黄金芋酒で乾杯を   作:zok.

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 今宵は、お集り頂き恐縮にございます。

 なにお客さん、冷えるね冷えるねって? 
 バカ言え。アンタたちが来るまでアタシが十分この部屋あッためといたよ。寒いのはアンタたちの財布の方じゃアないかい。ッてちょっと、酒瓶投げるなッての、出禁にするよ。これ以上酒を飲ますことはできん、ってナ。ははは。

 さて、口の方も、あッためるのはこの辺にして。

 世の中広いもので、“商売”を兼業する四人組のハンターがいるのだとか。
 商売、といっても何でも屋のようなものさ。
 武器も個性も女の好みもバラバラな、そんな奴らの話を一つ耳にした。

 まぁその辺の肴を摘まんで、話半分でも聞いて行っておくれ。



《モンハン愛をカタチに。Advent Calendar 2020からいらっしゃって下さった一見様へ》
 
 この小話は『黄金芋酒で乾杯を』のシリーズものとなっておりますが、はじめてでも読めるように創っています。イラストのオマケにはなりますが、一生懸命楽しく執筆させて頂きました。
 どうぞ、ご賞味あれ。
 


幕間チェイサー①
10杯目 読み切り短編『 逆鱗怖い 』


 △▼△▼△▼△▼△

 

ある夜、三人の商人と、一人の寡黙なハンターが宿に泊まり、酒を囲んで暇を持て余していたそうな。

 

「人間誰でも怖いものがあるんだとよ。それはなんでかってえと、生まれたときに胞衣(エナ)を埋めるだろう。その埋めた場所の上を最初に横切ったものがあると、それがそいつの怖いものになるんだよ」

 

「何だいそのエナってのは?」

 

「お前が生まれてきたときにくっつけてきたへその緒よ。それで、鉱石商は何が怖えぇ?」 

 

「俺は甲虫が怖えぇ。あのアリみてぇな奴、行列とか気持ち悪ぃ」

 

「じゃ、お前ぇの胞衣を埋めた上を最初に甲虫が横切ったんだよ。薬商は何が怖えぇ?」

 

「俺は鎌蟹だ。 鎌蟹のやつは沼地の洞窟あたりを歩いていると出てきやがって、兜みてぇなものを背にくっつけて、『あんたのお宅はどれくらい大きいんだ?』って尋ねると、『このくらい!』って手をいっぱい広げやがるんだ。あれが気にくわなくて鎌蟹が大嫌えだ。素材商は何が怖えぇ?」 

 

「俺かい。俺は影蜘蛛が苦手だ。いやね、俺が影蜘蛛自体が嫌ェってわけじゃないよ。俺にあんなに足が沢山あったらどうしよう? って話だ。わらじを買ったっていくらおあしがかかるか分からねぇ。影蜘蛛にだけはなりたくねぇ。

 ところでハンターさん、お前さっきから黙っているけど、お前ぇの怖いものはなんだい?」 

 

「怖いもの? ……ン、確かにモンスターは怖いものかもしれねェけっとも、ハンターであるおれが怖がっていてァハンターの面が立たんというモンだべ。 

 護衛するお前さん方にそンな姿を見せるわけにもいがねェしな。()ェ、と言っておくべ」

 

「しゃくにさわる野郎だねぇ、嫌いなものがひとつも無ぇなんて。何かないのか。たとえば黒狼鳥なんかどうだい?」

 

「黒狼鳥? 黒狼鳥は怖くねェべよ。黒狼鳥は、モミジを煮込みにすると美味ェの。おれは料理を商売にするハンターなんだけっとも、黒狼鳥を狩るときによく作ンだべよ」

 

「じゃ、海竜か、雄火竜なんかどうだい?」

 

「海竜? 雄火竜? あンなの、海竜は尻尾をタタキにしておろしたモガモガーリックと、雄火竜はタンを燃石炭で炙って塩振ると美味ェよ」

 

「美味そうなのが余計にしゃくにさわるやつだな。じゃあいいよ、竜なんかじゃなくてもいいから嫌いなものは無いかい?」 

 

「……そうか? そこまで言うなら聞いてくれるべか?」

 

