東方神隠録   作:赤羽ころろ

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L/Re:turn

「ったく何が一人25体換算だ!倒しても倒しても出てきやがる!」

 

「相手は幻霊だ。実体ががないやつには死の概念なんてはいってことだろ」

 

「二人とも手を動かして!!・・・・・・ッ!!二人とも気をつけて!幻霊に大きな動きがあるわ!これは・・・・・・融合してる!」

 

ラッキー達に霧散させられた幻霊達は1箇所に集まり多数の骸骨が連なった不気味な怪物へと変貌した。

 

「おいおいいつからここは妖怪横丁になったんだ?」

 

「そんなの幻想郷が出来てからずっとだろ!」

 

巨大骸骨の怪物は体中の骨をミサイルのように飛ばしてきた。

 

「生憎だけどカルシウムは足りてるんだ・・・・・・ッ!!」

 

「冗談はあとにして!!来ます!」

 

ラッキーはアルの前に立ち放つ。

 

「祓符「不運連鎖」!! 」

 

マスタースパークに似たそれはここにいる全ての人間の「不運」を吸収し威力を増す。飛ばされてきた骨を消滅させつつ不気味な怪物に直進していく。

 

蠢く「それ」は鈍重な見た目通り避けきれずに直撃する。

 

「硬いっ・・・・・・」

 

煙が晴れたそこには微動だにせずそこにいた。直撃した箇所は骨が木の根のように絡まり合い修復される。

 

「ちっ・・・・・・やっぱり火力が足りない!!アルあいつの弱点は!?」

 

アルは「それ」を「視る」が漆黒の幻霊たちが重なり合い全てをぼかしている。

 

「それが・・・・・・複数の幻霊でできてるせいか無数にありすぎてて・・・・・・しかもそれは互いの弱点を補うように相性の悪さも克服してて・・・・・・」

 

「つまりこいつにゃ明確な弱点がないってのか・・・・・・」

 

「なら修復される前に叩くっ!!狂符「狂宴乱舞」!!」

 

今は夜。敵の戦力は未知数だが今のにょろなら文字通り「負けない」。

 

「骨だから当然吸血なんか効くわけねえ・・・・・・殴るしかねぇか!!」

 

広範囲ではなく一点集中。

 

「うおおおぉぉぉぉ!!」

 

にょろの拳は確実に骨に響いていく。

 

バギィッッッという鈍い音とともに右腕の骨がゴトッと落ちる。だが、

 

「gggggrrrrrrkkkkkk!!!!!!!」

 

「なっ回復した!?」

 

失った右腕は他の部位から骨を補給し再生する。それは木が成長するのを見ているようで。

 

「ggggrrrrr!!」

 

再生している右腕をムチのようにしならせたたきつけてくる。

 

「なら、何度でも破壊するだけだ!!」

 

にょろは右腕を振りかぶる。的は大きい。外れるはずはない。そう、外れはしなかった。

 

「(なんだこの・・・・・・!?)」

 

触れた瞬間わかった。押し負けると。再生した腕はさらに強靭になっていた。

 

触れた瞬間にょろは勢いよく吹っ飛ばされる。にょろは商店街のメインストリートを一直線に吹っ飛び壁にぶつかり止まった。

 

「なんだよ・・・・・・あれ・・・・・・」

 

勢いよく壁に叩きつけられたにょろは気を失った。

 

「にょろ!・・・・・・く、なら!私でも!」

 

アルは眼の力を解放しようとする。しかしそれよりもはやく鞭のような極太の腕がアルを壁にたたきつける。

 

「がっ・・・・・・!!」

 

にょろが耐えられなかったものが少女であるアルが耐えられるはずもなくそのまま地面に突っ伏した。

 

「にょろ!!アル!まずい・・・にょろの力で勝てなかったんだ・・・・・・俺の鉈じゃ・・・・・・」

 

「どけラッキー!!」

 

ころろはヨミを振りほどき跳躍する。

 

「逃がさぬさ!!!」

 

ヨミは包帯に巻かれた右腕から触手のようなものを出しころろを撃ち落とす。

 

「ぐはっ・・・・・・」

 

「ころろさん!!」

 

「ころろ!!」

 

ころろはなんとか立ち上がるがなんとか片膝を立て立てる状態だった。

 

「ころろ、無理すんな!!今は撤退した方がいいわ!!」

 

「でも、ここで止めないとコイツは・・・・・・!!」

 

足元もおぼつかない状態でもころろはさらに前へと踏み出す。

 

