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「──キエエェェェェ!!」
どう、と泥水がはねる。描く曲線は、彼女の太刀筋にも似て。
振り回される前脚に見切り斬り。まるで水がとめどなく流れるように、イヨはオサイズチの攻撃を次々とあしらい反撃していく。
こうして正面からの攻撃を受け流し、ヨボロとのチームワークで隙を作らない型が、イヨたちの得意とする狩り方だった。
天狗獣ビシュテンゴ。岩竜バサルモス。飛雷竜トビカガチ。雌火竜リオレイア──他にも数えきれないくらい。
たくさんのモンスターをこの狩り方で、この手で、ただがむしゃらに刈り取ってきた。
だから今更、オサイズチなんて恐れるに足らないはずなのに。
この個体、これまで狩ってきたオサイズチよりもかなり手ごわい。統率力がずば抜けていて、前回対峙したときよりもさらに技が磨かれていた。
イヨたちは一対一の勝負には強いが、囲まれるのが苦手なのだ。
「キェ……!」
後ろから振り回される精鋭イズチの尾に太腿を切り裂かれ、痛みよりも不覚をとられた失意で尻もちをついてしまう。盾にと間に割り込んだヨボロは、タックルで吹っ飛ばされていった。
振り返る間も、息つく間もない。目まぐるしく流動する立ち位置に、命が刈り取られそうになる感覚に、心臓が早鐘を鳴らし続ける。
翔蟲受け身で、オサイズチの股下に転がり込んだのが失敗だった。
そこが自分の死角だと奴は十分に理解していた。
「がはっ!?」
潰しとばかりに強靭な脚で蹴られ、イヨは泥の中を転がる。アイテムポーチが浸水し、中の薬草や携帯食料がダメになったのが嫌でも分かる。ひやりと一瞬思考が止まった。
すなわち、敗北の味。膝をついたまま固まった。
その時──奴らは一斉に同じ明後日の方を向く。
「やっぱり子分は二頭だけ? ランポスやマッカォより少ないな」
「キョンキョン」
「キュワ、キュワッ」
精鋭イズチの警戒の声。新手の登場には下手に動けず、鳴くことしかできないようだ。
なぜなら彼は、まだ脅威とみなされていなかったから。エリアに漂い始めるうすら白い煙が、群れを混乱させていた。
エンエンクのフェロモンだ。そして、それを懐に忍ばせているのは──シヅキ。
「いやー、エリアまたいでの移動はさすがに探すのキツイわ。足跡と、上を飛ぶ鳥の動きでなんとかここまで来れたけど」
「っ……!」
そう言えばシヅキにフクズクの見方を教えていない。修練場ではできないことだったので、狩場に来てからもすっかり忘れていたからだ。
「……なんだ、分からないことがあったら先に聞いてくれればよかったのに。本当にチンタラしていたんだな」
「どうしてペイントボール持ってないのかなーって思ってはいたんですー! 聞かなかったのは謝りますから!」
一瞬だけ口を尖らせたシヅキだったが、すぐに真剣な表情になる。
「イヨさんはもう薬飲んでも大丈夫かな? 二人は回復次第、無理せず付いてきて」
「──……」
キン、と鉄刀の鯉口が切られる。
自分以外の太刀使いなんて──ハンターなんて、一緒に狩ったことがなかったから。その澄んだ音に、止まっていた思考が解けてゆく。
「さ、彼らもやっと僕を認識してくれたわけだし、遅れたぶん頑張りますよ」