「当然よ! むしろ言ってくれなきゃ酒も進まないってもんだ。ささ、何が怖いんだ?」 

 

「じゃ、言うべよ……あのな、おれは“ユクモ温泉まんじゅう”がおっかねェンだ」

 

「なに、温泉まんじゅう? 温泉まんじゅうって、あの温泉まんじゅうかい。みんな大好き、あの温泉まんじゅうが?」

 

「……そう。おれはきっと先祖が温泉まんじゅうに殺されたか何か知らねェが、とにかくおっかなくてしょうがねェ。見せられるとおれは息が止まっちまう。

 だから、まんじゅう屋……特にユクモのやつの前を通るときなンか足がすくンじまうモンで、どンなに遠回りでもそこサ避けて歩いているンだべよ。

 ……ああ、こうやって温泉まんじゅうのことを思い出したらもうだめだ、気分が悪くなッてきた。おれは隣の部屋でもう寝ているから、構わず酒サ飲んでいてくれ」

 

 そこで、素材商、鉱石商、薬商の三人は、この寡黙なハンターさんが寝ている間に山ほど温泉まんじゅうを用意してきて、それを枕元に置いて、起きた時に驚かそうと衆議一決したんですわな。

 

「それにしてもこんな量の温泉まんじゅうなんてよくあったな」

 

「おれ、今回の取引先がユクモ地方でさ。家族の土産にと、わんさか買ったんだが、帰省に賞味期限が間に合わなくてどうしようかと思ってたんだ」

 

「あー、まんじゅう系って意外に賞味期限長くないよなー。わかる」

 

「ところで、こんなものハンターさんにぶちまけて大丈夫かね? というかこの人、あんだけ強い酒を水のように飲んだにも関わらず、顔を少しも赤くしてなかったな。どんだけ肝臓強いんだ」

 

「かまうもんか、もし怒ったって、驚かしたのは温泉まんじゅうであって俺たちじゃねぇ。それに薬商もいるんだし」

 

「薬は死んでからじゃ意味ねぇよ」

 

「おい、奥でごそごそいい出したぜ。野郎起きたんじゃねぇかい。ちょっくら見てみようぜ」

 

 三人の商人が障子の穴から中を覗くと、そこには温泉まんじゅうを美味そうにむっしむっしと食らうあの寡黙なハンターさんが。

 商人たちはもうカンカンになって障子を開け放ち、ハンターさんに怒鳴ったそうな。

 

「ハンターさんよぉ! お前、俺たちに温泉まんじゅうが怖いって嘘をついたなぁ。(ふて)ぇ野郎だ」

 

「ン、三方。……まむまむ……あァおッかねェ、しッとりして甘すぎねェこし餡……薄皮……のど越しも上品……あァおッかねェべな……まむまむ……」

 

「やられた。ハンターさんは、本当は何が怖ぇんだい?」

 

「そうだべな……まむ……今は、ユクモ村のドリンク屋にある……“堅米茶【雁木】”が怖ェなァ……」

 

 

 △▼△▼△▼△▼△

 

 

 ある夜、三人の商人と、一人の黒髪のハンターが宿に泊まり、酒を囲んで暇を持て余していたそうな。

 

 

「人間誰でも怖いものがあるんだとよ。それは何故かってえと、生まれたときに胞衣(エナ)を埋めるだろう。その埋めた場所の上を最初に横切ったものがあると、それがそいつの怖いものになるんだよ」

 

「何だいそのエナってのは?」

 

「お前が生まれてきたときにくっつけてきたへその緒よ。それで、鉱石商は何が怖えぇ?」 

 

「俺は甲虫が怖えぇ。あのアリみてぇな奴、行列とか気持ち悪ぃ」

 

「じゃ、お前ぇの胞衣を埋めた上を最初に甲虫が横切ったんだよ。薬商は何が怖えぇ?」

 

「俺は鎌蟹だ。 鎌蟹のやつは沼地の洞窟あたりを歩いていると出てきやがって、兜みてぇなものを背にくっつけて、『あんたのお宅はどれくらい大きいんだ?』って尋ねると、『このくらい!』って手をいっぱい広げやがるんだ。あれが気にくわなくて鎌蟹が大嫌えだ。素材商は何が怖えぇ?」

