座ると何事もなかったかのように昼食を食べ始めていた。
なんなんだこいつは。俺が最初に目をつけていた席なのにいきなり割り込んで来るなんて。
「…………すいません、そこの席座ろうとしたんですけど」
意を決して話しかける。ここは譲ってはだめだと勘が俺に訴えかける。
「ごめんなさいね。正宗ここの席は私が先に目をつけていたのよ」
その声の主はそう答えて振り返った。 聞いた瞬間わかった。ココ最近ずっと一緒にいたから誰なのかすぐわかった。
「み、湊なぜ貴様がここにいる。貴様はたしか、ギャルに連れられて教室を出ていっただろう」
そう、それは湊だった。そして奴はギャルに連れられて教室を出ていったはずだ。
「リサは部活の用事が入ったとか言ってどこかに行ってしまったわ」
「そうか、だとしてもここは俺の席だ」
ここで引く訳にはいかない。ここで引いたら俺はテーブル席で一人で食べることとなる。それだけは絶対に避けなくては。
「はぁ、正宗ここの席は学校のものよ。だいたいあなたの席ならば名前でも書いてあるのかしら」
「そんな子供みたいな屁理屈が通じるか」
「あら、あなたにはレディーファーストをしようという、思いがないのかしら」
「ああ、レディーだったら俺も席を譲るさ。だが湊お前はレディーなんかではない。ガールだ」
「…………私のどこがガールですって」
「自分の身長と胸に聞いてみな。自ずと分かるはずだ」
いつもは俺が負けて折れてきたが今回ばかりは譲って貰わなければならない。
「…………正宗あなた身長だけならまだしも私の胸まで敵に回したわね」
さっきと打って変わって視線が鋭くなる……こいつもしかして胸がないことを気にしていたのか。だったら正直申し訳ないことを言ってしまった。
「何だ自覚はあったのか」
「覚悟はいいかしら正宗」
ゴゴゴと背後に字幕が見えるくらいの圧を感じる。
「覚悟ならお前の胸をネタにしたときからとうにできている」
ふっと気づいたが周りがやけに静かだ。そう思って周りを見渡してみると、食堂にいるほとんど全員から視線を浴びせられていた。
「お、おい。湊周りを見てみろ」
「そんな事を言って、私の気を逸らそうとしても無駄よ」
湊は聞く耳を持ちそうもない。気がつくと湊の隣の席が空いていた。
「湊。俺はこっちの席を使うからもう大丈夫だよ。だから冷静になってくれ」
すると、湊は落ち着いたのか周りを見渡した。その瞬間顔がだんだんと真っ赤に染まっていく。その顔のまま席につくと黙々と食べだした。
「湊、顔が真っ赤だぞ」
「うるさい。正宗だって顔真っ赤よ」
そのまま会話をすることなく俺たちは昼食を食べ終わりいそいそと食堂を出ていった。
それから俺たちは逃げるようにご飯を食べ屋上に移動した。
「ほらよ」
そう言って湊に缶コーヒーを投げ渡す。それを不器用に受け取る。
「全く。あなたのせいで恥をかいたじゃない」
「だからそれでチャラでいいだろ。俺だって恥をかいたんだからお互い様だ」
二人して顔を赤くして急いで食べたがそれでも周りからヒソヒソと話し声がしたのは俺の気のせいではないだろう。
「…………言っておくけど、胸の件忘れたわけじゃないから」
「なんだ…………覚えていたか」
まあ、湊の胸の話をしたのは少し言い過ぎた気もするな。流石にあれは俺もデリカシーがないと思いコーヒーを奢ってやった。
「すまん湊。そんなに気にしているとは思わなかった」
今回ばかりは俺が悪いから素直に謝った。
「まったく、最初から素直に謝っとけばいいのよ」
そう言って湊はタブを開けた。
「ッ・・・苦」
何かコーヒーを受け取った時に眉間にシワを寄せていたがどうやら湊はコーヒーが苦手らしい。それを俺にばれたくないと言う意地で無理やり飲んだ顔だあれは。
「なんだ、湊苦いの苦手なのか」
さっき謝ったばかりだがその表情を見ているといじりたくなってきた。
「そんなわけないじゃない。私は苦いのが大好物なのよ」
また変な強がりを言ってる。全く素直に苦手と言えばいいものを。
「そうか、大好物なら一気飲みできるよな」
「…………当たり前よ」
その声には覇気がない。安い挑発を受けてしまって後悔しているのがひしひしと伝わってきた。素直に飲めないと言えば俺のと交換してやるものを。
「じゃあ見せてくれよ」
「…………ええ、見てなさい」
意を決したのか湊は飲み口に口をつける。
「やっぱり無理」
寸前のところで手を引っ込める。