たった一人で踏み出したシヅキ。ばしゃりと泥水が飛び、三頭の
「こりゃ便利。エンエンクのこの煙、角笛みたいな効果なのかな?」
先鋒は我だと襲い来るオサイズチ。いなし、背後から飛びかかる新たな精鋭イズチを滑るように斬り払う。やや甘めの太刀筋。
横からもう一頭が、そこへ畳み掛け──
「キュワアッ!?」
パッと血が飛ぶ。しかし、痛みに身をよじらせたのは精鋭イズチの方だった。
隙を見逃さず、シヅキは踏み込みながら気刃斬りを横に一閃、縦方向に二閃。血濡れの鉄刀は白昼の日を弾くことなく、一頭のイズチを泥に沈める。
圧倒的な
まるで吹きつける突風のように。まるで筆のとめはねのように。いなしとカウンターで緩急鋭い斬撃は、絶大な突破力を秘めていた。
「アンタ、そんな攻め方っ……」
しかしシヅキも無傷ではない。いなすごとに代償として、体が傷ついてゆく。
まさに、命を削りながら繰り出す斬撃。その刃に練気とは異なった集中力が上乗せされているのを、イヨは同じ太刀使いとして感じ取っていた。
「これは“ブレイヴスタイル”。攻め続けることを真髄とする」
「
イヨの心臓が高く波打ち、体が一気に熱くなる。たった今初めて見ただけ、真髄も何も知らないけれど、とてもかっこいいと思った。
「僕はイヨさんの言う通りぶきっちょだからね。このスタイルでしか狩りと向き合えなかった。でも、後悔はしていない」
自嘲。けれど、
「これが、僕の賭すものだ」
破竹の勢いでカウンター、カウンター、カウンター。
怒り狂うオサイズチたちへ、すれ違いざまの白刃が叩き込まれる。
「ぅう、おおぉぉッ……!!」
これ以上お荷物になっていられない。
泥に浸かりきった膝に力を入れ、震えながら立ち上がる。たたら製鉄所の煙突のように息が白く
隣から、泥と傷まみれのヨボロが支えてくれた。
「シヅキ、私はッ、どうやって狩猟と向き合えばッ……!」
応急薬を口の中の泥ごと飲み下す。手の甲で雑に拭うと、シヅキが一旦後退してきた。
オサイズチは天へ高らかに叫び、新たな精鋭を呼び出す。奴──
「僕も迷うことはある。彼らモンスターにも家族がいて、住む場所があって、主張があって、生きる尊厳があるのだから。けれど、同時に思う」
「そうして迷いを持ちながら立ち向かうのは、それこそ礼を欠いているのではないかと。彼らは生き抜くための全てを賭けて、僕らハンターに挑むから。そんな彼らに──」
「自分が“最高に好きだ”と誇れる技、知恵。武器に防具、スタイル。持てる全てを賭して挑みたい」
呼び出された精鋭イズチは凛々しい顔つきをしている。自分の生きる場所を守ろうと、その命を差し出してくる。
「そのやりとりは、あまりにもシンプルな一言に収束する。──“すなわち狩るか、狩られるか”」
「“すなわち狩るか、狩られるか”……!!」
吠えて、踏み出し、抜刀した。襲い来る精鋭イズチを断つ。一撃で首をへし折り、絶命させた。
しかし、戦況はさらに揺らいでゆく。雷のような咆哮がエリアじゅうに轟いた。
「グワワワァァァ──ッ!!」
「ヨ、ヨツミワドウ!?」
「エンエンクの煙に釣られてやって来たのか!?」
狩猟環境不安定──事前に忠告は受けている。
このエリア10、水場だ。ヨツミワドウにとっても縄張りなのだ。
