アイドルマスターシャイニーカラーズ ゼノアクティナ 作:双葉敦
隊員たちからの詰問にこれまで事実を伏せていた事を詫びる千雪。
そして語られたのは、この戦いが地球より遥かに高度な文明を持つ異星人同士による、どちらが地球に干渉するかを決める代理戦争という事であった。
基本的に地球人の自由意志を尊重し、文明が発達すれば対等な交易を望む「星間連合」と、上位存在である自分達が支配する事で地球人同士の争いをなくし、平等な世界の実現を提示する「銀河連盟」。
双方公平を期すため、同じ人種・性別・同世代の地球人からIDOLLへの適合性と気質を基に両陣営に選ばれたのが真乃たちであった。
千雪から真相を告げられて以降、全員の訓練に取り組む姿勢が変わった。
これまでどこか学校の課外活動のような感覚で行っていたが、それではこの先自分や仲間の命を守れないと考えるようになったからだった。
各自が自分の機体の理解を深め、使いこなせなければ生き残れない。
それは必然と機体への愛着に繋がっていくのだった。
「ほわっ、めぐるちゃんまだ磨いてたの…?」
真乃と灯織が自主訓練を終えてアルストロメリアに戻ると、格納庫には愛機を磨くめぐるが残っていた。
「そういう真乃と灯織こそこんな時間までお疲れ様。」
めぐるは額の汗を拭って真乃に答えた。
「…ある程度はメンテナンスロボットがしてくれるけど、やっぱり細かい所なんかはね。特に私の機体は射撃の精度を求められるから、やれる事はやっておきたいんだよー。」
「ほわぁ…すごいね、めぐるちゃんは。」
めぐるは格納庫の隅にある冷蔵庫から補給用のドリンクを取り出し、真乃と灯織に渡した。
「…私も、やろうかな。」
灯織が自身の機体を見上げながら呟いた。
「うん、やっぱり自分で磨くと僅かな異変も気づけるし、何より愛着が湧くからねー。最近はライフルの整備なんかもマニュアル片手にやってるけど、結構面白いよ?」
「いや、そこまでは…」
灯織が苦笑する。
「でも宇宙人さんが作ったものなのに、日本語の取扱説明書とかあるんだね…何だか変な感じ。」
「そこは凄い翻訳機とかあるんじゃない?何せ地球より遥かに高度な文明らしいからね。」
めぐるがドリンクを飲みながら真乃に答えた。
「そう言えば千雪さんが言ってたIDOLLの動力源…『フェザージュエル』だっけ?どういう仕組みで意思の力をエネルギーに変換してるんだろうね…」
灯織が思い出したように訊ねる。
「それは私も気になったけど、ブラックボックス扱いだったなー。確かにそんな技術が流出したら、エネルギー革命が起こっちゃうよね。既存のインフラがひっくり返っちゃうよ。」
「だからなのかな…今更だけど、最初に携帯電話とか外部への通信機器は全て預けるように言われたのって。こう言う機密が漏れないようにって措置なんだろうね。」
「…改めて私達、本当にすごい状況にいるんだなって思うよ。」
3人はドリンクを片手にそれぞれの機体を見つめた。
「愛着かぁ…そう言えば私の機体、形式番号がIS-03なんだけど、それだとなんだか冷たい感じだし、頭部の形状が鳩みたいだから『ピジョン』のピーちゃんって愛称つけようかなって思うんだけど…変かな?」
「え…」
めぐると灯織が固まる。
「あ、やっぱり変だと思ってる?」
真乃が頬を膨らます。
「いや…別に好きに呼べば良いと思うけど…兵器にピーちゃんって。」
「でも真乃らしいよね。いいんじゃないかな、ピーちゃん。きっとこの子も応えてくれるよ。」
灯織とめぐるがそれぞれ意見を述べた。
「…そう言えばクライマックスガールズの皆は?」
話題を逸らすような灯織の問いにめぐるが後方を指す。
「相変わらず体力作りのトレーニング。でも実際に体力と精神力って比例してるみたいだし、まずは適合率を上げるって方針だろうね。」
「確かに…やる事はたくさんあるね。」
「そうだね…。でもやらなきゃ。皆で生き残るために。」
「…うん。」
そう。私達には立ち止まっている余裕なんてないんだ。
真乃は心の中で呟いた。
〜 〜 〜
「…確か最初に敵が現れたのは真乃ちゃんが来た日の、この島で…」
「なーちゃん…何、してるの…?」
ブリッジでモニターを前に考え込む様子の甘奈に、甜花が訊ねた。
「え?ああ、ちょっとね…どうやって敵はこちらの位置を把握したのか気になって。」
「そうね…それは私も気になっていたわ。出来るだけ一箇所に留まらないよう、細かく動いていたつもりなんだけど。」
甘奈の疑問に千雪が同意する。
「私達の移動した時期と座標を振り返って、そのうち襲撃があった2回に何か共通点がないかなって…素人考えなんだけど。」
