アイドルマスターシャイニーカラーズ ゼノアクティナ 作:双葉敦
ある日政府からアイドルの適性ありとして最南端の無人島に招聘された普通の女子高生・真乃。
彼女を出迎えた女性・千雪から、極秘に開発された人型戦闘機「IDOLL」の操縦者として、現地にて戦闘演習の協力を依頼される。
戦争への恐怖から断るつもりだった真乃だが、突如現れた仮想敵機により否応なく戦いに巻き込まれて行く。
先程地面が弾けたのは、上空の機体によるものだった。
その内の1体が大型のライフルを構えると、真乃のすぐ側にいた仮想敵機に向けて狙撃する。
敵機には当たらず、先程と同様に地面が弾ける。
「あれは…」
その機体は更に追撃を行うも、敵機は俊敏に回避するとその場を離れるように飛び立った。
追おうとするもう一機を、大型ライフルを持った機体が制止する。
そして2体は真乃の乗っている機体の近くに着陸した。
突如真乃のヘッドギアのイヤホンから声が聞こえる。
「大丈夫?無事なら返事して!」
声の調子から恐らく自分と同年代だろうか。
「は、はいっ!何とか…」
どうやら千雪さんが言っていた応援の部隊のようだった。
安堵すると同時に緊張が解ける真乃。
「あの…助けて下さって、ありがとうございます。」
「気にしないで。それより動ける?」
「あっ…ふひゅ、何だか助かったと思ったら力が抜けちゃって…」
「慌てなくて良いよ、落ち着いたら戻ろう。」
2機に連れられて真乃は港に戻る。
そこには先程までなかった見た事もない形の巨大な船が停泊していた。
「真乃さん、無事で良かった…!」
アドバイスを受けながら機体から降りた真乃に、千雪が駆け寄った。
「良かったじゃないです、本当に死んじゃうかと思ったんですよ!」
ぷりぷり怒る真乃に、大型ライフルを持った機体から降りてきた少女が声をかける。
「お疲れ様〜、初めて乗ってあれだけ動けたら大したものだよ。」
「えっ?あ、さっきの…ど、どうもありがとう…ございました。」
「そんな堅苦しくしなくて良いよ、同い年ぐらいだし。」
輝くような金髪と碧眼の少女は答える。
「千雪さん、この子がそうなんだよね。」
「ええ、めぐるちゃんと同じチームで頑張ってもらう予定の、真乃さんよ。」
「あはっ、真乃ちゃんって言うんだ。私はめぐる。よろしくね!それであっちが…」
もう一体から降りてきた黒髪の少女を見てめぐるは声をかける。
「灯織です、よろしく。」
「ほわっ!ま、真乃です、よろしくお願いしま…」
「必要以上に干渉するつもりはないから。そちらも過度な干渉はしないよう、お願い。」
「えっ、えあ、はい…」
「あはは…まあ灯織ってこんな感じだけど悪気がある訳じゃないから…それじゃ千雪さん、私達は先に船に戻っておくね。」
「ええ、お願い。それじゃ真乃さんも、あの機体をそこにある船まで移動お願いできるかしら。」
「あっはい…って私これ以上関わるつもりは…!」
「その件については、船の中でゆっくり話しましょう?大丈夫、それでも辞退するなら、ちゃんとお家に帰れるよう手配するわ。」
「はうう… 」
元よりこんな孤島で、他に頼れる人もいない状況では、千雪の提案を受け入れる他に選択肢はなかった。
(これじゃ誘拐されたようなものだよ…)
心の中でぼやきながら、真乃はしぶしぶ機体に乗り込むのだった。
~ ~ ~
先に着艦しためぐる達に誘導され、真乃はカタパルトに飛び移る。
船は外から見ても大きかったが、改めて乗艦するとその大きさがどれだけのものか想像できない程だった。
「ほわぁ…」
カタパルトの奥から艦内へ入ると、そこには同じようなロボットが何体も立っていた。
「真乃、こっちにつけて。」
