最近友希那の様子がおかしい。うすうすとメンバーの全員が少なからず思ってた。そして先日ファミレスで友希那に理由を聞いた。その話を聞いたとき私は頭が真っ白になった。私はその男子生徒の事で頭がいっぱいだった。
だけど紗夜に言われた一言で冷静さを取り戻した。そうだ、友希那はきっと私達が想像がつかないぐらい怖い思いをしたはずだ。これからはもっと友希那のことをよく見ていよう。そう心に誓った。
「はい、友希那これ今日のぶんね」
「リサ、最近いつも私にお弁当を作ってくれるけど、毎日作ってくれる必要なんてないのよ」
いつものように友希奈にお弁当を渡す。既に高校に入ってから何度も作ってきた。
「いいんだよ別に~。あたしが作りたくて作っているだけだし」
「そう、ならありがたくいただくわ。リサのお弁当おいしいから」
友希奈に美味しいと言って貰えるだけで明日からも頑張ろうと思える。それぐらいアタシの中で友希奈の存在は大きかった。
「そう言ってくれて私も作りがいがあるよ。よーし明日からもがんばちゃおうかな」
「もう、リサは大げさね」
そう言って笑ってくれる。よかった。最近は少しずつ笑顔が増えていっている気がする。
「そろそろテストだね~。友希那はテスト勉強してる?」
「ま、まあぼちぼちよ」
そんな会話をしながら学校に向かう。このとき私は思っても見なかった。今日一日が長い日になるなんて。
「よし、チャイムもなったし今日はここまでにしようか」
先生のその声で日直が号令をかける。
「リサちーお昼食べようー」
隣の席からそう声をかけられる。
「日菜ー、さっきの授業寝てたでしょう」
「えへへ、やっぱりばれてたかぁ」
「そりゃあ隣からあんなすやすや寝息が聞こえてたからね。そろそろテストだから授業ちゃんと起きてなきゃだめでしょ」
「えぇーあの先生の授業るんってしないから退屈なんだよねー」
「もう、次寝てたら起こすからね」
「はーい。やっぱり、リサちーってお母さんみたいだね」
お母さんみたいか。昔から人の世話を焼くのはなれている。やっぱりこれも友希那のせいなのかな。
「ちょっと、飲み物買ってくるね」
「うん。わかったよー」
「やっぱり混んでるなー」
昼ごろの購買は混んでいる。早く買って教室に戻らなきゃ。自販機に硬貨を入れてボタンを押す。やっぱりご飯にはお茶だよね。教室への階段を登っている途中に見慣れた背中が見えた。
「友希那?」
確かに友希那の背中が見えた気がする。自分の教室による途中に友希那の教室を見に行こう。………………なにか嫌な予感がする。
「ごめーん。友希那いる?」
「確か湊さんならどこかに行ったよ」
「どこに行ったかわかる?」
「あ、たしか屋上に行くって言ってた気がするよ」
屋上。その単語を聞いたとき私は嫌な予感がした。
「あ、おかえりー。遅かったね、リサちー」
「ごめん、日菜ちょっと用事ができたから行ってくる」
買ってきたお茶を机に置いてから急いで屋上に向かった。
「え、ちょっと、リサちーもう。」
屋上に続く階段を駆け上がる。友希那はあたしが誘わなきゃいつも一人で教室で食べているはずだ。自分で屋上に行って食べるはずがない。
「友希那無事でいて」
やっとついた。ゆっくりと屋上の扉を開ける。そこで目にしたのは信じられない光景だった。
「お願いしますのひとつもないのか」
「お願いします。これでいいかしら」
何が起きているのか一瞬わからなかった。こちら側からは男の背中しか見えなかったが、友希那がなにかをお願いしている様子だった。そんなとき。
「ひゃん」
「えっ」
今の声は間違いなく友希那の声だ。小さいときから何度も聞いている声だ。聞き間違うはずがない。そんな友希那があたしの聞いたことをないような声を上げた。
「おい、気色悪い声出すなよ」
「だって、気持ちがいいのよ。あ、もっと強くてもいいわよ」
「全く注文が多い客だ」
「ああ、そこいい。もっとそこ強く」
「こうか」
「そ、そこもっとお願い。すごく気持ちいいわ。案外正宗ってテクニックあるのかしらね」
「俺のテクニックをなめてもらっちゃこまるな」
「きぃ…も…おっ!ち…!い…いぃ!いぃい……も、もういいから…………やめな……さい……正宗」
「なんだ、湊から言ってきたんだろ。遠慮するなって」
「いい加減に……しないと……ひゃあ…ぁ…ぁあっんん………」
ビクビクと体を揺らして肩で息をしている。自分の体を男に預けるようにして固くスカートを握っている。
「ほらほら。自分の体に素直になれって湊」
「ん………!もぉぉ…ぉ!ううううだ…!め……ええっ」
