アイドルマスターシャイニーカラーズ ゼノアクティナ 作:双葉敦
凛世の犠牲によりストレイライトの一角・愛依を撃墜した連合陣営。
しかし全員が心身共に限界に近い状態で、次回の戦闘に耐えられるかも不明な状況にあった。
一方透たちが衛星軌道上に巨大建造物を作らせていた事を知った結華は、咲耶と共に透にその真意を質そうとする。
この戦いに勝利すれば全てを話すと言う条件で、出撃するアンティーカの3人。
しかし恋鐘機を後方から撃墜したのは、第三世代機に乗った透の側近・円香と雛菜であった。
そして咲耶たちも知らなかった真実が語られる。
同じ頃、衛星軌道上から巨大建造物が大気圏内へと降下を開始していた。
千雪は迷っていた。
現在自軍のIDOLLは4機。
一方敵軍のIDOLLは5機。
正面からぶつかれば不利なのは明らかだった。
また真乃を始めパイロットの全員が度重なる出撃で精神的にも肉体的にも限界が近かった。
これまでのようにIDOLL同士での消耗戦を続けるのは厳しいというのが実情だった。
「…やっぱり勝つためには敵艦を落とすしかない。けど…」
そのためには誰かが敵IDOLLを引き付けなければならない。
それは実質その一人に犠牲を強いる事と同じだった。
「…ダメね、私。いくら勝つためとはいえ、そんな事はできない。」
千雪は椅子にもたれて呟いた。
「別の方法を考えないと…私は皆のお姉さんなんだから…」
その頃真乃は灯織の部屋を訪れた。
「…入るね、灯織ちゃん。」
ノックをして扉を開けると、灯織はベッドに上半身を起こして休んでいた。
「…私を笑いに来たの。」
灯織は真乃と目を合わせず言った。
「違うよ。そうじゃないよ…」
ストレイライトとの戦闘に勇み足で挑み、実力の差を見せつけられた灯織は暫くショックから立ち直れなかった。
「ここのところ戦闘が続いてゆっくり話す時間がなかったから…灯織ちゃんに渡したいものがあって、それを持ってきたの。」
真乃は便箋を灯織に手渡した。
「…これは?」
「…めぐるちゃんからの手紙。」
「!」
灯織は震える手で手紙を開いた。
「千雪さんから渡されたの。私と、灯織ちゃん宛ての…遺書だって。」
「めぐる…」
灯織は手紙を読み進める。
「…正直に言うとね、私はその手紙を読むまで、もう戦いたくないって思ってた。私が何かする度に、周りの皆を傷つけてしまうって…」
「………」
灯織は真乃の言葉に答えず、手紙を読んでいく。
「けど、それは違うってめぐるちゃんに言われた気がしたの。失敗を恐れて何もしないのは違うって。私達は完璧じゃない、間違う事もあるし失敗する事だってある。」
「………」
灯織は手紙を最後まで読み切った。
「…だから、不完全だからこそお互いを思いやれるって。支え合えるって。めぐるちゃんの思いを知って、私はもう一度戦うって決めたの。今度こそ逃げないって…」
「真乃…」
「それでね、灯織ちゃんからも逃げないって決めたの。」
「どういう…意味?」
「あの時…めぐるちゃんが撃たれた時、私は何をしていたか、何を考えていたかをちゃんと伝えたい。上手く話せないかも知れないけど、灯織ちゃんには知って欲しい。」
「そんな事…今更…」
「ううん、それでも聞いて欲しい。言い訳だと思われても良い。また殴られても構わない。それを伝えて、私は灯織ちゃんと向き合いたいの。」
「………」
そして真乃は当時の事をできるだけ細かく話した。
アフカルのエネルギードレインにより窮地に陥った皆を助けようと霧子機に突撃した事。
霧子機と接触した瞬間、精神世界に飛ばされた事。
