黄金芋酒で乾杯を   作:zok.

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 今回はあまりモンハンしていません。
 ちょっと長め。


53杯目 (アイルー)を染めて売るような ふたくち

 

 △▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 闘技場が《期待の新星》に盛り上がっている頃。

 

 シヅキとメヅキ、フィーはドンドルマハンターズギルドのとある一室に放り出されていた。

 身柄を確保されてからもうすぐ丸一日が経つ。簡素な食事は出されているものの、そろそろアキツネの作る飯が恋しい頃である。

 

 三人はそれぞれハンターズギルドの取り調べを受けた後だった。偉そうな者、重鎮そうな者、ときに恐怖の赤い装いのギルドナイトとまで。

 長時間の問答はある意味、大型モンスターと対峙した時か、それ以上に精神が摩耗した気がする。

 

 今は問答をまとめて審議の時間らしい。内容は恐らく、ファントム・ホロロことフィーの……

 兄弟は簡単な目の前のソファの女を見た。うなだれている顔は幼く見えるが、二人よりほんの少し年上である。

 

 何か言いたそうなシヅキを見かねて、メヅキが口を開いた。今はきっと、フィーにとってシヅキの控えめな性格は毒でしかない。

 

「フィー先輩。俺だ。メヅキだ。昔、弟が素材の部署で世話になった」

 

 メヅキのはっきりとした物言いに、細い腕の隙間から茜の瞳が力なく覗く。

 

「あんた、《木天蓼軒(うち)》の……薬んところのだったか」

「ああ。部署が異なっていたから、俺と一緒に働くことはあまりなかったな。それでも俺達と貴方は同じ商会で育った仲だ」

「……シヅキとあんた、兄弟」

「そうだとも。俺達二人は確かにギルドに弱みを握られている身ではあるが、貴方の味方になりたい。どうか、気を強く持たれよ」

「……ふたり、フィーの味方?」

 

 フィーの茜色の瞳がゆっくりと揺れる。昔のことを少しずつ思い出してきているようだ。やがて瞼が閉じて、「フィーはひとりだもん」と彼女は小さく呟いて身じろぎした。

 シヅキはその時、フィーの(ふところ)から一枚の紙がこぼれ落ちたのを慌てて拾う。

 

「先輩、ギルカ……ギルドカード、落としましたよ。良ければ僕のと交換します?」

「ハンターが会えばまずギルドカードの交換だ。俺のも頼みたい」

「……べつに。さっき職員から『身分証明書だ』っていっぱい貰ったけど、フィーはいらない」

 

 フィーは懐から束になったギルドカードを投げ出す。机の上に棒立ちのフィーがばらばらと広がった。みんなムスッとした顔をしている。

 ギルドカードは、『写真』という特殊な造影技術で容姿が印刷されている。スケッチは偽造ができるが、写真は誤魔化せない。ハンターズギルドはこれで顔や武器、防具の様子を記録しておくのだという。

 

 ギルドカードはハンターにとって名刺であり、免許書であり、「自分はハンターズギルドに所属している」ということを意味する最大の身分証明書だ。

 

「ハンターネームは……“ファントム・ホロロ”?」

 

 ギルドカードは申し訳程度の厚紙でできていた。『HR1』を意味する。

 ハンターネームの欄に“ファントム・ホロロ”と名されているが、偽名だという事がすぐにわかる。

 ハンターネームとは、本名を登録する必要がないのだ。

 

「シヅキあんた、文字、読めるようになった?」

「先輩と別れた後、必死に勉強しましたからね」

 

「数年頑張って、日常の読み書きがやっとですけど」と苦笑いをしながら、シヅキは兄のと二人分のギルドカードを差し出した。しかしフィーは受け取るも、目を通してすぐに机へ放る。彼女は字が読めないからだ。

 フィーのギルドカードを眺めていたメヅキは、ようやく大きく頷いた。

 

