ロミッタバンド団のお通りだ! かわいいでしょ? 作:カトラス@リトルジャックP
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どうも、ラクドス教団で演奏家をやっているゲグ・レッドセルだ。
座長からのお題として、今日から自叙伝を書く事にした。
まず俺というゴブリンがどういう幼少期を過ごしたかについて書こう。
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俺はイゼット団の薬術師の家庭に生まれた。
幼少の頃から両親は”研究の喜び”や”魔術の持つキラメキ”、
そして何より”ミヴ・ミゼットへの敬愛”を語っていた。
当時の俺にとって、両親はまさにヒーローだった。
電撃魔術を習いながら、「俺も一角の魔術師として大成する」と願ったもんだ。
じゃあ今はどうなのか?
と思った諸兄、もし今もそう思ってたら俺がなんでラクドス教団に居ると思う?
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そんな思いが変わっちまったのは12歳の頃だ。
俺は仕事が手伝える歳になり、両親の仕事を手伝う様になった。
そこで見た現実は、俺の夢とは違った。
ヒーローだと思ってた俺の親父とお袋は、いつも誰かに頭下げて調子合わせてばっかで、上司共に顎で使われていた。
俺は、そんな姿を見ているのがうんざりする程、嫌だった。
そしてそんな上役共は、俺や両親なんか比じゃない高度な魔法を使っていた、当たり前の様に。
俺は、頑張った。
仕事も、新しい魔法の習得も、
だが一年ぐらいした頃には何もかもにうんざりする様になった。
うだつの上がらない両親も、魔術って概念も、イゼット団ってギルドも。
「俺もこんな風になるのか?誰にでも頭下げてあのドラゴンに忠誠を誓う?」
俺には耐えられなかった。
俺は、何でも良いから”俺だけにしか出来ねえ事”がしたかった、
それが何かも分からねえが、”俺だけの何かが欲しかった”!
そんな思いを初めて両親にぶつけたのが二年前ぐらいか。
お袋は凄え怒って怒鳴ってた、でもお袋が一頻り怒鳴った後に親父は静かに、
「お前もそんな歳になったか」
と言って家財から銀貨を五枚出して言った。
「これで世界を見てこい、それで帰ってくるかはお前が決めろ」
そうして、タイトルにもある通り。
「ゲグの偉大な自分探し」が始まった。
―――
そんな訳で家を飛び出した俺だが、とりあえず金はあるので最初に図書館に行った。
そこで「若くして人生に悩んでいる、どんな生き方をしたらいいんだろうか?」と相談して。
いくつかの本を提示されて、それを読んだ。
【全種族対応12歳からの生涯設計】
【パーフェクトライフ 貴方もギルド員に!】
【徹底解明!9つのギルド!】
【門なしでも楽しく生きられる!】
そうして読んでいる内に、分かった事は。
「黙って本を読んでても金は減る」って事、
「いくら本を読んでても座学に過ぎない」って事、
そして何より「仮に本を読んで人生が上手くいくなら、”人生に悩む系の本がこんな数ある訳がない”」と言う事だ。
図書館でその学びが得られたのは一枚目の銀貨が溶けて溶けて銅貨30枚程になった頃だった。
―――
何か行動を起こそうと思った俺は、こう思いつく。
「グルールの諸族でなら俺程度の電撃術でも評価されるのでは?」
結論から言おう、これは大失敗だった。
科学文明一族の家でぬくぬく育った俺は瓦礫帯の暮らしと人々にさっぱり適応出来なかった。
とか何とかしてる間に銀貨は2枚になっていた。
とにかく何か収入を得なければと思った俺は、門なしギャングの下っ端になった。
そこでは雷撃術の評価はそこそこで、グルールよりはまともな連中で、どうにかやっていた。
だが、自分自身がどうだったかと言うと。
正直かなり辛かった。
何故ならそこで自分がやってた事は、”周りの空気を読んで上役に服従する”。
俺の両親と何も変わらなかったんだ。
そうして鬱屈しきった俺は”お付き合い”ってヤツで同僚達と劇場を見に来ていた。
そこで、俺のゴブリン生が開いた。
―――
歌姫のショーが始まると皆が口々に言っていた。
同僚曰く、「女装のイカレゴブリン」が今から出てくるらしい。
俺は生まれの都合上、ラクドスに偏見を持っていたから、どんなしょうもないもんが出てくるかと思っていた。
そうして出てきたのが、今は俺のお師匠様であるロミッタそのゴブリンだ。
ひと目見て俺は、素直に思った。
「同僚と来ていなかったら、同僚が先に言ってなければ、俺は何の疑いもなく美女が出てきたと思っただろう」と。
そして歌姫は歌った、力強く、何の迷いもない強い瞳と声で。
今思えば多くの客はそれすら嘲笑していたのだろう。
