アイドルマスターシャイニーカラーズ ゼノアクティナ   作:双葉敦

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前回のあらすじ

真乃の窮地を救ったのは、「イルミネーションスターズ」のめぐると灯織だった。
二人の案内で母艦アルストロメリアに到着した真乃を出迎えたのは、個性豊かな5人チームの「クライマックスガールズ」とオペレーターの甜花・甘奈姉妹、そして艦長の千雪だった。
歓迎もそこそこに、クライマックスガールズの夏葉の提案で真乃は模擬戦をする事になる。



第三話 現実

模擬戦から暫くの間は、特に何も起こらなかった。

相変わらず夏葉のトレーニングは厳しかったが、個々人の能力と限界をしっかり把握していたため脱落する者はおらず、むしろ全員が少しずつレベルアップしていくのを実感できた。

ただ皆の上達を見る度に褒める千雪の表情は、どこか陰を落としているように真乃は感じた。

 

「今日は皆のIDOLLへの適合率を再計測します。」

千雪の指示で、全員がIDOLLへと乗り込みヘッドギアを装着する。

「さすがに来た当時より落ちてるなんて事はないよね…?」

不安そうに呟く智代子に凛世が答えた。

「智代子さんは…誰よりも懸命に…トレーニングをなさっておりました…そのような事は無いと…凛世は思っております…」

「ううっ、ありがと〜凛世ちゃん!」

「はいはい無駄口はそこまで、全員準備できたら始めましょうか。」

夏葉の合図で全員が計測を開始した。

 

「皆お疲れ様。計測結果が出たわ。」

「どうでした!?」

果穂が無邪気な瞳で千雪に訊ねる。

「まず今回の最高値は…真乃ちゃんの90%!」

「ほわっ、私ですか…?」

「次いで果穂ちゃんの87%、夏葉の85%ね。」

「あぅ、1番じゃなかったですか…でも真乃さん、すごいですっ!」

「そうね、私も次は負けられないわね。」

果穂も夏葉も真乃の結果を称えた。

「他の皆もここに来た当時より格段に適合率は上がってるわ。特に智代子ちゃんは56%から79%と、1番伸び代が大きいわね。」

「本当ですか!?」

「ちょこ先輩さすがです!」

「凛世は…信じておりました…」

皆が和気藹々と上達を喜ぶ中、夏葉は千雪がいつになく真剣な表情をしているのに気付いた。

「何か気がかりな事があるの…千雪?」

「えっ…いや…ううん、そうね…全員が目標としていた75%を超えた…これなら…」

「?」

「皆聞いて。明日大事な話をします。朝8時にブリッジに集合して貰うから、それまでに朝食は済ませておいてね。」

「えっ今ここでだとダメなの?」

めぐるが千雪に訊ねた。

「…上層部への報告や、私自身が皆にどう話すか考えをまとめたいから、少し時間を頂戴。」

千雪はどこか寂しげに微笑みながら答えた。

「…分かったわ、皆もそれで良いわね?」

夏葉は千雪の表情からそれが簡単な話ではない事を察し、全員にトレーニングを始めるよう促した。

「ありがとう夏葉…」

「…正直に言えば私も気にはなるけどね。それじゃあ行きましょうか。」

「え?」

「え、じゃないわよ。千雪もたまには身体を動かしなさい。座ってばかりだとお尻に脂肪が溜まるわよ?」

「もうっ!」

「身体だけじゃなく心にもね。…何を悩んでるのか分からないけど、一汗かいたら気持ちも少しは楽になるわよ。」

「…そうね。」

「それじゃ甘奈もやる〜☆」

「千雪さん、なーちゃん…が、頑張って…」

「もちろん甜花も来るわよね?」

「ひぃん…」

 