 

「俺かい。俺は影蜘蛛が苦手だ。いやね、俺が影蜘蛛自体が嫌ェってわけじゃないよ。俺にあんなに足が沢山あったらどうしようって話だ。わらじを買ったっていくらおあしがかかるか分からねぇ。影蜘蛛にだけはなりたくねぇ。ところでハンターさん、お前さっきから黙っているけど、お前ぇの怖いものはなんだい?」 

 

「怖いもの? まぁモンスターは怖いものかもしれないけど、ハンターである僕が怖がっていちゃあハンターの面が立たないからね。 

 護衛するあなた方にそんな姿を見せるわけにはいかないし。うーん、ない、と言っておくよ」

 

「しゃくにさわる野郎だねぇ、嫌いなものがひとつも無ぇなんて。何かないのか。たとえば黒狼鳥なんかどうだい?」

 

「黒狼鳥? 黒狼鳥は怖くないよ。黒狼鳥は、モミジを煮込みにすると美味しいんだよね。うちの料理が得意な奴が、黒狼鳥を狩るときによく作ってくれるんだ」

 

「じゃ、海竜か、雄火竜なんかどうだい?」

 

「海竜? 雄火竜? あんなもの、海竜は尻尾をタタキにしておろしたモガモガーリックと、雄火竜はタンを燃石炭で炙って塩振ると美味しいよ」

 

「美味そうなのが余計にしゃくにさわるやつだな。じゃ、いいよ、竜なんかじゃなくてもいいから嫌いなものは無いかい?」 

 

「んん~、そう? そこまで言うなら聞いてくれる?」

 

「当然よ! むしろ言ってくれなきゃ酒も進まないってもんだ。ささ、何が怖いんだ?」 

 

「じゃ、言うよ……あのね、僕は“石ころ”が怖いんだ」

 

「なに、石ころ? 石ころってあの石ころかい。行商で簡単に手に入る、あの石ころが?」

 

「そう。石ころってみんな適当に扱うけど、僕は『大タル爆弾の起爆に投げたら寝ているモンスターに当たって、先に起こしちゃった』トラウマがあって、見ただけで冷や汗が止まらないんだ。

 そのまま見せられ続けると、きっと鬱か何かになってしまう。装飾品屋の前なんて廃棄の石ころの袋があってね、どんなに遠回りでもそこを避けて歩いているんだよ。

 ……ああ、こうやって石ころのことを思い出したらもうだめだ、気分が悪くなってきた。僕は隣の部屋でもう寝ているから、構わずお酒飲んでいてくれないかな」

 

 そこで、素材商、鉱石商、薬商の三人は、この黒髪のハンターさんが寝ている間に山ほど石ころを用意してきて、それを枕元に置いて、起きた時に驚かそうと衆議一決したんですわな。

 

「なぁ鉱石商。それにしても石ころなんて、こんな量よくあったな」

 

「取引すると毎回なぜか商品に大量に混ざってくるのよ。もう、とんでもなく困るんでさ」

 

「お前もう商人やめろよ」

 

「ところで、こんなものハンターさんにぶちまけて大丈夫かね? 泥酔って訳じゃねぇが、それなりに酔っていたし、死にゃしねぇかな」

 

「かまうもんか、もし怒ったって、驚かしたのは石ころであって俺たちじゃねぇ。それに薬商もいるんだし」

 

「薬は死んでからじゃ意味ねぇよ」

 

「おい、奥でごそごそいい出したぜ。野郎起きたんじゃねぇかい。ちょっくら見てみようじゃねえかい」

 

 三人の商人が障子の穴から中を覗くと、そこにはニコニコして石ころとネンチャク草を調合する、黒髪のハンターさんが。

 商人たちはもうカンカンになって障子を開け放ち、ハンターさんに怒鳴ったそうな。

 

「ハンターさんよぉ! お前、俺たちに石ころが怖いって嘘をついたなぁ。太ぇ野郎だ」

 

「あ、商人さん方。石ころありがとうございます。素材玉ってなぜかいつも消費が早いんだよね」

 

「やられた。石ころなんて舐めていたよ! まさかアイテムになるとはな。ハンターさんは本当は何が怖いんだい?