「武器使用回数がゼロ、狩猟数がパラパラと。なのに装備はある程度整っていて、腕前はG級に迫るほど……なるほど。そういう抜け穴か」

「武器使用回数と狩猟数が噛み合わないのは、通常のクエストじゃなくて闘技大会に何度も出ていたからなんですね」

 

 闘技大会だけで稼ぐことは不可能ではないものの前代未聞。剥ぎ取った素材が手に入らないので、装備を充実させられないからだ。

 もし闘技大会一本で飯を食うとなると、素材が不要――自前の装備が必要ないということ。ハンターズギルドの職員らがファントム・ホロロの動きを予測できなかったのも仕方のない事だろう。

 

「それに、ギルドカードが作られたのもつい最近のようだな。フィー先輩のハンター歴は俺達よりも長かったはず」

「……闘技大会に出るには、ギルドカードが必要って言われて。作った。しょうがないから」

「クエストを受けるには記録するものも必要ですからね。だから“ファントム・ホロロ”は実力とHRが見合わないということか」

 

 ハンターズギルドに登録されているクエストをこなさないとHRを上げる事ができないし、より上位の依頼を任せてもらえない。

 対してギルドを介さない非正規なクエストは、ときに自分の身の丈に合わないことがある。数字として記録されず、大きな危険も伴うが、正規クエストをこなすよりも一足飛びに実力がつくだろう。

 これは過去のメヅキとシヅキも当てはまることだった。

 

「じゃあ、先輩がファントム・ホロロになったわけは。まさか、《木天蓼軒》がまた経営難に」

「ちがう。……ううん、《木天蓼軒》はいつも貧乏だけど。フィーがリオレウスを殺したのは、はやくリオレウスの素材が欲しかったから。匿名の依頼に必要だった」

「匿名の依頼?」

「……話せない。でももう、()()()はギルドが回収しちゃった。依頼、こなせない。仕事、失敗した」

 

 フィーの語尾は尻すぼみになるが、突然身を起こすと二人へ迫ってきた。驚いて喉が詰まるシヅキに対して、メヅキは粛然としている。

 

「二人はフィーと別れた後、何してた? 借金で逃げたのかと思ってた」

「……!」

「あんたたちはあんなに長く働いていたけど、いてもいなくても《木天蓼軒》の隊商(キャラバン)は変わらなかった。隊長はころころ入れ替わるし、フィーは毎日護衛と素材いじり」

 

 聞くなりシヅキは少しだけ苦笑いして、静かにため息をついた。「良かった」

「何が?」

「僕らがいなくなっても、先輩と隊商が何とかやっていけていて」

「あんたのそういうとこ、昔からきらい。人が良すぎる。だから隊商ではいつも仲間外れだったんだ」

 

 フィーのギルドカードの縁を撫でていたシヅキの指が止まる。代わりに、ベッドの上で胡座(あぐら)のメヅキが口を開いた。フラヒヤの森林のような深い緑の左目は、フィーではないどこかを見つめている。

 

「商隊からはずれたのは、もう四年以上も前のことだ」

「四年まえ。フィーは二十歳。あんたたちは十九歳」

 

 フィーは机に投げ出している手の指を折って数える。

 

「金。所持品。体力。全て尽きた俺達は、自力で生活できなくなって。行く宛もなく、唯一できたことは自己破産の申告だ」

「じこ、はさん?」

「俺達は金を返すことができない、と借金相手に告げる事だ。ギルドが絡んだりと手続きにかなり苦労したし、ハンター免停……免許停止の引き金ともなったが。結果、良かったと思っている」

「あんたたち、ハンター辞めてた?」

「あぁ。ハンターは確かに履歴を問わない職だが、ハンターである身で起こした犯罪は別だからな。ギルドによって依頼の受注を禁じられたのは、素材の違法取引の罰則として。その間の一年半は町の中で下働きと、体づくりを」