そこで霧子と話し合い、敵同士でも分かりあおうとすれば、気持ちは通じ合えると思った事。
現実世界に戻った途端に霧子が撃たれ、ショックで思考が停止した事。
そしてそのためにめぐるの危機に気付く事ができず、結果めぐるを見殺しにしてしまった事。
拙いながらも自分の言葉で、精一杯伝わるように真乃は話した。
「…分かった。真乃の話、俄かには信じられないけど…もう信じられない事なんて、掃いて捨てる程ここで経験しちゃったしね…」
「灯織ちゃん…」
暫く灯織は俯いて目を閉じていたが、何かを思い立って真乃を見た。
「真乃、私を殴って。」
「!?」
「あの時私は感情に任せて真乃を殴った。でもね、本当は…めぐるの死を真乃のせいにしたいだけだった。あの時何も出来なかったのは私も同じだったのに…」
「違うよ灯織ちゃん!めぐるちゃんが亡くなったのは私のせいだよ!それは何も間違って…」
灯織は首を振った。
「いいえ。あれは私と真乃、2人の責任。だから真乃だけ殴られたのは不公平だよ。」
「そんなの…」
「お願い真乃。私の事、今でも対等な仲間だと思ってくれるなら…殴って。」
灯織は真乃を見つめた。
「…どうしても?」
灯織は頷く。
「………分かった。じゃ、じゃあいくね…えいっ!」
ぽかり、と真乃は灯織の頬を小突いた。
「…あの時私はこんな優しく殴ってないよ、真乃。」
「ほわっ?で、でも…」
「真乃!」
「!…む、むんっ!」
バシィ。
鋭い音が灯織の部屋に響いた。
「………痛い…」
「ごごごめん灯織ちゃん!」
「…ううん。これで良い。これでようやく言える…真乃、あの時はごめんなさい。」
少し涙を浮かべながら、灯織は真乃に謝った。
「灯織ちゃん…」
「痛い…けど、めぐるはもう痛みを感じる事すらできないんだよね…」
「………うん。」
「めぐる………ごめんなさいめぐる…ううう…うあああ…めぐる…あああああ…!」
めぐるの遺書を握り締めながら灯織が嗚咽を漏らす。
「うわああああ!めぐるううう!うわああああ!」
灯織は泣いた。
それまでの鬱屈した気持ちを吐き出すように、泣いた。
「…うう、めぐるちゃん…うああ…ああああ!めぐるちゃん!あああああ!」
真乃も泣いた。
2人は抱き合って泣き続けた。
この時真乃と灯織は、ようやくめぐるの死を受け入れ、心の底から悲しむ事ができたのだった。
~ ~ ~
「千雪さん、はづきさんからの通信です!」
甘奈は千雪に取り次いだ。
「千雪、それに皆…待たせてしまってごめんなさい。追加装備、ようやく整ったわ。」
「本当!?」
千雪は身を乗り出して尋ねた。
「ええ、例の島で渡すからすぐに来て。その時に装備のレクチャーをするわ。」
「了解。…これで希望が繋がったわ。」
翌日、アルストロメリアはかつて補給をした非戦闘区画の島に寄港した。
「皆お疲れ様…ここまで本当に辛い戦いだったわね。」
はづきは連合側メンバーを出迎え、これまでの戦いを労った。
そしてはづきは弾薬や予備パーツ、食料などの補給を行うと追加装備の説明を行った。
「まずは真乃ちゃんの機体だけど…千雪から聞いたわ。適合率がすごい事になってるって。」
「ほわっ!?は、はい…でもそれで…」
「機体が負荷に耐えられないのよね。だから真乃ちゃんの機体には各部の補強と主推進器の改装を行うわ。」
「えっと…それって…」
「余剰エネルギーを上手く排出できるようにするって事ね。後はエネルギーシールドと遠隔ライフルを用意したから、上手く使って。」
「わ、分かりました!」
「そして灯織ちゃんにはこの展開式装甲と遠隔小型剣を用意したわ。ただ広範囲の防御ができる分、隙間もあるし耐久性もそこまで高くないわ。慎重に使ってね。」