そうして全員でトレーニングをした後は、廃校舎を利用した宿泊所の大浴場で汗を流すのだった。

「改めて見ると夏葉さんってスタイル良いよね〜」

「ふふ、ありがと。めぐるも良いモノ持ってるわよね。」

夏葉が視線をめぐるの胸元に落とす。

「それほどでも〜。けどそれを言ったら真乃も凄いんだよ!」

「ほわっ!?めぐるちゃん、どこ触って…!」

めぐるに胸を鷲掴みにされ、恥ずかしがる真乃。

そのやり取りを見ながら、自分のなだらかな胸を見て灯織は深い溜息をつくのだった。

「気にすんなよ灯織。女の価値は何もバストサイズだけじゃねえって!」

「左様で…ございます…」

同じく控えめな胸の樹里と凛世がフォローする。

「あはは…そうだよ…ね。」

反対側の湯船では果穂が千雪の豊満な肢体にもたれていた。

「こうして千雪さんとお風呂に入ってると、何だか安心します!」

「うふふ、嬉しいわ。」

「まるでお母さんと一緒みたいだからでしょうか!?」

「おか…」

千雪の表情が強張った。

「果穂、さすがにそれは千雪さんも傷つくよ。」

「え?お母さんみたいって褒め言葉じゃないんですか?」

智代子のツッコミに果穂が子供らしい素直な疑問を返す。

「いや…その…年齢的な話というか…」

「ち、千雪さんは…にじゅうさ…」

「年齢の話はやめて。」

後ろで甘奈に髪を洗って貰っていた甜花が千雪の年齢を言おうとして、本人に遮られるのだった。

「あ、そう言えばあたし千雪さんにお願いがあるのを思い出しました!」

「あら、何かしら?」

「あたしの乗るIDOLLが持ってる剣、好きな戦隊ロボの武器にちなんでジャスティスソードって呼んでるんですけど…」

「そうなの?」

「あれをテレビみたいに、剣を振るとビームが出せるようにして下さいっ!」

「ビ、ビームかぁ…それはちょっと難しいかも。」

「出来ないんですか…?」

果穂が残念そうな目で千雪を見る。

「今の剣だとダメなの、果穂?」

そこに助け船とばかりに夏葉が千雪をフォローした。

「ダメじゃないですけど…ビームを出せた方がヒーローみたいでかっこいいと思うんです!」

果穂の力説に夏葉は微笑みながら答える。

「そうね…確かに今の剣からビームは出せないけど…そんなものなくたって、創意と工夫、それに諦めない気持ちがあれば果穂は最高のヒーローになれるわ。」

「そーいと…くふー?」

「無いものをねだる前に、有るものをどうやって使うか色々考えて試すという事ね。例えば剣だからって何も斬るだけじゃない、使い方では盾にもなるし叩く、投げる、回して弾くとかも出来るわね。」

「…なるほどです。」

「だからまずは今有る武器を、どうすればもっと上手く使えるか考えなさい。諦めなければ、必ず道は開けるわ。」

「分かりました!」

「…こんな所かしら、艦長?」

「夏葉には敵わないなぁ…ありがとう、リーダー。」

こうして和やかな入浴時間が過ぎていくのだった。

 

〜 〜 〜

 

「真乃、起きてる?」

隣の布団からめぐるが真乃に声をかけた。

「うん、まだ寝てないよ。」

真乃は反対側の布団で寝息を立てている灯織を起こさないよう小声で答えた。

「そっか…あのさ、千雪さんが言ってた大事な話って、何だと思う?」

「めぐるちゃんも気になる?私も…千雪さん、今日は何だか変な様子だった。」

「そうだよね…私達の試験結果は良かったみたいなのに、何であんなに暗い表情してたのかな…」

二人は昼間の千雪の態度に、違和感を感じていた。

それは、二人だけではなくほぼ全員が感じていたものだった。

「私には分からないよ…今だってこうしてロボットの操縦してるのが信じられないくらいだし…」

「そんな事言っちゃう?適合率1位の真乃さんが〜?」

「もう、めぐるちゃん!からかわないで!」

「んっ…」

「「!」」

真乃達は話し声で灯織を起こしたのかと思い咄嗟に息を潜めたが、またすぐに寝息が聞こえたのでお互い声を抑えながらクスクスと笑いあった。

「…ずっとこうだと良いんだけどね。」

「そうだね…でもこの先何があっても、前ほど不安じゃないよ。今はめぐるちゃんも灯織ちゃんもいるから。」

「真乃…」

「私も、頼りないかも知れないけど頑張るから…」

「そうだね。1人じゃ難しくても、3人ならきっとやれるよ。」

「うん。」

そう答えた真乃の布団に、めぐるが手を伸ばしてきた。

その手は微かに震えていた。

「ごめん、手を握っていてくれる…真乃?」

言葉では大丈夫だと言っても、不安は拭いきれるものではなかった。

それは真乃も同じだった。

真乃は何も言わずその手を握りしめた。

「ありがと…おやすみ…真乃。」

「おやすみ…めぐるちゃん。」

そう言うと真乃は眠りにつくのだった。

 

