雑踏での喧嘩。この街では珍しいことではない。
むしろ、肉を食ったら出る骨のゴミとか、クソといった、人間が生活する上での副産物のようなものだ。
「さっきからよォ、がじゃがじゃウッセエんだよゴルアァ!!」
だから、そんな罵声が聞こえときも、あたしはそれほど驚かなかった。またか、と酒瓶を選ぶ手を止める。
あたしは珍しく(あたしが日中に出歩くことは本当に珍しいことなんだよ)、日中の酒の仕入れに出掛けていた。
べたつく海風の中で動くのはとても不本意だ。でも、大抵の人が、この時間に活動することくらいは心得ている。
たまにはこうして、あたしが世間に合わせなきゃいけないときがあるのだ。
顔を上げると、店主の小太りオバチャンがこちらに目配せしていた。「よしきた、見に行こう」と目で伝えると、彼女は品のないニヤケ顔で頷く。
話を戻す。
喧嘩が、ゴミやクソと違う点は、見ていて面白いことだ。この商店街にとって数あるエンターテイメントの一つと言ってもいい。
あたしと酒屋の主人は、酒瓶の並ぶ棚をすり抜けて表に出る。通りの真ん中がなんだか騒々しい。人だかりの隙間から、アキツネがあちらに向けて構えをとっているのが見えた。
彼は、少しでも気に障ることがあると手が出る癖がある。だからこの商店街で勃発する喧嘩では、彼の参加率はまあまあ高い。
そういやあいつがオズとはじめて会ったのも、喧嘩が発端じゃなかったかな。
そう思いながら、近くで背伸びしていた馴染みの陶器屋のジジイに「なんの喧嘩?」と尋ねた。「いやぁ、よく知らないんだけど」と返される。
「でも、いつものイチャモンじゃないかなぁ」
「ま、そんなところだよね」とあたしは煙草に火をつける。
立ってタバコを吸うときの姿勢は、なぜか、遠くを見る時に最適だ。
アキツネは、日々の仕込みで皮膚が硬くなった両手を軽くひろげ、ぬらぁっと顔の位置に掲げていた。深く皺の寄った眉間に、手の影が落ち、その中で赤い瞳がじっとりと光っている。
背と幅があるぶん、その恰好は自分をデカく見せるのに効果的だ。なんて丁寧な威嚇だろう。
多少頭が鈍くても、こんなやつに手を出すと少なからず痛い目を見そうだというのが、本能的に理解できる。
でも、アキツネの気遣いもむなしく、キンキン声が通りに響いた。低能っぷりを青空のもとに披露するみたいだった。
「あんダァ〜? 兄チャンやんのかァ〜??」
バカは二人。
下手くそな染め方でマダラになった長髪のガリと、贅肉まみれの上裸にセンスの悪いネックレスを垂らしたデブが、姿勢の悪い格好で吠えていた。
アキツネはしばらくムッツリしていたが、やがて左手をゆっくりと返し、一度だけ手のひらを軽く折り曲げる。
あたしが、もし商店街の外から来た人に、バカを焚き付ける言葉を教えるとするなら。
「来いよ、腐れインポども」
今のアキツネと同じことを言うだろう。バカはほとんどの言葉を理解しないが、シモの言葉はわかるみたいだから。
「だァれがインポだァ〜!」と喚き、まずデブが拳を振るった。それほど速くはない。アキツネは左手で受け止める。デブのネックレスを掴んで、右に思い切り引っ張る。喉が締まったらしく、デブは「きゅっ」と可愛らしい声を漏らした。そして境目の不明瞭な首を抑えて、膝をついた。
ガリが、「こぉのやりゃァ〜!」と奇声をあげてアキツネの腰に抱きつく。右足を後ろに下げた。金的狙いだろうか。膝が突き上げられる前に、アキツネは腹のあたりでガリの組んだ指をこじ開ける。小指を握って、ガリの体が伸び上がるまで高く捻り上げた。ガリはきゃんきゃん喚きながら、身をくねらせて転がった。
左から、よだれを垂らして立ちあがっていたデブ。