「……そんな。《木天蓼軒》を。フィーを恨まないのか」

 

 ぐっ、とシヅキが音もなく唇を噛む気配がする。

 当然だ。思春期を棒に振ることになった理由が目の前の女と、その裏に潜んでいるのだから。

 しかしメヅキはぴしゃりと言い放った。

 

「恨んでいる暇はなかったとも。ここまで這い上がるには目の前のことで精一杯だったからな」

「……うん、メヅキの通り。恨む理由はあるかもだけど、引きずり続ける理由はありません。僕らには」

 

 後から苦々しく意見を述べるシヅキに、「お前が言うか」とメヅキは頭を引っ叩いた。

 二人の過去の振り返り方は、まるで酒を潔く一息で呷るのと、何度もえずきながら飲み干すようだ、とフィーは思う。どちらも、そこには大きな苦難があったのを何となく彼女は察した。

 でも、自分もすごく大変だもん、とも。

 

 フィーは行儀悪くベッドに身を投げ出した。吹き出した埃が灯りに照らされ、黄金色に瞬く。

 

「あんた達はその程度の罰。じゃあフィーのはどうなる? フィーはこの後どうやって生きればいい?」

 

 ハンターズギルドの掟に逆らえば。最悪の末路はこの町の子供だって知っていることなのに、彼女は自分が生存できる前提でいることに――最悪の末路を知らない事に、兄弟は何も言えない。

 

「ハンターに免許が必要なんてフィーは知らなかった。正しいと思ってやったこと、みんな間違ってた。どこから間違えた? どうすれば正解だった?」

 

 返すは沈黙。彼女の生い立ちを知っている兄弟は尚更、彼女を非難することもできず。

 

「依頼を受けたとき、思った。やっとお金持ちになれる運が巡ってきたって……それに闘技大会で有名になれば、みんながフィーの言うことを聞いてくれて、食べたいものも欲しいものも、ずっと暮らせるところ()も。なんでも……」

 

 消え入るような声。

 彼女の夢は、きっとこの洛中(ドンドルマ)じゅうの人をかき集めてさえ、最も純粋なものだろう。

 

 決して高潔ではなくても。そこには悪いことをしたいとか、誰かを虐げようといった邪念は一欠片もなく。

彼女は()()になりたいだけなのだ。

 

 ふと、フィーは顔を上げる。乾いた赤い唇の端に艶やかな黒髪がへばりついていた。

 

「あんたたち二人、必死に金を集めてるってギルドナイトのクソジジイから聞いた。借金も返し終えて、十分な生活ができてるあんたたちは――」

 

「何のために。ギルドに弱みを握られてまで、金をたくさん集めてる? 集めた金をどうする気だ? 毎日ほっぺたが落ちるほど美味い肉や果物をたらふく食べて、毎日浴びるほどの酒を飲むのか? 貴族が欲しがるほど高いモンスターの素材を山のように買い集めるのか?」

 

 灯りにぎらつく茜の瞳が兄弟二人を射抜いた。

 硬く口を結んだ二人は、わずかな時間も置かずに応えた。

 

「「お金で救いたい(ハンター)がいるのです」」

 

 

 

 

 

 その時、「お疲れちゃーん」という気の抜けた挨拶と共に部屋の扉が開かれた。大きな封筒片手に赤のフェザーのオズだ。珍しく正装のギルドナイト一式装備である。

 

 彼が取り調べに不在だったのは、昨晩から休みなくハンターズギルドじゅうを奔走していたから。事を円滑に進める潤滑油となっていたそうだ。

 

「大老殿からの判決、出たで」

 

 三人が唾を飲むより早く、オズは手にした書類を淡々と読み上げる。

 

「ファントム・ホロロことフィー。まずは明日の公演は出てもらう。刑罰の細かい裁量決めんのはその間に」

 

 とりあえず今すぐ首を切られることはない。しかし安堵する三人に息もつかせず、オズは「その代わり」と釘を刺す。

 