真乃はめぐるに言われた場所に機体を固定すると、コクピットから降りた。
「それじゃブリッジに案内するね。」
めぐると灯織に続いて真乃は艦内を進んだ。
「すごい大きいですね…」
「まあさっきの格納庫やら全員の居室、食堂や武器庫やら色々あるからね〜。私も全部は把握してないよ。」
「あのっ、めぐる…ちゃんはいつからここに?」
「私?私は一週間ぐらい前かな。灯織はそれより早かったよね。」
「…私は10日程前だよ。それが何か?」
「いえ、皆さん呼ばれた時期がバラバラなんだなって…」
「ああ、何でも適性ありって分かり次第呼ばれたみたいなんだよね。調査結果が出るのに多少時間差があるみたい。」
「そうなんだ…めぐるちゃんや灯織ちゃんは、あんなロボットに乗るの怖くなかったの?」
「ん〜どうだろ…どちらかと言うと好奇心の方が強かったかな〜。だって考えるだけで動くロボットなんて、どんなのだろって思うよね?」
「私は別に…それより自分が協力する事でこの国の平和維持になるなら、断る理由がなかっただけ。」
「…私は、すっごく怖かった。死んじゃうんじゃないかって…」
「あ〜、まあ真乃は初めて乗ったタイミングで敵機に襲われたんだもんね。そりゃ仕方ないよ。」
「いくら適性がどうとか言われても、私普通の高校生なんだよ?こんな事…無理だよ。」
「…真乃が辞めたいって言うなら千雪さんにちゃんと言えば良いと思うよ。本音を言うと折角知り合えたしもっと仲良くなれたらなって思うけど。」
「それは…私も…」
「あっ、もう着いたね。ここがブリッジ。」
「…ほわぁ。」
めぐる達に続いて入ったブリッジには、千雪の他にも何名かの姿があった。
「ようこそ真乃さん、アルストロメリアへ。」
「アルストロ…メリア?」
千雪が答える。
「この船の名前よ。改めて、私が艦長の千雪です。」
「えっ!千雪さんって艦長さんだったんですか?」
「ふふっ、変かしら?」
「いえ、その…意外だったと言うか…」
「めぐるちゃん、灯織ちゃんの紹介はもう済んでるし、他のスタッフを紹介するわね。皆、こっちに集まって。」
千雪の呼びかけで、ブリッジのスタッフが集まる。
「今日から皆と一緒に過ごす予定の、真乃さんよ。」
「ほわっ、あの、真乃です…よろしくお願いします。」
「それじゃあまず真乃さんと同じIDOLL操縦者の5人から、自己紹介をお願い。」
すると明るい髪の色をした、精悍な顔付きの女性が話しかけた。
「私は夏葉、よろしくね。クライマックスガールズのリーダーよ。」
夏葉が手を差し出す。
「ほわっ、よ、よろしくお願いします。」
「おい、いつから夏葉がリーダーになったんだよ。」
「そしてこっちの可愛らしく吠えてるのが樹里よ。」
「あ?誰が吠えてるって!?」
金色に髪を染めた少女が夏葉に噛みつく。
「…ったく。アタシは樹里だ。よろしくな。」
「は、はいっ。」
「はーい、そして私が智代子でーす。チョコって呼んで良いよ!」
左右のお団子からお下げを垂らした髪型の、人当たりが良さそうな女の子は智代子と名乗った。
「凛世と…申します…お見知りおきを…」
その隣にいた儚げな少女が自己紹介する。
「そしたら最後は私ですねっ!果穂と言います!小学6年生です!よろしくお願いしますっ!」
「よろしく…ってし、小学生?」
真乃は驚いた。
果穂が自分より大分背が高かった事もだが、小学生まで呼ばれているという状況も信じられなかった。
「それじゃブリッジ要員の2人もお願い。」
「甘奈だよ。オペレーターとして皆を手伝ってるんだ〜。よろしくね〜☆」
「えっと…て、甜花でしゅ…アルストロメリアの…操舵とか…やってましゅ。よ…よろしく、お願い…しましゅ!」
「甜花ちゃんは、甘奈と双子なんだ〜。」
