英雄を目指す者   作:ラグーン

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引き抜きに久々の投稿をば……!!


第3話 トリニティセブン②

 

「────とある魔導士が多数の魔物に追いかけられ、まさに命を落とそうとしたその時にある男がその場に颯爽に舞い降りました。そう、その男こそ、この私でありその魔物どもを息を乱すこともなく簡単に薙ぎ倒したのだ。ふふんっ、実にその姿をお前にも見せてやりたかったもんだ」

 

「わぁー!! やっぱりそう兄は凄いんだねっ!! 私も魔物を簡単に倒す姿を見たかったなぁ」

 

 メルヘンチックな部屋で2人の男女が話しており、涼しげな顔を浮かべながら一つの物語のように語っている男────杉崎宗一が自慢げに話している姿を1人の少女が目を輝かしながら聞いていた。尊敬の眼差しを向けられていることが彼にとっては心地が良いようで不自然なほどに口角が上がっている。

 

「ねぇ、次はどんな話でそう兄が活躍するのかもっと私聞きたいなーっ!!」

 

「ふふんっ、やはりお前はいい子だな、ユイ。いいぞっ、お前が満足するまでこの私の冒険譚、および英雄譚を幾らでも語ってやろう」

 

「やったー!!」

 

 更に話を聞くことが出来ることに少女は無邪気に喜び、その姿を見てお調子者である彼は気分が良くなり得意げに話を続ける。前髪を束ね、おでこを出し明るげな少女の名前は倉田ユイ。彼女もビブリア学園の魔導士でありその中でも優れた魔導士であるトリニティセブンメンバーの1人だ。今2人がいる場所は現実世界ではなく、彼女の魔術による夢の世界であり本来の彼女とは姿は違う。この世界である倉田ユイの容姿は彼女が望む理想の少女の姿なのだ。

 

「やっぱりそう兄のお話はとっても面白いっ! もちろんレヴィちゃんや学園長からも沢山お話で外の事とかを聞くけど、絵本見たいなお話はそう兄しか聞かないんだもんっ!」

 

「ははっ、そうだろうっ! そうだろうっ! アイツら2人はそういった冒険譚は無縁だからなっ!! 私は英雄の道を歩む者。これぐらいの冒険譚はまだまだ序の口なのさ」

 

「つまりまだまだ私に話してない英雄譚や冒険譚があるってことなんだねっ!!」

 

「ふふんっ、当然だとも。なんせ、この私だぞ?」

 

 無邪気に視線を向けられて、彼の性格上既に高笑いの1つでもしていても不思議でもないのに鼻を伸ばし、胸を張るぐらいで抑えているのは彼女の前ぐらいは“英雄“らしくイメージを崩さないようにしているのか。なんであれ、現状調子者を遺憾無く発揮しているのは間違いない。

 この男が得意げに話している英雄譚は実話を元にして捏造して話していることだ。ちなみに先程話していた内容で追いかけ回されていた魔導士というのは彼本人であるのだがその事は彼女には秘密である。

 

「私もそう兄みたいにお外を自由に冒険したり、走り回りたいなぁ……」

 

 ユイは悲しげに笑う。彼女はトリニティセブンの1人であり魔導士としての実力は確かだ。しかし、彼女は自身の持つ魔力が膨大すぎる事が原因で制御が不安定であり、そして彼女自身の魔導のテーマも相まって封印されているに等しい。

 彼女ほどの魔導士が少しでも魔力の制御を誤れば比喩ではなく世界の崩壊へと誘われる。彼女自身も自分が原因で世界が滅ぼしてしまうのは本意ではないため世界の裏側、もとい夢の世界で過ごし続けている。

 もちろん事情を知っている彼女と親友や学園長、他のトリニティセブンも夢の世界で今彼がそうしているように仲良く話しているし、それらはきちんと楽しい思い出として記憶している。けれど、やはり毎日夢の世界で過ごしている彼女はほんの少しだけ物足りなさや寂しさを感じてしまう。

 

「────なに、安心しろ。必ずユイの魔力が安定する方法をこの私が探し出して見せるとも。きっとお前と同じように枢機(カディナリス)で悩み、それらを解決した魔導士の書記は探せばあるはずだ。魔導士は自らの研究成果を何らかの形で記録として残してるのが当たり前だからな」

 

「うんっ!! 夢の世界だけじゃなくて外の世界で遊べるようになったらレヴィちゃんと沢山遊んだり、みんなと一緒に出かけたいなっ! その時はそう兄と一緒に冒険だって行ってみたいっ!」

 

 そんな未来を想像したのかユイは頬をほころばせる。そんな彼女を宗一は優しげに見守る。もしこれが他のトリニティセブン言おうものならば彼は小馬鹿にしたり鼻で笑ったりするだろうが、彼にとって妹分の彼女のようで楽しむユイの姿は微笑ましいのだろう。

 

「……さて、もっとお前とも話をしていたがこの後は用事があってな。今日はここまでだ」

 