「公演を成功させる――つまり、モンスターを必ず狩猟しきること。ギルドがあんたの首の皮をひとまず繋いであげているのは、寵児であるファントム・ホロロをこのまま殺すわけにはいかんからや。今期の闘技大会、莫大な運営資金も掛かっとる」

 

「――ギルドは!」

 

 オズが言い終えるが早いか、シヅキがオズに詰め寄った。

 引き止めようと腕を掴むメヅキをものともせず、遠雷のようにおぞましく低い声を喉奥から絞り出す。必死の形相だった。

 

「先輩を何だと思っているんです……先輩は消耗品なんかじゃない……!!」

「誤解しないでくれへん? 最前線で戦ってくれる子を“ボウガンの弾”や“弓のビン”みたいに使い捨てするんは三流企業よ。でなきゃギルドは保険金や支給品の手当てもせぇへんしな」

 

 噛み付くように見上げてくるシヅキを無理やり引き剥がすのではなく。「気持ちはよう分かるけど」と、その肩をポンと軽く叩いてやる。びくともしないがオズは変わらない調子で言葉を続ける。

 

「ただ、それは正当なハンターである場合や。ギルドに所属していなかったり、ギルドの掟に背いてしもた場合は――扱い変わってくるやろな」

「……」

 

 むしろオズは事が最悪の顛末にならないよう尽力してくれているのだ。シヅキは悔しそうに目を逸らした。

 彼が急に怒りを露わにした理由をフィーだけが分からず、ひっきりなしにきょろきょろしていた。

 

「……すみません、疑うようなことを言ってしまって」

「ん、分かってくれたらええ。あと、アホアホの兄弟(あん)ちゃん()はこのまま釈放。おめでとちゃん」 

 

 そう言って、オズはペラペラの書類をくしゃくしゃに丸める。

 

「でも、事件はまだ完全に解決したわけやあらへん。さっき出た判決は、フィーちゃんがリオレウスを不当に殺してしまったことについて。でも、フィーちゃんが任された“匿名依頼”や雄火竜素材の違法取引、ギルドの目の届かんところで蠢く商会《木天蓼軒》……何層にも問題は重なっとる」

 

 オズは空いている椅子に行儀悪くどっかりと座ると、目頭のあたりをぐりぐり揉みはじめた。今は夕刻間近。彼は徹夜明けだ。

 

「商売や取引とあらばハンター兼商人上がりであるウチの管轄。快()乱麻を断つとはいかへんかもやけど、ウチが長年追っている違法取引の課題の解決に、フィーちゃんが足がかりになってくれたんや。凄い運の巡り合わせやで」

「違法取引……フィーが?」

「オズ殿、引退の検討中に事件とはずいぶん悪運持ちだな」

「なんも悪運やあらへん。こりゃ激運や」

 

 その言葉は本気か皮肉か分からないが、オズは仰いで三人を見渡すと、ニッタリと口の端を釣り上げる。

 

「んで、ここからはハンターズギルドの意見。あんたら三人は今から事件の関係者やなくて、ハンターとして協力してもらいたい」

「ハンターとして協力って、一体」

「ファントム・ホロロと八百長や」

「や、八百長?」

 

 オズは食事として出されていたウォーミル麦のパンを掴むと、「腹が減っては狩りもできへんで」と三人へ放ってよこす。そして余っているのを勝手にムシャムシャ齧り始めた。「かったいパンやな〜」

 

「ファントム・ホロロの最終夜。ただの独壇場でもええねんけど、簡単なシナリオをつけよって話が運営内から出とるんや」

「芝居仕立て、というところか。確かにこの町の人は劇や一座も好む。通常の狩猟より民衆受けしそうだ」

「劇? やってみたいけど、台詞とか覚えられない」とフィーはパンをモグモグしながら言う。

「台詞や狂言回し(ナレーター)は司会者がやってくれるから、出る人は何も喋らんでいい。これ、台本は狩猟を達成することくらいしか決まってなくて、狩猟しながら進むシナリオなんやって。あんたらの狩猟を追って、リアルタイムで台本が書き上がってくねん」