「ううん、そうやって考えてくれるだけでも助かるわ。それに何がヒントになるかは分からないしね。」
「えへへ、ありがとう千雪さん。」
「にへへ…なーちゃんが褒められると…甜花も、嬉しい…!」
甘奈と並んで、甜花も我が事のようにはにかんだ。
「およそ間隔は3週間…最初は1機で、この前が5機。おそらく初めは散開しての索敵中に見つけた、という所だと思うわ。だからこそ5機で現れた先日は、ある程度こちらの位置を特定されていたと考えるべきね。」
「あうう…こっちは敵の位置なんて知らないのに…ずるい…」
「敵の…位置………待って、確か…千雪さん、これ見て!」
「これは…」
甘奈がモニターにデータを打ち込み、仮説を立てた。
「偶然かも知れないけど、襲撃があった2回ともこの島からほぼ等間隔なの。てっきり敵も同じように移動してると思ってたけど、もしかしたらこの島を拠点にして網を張っているのかも…!」
「なるほど…確かに距離からしても、IDOLLの稼働時間に収まる範囲と思えるわ…。すごいわ甘奈ちゃん、良く気付けたわ!」
「ううん千雪さん、これは私だけじゃないよ。甜花ちゃんの言葉がヒントになったんだから、私達二人の手柄だよ。…ってまだ仮説の段階なんだけどね☆」
「なーちゃん…にへへ、ありがと…」
甘奈と甜花が手を取り合う。
「早速この仮説に基づいて、夏葉と今後の方針を立てるわ。」
千雪は逸る気持ちを抑えながら夏葉を呼び出した。
「なるほどね…確かに可能性はあるわね。」
千雪から甘奈の仮説を聞いた夏葉は頷いた。
「最初の遭遇でこちらの力量を測った結果、こちらからの襲撃はないと踏んでの拠点化と考えたら納得はできるわね。…舐められているようで腹は立つけど。」
「ごめんなさい…私もどっしり構えたら良いのだろうけど。」
「千雪は私達の事を考えて戦略を立ててくれたんだから、謝る事なんてないわ。それよりこの仮説を元に、どう動くかね…千雪はどう思う?」
「…こちらから仕掛けるにしても、敵がまだ5体しか姿を現していないのが気になるわ。やはり相手の戦力が未知数なのは正直怖いと思うの。それと拠点化している以上、何かしらの防衛線はあると考えられるわね。」
改めて不確定要素が多い事に気づき、千雪は慎重だった。
「先日倒した1体を差し引いて現状は8対7。けど数的有利より不安要素が強いと思うなら、まだ攻めるのは避けた方が良いわね…」
「けどよ、相手がどんな奴か分かるまで攻めないってなると、アタシ達はずっと連中の襲撃にビビりながら過ごさなきゃならねえのか?さすがにそれはしんどくねえか?」
夏葉についてきた樹里が口を挟んだ。
「…樹里の言う事も一理あるわね。緊張が続くとストレスになって、体調を崩す子が出るかも知れない。特に果穂は気丈に振る舞ってるけど、まだ小学生だもの。無理はさせられないわね…」
全員で顔を見合わせ、考え込んだ。
「…確かに不安はあるけど、折角敵の位置が推測できたのだし、やってみましょう。とは言えまだ出て来ない敵のIDOLLの件もあるし、あくまで敵の戦力を把握するための奇襲という位置付けで。これでどうかしら、艦長?」
「そうね…後は夏葉から見て、皆が戦って帰って来れるレベルだと思うかだけど…」
「それについては私は大丈夫だと思うわ。千雪の話を聞いてから、皆生き残るために必死で訓練してるし、適合率も操縦スキルもレベルアップしている。」
夏葉の答えに千雪は少し逡巡するも、意を決した。
「分かったわ…それでは明日、夜明け前に出撃。それで全員に通達するわね。」
「この前の意趣返しね。良いわ、やってみせるわよ!」
「ああ、やってやろうぜ!」
夏葉と樹里が気合をこめて、腕を重ねた。
〜 〜 〜
「今回の作戦は敵母艦への奇襲。アルストロメリアで拠点と推測された島に可能な限り接近して、そこからIDOLLで島内を捜索するわ。ただし敵の戦力がまだ分からない以上、敵を発見しても深追いはせずある程度のデータを集めたら撤収する事。全員分かった?」
「はい!」
「それじゃ30分後に出撃よ。各自搭乗して発進準備!」
「了解!」
そして予定時刻となり、千雪が発令する。
「全機発進!」
「イルミネーションスターズより順次カタパルトへ移動して下さい。」
甘奈の誘導の元、灯織がカタパルトに機体をセットする。
「灯織機、発進準備完了。いつでも行けます。」
「了解。発進お願いします。」
「灯織機…行きます!」
カタパルトより灯織機が射出される。
続いてめぐる、真乃が出撃する。
