あの曲を友希那が持ってきてから少しばかりが経った頃。今はライブに向けて猛練習中だった。
「よーし。今日はここまでにしようか」
「そうですね。練習を始めてからだいぶ時間が立ちましたし今日は終わりにしましょうか」
「私はもう少し残るわ」
そして変わったことがもう一つ。やけに友希那が張り切っているのだ。いつも練習にストイックな友希那だが今回はいつものそれとは比べものにはならないぐらいストイックだった。
「友希那、頑張りたいのはわかるけどそろそろ上がんないと喉が潰れちゃうよ」
「そうですよ。友希那さん喉を休めることも大切なことですよ」
「いえ、こんなものじゃ本番までに間に合わないわ」
「友希那〜お父さんがに見にくるからって頑張りすぎてもだめだよ」
「この歌を聞きたがっている人がいる。だから完璧に仕上げる必要があるのよ」
「はーい友希那以外皆集合ー!!」
あまりにも頑固だからみんなに集合をかける。
「なになに、リサ姉」
「なにかしら、今井さん」
「…………どうかしたんですか?今井さん」
「ねえ、みんな最近友希那の様子ちょっとおかしくない」
「確かに一昨日からいつも以上に気迫を感じます」
「それにさ、練習中だけじゃないんだよ。学校の授業でさシャトルランがあったんだよ」
「シャ、シャトルラン」
燐子の顔が一気に青ざめた。まあ確かに燐子は友希那と同じぐらい動けなさそうだからね。
「それがどうかしたのリサ姉?」
「今までさ友希那は、絶対に35回を超えたことがなかったんだよ」
「湊さんそれはいくらなんでも少なすぎます」
「ま、まあそこはおいといて。今年はその友希那が44回も行ったんだよ」
「それがどうかしたんですか?」
「いや、普通ありえないんだって、あたしが一緒に頑張ろうって言ってもいつの間にか隣にいないことばっかだったし」
そう、みんなはわからないと思うが友希那は絶対にいつもそんな回数は行かないのだ。それが今年に限って44回も行ってたのは明らかに異常だ。
「でも、今年は44回もいったんですよね」
「そうなの。しかもその日の帰り道明らかにテンションが高かったの」
「ああ、たしかにその日の練習は湊さんが明らかに嬉しそうでしたよね」
「あこも覚えてます。あの日の友希那さんあこがミスをしても笑いながら気をつけなさいって言ってきただけでしたもん」
「はい、たしか時折小さな声で…………やっと会えるとか言ってました」
「しかも友希那一昨日食堂で男子生徒と言い合いになってそのままどこかにつれて行かれたらしいんだよ。そうクラスの子から聞いてさ。心配なんだよね」
確かその日教室に戻ったらクラスメイトの子が教えてくれた。それが心配になりその日に友希那に確認しようとしたら、今日のようにすでに張り切りモードに入っていたのだ。
「男子生徒ですか。もしかするとその男子生徒になにか言われて口論になり、そのままどこかにつれていかれたとかでしょうか?」
「え、どう言うことですか。紗夜さん」
「例えば湊さんの歌声が聞くに堪えないとか、そんな感じで因縁をつけられたのではないでしょうか。そのことに怒った湊さんが言い返し口論になり。そして怒った男子生徒が湊さんをどこかに連れて行って何かをされたのかもしれません」
紗夜は淡々と言うが、それを聞いた瞬間一気に顔が青ざめた。
「え、そ、それって結構危なくない」
「そして何かをされたあと『誰かに言ったりしたらわかっているよな』と口封じされているのかもしれません」
「もしそれがほんとだったら大変ですよ、紗夜さん!」
「だとしたら…………なぜいつも以上に気合を入れて練習をすることと…………関係があるのでしょうか」
「それは、せめてもの湊さんの抵抗の印なのではないのでしょうか」
「もしかして、いつも以上に練習をして私達にSOSをだしているのかもしれない」
「もしそうだとしたら、あこたちが声をかけてくるのをまっているとか?」
「うーんよし、決めた。おーい友希那」
「何かしらリサ別に待っていなくても先に帰っててもいいのに」
「そうじゃないよ友希那。これからみんなでファミレスにでも行こうかって話になっててね。でね、友希那も誘ったんだ」
「リサ。私は今ファミレスに行く時間なんかないの。一秒でも時間が惜しいのよ」
「・・・・・ねえ友希那。最近私達に隠していることない」
「な、なにを言ってるのリサ。私があなた達に隠し事なんかするわけないじゃない」
「ねえ、友希那知ってる。友希那って嘘を付くとき目を左下に向ける癖があるんだよ」
「べ、別に嘘なんかついて」
「はーい、いいから行くよ」
「あ、ちょ、ちょっとリサ引っ張らないで」
「で、ホントのところはどうなの友希那」
「だから、私は隠し事なんかしていないわ」
嘘だ。長年幼なじみをしているアタシにはそのくらいの嘘はわかってる。それを話してくれないことが何よりもショックだった。