「ほわっ、そうなんですね…こちらこそよろしく。」
「それじゃ皆の自己紹介も終わったし、改めて今後の相談をしましょうか。」
「は、はいっ!」
真乃はどうやって断れば良いか、まだ悩んでいた。
〜 〜 〜
「さっきは本当にごめんなさいね…怖い目に遭わせてしまって。」
「いえ、私もちょっと言い過ぎたかなって…すみません。」
千雪の出したローズティーに真乃は恐る恐る口をつけた。
「真乃さんが謝る事なんてないわ。本当はちゃんと説明して、納得して貰ってから乗って貰うつもりだったのに、予定外の状況になった所為であんな成り行きみたいな形に…」
「他の皆さんは違ったんですか?」
「実は仮想敵機が現れたのは、今回が初めてだったの。」
「ほわっ、そうだったんですか?」
「ええ、あくまでこれは今後の防衛システム構築に備えたテスト。基本的には機体の操縦訓練とチーム同士での模擬戦が中心なの。」
「えっと…それって?」
「学校で言うなら普段は授業と小テスト、稀に抜き打ちテストみたいな形で仮想敵機が来るという所ね。」
「そうだったんですね…てっきりあれが毎回やって来るのかと。」
「さすがにそれじゃ皆疲れちゃうわ。おそらく整備期間等を考えても1〜2週間に1回程度かしら。」
「そうですか…あの、私やっぱり…」
真乃は意を決して断ろうとした。
「…うん、無理強いはしないつもり。ただあの機体システムに適合する人ってまだそんなに見つかってないの。今いるメンバーに果穂ちゃんみたいな子供がいるのも、そういう内情があっての事なのよ。」
「あ、あの大っきな子…そう言えば私と近い年齢の人達ばかりでしたけど…」
「真乃さんぐらいの年頃の子が、一番感受性が高くてあのシステムに適合しやすいみたいなの。もちろん個人差はあるから、特に適合率が高い子は本当に一握りなのよ。」
「それは…そうかも知れませんけど、私にはできそうもないです。戦うなんて…」
「でも今日戦えた。まあこちらの手落ちで逃げるだけだったけど、それでも初めて乗ってあれだけ動かせたのはすごいわ。」
「あの時は必死で…というかずるいです、そんな言い方。」
「ふふ、ごめんなさい。けど出来る出来ないで言えば、真乃さんは出来るわ。あとは気持ちの問題。」
「…」
「私達は貴方の力を必要としている。もちろん危険はあるけど、それに見合ったお礼はちゃんと用意するつもり。」
「お礼って言われても…」
「少なくとも今後真乃さんが金銭的な問題で進路を悩む必要がなくなる程度の額だけど…それに前にも言ったように、こちらでの生活は過不足ない形でサポートするわ。休学中の勉強とかもね。」
「うあ…」
どんどん退路を絶たれていく。
「…お願い真乃さん、この国の、ひいてはこの世界の平和を守るために、3ヶ月だけ力を貸して貰えないかしら?」
「えっと…私…」
千雪が真乃の手を握る。
「それに真乃さんがいてくれてら、きっとめぐるちゃんや灯織ちゃんも喜ぶと思うわ。だってもうお友達になったんでしょ?」
「あうう…」
「真乃さんが帰っちゃったって伝えたら、めぐるちゃん悲しむだろうな〜。灯織ちゃんに何で引き止めなかったのって私怒られちゃうかも〜。」
意地悪そうに千雪が真乃の表情を覗く。
「…もう、分かりました!やります!やらせてもらいます!」
「わあ、本当!?真乃さんありがとう!」
千雪は喜びも顕に真乃に抱きついた。
またしても押し切られてしまった、と真乃は思うのだった。
「歓迎会と言いたいところだけど、今日はもう疲れてるだろうから休んで頂戴。真乃さんの部屋を案内するわね。」
そう言われて連れられた部屋に入ると、真乃は部屋に備え付けられたシャワーを浴びてベッドに倒れ込んだ。
本当に色んな事があった一日だった。