ガリを踏みつけ、乗り越えて、アキツネの肩ぐらに突進する。デブのよだれがアキツネの身体にべっとりつく。アキツネが舌打ちをしながら、組み合う。デブの、真正面からぶつかりますよ、と見え透いた前傾姿勢に足を絡めて、崩し、アキツネは身をぐっと屈めると、どどぅ、と体重どうしがぶつかり合う気配がする。デブは後方へ投げ飛ばされた。積み上げられた木箱がいくつも倒れた。
デブの、中身の入っていなさそうな頭に木箱が落ちて、その手足がだらんと伸びた。
アキツネの、反動を殺している背中に、何かがシュッと振られた。腰の入っていない、安っぽいナイフだった。距離を読み誤っていて、彼を傷つけるには至らない。ビッと音を立てて、服だけが破ける。
ゆらりと振り返るアキツネ。追撃しようとナイフを先頭に突っ込んでくるガリの手を、右に払い、流す。通過していく腕を掴み、腰と膝を使って跳ね上げるように、右後方へ投げた。身体は、屋台の柱に頭から突っ込んでいく。ガリは尻を天に突き上げるかっこうをしたまま、動かなくなった。
人垣のあちこちからゲラゲラと笑い声が上がり、拍手が鳴る。アキツネは照れたりふんぞり返ったりすることなく、「バカが、バカが」とぶちぶち呟きながら、デブとガリを道の真ん中に引きずり出した。
ガリのナイフを取りあげ、足でげしげしと蹴って仰向けに転がす。バカ二人のズボンをばらばらにし始める。笑い混じりの悲鳴があちこちで聞こえる。
間もなく、ふたつの小さくも健康そうなチンチンが、お日さまの光を一身に浴びることとなった。
「腐ってなくて、よかったね」とあたしは思わず言った。隣の店主がのんびりと、「元気そうだね」と付け足した。
なんだか、毎年育てている野菜の成長ぐあいを褒めるみたいな言い方だった。
人混みは徐々に掃けていく。この大通りに人が溜まり、また去っていく様子は、磯に押し寄せては引いていく波の泡のようだ。
アキツネは向こう側で、いつもと変わらぬ真顔のまま、仲良しの干物屋のおばあちゃんに「チンチンまで出すこたぁなかったでしょ!」と、箒で頭を叩かれていた。
あのおばあさんは、混沌に混沌をぶつけることで、混沌を内包した秩序が保たれることを、きっと経験的に知っているのだろう。
ゴミやクソを排出せずに、人は暮らせるか? もしそれらを全く排出しない暮らしがあるなら、そいつは健全なのか? と、あたしは思う。
商店街は今日も平和だ。
ときどき、喧嘩があるだけだ。
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土竜族とは珍しい。
いつものほんのわずかな時間だけ、今日もやってきたガキのハンター相手に金貸しを終えた、宵の口。
《七竈堂》本日一人目の客を、あたしはつい、舐めまわすように眺めてしまった。
無礼とはわかっていても、だ。
そいつは中年に見えるオヤジ。けど、人間じゃないから本当の歳はわからない。
鍛治仕事で焼けてチリチリの髪とヒゲ、オニオニオンのようにごつごつした形の鼻、家畜がつけるやつみたいな輪っか型のデカい鼻ピアス、突き出た腹、太くて短い手足。
土竜族とは《地底火山》のそばにある、ナグリ村に住んでいる種族だ。性格は勤勉、仕事好き。
そして、それほど人口は多くなくて、村から離れて暮らすという話はめったに聞かない。
だから、ナグリ村から遠く離れたこの街で、土竜族を見るというのはとても珍しいことだ。
「なんでもいい。うまいやつ、いっちょ」
オヤジは、あたしの向ける好奇の目も慣れているみたいで。滑るようにスツールに座ると、大きくて重そうな鞄を、どすんと床に放る。