「了解しました。」
はづきは微笑むと、今度はクライマックスガールズの2人に話しかけた。
「樹里ちゃんには要望があったブースターを用意したわ。変形の妨げにならないよう設計してるけど、戦闘状況によっては外せるようにしてるわ。それと思考誘導型ミサイルを搭載するから、時間があればシミュレーターで練習しておいてね。」
「思考…誘導型?」
「目標を思い浮かべる事でロックオンするシステムよ。他の皆の遠隔兵器もそうだけど、機体本体の操作と同時に行うのはかなりの訓練が必要よ。時間がないとは思うけど、使えれば強力な武器だけに大変だけど慣れるまで頑張って。」
「ああ、それがどれだけ強力かは実際に体験してるからな…」
樹里は頷いた。
「そして果穂ちゃん。真乃ちゃんと同じエネルギーシールドと灯織ちゃんと同じ遠隔小型剣を用意してるわ。それから…」
「?」
「新しい剣よ。果穂ちゃん風に言えば『ジャスティスソードⅡ』かしら。これは何と…遠くの敵をやっつけられる機能がついてます!」
「本当ですか!?」
果穂が目を輝かせる。
「ええ、詳しい機能については後で説明するわね。ひとまず追加装備は以上よ。」
「ありがとうはづき…」
千雪ははづきに礼を言った。
「それじゃ時間もないからすぐに取りつけるわよ!その間に皆はシミュレーターで練習!明日の昼にはここを出るんだから、それまでにモノにするつもりで!」
「了解!」
はづきは敢えて明るい口調で全員をけしかけた。
それはせめて気持ちだけでも前向きになるようにという心遣いだった。
またメンバー全員もそれが分かっただけに、疲れを打ち消すつもりで訓練に取り掛かった。
翌朝、真乃は早速改装した機体の慣らし飛行を行った。
「すごい…前より疲れないし、ピーちゃんの悲鳴も聞こえない…!」
余剰エネルギーを改装した主推進器から上手く排出できるよう最適化した事で、パイロットと機体の負荷は大幅に軽減されていた。
「…こうして自由に空を飛んでいると、本当に私…鳥になったみたい。」
それは束の間の気分転換でもあった。
しばらく楽しげに飛行を続けていた真乃は、レーダーの小さな反応に気付く。
「敵!?」
それまで緩んでいた真乃の神経に緊張が走る。
しかし敵意らしいものは感じられず、こちらに向かってくる様子もなかった。
「…あれは。」
そして反応がある地点で、真乃は海上に浮かぶ半壊した咲耶と結華の機体を発見するのだった。
「何で連れて帰ってくるんだよ!敵だぞこいつら!」
案の定、樹里は真乃を叱責した。
「ご、ごめんなさい…」
真乃は指を合わせて謝りながら俯く。
灯織は銃を構えながら、咲耶機のハッチを開けた。
「…動かないで。」
銃を突きつけながら中にいる咲耶に灯織は声をかけた。
「………」
咲耶は無言で両手を上げていた。
「…それじゃ、貴方達を撃ったのは…連盟側の仲間だと言うの?」
千雪は信じられないという表情で尋ねた。
「ああ。…いや、もう仲間ではないか。」
負傷した身体の手当を甘奈に任せながら、咲耶は答えた。
「信じると思ってんのか、そんな与太話。」
樹里は訝しむ。
「…実際に私達も信じられないよ。こんな事になるなんてね…」
咲耶は自虐的に笑いながら答えた。
「連盟側でこの戦いが、宇宙人同士の代理戦争って思ってやってたのは私達アンティーカの5人だけだったとかさ…とんだ道化だよ。」
結華も自嘲気味に言った。
「だとすれば…あの人たちは一体、何のためにこんな戦いを…」
「それは多分すぐに分かると思う。」
咲耶は上を指さしながら答えた。