 

「ごめんごめん、いやぁ、本当は僕は調合が苦手でさ。

 ――今は、“調合書①入門編”が怖いなぁ」

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 ある夜、三人の商人と一人の隻眼のハンターが宿に泊まり、酒を囲んで暇を持て余していたそうな。

 

 

「人間誰でも怖いものがあるんだとよ。それは何故かってえと、生まれたときに胞衣(エナ)を埋めるだろう。その埋めた場所の上を最初に横切ったものがあると、それがそいつの怖いものになるんだよ」

 

「何だいそのエナってのは?」

 

「お前が生まれてきたときにくっつけてきたへその緒よ。それで、鉱石商は何が怖えぇ?」 

 

「俺は甲虫が怖えぇ。あのアリみてぇな奴、行列とか気持ち悪ぃ」

 

「じゃ、お前ぇの胞衣を埋めた上を最初に甲虫が横切ったんだよ。薬商は何が怖えぇ?」

 

「俺は鎌蟹だ。 鎌蟹のやつは沼地の洞窟あたりを歩いていると出てきやがって、兜みてぇなものを背にくっつけて、『あんたのお宅はどれらい大きいんだ?』って尋ねると、『このくらい!』って手をいっぱい広げやがるんだ。あれが気にくわなくて、鎌蟹が大嫌ぇだ。素材商は何が怖えぇ?」

 

「俺かい。俺は影蜘蛛が苦手だ。いやね、俺が影蜘蛛自体が嫌ェってわけじゃないよ。俺にあんなに足が沢山あったらどうしよう? って話だ。わらじを買ったっていくらおあしがかかるか分からねぇ。影蜘蛛にだけはなりたくねぇ。ところでハンターさん、お前さっきから黙っているけど、お前ぇの怖いものはなんだい?」 

 

「怖いもの? うむ。モンスターは怖いものかもしれんが、ハンターである俺が怖がっていてはハンターの面が立たんというものだ。 

 護衛する貴殿方にそんな姿を見せるわけにもいかないしな。ない、と言っておこう」

 

「しゃくにさわる野郎だねぇ、嫌いなものがひとつも無ぇなんて。何かないのか。たとえば黒狼鳥なんかどうだい?」

 

「黒狼鳥? 黒狼鳥は俺の装備の素材でもあるし怖くないな。黒狼鳥は、モミジを煮込みにすると美味いのだ。うちの料理が得意な奴が、黒狼鳥を狩るときによく作ってくれてな」

 

「じゃ、海竜か、雄火竜なんかどうだい?」

 

「海竜? 雄火竜? あんなもの、海竜は尻尾をタタキにしておろしたモガモガーリックと、雄火竜はタンを燃石炭で炙って塩振ると美味いぞ」

 

「美味そうなのが余計にしゃくにさわるやつだな。じゃ、いいよ、竜なんかじゃなくてもいいから嫌いなものは無いかい?」 

 

「んむ、そうか? そこまで言うなら聞いてくれるか?」

 

「当然よ! むしろ言ってくれなきゃ酒も進まないってもんだ。ささ、何が怖いんだ?」 

 

「じゃ、言うぞ……あのな、俺は“もえないゴミ”が怖いのだ」

 

「なに、もえないゴミ? あのもえないゴミかい。調合で失敗したときにわんさか出てくる、あのもえないゴミが?」

 

「そうだ。俺は研究業を兼業でやっているのだが、調合をするとどうしてもできてしまう。見ただけで『あぁ、今週のゴミ出しは俺の番か』と()()になってしまうのだ。

 そのままいるときっと週一のゴミ出しが面倒すぎて、心臓発作を起こしてしまうと思う。調合屋の前など、そのもえないゴミの大量に詰まった袋が置いてあって足がすくんでしまうから、どんなに遠回りでもそこを避けて歩いているのだよ。

 ……ううむ、こうやってもえないゴミのことを思い出したらもうだめだ、気分が悪くなってきた。俺は隣の部屋で寝ているから、構わず晩酌は続けてくれ」

 