オサイズチは甲高い声で指令し、新たな精鋭をこちらに、自らはヨツミワドウへと向かう。どちらも排除してこの水場を我が物にするつもりらしい。
釣られてきたものの、このヨツミワドウは臆病なようだ。
戦闘と分かると一目散に逃げようとするが、精鋭イズチの尾の追撃を食らってあっけなく横転した。もたつく足がぬかるみにはまり、身動きがとれなくなる。
「イヨさん、二頭相手はさすがにまずい! 一旦退くべきじゃないか!?」
精鋭イズチを牽制しながら叫ぶシヅキ。
撤退すべきか。手に巻き付けている鉄蟲糸を握りしめる。口の中の泥が鉄の味で上塗りされる。
「……私は、どう狩りと向き合うのか。昨日の修練場では答えを出せなかったけれど。シヅキにヨボロ、今ならもう出せる」
けれど、味はもう気にならなくなっていた。彼は一瞬だけ戸惑いを見せたが、にこりと承諾の笑顔を送る。
「いいとも、最後までサポートします」
「ワフン!」
じわりと心が温かくなるものの今はそれどころではない。駆け出しながら、頭の中で瞬時に計算を組み立てた。
「操竜をしかける! シヅキは精鋭イズチの掃討、ヨボロはその援護に!」
イヨはヨツミワドウの手足にすばやく鉄蟲糸を引っ掛け、甲殻に覆われた背に飛び乗る。
何度も打って痛む背筋を伸ばす。視点がうんと高くなった。イヨの足裏の下、分厚い甲殻の下で、温かな筋肉がうごめく。肋骨が開いて、閉じて、激しく呼吸が繰り返されている。
血が通っている、確かな『生』。モンスターなんてみんな里を脅かす敵としか認知してこなかったのに、ヨツミワドウもまたヨボロと等しい『生』だった。
鉄蟲糸を、思いのままに操る。
ヨツミワドウの、圧倒的な質量を活かした突進。一頭の精鋭イズチもろともばごん、とぶつかる。
平たく強靭な手でパン! とその頭が叩き潰されて、オサイズチの自慢の牙がへし折られた。
操竜とは、モンスターをねじ伏せるためのハンターの力というよりも。彼らが貸してくれる力だった。
我ながら、最高にすてきだ、と思った。
「シヅキ。アンタはさっき、持てる全てを賭して挑みたいと言ったな」
「賭すものは、“最高に好きだ”と誇れる技、知恵。武器に防具、スタイル。──それら全ては、
「“愛をカタチに”することが、私の狩りとの向き合い方だ」
タイムリミット。強く握って血まみれの鉄蟲糸がちぎれていく。
ヨツミワドウは大きく跳躍し、オサイズチを押しつぶす。回避しきれず、長い尾が砕けてぐしゃぐしゃになった。
受け身しきれないイヨを、泥に落ちる前にヨボロがうまく背で受け止める。
ヨツミワドウは、足を引きずりながら静かに藪へ沈んでいった。それを横目に、シヅキは目を瞑りながら鉄刀をゆっくりと構える。
「──そう。僕も“愛をカタチに”したいものだ」
言葉はまるで、オサイズチへ語りかけるように。自分自身へ言い聞かせるように。
オサイズチの喉を引き裂くような雄叫び。振り上げられる前脚を、シヅキは後ろに大きくステップしてかわした。どぼん、大きく泥が飛ぶ。
「……あぁ。こんなに素敵な出会いがあるから、僕はハンターをやめられない」
ぐっと深く腰を落とせば、重心の振り子によって推進力が増幅する。
練気によって筋肉の軋む音。そして──放たれた。
一閃、二閃!