「湊さん、あなた一昨日の昼休み男子生徒と言い合いになったそうですね」
「ッ…………どこでそれを聞いたの」
(ほら見て、友希那の顔色。明らかに変わったよ)
(まさか、本当だったとは)
「クラスの子から聞いたんだよ。みんな、心配そうに私に教えてくれてさ」
「そう…………」
(明らかに落ち込んでいますよ。友希那さん)
(うん、いつもよりだいぶ落ち込んでるね)
「湊さん。あなたその時に男子生徒に何か嫌なことでも言われましたか?」
「そ、そのときのことはよく覚えていないわ」
明らかに言いにくそうな表情してる。それがますます嫌な予感を募らせてくる。
「友希那さん。あこたちは誰にも言いません。だからそのときに何を言われたのか教えてください」
「そうです…………友希那さん…………みんなで考えればなにかいい案も思いつくかもしれません」
「あこ。燐子」
「そうだよ友希那、アタシもそう思うよ」
「Roseliaは、馴れ合いは不要と言いましたが、仲間が困っているのに手を差し伸べないことは理由になりません」
「リサ、紗夜まで」
(よし、もう一息だね)
「湊さんそのあとその男子生徒にどこかに連れて行かれたんですよね」
「そう、そこまで知っているのね」
「教えてくれませんか、その日何があったのかを」
「紗夜、リサ、あこ、燐子。…………ごめんなさいやっぱり言えないわ」
みんなが頑なに聞いても教えてはくれない。
「な、なんで、友希那。もしかしてその男子生徒に口止めされているとか」
「いえ、違うわ」
「ならどうして、あこたちに話してくれないんですか!」
思わずあこが声を張り上げる。
「ッ…………それは、とてもあなた達に聞かせられる話じゃないのよ」
「湊さん。やっぱりあなたもしかして」
「なにかしら、紗夜」
「人に言えないようなことをされたのではないですか?」
ついに紗夜がアタシたちが聞きたいことを聞いてくれた。
「…………ええ、あれはとても人に言えないわ」
長い沈黙の後友希那は口をゆっくりと開いた。
(な、もしかして友希那ほんとに)
(お、落ち着きなさい。今井さん必ずしもそうとは限らないでしょ)
「ぐ、具体的にどんな事されたのですか」
「そ、それは」
「お願いです。湊さん教えてください!!」
「…………最初は無理やり持たされて、そして無理やり飲まされたの」
((((なッ))))
「私はそれが見たくもないほど嫌いなのに無理やり好きと言わされたの」
「そ、そしてどうなったのですか」
「…………そしてその後無理やり口を奪われたわ。そして…………」
気がついたら頭が真っ白になり涙が出ていた。
「もうやめてッ友希那!!」
「リサ、どうしたのよ。急に大きな声を出して」
「もういいんだよ、友希那」
「あなた達が話せと言ったのでしょ」
「友希那ごめんね。ごめんね今まで気づいてあげられなくて」
「ちょっ、リサ苦しいわ。え、リサなんであなた泣いてるの」
「湊さんごめんなさい。こんなこと思い出したくなかったわよね」
「紗夜あなたまで」
「ゆ、ゆぎなさーん、ごめんなさい。あ、あごが話せなんか言っだばっかりに辛いことを思い出させて」
「あこ」
「友希那さんごめんなさい。私達の配慮が足りていませんでした」
「燐子」
(ゆるさない。その男子生徒絶対に許さないんだから)
絶対に許さない。そのことだけが頭の中を支配していく。アタシの大切な幼なじみに手を出してなんとも思わないで生活しているなんて。
友希那は少し人見知りな性格をしているから、そこに付け込んだのかもしれない。
(今井さん。落ち着いてください)
(落ち着いてなんかいれないよ。友希那がどれほど怖い思いをしたのか。紗夜にはわからないの!!)
(それは、そうですが今井さん。その男子生徒よりも、湊さんに寄り添ってあげることが今やるべきことです)
紗夜はいつものように冷静だ。それがアタシの頭の中のイライラを落ち着かせていった。
(そうだよね。ごめん紗夜、私友希那のこと全然考えていなかった)
(これからはみんなで湊さんを支えていきましょう。いいですね)
(うん)
(わかりました!)
(はい)
「リサ、苦しいからそろそろ離れてくれないかしら」
腕の中でもがいてる友希那をよいっそ強く抱きしめる。
「いいけど友希那」
「…………何かしら」
「今日友希那の家に泊まってもいいかな、ね、みんな」
「え、リサだけではなくみんなも?」
「はい。湊さんのおうちがご迷惑じゃなければ」
「あこも、今日は友希那さんと一緒に寝たいです」
「わ、わたしもお邪魔でなければ」
「はぁ、わかったわよ」
「よし、じゃあ早速行こう」
「ええ」
「はい」
「わかりました」
(なんなのかしらみんなやけに優しいと言うか。そんなに正宗との話の内容が衝撃だったのかしら)
そして、その日の夜ベッドで誰が隣になるか揉めたらしい。