そして、何でもなさそうに注文した。まるで常連みたいな態度だった。
「えー、なんにするかい。醸造系も、蒸留系も揃ってるよ。オススメは今日仕入れてきたパニーズ酒だ」
「じゃ、それで。ツマミも、すぐできるやつならなんでもいい」
そこで、アキツネが厨房からお通しの小鉢を出しに来た。ハッとしたように、立ち止まる。
「おめぇ、今日、通りで騒ぎ起こしたやつでねぇが?」
「さっきぶりだな」と言って、オヤジはチャーミングに手をちょこちょこ振ってみせた。「あんときゃ助かったゼ!」
「騒ぎってアレかい。あんたが、チンピラふたりをとっちめたやつ」
あたしが聞くと、「ん」とアキツネは首を縦に振る。暖簾の布が頭に引っかかって、ぴらぴらしている。
「おれが仕入れしてたときによ、このオヤジが目の前で、突っかげられてたンだ。店のひとも迷惑そうにしてたしよ、買い物の邪魔だったンだ」
「ははぁ」あたしはようやく合点がいった。昼間の喧嘩はそうやって始まったのか。よくある話だ。
土竜族のオヤジは、あたしの作ったパニーズ酒を興味深そうに受け取る。「そんでよぉ」
「店の人に聞いたら、兄チャンがこの商店街じゃあちょっとした有名人だって。喧嘩が強くて料理がウマい。呑み屋で働いてるっていうから、こりゃ行くしかねえなと思ったワケ」
わはははは、と笑って、オヤジはパニーズ酒をあおった。
「けッ」アキツネは目頭に薄く皺を寄せた。「冷やかしなら、間に合ってンだ。これ食って
彼は苛立ちを隠さず、香草入りガーグァ肉団子の小鉢を乱暴にオヤジの前に置く。
あくまでもつくった料理を食わせるのは、料理人の意地なのか。
言うだけ言って、アキツネはさっさと厨房に引っ込んでしまった。
「うちの厨房番は気まぐれなんだよ。ジォ・テラードの沼の天気みたいな男なんだ」
「はは、そいつぁこの街から一番近い狩場なんだってな? こういうシケた飲み屋にはぴったしの性格じゃねえか」
オヤジの空になったグラスが、二杯目を要求している。客がストップと言うまで、グラスは乾くことを知らぬというのがこの店の信条だ。
あたしは同じ酒を注ぎながら、つまらない社交辞令を口にした。
「オヤジ、この街には観光かい? ずいぶん遠くから来たみたいだけど」
「いや、観光っつーか」オヤジは少しだけ、考えるように宙へ目線をやる。
「ま、ベンキョウかな。この街はハンターが多いだろ? そのぶん色々な装備がある。だから少しゃあ、オモチロイもんを見れると思って」
「へぇ。ナグリ村の鍛治は、アンタにあわなかった?」
「真面目で勤勉、仕事好きな土竜族のなかにも、怠惰なやつがいた。例えば、このオレっち」オヤジは親指で、自分の胸を軽くこづいた。
ヒゲがもさもさしていると思ったら、彼は、自嘲気味にへらへらと笑っていた。
「なるほどね」
飛ぶのが得意な飛竜の中にも、飛べないやつがいるように。あたしは口の中で呟く。
なんだ。アンタも、風を掴めないのか。しかも、自ら空に交わるのを、やめたのか。
オヤジは居心地が悪くなったのか、「……ようするに、オレっちの出来がよくなかっただけさ」
そうやって言葉をまとめて、自虐的に肩をすくめた。郷愁の念みたいなものは、どこにもなかった。
「アンタの酒の呑みかたでわかるよ、色々とね」
あたしはそう返してやる。
この男はただ、夜と酒と力を借りて、ビターな気持ちになって、自分自身と語り合いたいだけなのだとあたしは思った。
こういうのは他人の手に負えないことだ。他人は同情しすぎず、突き放してやらないのがいい。
つまり、適当にあしらうのがベター。
音のない店の中に、オヤジがチビチビと肉団子をかじり、酒を舐める気配がする。