真乃たちを眠りから覚ましたのは、夜明け前の宿泊所に鳴り響く警報音だった。

「な、何!?」

真乃たちは飛び起きて外に出ると、千雪が携帯用端末で何かを確認していた。

「随分大きな目覚まし音ね…何があったの?」

夏葉が千雪に訊ねる。

「…アルストロメリアのレーダーがこちらに接近する反応を確認したわ。数は5…仮想敵機よ。」

「マジか…本当に時間もクソもねーな。」

「下品な言葉は止めなさい樹里。で、どうするの千雪?全員で迎え撃つ?」

夏葉の問いに少し考えて、千雪は答えた。

「そうね…敵機の目標はIDOLLだけじゃなく、アルストロメリアも含まれてるわ。今回はイルミネーションスターズには偵察に出て貰い、クライマックスガールズには母艦の護衛をお願いするわね。」

「了解。皆、顔を洗ったらすぐに出るわよ!」

「は、はいっ!」

「特にイルミネの3人は寝呆けてやられるなんて事がないようにね。あくまで様子見だから絶対に無理をせず、動きがあれば報告をしてすぐに帰投しなさい。」

「了解です!」

そうして全員が手早く支度をすると、各々の機体に乗り込むのだった。

 

岩場に身を隠しながらめぐるは敵機を望遠で確認していた。

「千雪さんの言った通り5体…この前現れたのもいるね。」

「そうなんだ…」

「敵の進行速度から恐らくあと3分もかからずこの島に上陸すると思う。」

作戦を考える時間はあまりなかった。

「ここから狙撃してみる?」

「どうだろう…まだ敵にはこちらの位置を知られてないだろうから、先手を取れる確率は高いけど。」

「この距離だとめぐるちゃんのライフルでしか狙えないね…」

「問題はそこだね。仮に1機を落とせたとしても、残り4機にこちらの位置を知られてしまう…」

「じゃあギリギリまで待つ?」

「…うん。リスクはあるけど上陸直後を奇襲しよう。数で負けている以上、夏葉さんが言ったように倒すよりもダメージを与えつつ下がって、クライマックスガールズと合流するのが良いと思う。」

「分かった、じゃあそれで行こう!」

「りょ、了解!」

そして3人は仮想敵機の上陸を息を殺して待つのだった。

 

数分後、5体の敵機が上陸した。

以前見た機体も含め、紫色の巨人たちは真乃に威圧感を与えた。

「…あんなに強そうだったかな。」

「真乃、気後れしないで。やるべき事をやるだけだよ。」

「う、うん…」

索敵をしているのか、敵はすぐには動かなかった。

「…来ないね。」

不安に思った真乃は、岩場の陰から様子を伺おうとした。

「!」

その時、敵機のひとつと視線が合った。

それは最初に真乃が遭遇し、追いかけ回された機体だった。

次の瞬間、その機体は真乃に向かって突進してきた。

「しまっ…!」

敵機が左腕に持つマシンガンを放つと、真乃が隠れていた岩場の端が吹き飛んだ。

咄嗟に伏せたおかげで直撃はしなかったが、こちらの待ち伏せは判明されてしまった。

「真乃、反撃!」

「行こう!」

すかさず灯織とめぐるが真乃に向かってくる敵を迎撃する。

真乃は態勢を立て直すと、改めて敵機に向けてライフルを放った。

「!?」

しかし敵機はそれを不規則な動きで回避しながら、こちらに向けて再度機銃掃射を行う。

「な、何あの動き?」

「前と全然違う?」

真乃とめぐるは応戦しつつ一旦別の岩場まで下がった。

「灯織、気をつけて!そいつこの前と違う!」

「分かってる!」

接近戦用の機体である灯織機は敵機の弾幕を避けつつ、自機の剣の間合いまで近づく。

「ここからは…私の領域!」

灯織は逆袈裟で斬り伏せようとしたが、敵機はそれを右手の曲刀で受け流した。

「なっ!?」

態勢を崩した灯織機に敵機の蹴りが入る。

「うあっ!」

「灯織ちゃん!」

倒れる灯織機に追撃を加えようとする敵機に真乃は援護射撃を行った。

それを察知した敵機は後方に飛び上がり、真乃の攻撃は躱された。

「強い…!」

「前に撃退したから甘く見ていたけど…こっちに合わせて敵もレベルアップしてるとか?」

「…二人ともちょっと良い?」

真乃はある事に気付いた。

「何?」

「どうして他の4体は襲って来ないんだろう…」

「そう言えば…確かに。」

「AIの考えてる事は分からないけど、こちらには好都合だよ。まずは目の前の1体に集中しよう。」

「そ、そうだね!」

真乃は何とも言えない違和感を感じながらも、戦闘に集中するよう切り替えた。

 

