アイドルマスターシャイニーカラーズ ゼノアクティナ 作:双葉敦
プロローグ
真乃はただ気まずかった。
まず自分が政府の用意した飛行機のファーストクラスに乗っているという現在の状況に。
特に両脇にいる黒スーツの屈強なSPが終始無言なのも、気まずさに拍車をかけていた。
そもそも何の変哲もないただの高校生だった自分が、何故こんな事になっているのか。
あれは3日前だったか。
やけに物々しい封筒に入った書類が、平凡な自分宛に届いたのは。
中には送り先が間違いなく自分である事と、差出人が日本国政府である事が書かれていた。
内容は良く覚えていないが、『各種精査の結果、貴方にアイドルの適性がある事が確認されたため今回の国家プロジェクトへの協力を要請します。』みたいな事が書かれていたように思う。
翌日には学校から連絡があり、当面休むようにと言われた。
両親も仕事には行かず、自宅で政府の役人さん達と話し込んでいた。
次の日には数日分の着替えや日用品など準備するよう言われ、そして今日私は飛行機の中にいる。
うん、自分で振り返っても普通じゃない事になってると思う。
そもそもアイドルって、こんな要人みたいな扱いをされるものだっただろうか。
私が知ってるアイドルは、歌って、踊って、ファンの人たちに笑顔を振りまく。
そんな大衆的な存在だったはずだ。
そのような取り留めのない事を考えていたら、機内のアナウンスが流れる。
「まもなく本機は着陸いたします。ご乗客の皆様はシートベルトの着用をお願いします。」
…と言われても、お客様は私と両隣のSPさん達だけなんだけど。
そう思うとちょっと可笑しくなって、真乃は少し緊張が解けたように感じた。
空港というには寂しい所に降り立った飛行機から出ると、そこには長い髪を三つ編みにした女性が待っていた。
「真乃さんね?」
「あっ、はい!」
「私は千雪。こちらで貴方を案内する者です。よろしくね。」
「ほわっ、こちらこそよろしくお願いしますっ!」
そしてSP達と別れると、真乃は千雪の車に乗るよう促された。
「えっと…その…」
「ふふ、色々聞きたいけど何から聞けば良いのかな、とか思ってる?」
「あ、あの…はい。」
「そうね、まずはここに来てくれた事に、改めてお礼を言うわ。ありがとう真乃さん。」
「え、あ、その…どういたしまして…。」
「それと、こちらで過ごして貰うのは凡そ3ヶ月を予定しています。着替えとか必要なものがあれば手配するので、遠慮なく言ってね。」
「3ヶ月…あの、私ここで3ヶ月も、何をすれば良いんですか?アイドルがどうのって…」
「その答えはもうすぐ、着いたら分かるわ。多分説明するより実際に見て貰った方がね。」
「あ、はい…」
何だろう、見た方が早いって。
もしかしてすごく大きなコンサート会場とかあって、そこで私がアイドルとして歌ったり踊ったり…。
無理無理!
そもそも私学芸会でも木の役とか村人その1とか、地味な事ばっかりしてたのに…。
「着いたわよ。」
「ひゃいっ!」
自分がステージで沢山の観客から声援を送られる姿を想像していた所に千雪から声をかけられ、真乃は驚く。
車から降りると、そこは華やかなステージどころか見るも殺風景な港だった。
「ここって…」
「どうやらあちらも丁度到着したみたいね。」
見ると前方では船から巨大なコンテナが降ろされていた。
作業員たちがコンテナを開き中から引き出したのは、横たわる巨大なロボットであった。
「あの、あれって…」
呆然とする真乃に微笑みながら千雪は答えた。
「あれがアイドル。正確にはInterspiritual Device On Levitatable Landplaneで精神感応素子搭載浮遊型陸上機、略してIDOLLね。」
「?」
「もっと分かりやすく言うと、真乃さんに乗ってもらう予定の機体よ。」
「へぇ、あれが…ってえ?えっ!?」
「だから、あれが真乃さんの機体。IS-03、イルミネーションスターズ3号機ね。」
「え…え〜〜〜っ!!!」
お父さん、お母さん。
どうやら私は、とんでもない所に来てしまったみたいです。
〜 〜 〜
「どういう事ですか?私アイドルの適性があるって言われて…」
「うん、そう。貴方にはあのIDOLLを動かす適性がある。だから呼んだのよ。」
「聞いてないですこんな事!私てっきり歌って踊るアイドルの事だとばかり…!」
「真乃さん、あのね。」
「何です?」
「俄には信じられないかも知れないけど、真乃さんがあれに乗る事で、世界の平和は守られるのよ。」
「信じられません。」
「わぁ、そこははっきり言うのね。」
「だってこんな…殆ど詐欺みたいな方法で呼んでおいて、信じろって方が無理です!」
「そうね、そうよね…。確かに誤解させてしまうような言い方をしたかも知れない。その事は本当に申し訳ないと思うわ。」
「それに平和がどうこうって…つまりあのロボットに乗って戦えって事ですか?私戦争なんてしたくありません!」
真乃はパステルイエローに桜色のパーソナルカラーが入った機体を指差して抗議した。
「違うの真乃さん、落ち着いて。」
「聞きたくありません。お家に帰して下さい!」
「あのね真乃さん…きゃっ!」
急に上空から突風が吹く。
「何?」
真乃が空を仰ぐと、そこには先程のロボットに似た機体が降下してこようとしていた。
「な、何ですかあれ…」
千雪も上空のそれを見ていたが、何か考えているようですぐに返答はなかった。
「千雪さん、あれって…」