「どういう事?」
灯織が尋ねる。
「千雪、これを見て!」
「!」
はづきが大声で千雪を呼んだ。
全員がアルストロメリアのブリッジモニターを見ると、遥か上空に巨大な構造物が降下してきていた。
〜 〜 〜
少し前に遡り、ノクチルのブリッジで透は帰還した円香と雛菜に言った。
「お疲れ様…と言いたい所だけど、円香らしくないね。仕事をやり遂げないとかさ。」
「は?ちゃんと指示通り3人を…」
円香はジュエルの反応板を見て言葉を失う。
「そう、3人全員殺せと言ったよね。けど2人は生きてる。…その反応だと態と見逃した訳ではなさそうだから安心したけど。」
「………最悪。」
「え〜あのダメージで生きてるとかゴキブリ並〜、あり得ない〜」
「けどそれが現実だよ雛菜。まあ君達の実戦経験がなかった故のミスだろうけどね。」
「…今からでも探して息の根を止めて来るわ。」
再度出撃しようとする円香を透は制止した。
「別に良いよ。彼女達が反旗を翻えそうが、君達が言う程の損傷なら大勢に影響はないし。尤も協力者でもできれば別だろうけどね。」
「…まさか、敵に寝返るとでも?」
「敵の敵は味方、とかね。けどそうなったらそれはそれで楽しそうかな。一方的なゲームは余り面白いものではないし。」
「透…貴方は…」
「それよりいよいよクレッターグルストの試運転だ。準備に取り掛かってくれ。」
「…了解。」
〜 〜 〜
「何…あれ。」
降下してくる巨大で無機質な塊を見て、アルストロメリアのクルー全員が息を呑んだ。
「連中の真の目的、クレッターグルスト…さしずめ人類エネルギー化装置ってとこかな。」
結華が淡々とした口調で言った。
「あの内部には巨大なフェザージュエルが内蔵されていて、それを使って周囲の人間の意志エネルギーを吸い集めるんだとさ。」
「何のために?」
千雪が問いただす。
「地球への干渉権を賭けた連盟と連合との戦いの裏で、透…連盟側の司令官だが、彼女と連盟との間で密約が交わされたのさ。地球人の意志エネルギーを欲する連盟と、アレに耐え得る強い意志の力を持つ人類だけを残すつもりの透とで、利害が一致したんだよ。」
「…お話が難しくて良く分かりません!」
果穂が解説を求める。
「要するに意志が弱い人類は要らないから、まとめてエネルギーにして宇宙人に引き渡すよって話。」
結華は分かりやすく説明した。
「はあ?何だそれ!アイツら人類を滅ぼす気かよ!?」
「正確にはあれに耐えられる新人類とやらだけで歴史をやり直すつもりみたいだね。」
咲耶は樹里の見解に補足した。
「酷い…酷すぎる…そんな………力のない人は…生きるなって…言うの…」
真乃は顛末を聞いて透の計画の非情さに震えた。
「はづき、これは連盟側の重大な規約違反になるんじゃないの?連合に報告を…」
しかし既にどこかに通信していたはづきは首を振った。
「…もうしたわ。けど彼等の返事は『関知しない。』よ。…余程連盟と戦争したくないんでしょうね…所詮彼らにとって地球人は未開の星の一種族という程度よ…」
「なら各国政府に連絡して軍を…!」
「落ち着いて千雪。アレがIDOLL同様彼等の技術で作られたものなら、この星の軍隊の通常兵器で破壊するのは難しいわ。それにこの戦いが公になれば、パニックが起こり人類が結束して戦うなんて無理よ…」
「そんな…!じゃあどうすれば…!」
千雪は絶句した。
「………私達で…」
「?」
真乃が呟いた。
「私達で、アレを止めるしかない…私達のIDOLLで…!」
「真乃…」
灯織は驚くも、すぐに真乃に同意した。