「えー。もう少しそう兄とお話をしたかったけど……うん、次にお話しするまで待ってる!! また、冒険のお話しをたっくさん聞かせてね!」

 

「当然だとも! それまでにもっと素晴らしい英雄譚を準備しておこう。それではな。元気にしているんだぞ? 健康が一番だからなっ!」

 

 別れ際に名残惜しそうにしているユイの頭を雑だが優しく撫でる。目を細めて気持ちよさそうに撫でられてるのは、それが当たり前だと気に入っているからだろう。そうして、彼は夢の世界を後にする。

 目を覚ませば視界には雲一つない青空。中庭の芝生の上で昼寝をする前にユイに誘われ、そのまま夢の世界へと入り込んだのだ。

 

「———お目覚めのようッスね。おはようございます、宗一さん」

 

「うげっ!! な、なぜ貴様がいるのだ、エセ忍者っ!!」

 

 目覚ました事に気がつき男の顔を覗き込む1人の少女。

 予想外の人物が突然と視界に入り、ギョッと目を大きく見開きながら彼は上体を勢いよく起こす。それを予想していたかのように少女は体を引き衝突を回避する。

 男を覗き込んでいた少女は風間レヴィ。彼女もトリニティセブンの1人であり、その実力は世界で3人目に強いと噂される程の屈指の実力者だ。

 

「起きた早々にそんなリアクションをとられると流石の自分も傷つくッスよー」

 

「ええいっ! 見えすいた嘘を吐くな! それよりもなぜ貴様がいるのだと聞いているんだ!」

 

「すぐそうやって急かすんッスから。単純にユイさんのところに行ってるだろうからそれを見守っていただけッスよ。無防備に寝てるところを誰かに狙われたりするかもしれないじゃないッスかー」

 

「おい。まるでオレが誰かに恨みを買っているかのように言うのはやめろ。……はぁ。ユイの場所へと行ってるのがわかっているのならば、お前も来ればよかったんじゃないか?」

 

「いやー、ユイさんの楽しみに水をさすのは気が引けるので。それに大体いつもの英雄譚、または冒険譚を話していたと思うので。その話は後々ユイさんに教えてもらうッスよ。まぁ、どれほど捏造をしたのか大変楽しみにさせてもらうッス」

 

「捏造とはなんだ!! 捏造とは!! 確かに話をする際に多少は捏造したかも知れんが真実を述べているではないか!!」

 

「事実は事実でも主に魔物退治してるの他の人じゃないッスかー」

 

「ぐぬっ……っ!!」

 

 それを指摘されれば宗一はぐうの音も出せずに黙るほかない。

 彼がユイに話した今日の冒険譚の中で魔物を実際に退治したのは彼ではなくミラとアキオだ。

 宗一とて魔導士の端くれ。数匹の魔物程度ならば対抗できなくはないが大量の魔物となると逆に蹂躙されてしまう。

 なにも言い返さず唸る宗一をレヴィは愉快そうにクスクスと笑いながら眺める。

 

「へーへー、オレの話は捏造だらけだよ、悪かったな」

 

「まあまあ、そんな拗ねないでくださいっッスよー。捏造が多いとは思ってますけど話の内容自体は自分も好きっスよ? この場面は実際は宗一さんが命からがら逃げてるんだろうなぁと想像するのとか」

 

「ねぇ? それ好きじゃないよね? 人の不幸に対して悦に浸ってるだけだよね?」

 

 レヴィの意外な楽しみ方に宗一は引き攣った顔を浮かべるとそれを見てレヴィは冗談っスよーと笑いながら否定する。

 揶揄われたことにエセ忍者めっと舌を鳴らしながら吐き捨てる彼の姿は小物臭全開でとても倉田ユイには見せられない姿だった。

 

「やー、いつも面白い反応をしてくれるのでついつい揶揄って申し訳ないッス」

 

「罪悪感を感じるぐらいならもう2度とやるなよ!!」

 

「それはちょっと約束できないッスねぇ。ほら、宗一さんで遊ぶの楽しいじゃないっスかー」

 

「とうとう遊ぶって言いやがったな!! お前いつか絶対に覚えてろよ!! 何十倍に仕返ししてやるからな!!」

 

「その時はリリス先生に駆け込むッスね」

 

「それだけはやめろ……やめてください……」

 

 指を刺しながら覚えてろよと意気込んでいた宗一だったがレヴィの一言により一瞬で頭を下げて懇願する情けない姿。

 教師であるリリスにそれほど説教されるのが嫌なのか即座に頭を下げるその速さにレヴィは思わず感嘆な声を上げてしまう。

 

「……なぜオレはこんなにも疲れなければならんのだ」

 

「およ? そんなに疲れてるなんて。膝貸すッスよ?」

 

「誰のせいだ!! 誰の!!!! それにお前の膝枕は怖いから遠慮するわ!!」

 