だがその時俺は、心を奪われた。
歌が終わった後、歌姫からしばし客席へ会話を持つ。
「どう?私の歌はかわいかった?」
と言う歌姫に客の酷く酔ったケンタウロスは言った。
「いいぞ!デカ鼻のゴブリンにしてはなぁ!ハッハッハッ!」
強い嘲笑だ、それに呼応する様に俺の同僚達も目の前の歌姫を馬鹿にした。
俺は何故か怒りを覚え、突発的に指先に電撃を溜めようとした。
だがそんな思いも掻き消える事が起きた。
「そうね♪私は世界一かわいいゴブリンだわ!」
ステージの歌姫は、そんな空気の中でさえ、何に屈する事もなくそう言った。
何の疑いもないと言わんばかりの満面の笑みで。
それはさっきまでの劇場中が「おかしいのはこっちなんじゃないのか?」と思うぐらいに自信に満ちた物だった。
俺達も、まあそうなんじゃないかと思わされたと言うか、常識を揺さぶられた。
その事に俺は指先の電気以上の衝撃を受けた。
…俺は、見つけた。
”俺はこれになりたい。”と思えるもんを俺は見た。
―――
その夜、俺はひたすら反芻していた。
どうすれば、あんなに揺るぎない信念を持てるだろうかと。
悩みに悩んだ末に、朝の俺はギャングに銀貨一枚を添えて置き手紙を残して、来電座に入門する事にした。
入門料として最後の銀貨まで失い、飯と雑魚寝部屋だけはあるが過酷で収入のない生活に突入した。
それが何故かイゼットの頃やギャングの頃と違って、嫌じゃなかった。
まあ、自分の意志でやってるのも大きかっただろうが、何よりあの日の歌姫を見た後だったからだ。
あの強さを見た後なら、イゼットでもやってけたと思うぐらいだった。
思うに俺は、自信がなかったんだ。
自分に自信がないから、自分の在り方に不満を持ったりする。
あの歌姫は、あの場ですら自信に満ちていた。
心から幸福そうな笑顔だった。
自分の幸福を疑わない者の顔だった。
そうして修行の二ヶ月、
いろいろ試した結果みっちりギターをやる事になって、なんとかコードを意識的になら全部出来る様になったが、それでもいざ曲をやろうとするとそっちに気を取られて途中で指がもつれる頃だ。
そうなんだよ、それだけに集中してればギターのコードは意外と簡単だ。
「ねえ、貴方」
突然あの日の歌姫が声をかけてきた。
確か、初めてだったと思う。
「はい、なんですか?」
「座長から聞いたんだけど、私のショーを見てここに来たってほんと?」
なかなか本人に聞かれるのは複雑なものがあった。
だが先輩であるし、事実であるし、
「はい。ロミッタさんに憧れて」
と断言した。
「うん、それは嬉しいわね!よいしょっと」
そう言ってロミッタは隣に座ると、楽譜を渡してきた。
「これ、簡単な練習用の曲なんだけど。これで練習して見せてくれない?」
「はっ、はい!」
俺はその曲を弾こうとした、
~♪
拙い演奏だったと思うが、ロミッタは笑顔でそれを見続けた。
「…ど、どうでしたか?」
「うん、ちゃんとコードを習得してる!その調子ならもう少し無意識にやれる様になればすぐ弾けるよ」
ロミッタは嬉しそうにそう言うと、話し出した。
「俺が逃げ出さずに、真面目にやって成果が出始めるまでは座長から接触を止められていた」と。
そして今日、「もしお前が気に入ったなら、お前の弟子にしてやれ」と言われていたと。
「そういう訳だからさ!ゲグ!私の弟子になりなさい!」
と手を差し伸べるロミッタ、俺はその手を取った。
―――
そうして現在15歳の俺はロミッタバンドのメンバーとして、楽しく生きている。
俺の自叙伝は一先ずここまで。
PS
恥ずかしいからロミッタには絶対見せないでください。
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夜の裏方演奏後、ゲグは座長から先日提出した自叙伝について感想と評価を伝えるとして呼び止められた。
座長室で真面目な顔の座長と見つめ合う緊迫の瞬間。
「お前さんの自叙伝、読んだぞ」
「はい!どうでしたか?」
「お前さん自身、書いてみてどうだ?何か得られたんじゃないか?」
「…ええ、自分のルーツを見つめ直せました!ありがとうございます!」
それを聞くと座長は笑顔で言う。
「それが大事だ。お前さんは特に書いたり読んだりする事で思いを強くするタイプだと思う。」
「はい!では失礼します。」
ゲグも笑顔でそれに答え、座長室の扉を開こうとした瞬間。
「ああ、お前達が演奏してる間にロミッタに読ませたら喜んでたぞ」
と後ろから座長の声がした。
「なんで見せたんっすか!!!??」
と振り返るゲグに座長は悪戯な笑みで答える。
「いや、内容を見て、ヤツにも見せたら良いと思っただけだが?」
そんな訳で下宿部屋に戻れなくなったゲグを二人が探しに来たのは一時間後であった。