「ほぼ即興劇、ということですか」と首を傾げるシヅキ。

「せや。だからギルドは今、大急ぎでツテを駆使して作家とか『月間狩りに生きる(ゲッカリ)』記者とか、文章書ける人を集めてる」

 

「そんでな」とオズは三人の顔を順に、念を押すように見比べた。彼は人を引き込むのが異様に上手い。彼がギルドナイトである理由は、狩猟の腕だけでなくこんなところにもある。

 

「彼女をサポートする(ロール)が必要なんや。ペア狩り経験のないフィーちゃんの素早い動きに合わせられて、しかも、最後は彼女に舞台の照明を譲ってやれるような盛り立て役」

「サポート……というと、メヅキが適任かな?」

「お、俺がやるのか」

 

 シヅキは横で白羽の矢が立ったような顔をしている兄を見た。パンを齧る手が止まっている。

 

「うちもそう思うた。しかし問題があって、自分の武器や防具はやっぱり出されへんねんって。装備もアイテムも貸し出し品だけや」

「え、別にいいんじゃないです?」

「これ、見てほしい」

 

 オズは大きな封筒から次の書類を取り出した。公演の要項のようだ。受け取ったシヅキは目を通す。

 

「なになに、武器は太刀もライトボウガンもあって……」

「相手は氷牙竜ベリオロス。(温暖期)産の個体か」

 

 曰く、今闘技大会で使用できるライトボウガンは火竜砲――リオレウス由来の武器とは皮肉なものだ――火炎弾の速射が得意で、サポートというより攻撃性能が重視されたもの。アイテムも各種薬と弾しかない。

 対して太刀は、絞蛇竜ガララアジャラの麻痺毒が仕込まれたコイルドネイル。爆弾、眠り投げナイフと搦手のアイテムも充実している。

 

「太刀の方がサポート向き……じゃないですか……」

「言いたいことはわかるやんな? シヅちゃん」

「ううッ断りたいです……気持ちとしては断りたい……」

「他のハンターにも目星はつけてる。無理にとは……って言いたいところやけど、ファントム・ホロロに接触する人はなるべく減らしたい」

 

 彼女の履歴や事件そのものの情報が漏れたら、世間の好奇の目に晒されてしまうだろう。酷評に振り回されれば社会的に生きていくのが難しくなる。それこそ消費物のように扱われてしまう。

 フィーは目頭に皺を寄せて目を伏せた。夢である「普通に生きること」が叶わない事を再び思い知らされたからだ。

 

「……それでも。フィーはやっぱり諦めたくない。美味しいものを食べて、欲しいものを手に入れて、ずっと町で暮らすことを」

 

 唇を噛んでいた彼女は、前髪を振り払って訴えるように言い放つ。

 

「お願いだ、アホ兄弟。フィーを助けてほしい」

 

 オズの真意を受け取った兄弟二人は、彼女の意志に問答無用で首肯した。

 

「情報として先輩を守る、か。外部のハンターに頼むことはできん」

「でも、先輩の気持ちが最優先です。……本当に、僕と狩猟をご一緒してくれますか」

 

 慎重に訊ねるシヅキだったが、フィーはゆっくりとそっぽを向き、ツンと澄まして答える。

 

「誰かと闘技大会に出るのは嫌だけど。シヅキとなら、別にいい」

「たはは。ご指名頂き、誠にありがとうございます」

 

 困り笑いをした次の瞬間、シヅキは真剣な顔つきになる。いつのまにか一端の商人の表情になったもんや、とオズは人ごとながら思った。

 