 膝を叩いて手招きするレヴィから怯えるように宗一は退く。

 宗一から見てもレヴィは可愛らしく美少女だ。そんな彼女から膝枕のお誘いは世の青年ならば喜んでその膝へ頭を乗せるだろうが彼は違う。

 日頃から人を揶揄うように悪戯を仕掛けてくる相手に膝枕を誘われても警戒を高めるのは当然である。

 ジリジリと距離を取る宗一に仕方ないッスねーと小さなため息を吐けば彼女の姿が掻き消えた。

 宗一は姿が消えたレヴィを探すようにキョロキョロと周りを見渡していると頭を優しく両手で掴まれる。

 

「隙だらけッス♪」

 

「んな……っ!?」

 

 背後からのレヴィの声になにをされるのか察した宗一は抗おうとするが世界で3人目に強いと噂されている彼女に勝てるわけもなく容易く上体を倒される。

 頭から伝わる柔らかい感触。彼の視界にはしてやったりと屈託のない笑顔のレヴィ。

 

「これで逃げられないッスね」

 

「離せ!! ええぃ!! 誰か!! 誰かこのオレに救いの手を差し伸べてくれ!! 誰かー!!」

 

「ここが人が近寄るの詳しいの知ってるじゃないッスかー。どれだけ叫んでも宗一さんを助ける人は誰もいませんよ。……それともそんなに自分のこと嫌いっスか?」

 

「……うぐっ」

 

 哀しそうに瞳を揺らぐレヴィを見れば騒いでいた宗一も口を閉じてしまう。

 一見歳の近い青年と少女の甘酸っぱい青春が繰り広げられているように見えるが、これは単に暴れる彼を大人しくするための演技である。

 トリニティセブンと呼ばれる少女たちは宗一という人間の性格を熟知しており、その1人であるレヴィも当然知っている。

 

(変なところで律儀というか、真面目というか……ほんっと面白い人ッスね)

 

 宗一は先の演技を見抜いているのをレヴィは気づいている。

 だがそれに怒るそぶりをみせるどころか、唸り声を上げてコロコロと百面相のように顔を浮かべているのは悩んでいるのだ。

 彼が悩んでいるのは従来の面倒見良さが発揮しており、ここで絡んできた彼女に対して次に自分が取る行動に頭を悩ませているのだろう。

 

「やめだやめだ!! ただでさえ疲れてるのに頭が働くわけないだろ。いいか! あくまでお前が私を誘ったんだからな!!」

 

 考えるのを放棄したのか宗一はレヴィの顔を指し不服そうに鼻を鳴らしながらレヴィの脚に頭を預ける。

 尊大な態度に隠れているその感情を見抜いたレヴィはクスクスと微笑みながら頭を丁寧に撫でる。

 

「おい! なぜ頭を撫でる!! 膝枕は許したが撫でるのは許可した覚えはないぞ!!」

 

「いいじゃないッスかー。最近忙しく働いている人にちょっとしたサービスッスよ」

 

「はぁ? 私がいつ働いたというのだ。それは貴様のただの勘違いだろ」

 

「またまたとぼけて。率先して王立図書館検閲官(グリモワールセキリティ)の仕事に同行している真の理由は"あの人"の痕跡を探しているッスよね?」

 

「……なんのことか知らん。オレはただ退学を逃れるために渋々同行しているだけだ」

 

 宗一はシラを切っているつもりだろうが一人称がオレへ戻っているのにレヴィは聞き逃さなかった。

 危険を冒すのを全力で退避する彼が率先して危険な場所へ向かうのにそれ相応の理由があるのにレヴィは見抜いていた。

 

「素直じゃないッスねぇ。責任感じて、ずっとコソコソと探ってたのを自分が気づかないとでも思ってるッスかー?」

 

「うぜぇ。そのニヤ顔がすげぇうざいんだけど……」

 

「それは宗一さんの自業自得ってことで。やっぱりあの子のためッスか?」

 

「……馬鹿言え。オレはただ辛気臭い顔を見かけるのがそろそろ鬱陶しくて仕方ないだけだ」

 

 相変わらずの捻くれた返答に可笑しそうにレヴィは笑い、それを不満そうに宗一は半目で睨む。

 

「捻くれた英雄志望はきっと世界に貴方だけッスよ」

 

「褒めてるのか貶すのかせめてはっきりしてくんない……?」

 

「ただで褒めたら調子に乗るじゃないッスかぁ。今日は自分からの膝枕もあるのでこれで我慢してくださいッス」

 

 欠伸を噛み締めながらへいへいと気の抜けた返事をするからに彼は眠気が襲ってきたのだろう。

 今日の気温はお昼寝にもちょうどよく、最近疲労も溜まっていた宗一にはレヴィの膝枕効果も相まって睡眠欲求が優ったようだ。

 

「眠いッスか? このまま寝ていいッスよ。あとで自分が起こしますから」

 

「……30分後に起こしてくれ」

 

「了解ッス。おやすみっス、宗一さん」

 

 レヴィはそのまま彼が眠れるように何度も何度も優しく撫でる。

 やがて静かな寝息を立てる彼をレヴィは起こすまで、ずっと微笑ましく眺めるのだった──

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