 そこで、素材商、鉱石商、薬商の三人は、この寡黙なハンターさんが寝ている間に山ほどもえないゴミを用意してきて、それを枕元に置いて、起きた時に驚かそうと衆議一決したんですわな。

 

「それにしてもこんな量のもえないゴミなんてよくあったな」

 

「回復薬の取引すると、毎回なぜか商品に大量に混ざってくるのよ。もう、とんでもなく困るんでさ」

 

「普通に取引失敗してるじゃねぇか」

 

「ところで、こんなものハンターさんにぶちまけて大丈夫かね? 泥酔って訳じゃねぇが、それなりに酔っていたし、死にゃしねぇかな」

 

「かまうもんか。もし怒ったって、驚かしたのはもえないゴミであって俺たちじゃねぇ。それに薬商もいるんだし」

 

「薬は死んでからじゃ意味ねぇよ」

 

「おい、奥でごそごそいい出したぜ。野郎起きたんじゃねぇかい。ちょっくら見てみようぜ」

 

 三人の商人が障子の穴から中を覗くとそこには恐ろしいことに、ニコニコしながら懐にもえないゴミを九十九個も納める、隻眼のハンターさんが。

 商人たちはもう顔を真っ青にして障子を開け放ち、ハンターさんに声をかけたそうな。

 

「ハンターさんよぉ! お前、俺たちにもえないゴミが怖いって嘘をついたなぁ。太てぇ野郎だ」

 

「おぉ、貴殿方。いやな、このもえないゴミは山菜爺さんに渡すといいものを貰えるのだ。そもそも俺は調合するときは調合書を準備するから、失敗など殆どしないのだよ」

 

「やられた。それじゃハンターさん、本当は何が怖いんだい?」 

 

「そうだな、山菜爺さんも、もえないゴミばかり貰っては困るだろうからな。

 ――今は、“虫の死骸”が怖いな」

 

 

 △▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 ある夜、三人の商人と一人の粋な容姿のハンターが野営をし、酒を囲んで暇を持て余していたそうな。

 

 

「人間誰でも怖いものがあるんだとよ。それは何故かってえと、生まれたときに胞衣(エナ)を埋めるだろう。その埋めた場所の上を最初に横切ったものがあると、それがそいつの怖いものになるんだよ」

 

「何だいそのエナってのは?」

 

「お前が生まれてきたときにくっつけてきたへその緒よ。それで、鉱石商は何が怖えぇ」

 

「俺は甲虫が怖えぇ。あのアリみてぇな奴、行列とか気持ち悪ぃ」

 

「じゃ、お前ぇの胞衣を埋めた上を最初に甲虫が横切ったんだよ。薬商は何が怖えぇ?」 

 

「俺は鎌蟹だ。 鎌蟹のやつは沼地の洞窟あたりを歩いていると出てきやがって、兜みてぇなものを背にくっつけて、『あんたのお宅はどれくらい大きいんだ?』って言うと、『これくらい!』って手をいっぱい広げやがるんだ。あれが気にくわなくて鎌蟹が大嫌いだ。素材商は何が怖えぇ?」

 

「俺かい。俺は影蜘蛛が苦手だ。いやね、俺が影蜘蛛自体が嫌ェってわけじゃないよ。俺にあんなに足が沢山あったらどうしよう? って話だ。わらじを買ったっていくらおあしがかかるか分からねぇ。影蜘蛛にだけはなりたくねぇ。

 ところでハンターさん、お前さっきから黙っているけど、お前ぇの怖いものはなんだい?」

 

「怖いモン? モンスターは怖いものかもしれねェが、ハンターである(わし)が怖がっていちゃあハンターの面が立たねェというものヨ!