太刀そのものの質量と遠心力、慣性は、オサイズチを精鋭のイズチごと吹っ飛ばす。
ひとつ遅れてあたり一面に大量の血がぶちまけられ、水面に黒々と染みを描いた。
振り上げていたその両の手首は、関節から
「“桜花鉄蟲気刃斬”……!?」
カムラの里の技術であれば、翔蟲の力を借りることでやっと完成する技だ。それをこの男は、生身ひとつで。
一体どれだけの鍛錬を積んできたのか。想像は難くない。
まだ見ぬ新しい狩りの技術に触れると、ドキドキする。ワクワクする。自分も身につけたいと思う。
この世界には、一体どれだけの狩りの技術があるのだろう。“愛をカタチに”があるのだろう。
両手を失ってバランスを崩し、もんどりうって倒れるオサイズチ。あれではもう、普通の生活は望めないだろう。
キン、とシヅキの鉄刀が納められる。
「さぁ、狩りを終わりにしよう」
「──当然!」
すべてを言い終える前に、イヨは駆け出していた。
シヅキは大きく後退、また精鋭イズチも倒されたので最前線には空隙ができている。
すばやく翔蟲を繰り出した。何度も豆が潰れた手で、その鉄蟲糸をしかと捕らえた。
あなたへ全力で伸ばす手は、私の愛のカタチを届けられるだろうか。
ぐん、と互いの体をかき抱かんばかりに肉薄した。
ぶつかる直前に踏んで、脚の力めいっぱいに蹴って、跳躍。
くるり、装備の帯が、銀髪が、軽やかに弧を描いた。
三半規管を、体幹を、四肢をたくみに操って、カムラノ太刀の刃をまっすぐに地へ向け。
暴れ狂うほどにみなぎる練気が、祈りが、声に出ていた。
「気炎、万丈──!」
「『 鎌風一陣 迫り来る 鎌風二陣 攻め寄せる
長の鎌風 来たりなば 已すでに土壇場 三枚おろし 』」
「あらー、お
シヅキは、驚いたように顔を上げた。
彼の手はいまだにオサイズチへ合わせられている。彼の故郷では、狩ったモンスターをこうやって
もはや原型を残していないほどに傷ついた精鋭イズチたちにも、一頭一頭手を合わせていた。イヨもなんとなく、ヨボロは頭を垂れて
「……フン、ありがとう。自己満足だけれど、倒したモンスターには詩を作ることにしているんだ。モンスターを知らない里のひとに披露しても仕方ないし、こいつだけに聞かせていた」
ワフン! と嬉しそうに返事をするヨボロ。彼はイヨの詩を聞くのが大好きだ。
「彼は良い相手だった。良い仲間を持ち、良い技を使い、良い覚悟で私達に挑んでいた」
「そうだねぇ、とても素敵な相手だった。何よりこの巡り合いと武運に感謝だ」
顔をほころばせて最後の精鋭イズチに手を合わせる二人。目を瞑りながら、シヅキは言葉を紡ぐ。
「君は君の答えを見つけられた。でも僕はこれからも迷い続ける。多分、ハンター業をやっている限りはずっと」
「あぁ、好きなだけ悩めばいい。それも一つの、ハンターとしての姿勢だろう。だが一瞬でも半端な気持ちになってみろ、彼らの牙はアンタの首を簡単に刈り取る」
「たはは……どうも、痛いほど実感してます」
合掌を解いたシヅキは、傷だらけの顔で苦笑いした。
「ハンター業って、大変だよね」
くしゃりとした、いなしの笑顔。腹が立ったから、そのいなしをもぶち抜くように豪語してやった。
「けれど、悪くないだろう?」
……後から互いに照れが来て。
二人の狩人は赤面し、同時にそっぽを向いた。
「よしヨボロ君、ベースキャンプへ帰ろうか! やっぱり無事に帰還するまでが狩猟ですよね!」
「んなっ、逃げる気か!」
「ワフン? ッワウワウ! ワフン!」
「どしたの……ってええええベースキャンプ目掛けて赤い光が落ちていくんですけど!? なんだあれ流星!? これも赤い彗星の影響なのか!?」
どこにそんな元気があることやら、シヅキとヨボロはびゅうと山道を駆け下りて行く。
「おいシヅキ、帰還するには……」
翔蟲のファストトラベルで帰った方が早い、そう言いかけてやめた。
たまには徒歩で帰ってもいいだろう。今なら、これまでとは違った大社跡に気づけそうだから。