アイドルがロボットの事だったり。
仮想敵機と言われるロボットに追いかけ回されたり。
あの時の怖さは思い出す度に身体が震える。
めぐるちゃん達に助けて貰って、この船に乗って…。
私ここで、ちゃんとやっていけるのだろうか。
そんな事を考えていると、いつの間にか真乃は深い眠りに落ちていた。
〜 〜 〜
目が覚める真乃。
「ここって…あ、そうだ。お家じゃなかったんだ…」
真乃は見慣れない部屋に一瞬戸惑うも、すぐに現在の状況を思い出した。
寝間着から備え付けのジャージに着替えると、外に出る。
うろ覚えの記憶を頼りに進むと、何とかブリッジに辿り着いた。
「あら、おはよう真乃さん。」
モニターを見ながら作業をしていた千雪は真乃に気づき、声をかけた。
「あ、おはようございます。えっと…私は何をすれば…」
「ふふ、それじゃ他の皆と一緒に朝食の準備をお願いしようかしら。食堂へのルートはこのリストバンドが教えてくれるわ。」
「あっはい。」
千雪にリストバンドの使い方を教えてもらい、真乃は食堂へ向かう。
食堂につくと、そこでは賑やかに朝食の準備をするメンバーがいた。
「だから卵焼きは目玉焼きが基本だって言ってるだろ!」
「それは違うよ樹里ちゃん!厚焼き玉子こそ王道の朝ご飯だよ!」
「いやスクランブルエッグが一番簡単だって。私に任せてよ!」
「左手は添えるだけ…大丈夫、大丈夫…猫の手で…抉り込むように…斬るべし!」
「灯織さん…包丁は…それ程力を込めなくとも…よろしいかと…」
「パン焼けました!」
「えーっとジャムとバターと…あ、甜花ちゃんはピーナッツバターだよね?」
「にへへ…なーちゃんありがと…」
「あら真乃、起きたわね。それじゃ配膳手伝ってくれるかしら。」
「は、はいっ!」
何とも和やかな風景だった。
知らない人が見たら、仲良しグループの合宿みたいに見えるんじゃないだろうか。
少なくとも極秘の軍事演習をしている雰囲気ではなかった。
同性の、同世代だけだとこういう感じなのかな。
真乃はこんな感じなら3ヶ月頑張れるような気がしたのだった。
午前中は座学としてIDOLLや母艦アルストロメリアについての基礎知識、それに学校の勉強等について千雪が教鞭をとった。
昼休みの後は、ジムトレーナーの資格がある夏葉が全員の体力トレーニングを率いた。
予想よりハードなメニューに息を切らすメンバーたち。
「な、夏葉ちゃん…ひぃっふぅー…前から、思ってたんだけど…これって、ロボットの操縦に…ひぃっふぅー…必要なの?」
智代子が息を切らしながら尋ねる。
「勿論よ。IDOLLは操縦者の精神力がエネルギーに変換されるわ。そして健全な精神は健全な肉体に宿る。なら肉体の鍛錬こそ精神力の強化、ひいてはIDOLLの出力増大に繋がるわ!」
「ハァッハァッ…それらしい事言ってっけど、単に自分が脳筋なだけじゃねえか?」
「樹里はもう1セットしたいようね。良いわ、付き合うわよ!」
「私もまだまだやれまーす!」
果穂が元気に声を上げる横で、凛世は全員の飲み物を用意していた。
何というか、底抜けに明るいチームだなと真乃は思った。
「結構動いたと思うけど、ハアッハアッ…真乃はそんなに疲れてない?」
めぐるが声をかける。
「うん、私いつも散歩とかしてて、気付いたら山登りしちゃってたなんて事がよくあって…体力はそれなりにあるんだよ、むんっ!」
「へえ、そうなんだ。私も運動は好きな方だけど、夏葉さんのトレーニングは結構キツいなって思ったのに…」
「ヒュフフッ…久々に身体を動かしたから、楽しくなってきたかも。」
「あはは…真乃は見かけによらないね。」
二人の傍らで灯織が息を整える。
「ハアッ…ハアッ…」
「灯織ちゃん…大丈夫?」