あたしはカウンターの奥で、彼の酒がなくならないように気を配りながら、『月刊狩に生きる』をめくることにした。
何があったかは知らないが、ひねくれたオヤジってのは、扱いが面倒なもんだよ。
夜空に浮かぶ月の角度が、鉛筆の芯くらい傾いたころだろうか。
「あのさ、ママさん」やにわに、オヤジは呼びかけた。
「なんだい。別の酒が飲みたい?」
「いや〜」
オヤジはおもむろに立ち上がった。鼻っ面が焼けた鉄のように真っ赤になっていて、彼がしっかり酔っていることがわかる。
「オレっち、金ねぇんだ。今夜のは、ツケにしてくれや」
あーあ、コノヤロー。無銭飲食しようとしてら。
「悪いね、ウチゃツケ制度はやってなくて」あたしは『月刊狩に生きる』を握りしめて、カウンターに頬杖をつく。
厨房からも、眉間に皺を寄せたアキツネがのそりと現れる。
「……酔った勢いの冗談なら、そンくらいにしとけ。ホントに金なきゃ、ブツさ置いてけ。姐さんァ、質屋やってっかンな……」
そのビストロベストからのぞく太い腕には、くっきりと血管が浮いていた。
彼は、タダで料理を振る舞うのは構わないのに、なぜか無銭飲食にはうるさい。料理の金銭的価値を決めるのは、あくまで自分だと考えているらしいのだ。
だから彼は、ウチの無銭飲食防止委員会の実行委員である。
「なンも置いてけねぇっつうなら……どうなるか、わかってンだろうな? ア゙ァ゙?」
凄んでみせるアキツネに、さすがにオヤジは青い顔をした。彼は多分、昼間の喧嘩を間近で見ている。
「ごめん、金がねえのはマジだよ。この辺の飲み屋はどこも出禁になっちまって、酒飲めんのはここしかなかったんだ。謝るよ」
そんな嘘か誠か眉唾なことを言いながら彼は、「じゃあよ、ブツと言っちゃあなんだが……」
オレっちはもう、抵抗しません、と両手を顔のあたりに上げた。
「物品じゃねえが、オレっちが払えるのはこの技術だ。だから、この店のものをなんでも一つ、メンテナンスしてやる。デカいもんでも、精密なもんでも構わねぇ。ちゃんとした職人に頼んだら結構かかるぜ? どうだ?」
「ほぅ」あたしは口の端を釣り上げた。そういえば、この店に来る客(どいつもあたしの昔馴染みだ)は商人やハンターが多い。職人はいなかった。
だからあたしは、技術で支払うという考えはなかった。
こりゃあ、目から逆鱗だ。
「面白い……だけど、この店じゃみてほしいモンが思いつかないねぇ。アキツネ、どうだい?」
「ンン……」アキツネは顎に手をやって、少し考え込んだ。
「おれのアイアンガンランスは
「お、ガンランス! いいねぇ、オレっちの好きなやつだ」
アキツネのぼやきに、オヤジはすぐに食いついた。子供みたいに、目ぇ、キラキラしてら。
「持って来い、すぐキレイにしちゃる。ママさん、飲み代はこれでいいな?」
「あー……はいはい。いいよいいよ。適当なことしたらすぐにこう、だからな」
あたしが拳を振るまねをするのを、オヤジはもう見ていない。
アキツネが厨房の奥から取り出してきたアイアンガンランスを(なぜ厨房の奥にあったのだろうか?)、オヤジは嬉々として受け取る。
「汚れるからよ」と言って、重たそうなバックから取り出した大きな布を、床に敷く。そこにブラシやら油差しやら、がちゃがちゃと道具をぶちまけた。
でも道具は、それほど多くない。
オヤジは、くったりと薄汚れたグローブをはめる。
乾布で、アイアンガンランスの銃身の表面をさっと磨く。荒めに煤を、落としていく。慣れた手つきで、銃部分を分解する。