一際大きな声を出すとだらんと体から力が抜け落ちた。
「…………やめてよ、友希那…………いや」
これ以上は友希那のこんな声を聞きたくない。気づいたら駆け出していた。この現実から目をそらしたかった。
「あ、リサちーどこいってたの?え、りさちーどうして泣いてるの」
日菜に言われて初めて自分の目から涙がこぼれていることに気がついた。
「…………ごめんね、日菜。別に悲しいことがあったわけじゃないんだよ」
「ほんとに?」
「大丈夫だって。もう、日菜は心配性だなぁ」
「ならいいんだけど」
そこからのことは覚えていない。ただ、ぼーっとしていたら。放課後になっていた。
「帰ろう」
「今井さん」
聞きなれた声が聞こえた。
「みんなどうしてここに」
「日菜から連絡があったのよ。今井さんの様子がおかしかったって」
「友希那さん関連だよね。リサ姉」
「みんなーゆぎながゆぎなが~」
「場所を移しましょう」
「で、何があったの?」
泣きじゃくる体を支えて貰いながらファミレスにやって来た。
「昼休みに飲み物を買いに行ったとき、友希那が屋上にいくのを見た気がしたの。それで教室を見に行ったらいなかったの」
「それで、屋上まで確認に行ったのね」
「うん」
「それで、友希那さんはなにをしていたの?」
「例の男子生徒といたの」
それを聞いたときみんなの顔が曇った。
「友希那さんはなにをしていたんですか?」
「……はぁ聞いたことなかったの」
「何がですか?」
「友希那のあんな声」
「まさか、湊さんは」
察しのいい紗夜のことだ。アタシが言いたいこともわかっただろう。
「うん、みんなが多分考えている通り」
「…………湊さんは拒んでいなかったのですか」
「うん。なんなら自分から求めてたの」
「そんな…………あの友希那さんが自分で…………求めてたんですか?」
「もう抵抗の意思もないのか、身を委ねるようにね」
そう言うと場の空気が重くなる。
「これからどうしましょう」
「…………一回話し合いましょう」
「友希那と?」
「いえ、その男子生徒とです」
「えぇ、それは危なくないですか、紗夜さん」
「いえ、これ以上湊さんにかかわらないように話し合いましょう。それが今の私達にできる精一杯のことでしょう」
「そうだよね。一回話し合うしかないよね」
「具体的にはどうします?」
「アタシがやるよ」
「リサ姉」
「この問題は私が解決しないとだめなんだよ。そんな気がする」
「今井さん。それは危険すぎます」
「大丈夫だよ紗夜、いざとなったら声上げるから」
「ですが」
「お願い、紗夜」
「…………はぁ、わかりましたよ。今井さんがやりたいようにやってください」
「ありがとう」
「今井さん気をつけてください…………男の人は何をするかわかりませんから」
「燐子。うん、気をつけるよ」
「リサ姉やっぱりあこもいっしょに行ったほうが」
「大丈夫。あこが信じて待っていてくれるだけで心強いから」
「それで、具体的にはどうするつもりですか」
「明日の放課後に呼び出すつもり」
「ひと目がないところはできるだけ避けたほうがいいような気がします」
「うん、だから喫茶店とかひと目があるところにするつもりだよ」
「それならいいのですが、なにを話し合います?」
「うん、具体的は友希那になにをしていたかと、これ以上友希那に近寄らないように説得してみるつもり」
「でも、もし聞く耳も持たなかったらどうするつもりですか」
「………………まぁ、そのときには考えがあるから大丈夫だよ」
「………………信じても大丈夫ですよね」
「大丈夫だってもー。みんな心配しすぎだよ」
「今井さん。私は湊さんのことも心配ですけれど、それと同じくらいあなたのことも心配なんです」
「紗夜」
「ですから絶対に無茶だけはしないでください」
「うん。約束する」
そんなことを話しているうちに今日は解散となった。暗い夜道を歩く。やっと家についたときはあたりはもう真っ暗だった。
「リサ!」
そのとき家の前から聞き慣れたこえがした。
「友希那どうしたの?」
「あなた、今までどこにいってたのよ。連絡もよこさないで、心配したのよ」
「ごめんごめん。急にバイトが入っちゃてさ」
「もう、そうならもっと早めに連絡の一本もよこしなさいよ」
「うん次からは気をつけるよ。で、あたしに何かようがあったの?」
「お弁当箱まだ返してなかったでしょ。今日もおいしかったわ」
「友希那。うん明日も頑張るね」
「期待しているわ」
そう言って友希那は家の中に入っていった。
「ホントに頑張るね」
そう心に誓って家の玄関をくぐった。