真乃が心配そうに灯織の様子を伺う。
「…心配、ないから。構わないで。」
そう言うと灯織はその場を離れる。
「灯織ちゃん…」
「大丈夫だよ真乃、灯織は自分が苦しい所を見られたくないだけだから。もうちょっと心を許してくれても良いのにな〜、って思うけど。」
「うん…」
どうすれば灯織と打ち解けられるのか、真乃は考えるのだった。
〜 〜 〜
それから数日の間は、特に変化もなく座学とトレーニング、それとIDOLLの操縦訓練の繰り返しだった。
相変わらず夏葉のトレーニングは厳しく、特に体力のなかった智代子は皆についていくので精一杯という様子だった。
それでも音を上げなかったのは、本人の意志の強さもあるだろうが周りの励ましに依る処も大きかった。
応援に応えようとする智代子の頑張りは、いつしかクライマックスガールズ5人の結束に繋がっていくのであった。
それとは対照的に、イルミネーションスターズの3人はまだギクシャクとした関係にあった。
社交的なめぐるは何とか2人と信頼を築こうと積極的に話しかけるが、真乃と灯織はどうしても会話が途切れた。
真乃も灯織もこのままでは連携が取れないと思ってはいたが、なかなか打ち解ける切欠もなく、ただ悶々とした時間だけが過ぎるのであった。
そんな中、真乃が来てから5日目にIDOLLに乗っての模擬戦が行われた。
「今日は3対3の模擬戦をするわよ。イルミネーションスターズの3人と、こちらからは果穂・樹里・智代子の3人でね。」
「それは良いけどよ、まさか実弾使う訳じゃねえだろ?どうやって勝敗を決めるんだ?」
「勿論使用するのはペイント弾よ。制限時間内により多く当てた方の勝利という事で。剣も模擬戦用のものを使うから、当たれば色が着くようになってるわ。」
「つまり怪我を気にせず暴れられるって事だな!よっし、やってやろうぜ!」
そう言って意気込む樹里の耳を夏葉は引っ張る。
「いってえな!何すんだよ!」
「ペイント弾や模擬刀とはいえダメージはあるわよ。調子に乗ってたら大怪我するから、極力回避する事。」
「ほわっ、ダメージがあるんだ…大丈夫かな…」
真乃は未だ仮想敵機に追われた恐怖が残っていた。
「大丈夫だよ。あれから練習もして、皆操縦上手くなってるし。ね、灯織?」
「…別に死ぬ訳じゃないから。肝心な所で怯えて、邪魔する事だけはしないで。」
「灯織、そんな言い方!」
「い、良いんだよめぐるちゃん。灯織ちゃんも…頑張ろうね。」
「………」
気まずさから灯織は真乃から目を背け、機体に乗り込むためその場を離れた。
「それじゃ開始よ!」
夏葉の合図で全機が一斉に動き出す。
「えっと、何か作戦とか…ある?」
「んーっと…私は特にないかなあ。灯織はどう?」
真乃の問いかけに対してめぐるは灯織に確認した。
「…スタート地点をチーム別にしたのは、多分戦術を考えて行動させるため。操縦技術を競うだけならわざわざ分ける必要はないと思う。」
「ほわっ?そ、そうだね…」
「それを踏まえて定石通りならまず索敵。敵の位置を掴んで、そのパターン毎に対応を変えるべき。」
「各個撃破か総力戦かだね。」
「めぐるは大雑把すぎ。…とりあえず機体特性から私と真乃が索敵をして、めぐるはその間に狙撃ポジションを確保。これでどう?」
「オッケー!それで行こう!」
「りょ、了解っ!」
ひとまずの作戦を決めると、3人は散開した。
一方クライマックスガールズの3人は、特に何も考えていなかった。
「要は相手を見つけてぶっ叩く、そんだけだろ。」
「練習の成果を見せる時ですねっ!」
「うーん、確かにそうなんだけど…せめて個別に動くか、固まって動くか決めておかない?」
血気盛んな樹里と果穂に対して、智代子は不安を口にした。