再度の問いかけに千雪はようやく真乃の顔を見て答えた。
「あれは演習用の仮想敵機。中に人の乗っていない、命令通り動くロボットよ。」
「は、はぁ…」
現実離れした現実に真乃の理解はすぐに追いつけなかった。
「あのロボットの目的はさっき見た真乃さんの機体の破壊。そういう風にプログラムされているの。不測の事態に対応する訓練を兼ねて、ランダムに現れるわ。…まさかこのタイミングは想定してなかったけど。」
「そうなんですか…って私のじゃないです!乗りませんから!」
「お願い真乃さん。あの機体の開発には国家レベルの予算が注ぎ込まれてるの。こんな所で早々に壊させる訳にはいかないのよ。」
「そんな大人の都合なんて知りません!」
「安全は保障…うん、絶対とは言わないけど多分大丈夫。真乃さんならきっと上手くやれるわ。」
「そんな事言われ…きゃあっ!」
上空の仮想敵機が着陸する。
「すぐに応援を呼ぶから、それまでで良いの。ここにいる皆を守るためにも、あれに乗って!」
「皆を…」
見ればそれまで作業をしていた人達が右往左往と逃げ惑っている。
確かにあんな大きなロボットに踏まれでもしたら、怪我ではすまないかも知れない。
「でも…」
「真乃さん。」
「はいっ!?」
「この世界は…好き?」
「えっ…」
千雪がこれまでになく真剣な表情で尋ねる。
「えっと、その…よく、分かりません…」
その答えに千雪が微笑む。
「うん、そうよね。急に聞かれても分からないわよね。」
「すみません…」
「でもね、これだけは信じて欲しいの。真乃さんがあの機体に乗ってくれたら、この世界は守られる。」
「…」
「さしあたって目の前の人達を守るために…お願い、力を貸して!」
「………分かりました。」
「本当!?」
「今回だけですっ!」
真乃は、千雪に押し切られてしまった自分の流されやすさを情けなく思うのだった。
〜 〜 〜
千雪に導かれて真乃は機体に乗り込む。
シートに腰をかけると、自動的に腰に大型のベルトが巻かれてモニターが映し出された。
「千雪さん、あの…よく考えたら動かし方とか何も聞いてないですけど…」
千雪はポケットから取り出したヘッドセットを通して、機体の外から真乃に答える。
「この機体は操縦者の思考を読み取るの。まず座席にあるヘッドギアを頭につけて。」
「は、はい!」
シートの前にある計器類を表示したサブモニターの上にあったそれらしいものを真乃は頭に嵌めた。
「そうしたら次にアームレストの先にあるグリップを握って。」
「グリップ…これかな?」
「それでこの機体は真乃さんと同調するわ。あとは自分の身体を動かすつもりで、意識を集中させて。」
「自分の身体を…えっと、今は寝てる状態だから…こうかな?…ってわっ!」
真乃は普段ベッドから起き上がるイメージを浮かべると、座席が持ち上がるような感覚があった。
「この子…本当に動いてる…!」
そして機体は上半身を起こすと、そのまま足を地面に下ろして立ち上がった。
「できた…できました千雪さん!」
「上出来よ真乃さん。」
モニターを見ると、先程の仮想敵機が対峙していた。
相手は特に動く様子がなく、何となくこちらを観察しているように見えた。
「足元に人は…いないよね?」
視線を下に向けると、辺りには既に人影はなかった。
再び視線を前に向ける。
「次にどうすれば良いですか?」
「武装を…あっ!」
「どうしました?」
「ごめんなさい、武装は別便だったの忘れてたわ!」
「えっと…つまり?」
「応援が到着するまで、とにかく逃げて!」
「ええーっ!」
まさかの指示だった。
真乃は後ずさりする。
相手はまだ動かない。
「う、うわーっ!」
思い切って反転すると、真乃は一目散に逃げ出した。
「はあっ、はあっ…」
何だろう、身体を動かしてる訳じゃないのにこの疲労感は。
まるで本当に自分が走ってるみたいな感覚だった。
「真乃さん、聞こえる?」
千雪から通信が入る。
「はいっ、あのっ…港の人達は、大丈夫ですか?」
「ええ、真乃さんのおかげで避難できたわ。」
「良かったぁ…」
「ただ敵機はそちらを追っているから油断しないで。」
「えっ!」
振り返ると先程の敵機が後方上空にいた。
「こ、来ないでぇ〜!」
真乃の悲痛な叫びは届かず、敵機は距離を詰めてくる。
「真乃さん、背中に意識を集中して!」
「えっ、背中にってどういう…」
「その機体も空を飛べるわ、背中に羽を生やしたようなイメージで、飛び上がってみて!」
「そんな事言われても…私羽なんて生えてないです〜!」
「イメージで良いの!追いつかれる前に!」
「イメージでって…イメージ…イメージ…」
逃走しながらふと真乃は普段よく行く公園の鳩を思い出した。
「鳩…私は鳩…鳩になって…」
真乃の集中に合わせて機体の背部主推進器が起動する。
「…飛び上がる!」
同時に真乃は浮遊感を感じた。
「と、飛んだ…飛べた!」
そう思ったのも束の間、急激な疲労感に襲われ真乃は集中力が途切れた。
それに合わせて前のめりに地面に倒れ込む機体。
「あだっ!」
まだ低空だったのが逆に幸いし、衝撃はそれほどでもなかった。
「いたた…あっ!」
振り返ると敵機はすぐ側まで近づいていた。
嫌、来ないで。
真乃は必死で逃げようとするが、疲れから思うように機体を動かせない。
ダメ、やられる。
真乃は目を閉じ、身体を強張らせた。
「!?」
その時近くの地面が弾ける音がした。
見回すと上空に、自分の乗っている機体と同じようなものが2体、こちらを見下ろしていた。
第一話 終