「諦めが悪い男は嫌いだ・・・・・・アイツを思い出すからな・・・・・・馬鹿な男よ。死ねっ!!」

 

触手状の包帯が電光石火の速さでころろを直撃する。はずだった。

 

「なに!?」

 

ヨミの目の前には憎んでいた夫、イザナギの姿があった。ヨミは動揺し包帯は軌道がずれころろはその場に倒れ込み意識を失った。

 

気がつけばイザナギは忽然と姿を消していた。

 

「はあ・・・・・・はぁ・・・・・・」

 

ころろの前には息を切らしなんとかその場に立っているエルがいた。その右腕はヨミの眼前にかざされていた。

 

「小娘・・・・・・貴様その力は・・・・・・」

 

「貴方が私と同じモノならできると信じた。それだけ・・・・・・です・・・・・・」

 

そしてエルもどっとその場に倒れ込む。

 

「フン、邪魔をしおって・・・・・・」

 

「そこまでよヨミ。これ以上はその子たちに好き勝手させない」

 

少女は物陰から出てきてヨミの前に立ちはだかる。

 

「博麗の巫女・・・・・・なぜ今になって出てきた?」

 

「七日後の丑三つ時で丁度300年。アンタは300年に1回こちらに来ては毎度のように幻影を見せ途中で博麗の巫女に阻止されていた。そして今回も伝承通り構えてたら何?いつもより2週間も早いじゃない?何かあると思って様子見してたらその子らがいい感じに尻尾掴んでくれてね。今回はこの子らに任せようと思ったけどどうやらセコい手を使ってるじゃないさ」

 

ヨミの顔が曇る。図星かしらね、と霊夢は言うとその場で腕を組み自分の推理を話し始めた。

 

「そもそもころろにはタイムアペレイトがあるのになぜ使わないのか、と言うよりかは使えないのよね。どうやらあの子にはあなたの幻影は効かないようだけど実際には深層心理で何も見えてない自分に恐怖している。だから貴方の「切断面」が見えない。その恐怖心でショートレンジでは不利なはずのあなたも圧勝している」

 

「何が言いたい?」

 

「貴方はタイムアペレイトを恐れている。自らの大元を絶たれるのを。大元・・・・・・今回貴方が2週間も早く顕現した訳、それはその子が貴方を引っ張ったからでしょう?」

 

幻想郷にも神はいるがどれも未だに存命である。死しているイザナミ=ヨミが幻想郷、この世に顕現するには依り代が必要であった。過去に顕現した時も依り代にされた少女が達がいた。ヨミはいつも手始めに自分と波長のあうものを選び乗り移りその娘の人格を破壊しやがて体をのっとる。だが今回の場合は今までと事情が違った。

 

今回の顕現はヨミの意思ではなくエルの強すぎる器としての力がヨミを引き寄せた。最上級の器が自ら現れてくれた、今までのことを考えればここまで波長の合うものならばこれまでと出せる力が段違いに強い。しかし強すぎる力は反発する。

 

「エルが幻想郷に来る前生きる意思は弱かった。むしろ消えていた。だが幻想郷に来た時点ではまるで業火のように燃え盛っていた。呼ばれた時点と全く違う状況に貴方は困惑した。そしてその強い意志に阻まれ結果として貴方はエルのガワだけ手に入れられた。でもそれは仮初の体。普段の半分も力を出せていないでしょう?だから無差別に黄泉がえりを起こしエルを炙りだそうとした。違う?」

 

霊夢の出した答えを聞きヨミはしばらく黙り込んでいた。そしてフフフと薄く笑い口を開いた。

 

「概ね正解という所かな?だが、お前はひとつ重大なミスを犯している。それは私が奪ったのはガワではなくエルの身体そのもの。今そこにいるエルこそ自らを周囲に見せている幻影。魂だけの存在。実態は生霊さ」

 

「な・・・・・・それはつまり!!」

 

「ああ。私が封印されればその娘は完全消滅する」

 

言われてみればあの時もたしかに違和感があった。

 

 

 

一週間前、エルを見つけた時霊夢は魔理沙といつも通り境内でお茶を飲んでいた。

 

「今日も平和だなあ」

 

「何も無いのが1番よホント」

 

だが霊夢はお茶をすすり険しい目で境内を見つめた。

 

「でも、あと2週間くらいでまた忙しくなりそうだけどね」

 

その時一瞬目眩のような感覚がしたが視界が元に戻り辺りを見回したがとくに変化は見当たらなかった。だが、何かを見落としているような感覚がして霊夢はお茶をお盆に置き立ち上がりころろ達を始めこれまで幻想郷に迷い込んだ「あちら」の人々が「こちら」に来た時転送されてくるいつもの境内に足を踏み入れる。