「んなもん手分けして探す方が見つけやすいに決まってんじゃねーか。」
「もし囲まれてもとりあえず逃げながら応援を呼べば良いと思います!」
「そ、そうだね。通信もできるし…分かった、頑張るよ!」
「おいチョコ。こういうのはなあ、ビビった方が負けるんだよ。気合いだ気合い!」
「大丈夫です、正義は勝ちますっ!」
この2人の自信はどこから来るのか。
智代子はやはり不安にならざるを得なかった。
「見つかりませんように…見つかりませんように。」
呟きながら智代子は森の中を進む。
「ううっ、こんな事なら凛世ちゃんに代わって貰えば良かった…」
訓練とは言え、いつ遭遇するか分からない敵を探すのは、経験のない智代子にとって緊張の連続だった。
「やっぱり一緒に行動して貰えばよかったかなぁ…いや、ダメだ私!こんなんじゃいつまで経っても足手まといだよ!」
それまでのトレーニングで皆に励まされながら乗り越えてきた智代子は、早く自立して皆と並び立ちたいと思っていた。
辺りを見回しながら機体を前進させる。
「…でも良く考えたらこれだけ広いと早々見つからないよね。あんまり緊張しすぎても良くないか…」
言いかけた刹那、足元の崖を見落とし転落する智代子。
「きゃああああ!」
幸い崖はそれほど高くなく、機体も身体もほぼ無傷で済んだ。
「ああもう、崖があるならあるって…」
「………」
目の前に真乃の機体が立ち竦んでいた。
「「きゃああああ!!!」」
ほぼ同時に悲鳴をあげる2人。
真乃は反転して一目散に逃げ出した。
智代子も同様に逃げようとして、崖にぶつかりひっくり返った。
「って違う!戦わなきゃ!」
落ち着いた真乃が振り返ると、智代子機は何故か崖に突っ込んでひっくり返っていた。
「えっと………撃っちゃって、良い…よね?」
真乃が智代子機に狙いを定め、ライフルを撃とうとした時だった。
「やらせるかぁ!」
上空を飛行形態で索敵していた樹里が、智代子の悲鳴を聞いて間一髪駆けつけたのだった。
人型に変形しながら降下して真乃にライフルを放つ樹里。
「きゃあっ!」
樹里の攻撃は真乃の機体に直撃こそしなかったが、智代子への攻撃を防ぐ事ができた。
「ど、どうしよう…そうだ、通信!」
真乃は回線を開きめぐると灯織に報告する。
「オッケー、それじゃこのポイントまで下がりながら引きつけて。」
めぐるが狙撃位置の座標データを真乃に送る。
「私も応援に向かうから、それまで無理しない程度に持ちこたえて。」
灯織の言葉の裏に彼女なりの優しさを感じた真乃は答える。
「うん、頑張ってみる!それと…ありがとう、励ましてくれて。」
「………」
返事はなかった。
けれどそれが彼女らしさだと、真乃はようやく灯織の事を少し理解できたように思えた。
樹里の攻撃を躱しながら真乃はめぐるの指定した座標を目指した。
森の中の攻防は、攻める側より逃げる側に利があった。
「真乃、時々反撃した方が相手にこちらの意図を読まれにくいと思うからやってみて!」
「わ、分かったよ!」
追ってくる樹里や智代子に近すぎず離れすぎずの距離を取りながら、真乃は牽制の射撃を行った。
「くそっ、ちょこまかと!」
「チョコは私の専売特許だよ?」
「つまんねえ冗談言ってないでチョコも撃てよ!」
「撃ちたいけど木が邪魔なんだってば。私の武器って弾数が少ないから、無駄撃ちは出来ないよ。」
「ぐっ…とにかく林を抜けるぞ!2対1なら絶対倒せる!」
確かにそれは事実だった。
操縦技量にそれ程の差がない現状、開けた場所に出れば2機を相手に真乃の勝ち目はほぼ無かった。
「灯織ちゃん?」
そんな窮地の真乃の機体に接近する反応をレーダーが示した。
「ていやあー!!!」
「!?」