痛む腰を伸ばし伸ばし見上げると、冷たく気持ちのいい風が木々の間を吹き抜けていった。
イヨは振り返る。
「……それで、オマエはいつまでそこにいるんだ」
上位ハンターであるシヅキや鼻の効くヨボロが、息をひそめる彼に気づかなかったはずがない。
声をかけた茂みからは、平たい形の瞳がふたつ、じいっとこちらに向けられていた。
操竜されてからも彼──ヨツミワドウは、ずっとここで狩猟の
けれど、操竜の最後の跳躍が鉄蟲糸の力ではなく、ヨツミワドウ自身の意志によるものだったのを──イヨは分かっていた。
ここ大社跡は、カムラの里のそばにある。一般人が近くを通ることもある。
彼がここにずっと居座っていれば一般人と遭遇してしまうかもしれない。すると、カムラハンターズギルドから狩猟対象に指定される。そうして間もなく、ハンターの手によって狩られる。
イヨはうんうん唸って、考えて、考えて、考え込んで。
本音は、正直、そんな悲しいことは起こらないで欲しかった。仮定でしかないけれど、彼がこれ以上危険に脅かされることなく過ごせればいいなと思った。
だから、結局。
「……フン、オマエも帰れ。狩られたくなければな」
血に濡れたままのカムラノ太刀を抜いて見せた。彼はやっと、のろのろ身じろぎしてまばたきする。
竜は言葉を好まない。オマエとヒトは力の貸し借りがあっても、共に暮らせない……なんて意味は伝わっただろうか。
彼に構わない方がよかったのかはわからない。自分が納得するかだとか、寝覚がいい、悪いだとかの問題だけれど。
でも、何もせずにいるよりかは。これだけが、今の自分にできる愛のカタチだったから。
ややあって。
脚を引きずり、藪をかき分ける気配と共に彼は去っていく。臆病なくらいが、この世界でうまく生き延びられるのかもしれない。
大社跡のはるか上空、天翔ける赤い彗星のみが──この、一頭のヨツミワドウの行き先を知る。
△▼△▼△▼△▼△
そんな狩猟があってから数日。
年末もいよいよ間近となったが、ここ修練場の扉は変わらず開放されていた。
「──剥ぎ取りナイフをね、こうやって逆手に持って。モンスターの背中を……こうする」
──ざくざくざくざく!! 滅多刺しする仕草に、イヨとヨボロは悲鳴を上げた。
「キエェ……お、恐ろしいな。乗り攻防は」
「そうかな? 僕は疾翔けのほうがよっぽどおっかないけど」
適当な岩に座り、うさ団子をかじる二人と一匹。隣でガーグァ──カン子がぐうたら寝ている。
「鉄蟲糸がなければどうやってモンスターの背中に掴まるんだ? モンスターも暴れるだろう?」
「え、なんというか、太腿でぎゅって挟む感じ? あとは普通に手でしがみつく」
「さてはホウヘイヒザミだな? 砂原にいて、壁にくっついている環境生物だ。それから、コダマコウモリみたいでもある。モンスターの背中にまとわりついて──爆発するんだ」
「乗り攻防を勝手に爆発させないでね?」
シヅキのツッコミにハン、と鼻で笑うイヨ。しかしその手元にはシヅキの話がびっしりとメモされたハンターノートがあった。実は、彼女もメモ魔だ。
「外の世界にはたくさんのハンターの拠点があるんだな。巨大研究機関の龍歴院、港町タンジア、海上都市ギルデカラン、ルルシオン、砂漠町ロックラック。開拓の地メゼポルタ。ハンター発祥の地ミナガルデ──それから、新大陸にも」
「僕も半分以上は聞いた話なんだけどね。それに村規模の拠点となると、本当に覚えきれないくらいの数になる」
「それぞれに独自の自然環境があって、モンスターや、人、考え方があって。……本当に途方もなく規模の大きな話だ」
「それだけ自然は大きいんだよ。自然と人が住むところに必ずハンターはいるものだ。調和を目指す者として」
小さめに作られたうさ団子。見つめながらシヅキは呟く。
ヨツミワドウを模したからくりだけが、ものも言わずに会話へ耳を傾けていた。