銃身の内側に柄つきブラシを滑りこませ、オイルを塗って汚れを浮かして、ウェスで(乾布を棒に絡ませたものだ)拭き取るのを何度も何度も繰り返す。機関部も、接合部も、すっかりきれいに磨きあげた。そんなに汚くないように見えて、砂や乾いた血が、ごっそり取れた。
ふわりと立ち込める埃の匂い。床に敷いた布の上には、やわらかく細かい煤が、たくさん落ちていた。
ヘビィボウガン使いだったあたしも、銃の手入れなんて何万回もやったことがある。でも、あたしの手入れなんてちびっ子のおままごとだと思えるくらい、その作業は細やかで丁寧だった。
熟練の技というのは、かけた時間と労力のぶん、魅入る価値があるのだった。
それはある意味、一種のエンターテイメントだった。
「そらよ。その辺の職人よか、イイ仕上がりって自信あるぜ」
オヤジはアキツネにアイアンガンランスを返すと、一仕事終えた笑顔でパニーズ酒をあおった。
アキツネはわずかに目を見開いて、ぴかぴかになった得物を見入っている。
売られていたときよりも、多少使い込んだ感じも相まって、すごく良い状態に見えた。
「技術とか専門知識なんてよ、身につけるまでの過程に意味はねえ。誰かに結果を認めてもらうまで、価値がねぇんだよな。金やモノと違ってさ」
オヤジは自虐的に、笑う。そんな彼にアキツネは、
「……ありがとう」ちょっと拗ねたように、けれど満足げに言った。
オヤジは心底うれしそうに、それでいて幸せが溢れだしたかのような涙を、おいおいと流しはじめた。
「オレっちこそだ。求めてくれて、ありがとよ。あんたは今、この腕に価値をくれた。
オレっちはずっと、ただ、誰かに認めてほしかっただけなんだよ」
この新たな友人とは、数日ですっかり仲良くなった。
怠け者で、働いていなくて、酒代さえ持っていない彼は、ツケとして店の色々なモノを直した。壊れた時計とか、棚とか、建て付けが悪くなっていたドアとか。
今、脚の高さがそろっていない椅子をいじっている彼を横目に、あたしはさりげなく紹介状を書く。「雇用してほしい奴がいる」と、この街の武具工房へ。
なぜなら、そろそろこの店の「直してほしいもの」が本当になくなりそうだからだ。次こそ酒代は金で払ってもらいたい。
それから、アキツネはことあるごとに――たとえば料理をしている間に、このオヤジに小難しい話を浴びせかけられている。
「ガンランスの銃身の熱と弾の威力の相関」だの、「砲撃で切れ味が落ちるメカニズムとその対策」だの、「突きとフルバーストを絡めた立ち回りと砲撃主体の立ち回りの比較検討」だの。
そして、ガンランスには『通常型』『放射型』『拡散型』があるということだ。
しばらく考えて彼は、「焼く、煮る、蒸す、揚げる……揚げる、がねぇな……」と無意味に呟き、「いろんなやつがあんだな、ガンランスってのぁ。奥が深ぇ」と頷いた。
親方は、とても嬉しそうに頷き返した。
「浪漫だよ。わかるか? 金やブツにはなくて、技術や知識にあるもの。そいつは浪漫だ」
「そぅが、そぅが」アキツネは適当に頷き返す。彼は、このオヤジがまた、己の技術と知識に酔いはじめたのを察している。
自ら空に交わるのをやめた飛竜――ひねくれた男というのは、本当に扱いが面倒くさい。
こうして、この店はひとり常連を増やした。こいつは後々、さらなる縁を繋ぐことになる。
つまり、あのチンピラどもがオヤジに喧嘩を吹っかけていなければ。
もっと言うと、あのチンピラどもがいなければ、オヤジは今ごろここにいない。
だから、チンピラどもには礼を言わなきゃならない。
ということには、ならない。
飛竜のように高い視点で見れば、商店街は、チンピラ二人分だけ治安がよくなった。
この話は、ほんとうに、ただそれだけだ。