しかし出てきたのは灯織ではなく、果穂の大剣だった。
「きゃああっ!」
咄嗟に回避したため直撃は避けられたが、右手のライフルは叩き落とされてしまった。
「もう一回です!」
再度大剣を振りかぶる果穂。
「う、うわあああ!」
右手に片手剣を装備し直し応戦する真乃だったが、両手剣の勢いは強く直撃を逸らすので精一杯だった。
「良いぞ果穂、そのまま足止めしてろ!」
樹里達が近づいてくる。
もうダメだ。
役に立てなくてごめんねめぐるちゃん灯織ちゃん。
「諦めないで!」
その刹那、灯織の機体が果穂機に体当たりをした。
「うわああっ!」
攻撃に集中し過ぎて灯織の接近に気付かなかった果穂は、完全に不意打ちを受けた形だった。
「真乃、この子は私が相手をするから予定位置まで後の2機をお願い!」
「あ、ありがとう灯織ちゃん!」
灯織のフォローで気を取り直した真乃は、ライフルを拾い再度後退を開始した。
「あれ、二手に分かれたみたいだよ?どうする?」
「果穂に横槍を入れたのは灯織か?果穂の加勢をするか、逃げた真乃を追うか…」
「そう言えばめぐるちゃんは出てこないね…ってうわっ!」
そんな相談をしていた樹里たちに真乃は再び牽制射撃を行った。
「どうやら真乃の方からご指名みてえだな!行くぞチョコ!」
「りょ、了解っ!」
そして真乃と樹里たちの攻防が再開した。
「はあっ…はあっ…」
交戦が始まってからまだ数分しか経ってないのに、真乃はかなりの疲労を感じていた。
やはり操縦訓練と比べて戦闘となると緊張感が違った。
「でも…まだやれるっ!」
機体を左右に振りながら的を絞らせないようにして、徐々に狙撃ポイントに近づいていく。
「めぐるちゃん、そろそろ予定位置に着きそう!」
「オッケー!南西方向から狙撃するから、射線上に入らないよう気をつけて!」
「了解…えっ?でも私北東方向から後退してきてるんだけど…」
「そこは上手く立ち回って!大丈夫、真乃ならできるよ!」
「そんな無茶言わないでよぉ!」
真乃は既に森を抜けて、開けた河原に出てきていた。
「よっし、ここなら邪魔な木はねえし狙い撃ちだぜ!」
樹里が勢いづく。
「ま、待ってよ〜樹里ちゃん!」
智代子がそれに続いて森から出てくる。
「どうする…どうする…」
樹里たちと相対しながら後退する真乃。
「貰ったぜ真乃!」
樹里のライフルが放たれる直前、咄嗟に真乃は上空に逃げた。
「逃がすかぁ!」
真乃を追って上空に飛び上がる樹里機。
追ってくる樹里を見たその時、真乃は閃いた。
真乃は全身の力を抜き、飛ぶという意識を止めたのだった。
そして真乃の機体は急降下し、空中に樹里機だけが残される形になったのだ。
「えっ、墜ちた…?」
「ナイス真乃!」
その瞬間をめぐるは見逃さず、大型ライフルで樹里機を狙撃した。
「ぐああっ!」
「樹里ちゃん!?」
予想しなかった樹里への攻撃に智代子は驚く。
そこに着地した真乃のライフルが放たれた。
「きゃああ!」
被弾して倒れる智代子機。
「や…やった?」
真乃は咄嗟の作戦が上手くいった事に安堵した。
「やるじゃん真乃!良くあんな動き思いついたね!」
今にも抱きつきそうな勢いで通信画面のめぐるが褒めた。
「ほわっ…そ、その…最初にこの子に乗った時に墜落したでしょ?それを思い出して…」
「ああ、あの時の…でもそんな経験を活かせるって、真乃はすごいよ!」
「ヒュフフッ…あ、ありがとう!…あ、そうだ、灯織ちゃんを助けに行かなきゃ!」
「こっちはもう終わったよ。」
灯織から通信が入る。
「ほわっ!?それって…」
「ちゃんと勝ったから。果穂には悪いけど、あの状況なら先手を取った私が有利だったからね。」
「きゅう〜…」
灯織機の足元で目を回す果穂。