「いいでしょう、先輩――ファントム・ホロロとの舞台。この《南天屋》のシヅキが、お引き受けいたします」

「流石! ドンドルマハンターズギルドの代表としてこの依頼、是非よろしくお願いしたい」

 

 交渉成立。

 オズは封筒から依頼書を出すと――引き受けるのを見越して持ってきていたのか――挑戦的な笑みで渡す。シヅキは丸みがかった綺麗な文字で手早く署名を済ませ、「高くつきますからね」と返してやった。

 

「彼、ベリオロスにとって夏の雪山は食べモンが少ない時期やからめっちゃ痩せてるし、かなり手負の個体やけど。『白の騎士』の異名を持つ程度には相当手強いで」

「雪山のモンスターの生態について詳しいな、オズ殿」とメヅキ。「仰る通り、温暖期の雪山は育ちきった硬い草葉しかない。モンスターは肉食・草食関係なく栄養不足に陥る」

「でも、雪山のモンスターは飢えている時こそ恐ろしい屈強さを見せるって、僕は身をもって学んでいます。特にベリオロスは一式の防具にするくらいですから」

「シヅキ、ベリオ装備なのか?」とフィー。「あんたには『白の騎士』なんてもったいない」

「これから手伝う人になんて物言いを」

「頼んだのはこのクソジジイだ」

「先輩が女の子じゃなかったら一発グーですからね?」

 

 フィーとシヅキのやり取りにオズは高らかに笑い、メヅキの肩をがしりと抱き寄せる。

 

「メヅちゃんは医療スタッフ! 医学に精通するハンターなんて鬼蛙に岩の盾」

「それは心強いことの例えか? だが弟と先輩に全てを任せるなんて俺のプライドが許さん。摂取した途端に鼻血がブーブー出るくらい効きの良い薬を用意しよう」

「そんな理由で出血したくないんだけど。もっと有益な方に頭を使って欲しいな」

「メヅキの薬、昔からよく効く。あんまり苦くない。フィーは好きだ!」

 

 かつて三人はこのような、あどけない雰囲気で共に過ごしていたのだろうか。

 いかん、必要以上に情が移る。オズは頭を振って思考を飛ばすと、声を高らかに張り上げた。

 

「さぁ、乗りかかった龍撃船は途中で砂漠に降りられへん。最後まで突っ走ってもらうで!」

 

 最後の舞台は明日の夜。

 猶予は丸々一日あるが、関係職員との顔合わせやベリオロスの下調べ、コンディションなど整えなければならない土台は山ほどある。

 夕闇の気配が迫る洛中を、四人はそれぞれ動き出すのであった。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△

 

 




 後書きも少し長め。

 シヅメヅ兄弟とフィーの会話で非常に難産になりました。
 二人がガチガチに事件について深入りしても良かったのですが、フィーが可哀想になっちゃったので。その辺のお堅い話はオズに任せて、昔話を交えつつザックリ過去バラシです。
 細かい描写は後々に別の人物に任せることに。

 自己破産。
 調べ物をしたら、借金返済についてのweb広告が止まらなくなりました。違う、そうじゃない。
 自分、経済について詳しくないのでモデルとして現代の借金制度を採用していますが「借金相手に頭下げたんだな〜」程度の理解で大丈夫です。むしろ突っ込まれたくないポイントだったり。
 
 闘技場クリアした時のギルカ狩猟数。
 W:IBやRise:SBではカウントされ、XXではカウントされない仕様だそうです。これではお試しで斃されていったドスマッカオくんたちが浮かばれない。
 じゃドンドルマこと4gではどうなのって話ですが、ゴメンナサイ、ロケハン不足です。ベースであるXX基準にさせて頂きました。
 ちなみに武器使用回数はX以降カウントされないそうですね。

 次回はフィーとシヅキのベリオロスペア狩りです。たくさんネタ回収ができそうで、自分もちょっとワクワクしております。

 読了ありがとうございました。次話も是非ご賞味下さい。
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