 

「どうしたんだ霊夢?」

 

「いや何か・・・・・・いつもと違う気がして」

 

やはりその場には何も無い。

 

「気のせいじゃねぇのか?」

 

「そうね・・・・・・そうかもしれないわ」

 

そして霊夢は縁側に戻ろうと振り向いたその時勢いよく木の葉が舞い木々が悲鳴をあげる。それは何かを知らせているようにも思えた。

 

「・・・・・・今年は何かが違う。どうしてもそう思ってしまう」

 

言い知れぬ不安を抱え霊夢はお茶を啜った。啜ったあとのお茶には茶柱が立っていた。

 

「おお、茶柱!霊夢、いい事あるぜ!?」

 

「いい事ねぇ・・・・・・今は不吉な予感しかしてないけれど・・・・・・」

 

今思えばこの時既にエルは居たのかもしれない。こちらに来る過程で見た目ではなく体本体を取られ魂だけのまま。

 

そしてエルを見つけたのはそれから5日が経った一昨日であった。いつものように境内でお茶を啜っていた。お茶菓子がなくなったので台所にそれを取りに行って帰ってきたらそこにエルがいた。名前やどこから来たのかもハッキリ答えられていたので記憶喪失の類の疑いはなかった。ただ霊夢は不思議であった。なんの気配もしなかったからである。いくら台所にいたとはいえ物音くらいするしそもそも霊夢は博麗の巫女である。それが何も感じなかった。魂の欠片さえ。あまりにも突然すぎた。いつもの目眩もなかった。その後色々考えた末同じような境遇のころろ達に面倒を任せることにしたのである。

 

 

 

「もっと言えば黄泉がえりも私の力ではない。私の力ならば幻影ではなく本物を蘇らせる」

 

ヨミは包帯の巻かれた腕は見つめて言った。

 

「それはつまり・・・・・・今回の黄泉がえりの始まりはエルの力・・・・・・?幻影を見せる程度の能力というわけかしら」

 

霊夢は自分の後ろに倒れているエルを横目でちらりとみる。意識を集中してみると確かにエルの姿は霞んで見える。はあ、とため息をつくとまた視線をヨミに戻した。

 

「それで?今回もいつも通りの復讐?よく飽きないわねもう5回以上阻止されているというのに」

 

「ほう、我が復讐を笑うか博麗の巫女よ。そうだな確かにそうかもしれぬ。だが飽きないのとは違うな。これは使命であり我が成すべき、いや成さねばならぬことだと信じておる。これは我が壮大なる復讐劇。愛したものに裏切られた苦しみが分かるか?博麗の巫女よ」

 

ヨミの口元は歪んでいた。やはり憎しみというのは深く根付くものなのだと霊夢は感じた。しかし、

 

「生憎生まれて此方そういう類の話とは無縁でねぇ。愛とか恋愛感情とかそういうの分かんないのよ。でもとりあえずこれだけはハッキリと言わせてもらうわ」

 

霊夢はまたふう、と嘆息すると顔を上げヨミを睨む。

 

「たとえどんなに理由があろうと私の・・・・・・いや、幻想郷の平和を脅かすことは許さない。それはヨミ、貴方が神であろうと関係ない。死したものが今生きるものに干渉しないでいただきたい!!」

 

その目は確かに幻想郷を守る博麗の巫女としての覚悟が宿る目だった。

 

「そうか。ならば止めてみせるのだな我が復讐を。現代の博麗の巫女の実力見せてもらおう」

 

そういうとヨミは数多の霊たちと共に消えた。ヨミが消えた後には元から何も無かったかのような静けさがあった。

 

その静けさに残ったのは気を失ったNikola達。

 

「ったく・・・・・・困った嬢ちゃんだぜ。守れって言われたのにまさか守られることになるとはなぁ・・・・・・」

 

トライは羽を震わせる。何も出来なかった自分に怒りを覚えた。そんなやり場のない怒りを発散するかのように思いっきり空に向かって鳴いた。

 

霊夢は空を見上げる。

 

山の向こうからは真っ直ぐな光がこちらを照らす。気づけばもう空は明るくなり始めていた。

 

 




どうも作者です。リアルタイムで更新を待っている方は少ないと思いますが更新当時最新話を見て、ん?となった方いるかもしれません。実は一話間に投稿し忘れてましたハハハ。。。今度からは気を付けよう・・・では次回!

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