「それじゃ…私達、勝ったのかな?」
「そうだね、お疲れ様!」
「うん、お疲れ…」
言いかけた真乃は智代子のランチャーが自機に向いている事に気付いた。
「せめて一矢報いる…それがクライマックスガールズ魂だよね夏葉ちゃん!」
智代子のランチャーから模擬ミサイルが放たれる。
油断していた真乃は回避が間に合わず、ミサイルの直撃を受けた。
「うあっ…!」
模擬弾とはいえかなりの衝撃が真乃を襲った。
「「真乃!?」」
めぐると灯織が同時に叫ぶ。
しかし真乃からの応答はなかった。
「真乃!返事して!」
真乃の機体にたどり着いた灯織は、模擬弾のペイントが身体に着くのも厭わず必死にコクピットのハッチを開けようとした。
しかし着弾の衝撃でハッチに歪みが出来てしまい、外部の非常開放レバーは容易に動かなかった。
「真乃!」
灯織はレバーに力を込めるが、か弱い少女の腕力ではそれも叶わなかった。
それでも灯織は諦めず、額の汗を拭い何度もハッチを開こうと試みた。
めぐるもモニタリングしている夏葉たちに報告しながら助けに向かっていたが、狙撃位置からは距離があった。
「真乃、お願い…無事でいて…!」
灯織は呼吸を整えて、再度渾身の力を込めてレバーを動かした。
その思いが通じたのか、バンッ!と音がしてレバーが動き、同時にハッチが開いた。
「真乃!」
シートの真乃に駆け寄る灯織。
「………ん、灯織…ちゃん?」
灯織の肉声での呼びかけで、真乃は意識が戻ったのだった。
「大丈夫?怪我はない!?」
「あ、うん…全然平気だよ。」
「良かった…」
「…ん?」
灯織の心配を他所に、真乃はペイント塗れの灯織の顔を見て思わず吹き出した。
「?」
「灯織ちゃん、顔…ペイントですごい事になってるよ。」
「え…?」
真乃に指摘されるも確認しようがなく、灯織は両手に着いた染料から自分の顔を想像した。
「………!」
こちらの心配を他所に笑う真乃に対する憤りと照れ隠しが灯織の中で混ざり合い、真乃の両頬を引っ張った。
「ひ、ひほりひゃん!ひたひって!」
「…これで真乃も私と同じだから。」
そう言うと灯織はペイント塗れの顔で微笑んだ。
「それじゃ模擬戦はイルミネーションスターズの勝利と言う事で。樹里たちは戦術の重要性が良く分かった?」
夏葉が正座する3人に語りかける。
「んな事言われてもな…そういう小難しいのって夏葉が考えてくれれば良いじゃねーか。」
そう反論する樹里の頭に夏葉のチョップが炸裂した。
「いってえな!」
「あのね、この先いつも私がいるとは限らないのよ?怪我や病気で出撃出来ないかも知れないし、仮想敵機との戦闘でリタイアするかも知れない。その時誰も作戦を立てられないようじゃ困るでしょ?」
「夏葉さん、いなくなっちゃうんですか…?」
果穂が捨てられた仔犬のような目で夏葉を見た。
「仮の話よ、仮のね。でも万が一の事も考えて、皆にはそういった事もできるようになって欲しいわ。」
「分かりました!」
「ちぇっ、しゃーねーな。」
「それと真乃。今回は大事に至らなかったけど、最後まで油断してはダメよ。」
「はい…すみません。」
「武道でいう『残心』ね。それまでいくら良い動きをしても、最後に油断して討たれたら元も子もないから。今後の課題ね。」
「はい、気をつけます…」
「それじゃ今日はここまで。真乃と灯織は早く顔を洗ってきなさい。可愛い顔が台無しよ。」
「はい!」
「了解です。」
「あっじゃあ私も!」
めぐるが2人の後に続く。
「めぐるは別に付き合わなくても…」
「良いの良いの!そうしたい気分なんだ〜!」
「ふふっ、変なめぐるちゃん。」
3人はようやくチームとして、心を通わせられたように思うのだった。
第二話 終