「全く最初から無理って言えよ」
そう言って湊から缶コーヒーを奪い取り一気に飲み干す。ブラックはいつも家で飲んでいるから普通に飲める。湊の性格ならブラック派だと思ったがどうやら違ったようだ。
「ほら湊には俺のやるから、まだ口つけてないからいいだろ」
「ま、正宗あなたそれ」
「ん?ああ、別に俺潔癖でもないから大丈夫だぞ」
「…………そう言う問題じゃないと思うのだけれど」
赤くなった顔でそう言い湊はちびちびとミルクティーに口をつける。
その時授業の開始のチャイムが校内に響き渡る。
「…………始まっちゃったわね」
「そうだな」
そう言いつつもお互い動こうとはしない。今日はやけに天気がよく午後の今の時間は一番眠くなってくる。
「授業行かなくてもいいかしら」
「もういいだろ、いまさら行くのもめんどくさいし」
「それもそうね」
屋上が静粛に包まれる。会話が続かない。あれ、俺って湊といつもどんな事話してたっけな。思い返してみるが基本的には猫の話しかしてないように感じる。それかいつも罵りあって俺が負けるかのどちらかだ。
「正宗…………あなた休日はいつも何しているの?」
湊から話題を振れられる。…………こいつから話題を振ってくるなんて珍しい。いつもは俺から話題を出しているからな。
「休日か…………基本的には家にいて、ゴロゴロしていることが大半だな」
「そう」
「逆に聞くが湊は休日何してるんだ?」
こいつの休日とか全くもって予想がつかない。見た目が完璧にインドアだからどうせ家に引きこもっているのはわかるが。
「私?そうね基本的にはライブハウスに行ったり、家の近くの公園とかに行ったりしているわ」
てっきり引きこもっていると言う返事を期待したが、それも外れて案外アグレッシブな答えが返ってきた。こいつがライブハウスに行くとは。
だけどよくよく考えてみると、いつもイヤホンをして音楽を聞いているっぽいから案外音楽は好きなのかもしれない。
「ライブハウス?湊ライブなんか見に行くのか」
「…………まあ、そうね」
「へえ、意外だな。そんなふうには見えなかったから」
「正宗は音楽で好きなジャンルとかあるのかしら」
音楽か正直言ってあまり聞かないな。テレビでよく耳にするものなんかは聞くが。
「そうだな、最近のやつはよく知らないけど昔あるバンドをすごく聞いてた記憶はあるな」
「何て言うバンドなのかしら…………」
「名前は覚えてないんだけど、父さんと母さんがそのバンドのことすごく好きでさよく家とか車の中とかで聞いてた気がするな。でもなんか急に解散したらしくて父さんと母さんめっちゃ凹んでたな」
あの時のことは俺も幼いながらに覚えていた。確かメジャーデビューしてから方向性が変わってしまい、それが世間には受け入れられず徐々に人気がなくなって行った。そして気がついたらいつの間にか解散してしまっていた。
あの時は結構ショックだった記憶がある。
「…………へえ、そんなバンドもあったのね」
「ああ、何だったかな。ひとつだけ覚えてる曲があるんだ。確かLOUDERだったけな」
「な、そ、それってまさか」
なんだやけに湊なやつが動揺しているように見えるが。あまり今の若い女子にはあのハードロックな感じはわからないと思うが。音楽にそこそこ詳しいからもしかして知っているのか?
「どうかしたのか、湊?」
「い、いえなんでもないわ」
「そうか…………ならいいけど」
「…………正宗」
「ん、なんだ」
その時の湊の表情は今でも忘れない。こいつのこんなに真剣な表情は初めて見たからだ。そしてそれはどこか悲しそうな表情でもあった気がする。
「その曲もう一度聞きたいかしら」
「そうだな。できればもう一度聞きたいな。音楽のことはよくわからないけどあの曲は、心に響くものがあった気がする」
音楽のおの字も知らない俺でもたまに思い出すことがあると言うことは、それほど強烈で印象に残る曲だったのだろう。それをもう一度聞けるかと言われたら、もう一回聞いて見たいと思うのは当然だった。
「だったら今度の休日ライブハウスに来て」
「ん?なんでライブハウスなんだ」
「その曲をもう一度聞きたいなら、ライブハウスに来ることいいわね」
湊は気迫に満ちた表情でそう言った。もし断ったらわかっているよなと半ば脅し気味に。
「あ、ああ、わかったよ。今度の休日ライブハウスに行くよ」
その言葉を聞くと湊は何かを決意したかのように屋上を出ていった。