「世にガルクを広めるための旅、か。……百竜夜行に終止符を打って、本当にカムラの里が平和になったら。もしかしたら、一歩くらいは、外に出てみてもいいかもしれない」
「ワフン!」
「ふふ、じゃあまずは僕の拠点であるドンドルマに来てね。ハタチになっていたら美味しいお酒を奢ろう」
「う、詩のレパートリーも、増えるだろうか」
「増えるだろうねぇ、是非いっぱい作って聞かせてよ。それも一つの“愛をカタチに”ってやつだ」
朝の日差しの中、ふわりと穏やかなシヅキの笑顔。イヨの苦いような照れ笑い。ヨボロの尻尾をパタパタと振る音。夢を語る者、聞く者というのは、とても良い顔をする。
「でも、どんなにたくさんのモンスターと出会っても、私の一番好きなモンスターはオサイズチだぞ。人生で初めて狩った大型モンスターだからな。な、ヨボロ!」
「オッサイッズチ! オッサイッズチ!!」
「ワッフワッオン! ワッフワッオン!」
「あっ、イヨさん、振り回す手が僕に当たってます」
「なんだうるさいな。貧乏なアンタがお土産をたくさん買えたのは報酬金のおかげだろう。つまり、オサイズチたちのおかげでもある」
「里の土産屋はただでさえ経営が苦しい。だからこうして報酬金をめいっぱい使って、オサイズチたちがくれた恵みを里のみんなに山分けしてあげるんだ。“猛き炎”ならここまで気を遣わないとな」
「うわ、めちゃくちゃ理にかなってる。居つきのハンターの鏡だね」
カン子が少しだけ頭を上げ、グアァと声を上げる。同意の意味だろうか。興奮が収まったイヨは、カン子をポンポンなでながら座り込む。
「ところでアンタたちはどうやって龍歴院に帰るんだ?」
「んーと、ユクモ村までカン子さんに乗って、そこから飛行船。……あ、そうそう。今ユクモ村に旅の美味しいご飯屋さんが来てるらしくてさ。
「なんだ早く帰れ。龍歴院から期限が迫っているんじゃなかったのか。アンタは脳内ぱやぱやのお気楽ハンターか」
「狩りのとき以外は気楽じゃないと、旅のハンターなんてやっていけないのです。ワハハ」
「否定しないんかい」
よっこらせ、とジジ臭い掛け声と共に立ち上がるシヅキ。背の鞄には、大量の土産と分厚い報告書がどっさり詰まっている。手に抱えている袋には、大社跡のベースキャンプで拾った彗星のカケラも。
もうすぐ旅立つ時間なのだ。
イヨは、シヅキのの腕を掴む。
「近くで一狩りするなら、またこの──カムラの里に立ち寄って欲しい。私たちが、里の皆がアンタを歓迎する」
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さてこの少女と相棒、ここからさらに数時間後。ゴコク様からお呼び出しを受ける。
『おぉ~ぅイヨ、いいところに来たでゲコ。オサイズチの狩猟、見事であった。おかげで“猛き炎”たちも帰って、なんとか調整もできたでゲコ』
『──数日、休暇はいらんでゲコか?』
『は?』
一人と一匹は去る旅人たちを追いかけ、世界を巡る第一歩としてユクモ村に訪れるのだが……それはまた、別の話。
あとがき(※若干メタ表現注意)
【挿絵表示】
モンハン愛をカタチに。Advent Calendar 2021、今年も参加させて頂きました。本当にありがたい…! 感謝無量です。
今回はホットなRise舞台で、ほんのりコメディ風に仕上げてみました。
また、ずっと挑戦してみたかった挿絵も製作できて良かったです。大好きなオサイズチがいっぱい描けて幸せ。
装備を描くのも好きなのですが、モンスターよりも圧倒的に人間の方が描く難易度高いですね。なんでだろう……いつも描いているのは人間のはずなのですが。
なお、当企画は様々なジャンルのモンハン二次創作が登場しております。是非覗いてみて下さい!
zokのTwitterアカウント→【@zok_1682】
企画ハッシュタグ→【#モンハン愛をカタチに2021】【#MonsterHunterMyLove2021】
読了ありがとうございました! 次話も是非ご賞味下さい。