 護衛するアンタ達にそんな姿を見せるわけにゃいかねェ。無ェ、と言っておこうかね」

 

「しゃくにさわる野郎だねぇ、嫌いなものがひとつも無ぇなんて。何かないのか。たとえば黒狼鳥なんかどうだい?」 

 

「黒狼鳥? 黒狼鳥は怖くねェな。黒狼鳥は、モミジを煮込みにすると美味いヨ。うちの料理が得意な奴が、黒狼鳥を狩るときによく作ってくれるのサ」

 

「じゃ、海竜か、雄火竜なんかどうだい?」

 

「海竜? 雄火竜? あんなもの、海竜は尻尾をタタキにしておろしたモガモガーリックと、雄火竜はタンを燃石炭で炙って塩振ると美味いヨ」

 

「美味そうなのが余計にしゃくにさわるやつだな。じゃ、いいよ、竜なんかじゃなくてもいいから嫌いなものは無いかい?」

 

「そうかい? そこまで言うなら聞いてくれるかい?」

 

「当然よ! むしろ言ってくれなきゃ酒も進まないってもんだ。ささ、何が怖いんだ?」

 

「じゃ、言うヨ……あのネ、儂は“逆鱗”がおっかないの」

 

「なに、逆鱗? 逆鱗ってあの逆鱗かい。おいそれとは見られねぇって素材の、あの逆鱗が?」

 

「そう。儂はハンターの立場を利用した商売を兼業しているンだがネ、みんなが好きな逆鱗を見ただけで『あぁ、こンなもので儂の収入のほとんどが動くのかい』と思って心の臓が震えだしちまうの。

 そのままいるときっと儂はアレルギーか何かでくたばると思うのサ。だから、素材屋の前を通るときなんて足がすくンじまって歩けなくなっちまうンで、どんなに遠回りでもそこを避けて歩いているんだヨ。

 ……ああ、こうやッて逆鱗のことを思い出したらもうだめだ、気分が悪くなッてきた。儂は隣の部屋でもう寝ているから、構わず晩酌を続けて下さいまし」

 

 そこで、素材商、鉱石商、薬商の三人は、この粋な容姿のハンターさんが寝ている間に山ほど逆鱗を用意してきて、それを枕元に置いて、起きた時に驚かそうと衆議一決したんですわな。

 

「それにしても逆鱗なんてよくあったな」

 

「前に山菜爺さんと交換してもらうとか何とかで、もえないゴミを山のように持ち帰った大馬鹿な隻眼のハンターがいただろう。

 おれも何か交換できねぇかと情報を嗅ぎまわったら、山菜組取引券で交換できるってんで、わざわざ出向いて、箱の隅でくしゃくしゃになってたの交換してきて貰ったんだ」

 

「もうお前ハンターやれよ」

 

「ところで、こんなものハンターさんにぶちまけて大丈夫かね? 泥酔って訳じゃねぇがそれなりに酔っていたし、死にゃしねぇかな」

 

「かまうもんか、もし怒ったって、驚かしたのは逆鱗であって俺たちじゃねぇ。それに薬商もいるんだし」

 

「薬は死んでからじゃ意味ねぇよ」

 

「おい、奥でごそごそいい出したぜ。野郎起きたんじゃねぇかい。ちょっくら見てみようぜ」

 

 三人の商人が障子の穴から中を覗くと、そこにはニコニコして色とりどりの逆鱗を懐に納める、粋な容姿のハンターさんが。

 商人たちはもうカンカンになって障子を開け放ち、ハンターさんに怒鳴ったそうな。

 

「ハンターさんよぉ! お前、俺たちに逆鱗が怖いって嘘をついたなぁ。太ぇ野郎だ」

 

「おぉ、アンタ方。見ておくれよこの輝き! 逆鱗と一口に言ったって、雄火竜に雌火竜、海竜、おまけに斬竜のもあると来た。もう儂幸せすぎて死んじまいそうヨ」

 

「これはやられた! 本当は何が怖いんだい?」

 

「あぁ……ハンターってェのは貪欲なものでね。

 ――本当は、儂は“紅玉”が怖えェなァ」

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 ハンター同士でのRARE4以上のアイテムの受け渡しは、禁じられております故。

 

 

 

 おあとがよろしいようで。

 

 とっぴんぱらりの南天屋。

 

 

 




 元ネタは、落語の『饅頭怖い』でした。

 読者のハンター様方は、果たして何が怖いでしょうか?

 年明けも多忙につきどれくらいのペースで投稿できるか不明なのですが、やりたいネタはたくさんあるので、それらに着手するまでは死ねないですね。



 次話もよろしくお願い致します。
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