「私もそう思います。彼等の凶行を止められるのは…現状では私達しかいない。」
「マジかよ真乃も灯織も…あんなデカブツ、本気でアタシ達だけで止めるつもりかよ…」
「あたしもやります!」
「果穂?」
「どんなに強大な敵であっても、ヒーローは逃げません!あたしはあまり賢くないけど…あの人たちが悪い事しようとしてるのは分かりました!それを見過ごすなんてできません!」
「…ったく。どいつもこいつも馬鹿野郎だよ!しゃーねえ、アタシもやるぜ。チョコや凛世の仇もまだ2体残ってるしな!」
「皆…」
逃げ出したい気持ちを必死に抑え、戦う意思を示したメンバーを見て千雪は言葉に詰まった。
「…こんな事を言えた義理ではないが。」
そこに咲耶が切り出した。
「その戦いに、私達も加えて貰えないだろうか。どうしても討ち倒したい敵がいる。私達の…亡くなった仲間の願いを踏みにじった相手が。」
「は?何でお前らと共闘なんて…」
樹里が反発する。
「あの機体はまだ動かせるのね。」
「千雪さん!?」
「…樹里ちゃん、気持ちは分かるけど今は少しでも戦力が欲しい。咲耶さん達の話は信じてもいいと私は思うわ。そしてその思いも…」
「………千雪さんがそう言うならよ…」
千雪は微笑むと咲耶たちに話しかけた。
「機体の修理はこちらに任せて。貴方達には武器庫にある予備の武装から、使えるものを選んで欲しい。多少規格は違うかも知れないけど…」
「…恩に着るよ。」
「おい待てよ。」
治療を終え武器庫に向かう咲耶達を樹里は呼び止めた。
「何かな。」
「一つだけ確認してえ事がある。一番最初に…オレンジ色に緑のパーソナルカラーが入った機体を殺ったのは…誰だ?」
咲耶と結華が顔を見合わせる。
そして咲耶が答えた。
「………私だ。」
「てめえ!!!」
樹里が咲耶に掴みかかった。
「樹里ちゃん!」
真乃達が止める。
しかし咲耶は抵抗しなかった。
「…敵ながら、強く気高い人だと思ったよ。4対1となっても、最後まで諦めずに戦い抜いていた…」
「………!」
樹里は何も言えなくなり、俯くと掴んでいた咲耶の襟を離した。
「分かってる…分かってんだよ…アタシ達だってお前らの仲間を殺ってる…それでも…!」
「………」
その場の全員が暫く黙り込んだ。
「畜生…あの時…夏葉じゃなくアタシがあの場に残っていれば…もしかしたらめぐるやチョコも、凛世も…死なずに済んだかも知れねえって…ずっと後悔してんだよ…!」
「………そんな悲しいこと、言わないで下さい!」
その言葉を聞いた果穂が樹里に抱きつき、その胸をポカポカと叩いた。
「樹里ちゃんは、生き残って良いんです!きっと生き残った意味はあります!上手く言えないけど…あたしはそう思います!」
「果穂…」
果穂は潤んだ瞳で樹里を見つめるのだった。
~ ~ ~
樹里たちは訓練に戻り、真乃が咲耶達を武器庫に案内した。
「ほわっ、さっきは…すみません。皆気が立ってるから…」
「気にしてないさ。私達は戦争をしていたんだ。ここに来ればああなるのは覚悟していた。」
「むしろ受け入れてくれて助かったと思うよ。最悪殺されても文句は言えない立場だもんね…」
結華は溜息混じりに答えた。
「そんな事…!」
「先程も言ったが、私達にはどうしても倒さなければならない相手がいる。そのためならかつての敵に頭でも何でも下げるさ。」
「………霧子ちゃん達のため、ですか?」
「!?」
咲耶と結華が驚く。
「あっ…」
「…何故君が霧子の名を?」
「………」
真乃は暫く逡巡したが、意を決して咲耶達に霧子と接触した時の話をした。
「そんな事があったとはね…」