〜 〜 〜

 

敵の動きは、正に捉えどころがないという表現が当てはまった。

常に高速で移動する敵機にダメージを与えるには移動先を予測して撃つ他になかったが、その予測を悉く裏切る変則的な動きに真乃たちは翻弄された。

「こいつ…!」

めぐるは自機の狙撃を全て躱され、苛立ちを覚えていた。

「めぐる、残弾に気をつけて!」

「分かってる…けど、こうも動きが読めないと…せめて一瞬でも動きを止められたら…!」

「動きを…」

真乃は敵機の機銃を岩陰で避けながら考えた。

「何かで注意を逸らせたら…敵の、想定外の何かで…あっ!」

「どうしたの真乃?」

「確かこの辺りに…昨日の訓練で見かけたアレがあったよね?」

「アレって…あっ!」

灯織とめぐるはすぐに真乃の狙いを理解し、行動に移すのだった。

 

追ってくる敵機に対し、真乃は牽制射撃を行う。

未だその機動は読めず当てる事は出来なかったが、真乃は構わず攻撃を続けた。

「灯織ちゃん達が準備する時間を稼げれば…!」

しかし敵機は機銃を的確に放ち、真乃の動きを抑えながら距離を詰めてくる。

そこに曲刀による攻撃が加わったが、真乃は何とか片手剣でそれを弾いた。

再度距離を取る真乃と追う敵機。

ライフルによる攻撃を悉く躱され、遂に敵機の機銃により後方中空に回避していた真乃機は右脚部に直撃を受けた。

「きゃあっ!」

後ろに倒れ込む真乃。

そこに止めの一撃を加えんとばかりに敵機は一気に距離を詰めてきた。

「灯織ちゃん!今!」

「分かった!」

敵機が真乃機に届く直前、地面から灯織機の剣が飛び出したのだった。

 

『…すごい穴だね、自然に出来たものかな?』

『うわぁ、IDOLL1機ぐらいはすっぽりと収まりそうな深さかも…』

『昼間だから気付けたけど、夜だと危なかったかもね…』

 

真乃は昨日の訓練時に見かけたこの穴を奇襲に使う事を思いついたのだった。

夜明け前のこの時間なら、この穴は見えないはず。

そこに灯織機を潜ませ、真乃がそこまで誘き寄せる作戦を真乃は咄嗟に閃いた。

そして真乃の作戦は成功した。

死角からの攻撃を敵機は回避できず、剣が足に突き刺さり一瞬その動きが止まる。

その瞬間を集中力を高めていためぐるは見逃さなかった。

「そこっ!」

めぐるの狙撃が命中し、敵機の右肩部が爆発した。

しかし残った左腕の機銃を真乃に向けてきたため、真乃は咄嗟にライフルを放った。

それは胴体部に命中し、敵機は膝から崩れ落ちたのだった。

 

「やったの…?」

真乃は夏葉に言われた『残心』を思い出しながら、敵機を暫く注視した。

そこに千雪からの通信が入る。

「イルミネーションスターズの皆、聞こえる?」

「は、はいっ!」

「今皆が交戦してる1体以外は先程までこちらに向かって来ていたけど、急に撤退していったわ。そちらは大丈夫?」

「えっと…多分、倒したと…思います。」

「!」

通信機に映る千雪の表情が変わった。

「皆、すぐに帰投して。敵機には近づかないで。いい?すぐに!」

「真乃!あれ!」

「!?」

めぐるの声で真乃は敵機に視線を戻すと、敵機はその胸部から白煙を上げてハッチが開くのだった。

「えっ…」

そこから何かが見えたと思ったら、それは地面に転がり落ちていった。

「何?何か落ちて…ひ、人?」

そちらにモニターを向けると、それは紫色の髪をした、真乃たちと変わらない年頃の少女だった。

「動いてない…し、死んでるの?」

 

『あれは演習用の仮想敵機。中に人の乗っていない、命令通り動くロボットよ。』

『あのロボットの目的はさっき見た真乃さんの機体の破壊。そういう風にプログラムされているの。…』

 

かつて千雪から聞いた言葉を思い出す。

そしてそれが目の前の現実と違うものだったと思い知らされる真乃。

 

「嘘…わ、私…殺し………ウプッ、お、オエェエエ!」

 

真乃はその現実を受け止めきれず、嘔吐した。

 

 

第三話 終

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