「何かもうSF映画よりもフィクションみたいな話だけど…まあ本当なんだろうね。」
「は、はい…」
「…霧子を始め、私達は争いのない世界が作られると信じて戦っていた。その思いを嘲笑うように裏切った透達には、然るべき報いを受けさせる。」
「きりりんと話したなら分かるだろうけど、本当に優しい子だったんだよ…そんな子が自分の気持ちを殺してでも、優しい世界を願って戦う事を選んだのに、それをあいつら…!」
咲耶と結華は円香の言葉を思い出し、歯噛みした。
真乃は2人にかける言葉が浮かばず、しばらく黙って通路を進んだ。
「あっ、着きました。ここが武器庫です。」
3人は武器庫に入る。
「どうだい、結華?」
結華は規格やスペックのデータを確認しながら頷く。
「うん、多分それほど違いはない。これなら大体の武器は装備できそう。」
「分かった。なら…」
咲耶は暫く武器庫を回ったが、そこである武装に目を止めた。
「これは…」
それは新品の予備ではなく、使い込んだ様子のある大型ライフルだった。
「あ、それは…」
真乃が俯く。
「…めぐるちゃん…亡くなった私達の仲間が…使っていた…ものです。」
咲耶が真乃を見る。
「…良く手入れがされている。これに対する持ち主の愛情が伺えるよ。」
咲耶は暫くそのライフルを確認してから褒めた。
「めぐるちゃん…メンテナンスロボットに任せず、良く自分で磨いたりしてたから…」
「そうか…」
真乃の様子を見て、咲耶はそこから離れた。
「これにしようかと思ったが止めておくよ。大切な仲間の思い出があるだろうからね。」
「あっ…」
真乃は少し考えてから、咲耶に言った。
「あの、良かったら…使って貰えますか?」
「………良いのかい?」
「はい…このまま倉庫に眠らせておくより、めぐるちゃんも喜んでくれるだろうし…私もめぐるちゃんと一緒に戦える気がしますから…」
咲耶は真乃の表情を見て頷いた。
「…それなら、有難く使わせて貰うよ。」
〜 〜 〜
一方ノクチルはクレッターグルストの遥か上空まで移動していた。
「クレッターグルスト内のフェザージュエル、起動開始。」
透の指示で円香はシステムを起動させた。
ノクチルからの信号を受け、クレッターグルストは徐々に輝きを増していく。
「それじゃ試運転といこうか。まずは…あの第三者機関がある施設の島をやろう。」
透は地図上のある島を指し示す。
「了解。クレッターグルストのエネルギードレイン指向性セット。意思レベル設定完了。」
「では…クレッターグルスト、エネルギードレイン発動。」
「エネルギードレイン発動。」
円香が実行スイッチを押すと、クレッターグルストからその島に向って白い光が降り注いだ。
「?」
その島にいた施設職員たちは最初辺りが薄っすらと光りだしたため何事かと思ったが、すぐに膝から崩れ落ちていった。
意志の力を吸い取られた人々が、二度と目覚める事のない眠りにつき、次々と倒れていく。
試運転は成功と言えた。
「はい、はい…分かりました。」
通信機を置いてはづきは千雪に伝える。
「今こちらに報告があったわ…例の構造物に近い島にある施設と、連絡が途絶えたって。」
「まさか…」
「十中八九、アレの仕業ね。…別のスタッフが向っているけど、構造物の動向に十分注意するよう伝えたわ。」
「とうとう…始まったのね。彼等による人類の選別が…」
「ええ、もう猶予はないわ。これ以上の犠牲者を出さないためにも、あの構造物を破壊するか、機能を止めなければならない。」
「そうね…やるしかない、私達で。」
千雪ははづきと共に、モニターに映るクレッターグルストを睨んだ。
第十一話 終