「お待たせしました。クライマックスガールズの皆さん、カタパルトへお願いします。」
「こちら夏葉、準備OKよ。」
「それでは発進お願いします。」
「クライマックスガールズ1号機…夏葉機、出るわよ!」
夏葉に続き、メンバーは全て艦を出発して行った。
「…皆、無事に帰って来て。」
千雪は祈るように呟いた。
「やっぱり向こうもこちらの接近には気付いているのかな…」
自分達が襲撃された時を思い出して、真乃が誰にともなく尋ねる。
「母艦のレーダー性能が同程度という仮定で、感知されるギリギリの地点から発進したからね。今頃慌てて迎撃準備しているかも知れないわね。」
夏葉が答えた。
「皆に送られたこの座標が、敵艦の予測位置なんだよね…距離から考えて、もし夏葉ちゃんの言う通りならあと10分ぐらいで…」
「お出迎えがあるかもね。」
智代子の予想に夏葉は返した。
「飛行形態で先行してる樹里が、そろそろ予測地点に到着するわ。まずはその結果待ちね。」
暫くして樹里から通信が入った。
「どうだった?」
「ああ、ビンゴだ。夏葉たちが予測した入江に、敵艦らしいのが居座ってたぜ。あと見た所迎撃用の砲台とかは見当たらなかったな…ナメやがって。」
「了解、それじゃ樹里は私達と合流するまでその場で待機。引き続き敵艦の監視をお願い。」
「オッケー。何かあったらすぐ連絡するぜ。」
ここまでは順調ね、と夏葉は呟いた。
「島が見えてきた…あそこに…敵が…!」
先頭で飛ぶ灯織は緊張からグリップを強く握る。
それを見ていたかのように夏葉が全員に声をかけた。
「皆、緊張してるだろうけど落ち着いて。一度深呼吸をしなさい。大丈夫、訓練通りにやれば問題ないわ。」
「はい…すぅー…はぁー………良し!」
灯織は落ち着きを取り戻した。
「こちらと同様に、相手もこちらのデータはまだそれ程無い筈よ。何より貴方達は一度勝っているのだから、自信を持って。」
夏葉の励ましに真乃が答える。
「あの時は地の利というか…けどそうだね。私達3人ならきっとやれるよ。今回は夏葉さん達もいるし…!」
そこに樹里から通信が入った。
「出てきたぞ!数は…4!真乃たちが遭遇した紫色の機体だ。…他に出て来る気配はねえな。」
「了解。もしもの事があるから、樹里はもう少し様子を見てて。…迎撃でも前と同じ数という事は、現在動かせるのがそれだけという可能性が高いわね。だとすればこれは好機よ。倍の戦力差なら、かなり痛手を負わせられるかも。」
夏葉は千雪に状況を報告した。
「分かりました。相手の事情は分からないけど、こちらとしてはチャンスなのは間違いないわね。けど決して無理はしないでね。」
「了解。千雪は心配性ね…ちゃんと全員無事に連れ帰るわよ。」
「お願いね、夏葉…」
千雪は一抹の不安を覚えながらも、作戦を続行させた。
〜 〜 〜
お互いが敵影を視認できた瞬間、交戦が始まった。
真っ先に切り込んでいく恋鐘。
「摩美々の仇討ちばい!」
両肩のキャノン砲を灯織機にめがけて放つ。
「来た!」
灯織はそれを回避すると、全員がそれに合わせて散開する。
灯織は向かってくる恋鐘機に斬りかかった。
しかし恋鐘は灯織の斬撃を避けると、さらに敵陣へ踏み込んでいった。
「キサンは後回しとね!摩美々を討った奴はどこばい…!」
恋鐘は摩美々の言葉を思い出した。
『あー、あの機体見覚えある。私が最初に発見した奴だー。』
『そうなのかい?』
『あの薄黄色と桜色のカラーリングは特徴的だからねー。戦う気あるのかって感じだからー。…あの時は逃げ回ってただけなのに、応戦できるようになってるねー。』
『ウチらも加勢するばい!』
『んー…いや、ここは私だけで大丈夫かもー。連中の攻撃、教科書通りって感じで分かりやすいしー。』
『摩美々、確かに私達の中では君が最も操縦が上手い。けど油断は禁物だよ。』
『はいはーい。ま、いざとなったらスタコラサッサと逃げるからー。私こんな所で死ぬつもりなんてないしー。皆は安心して敵情視察をよろしくー。』
「桜色の機体…出て来んね!」
恋鐘は牽制の砲撃をしつつモニターで真乃機を探していた。
「だーかーらーこがたん、その機体は後方支援機なんだから突っ込まないでって!」
結華から通信が入るも恋鐘は気にせず真乃を探す。
「やれやれ…ああなったら恋鐘は止まらないからね。私達でサポートするしかない。」
「はいはい、そうなっちゃうよねー。…んじゃまずは戦いながら連中の解析をしますか。」
「ああ、頼むよ。霧子は後方で待機。極力応戦は避けて温存しておいてくれ。」
「…り、了解!」
「見つけたばい!」
恋鐘がとうとう真乃の機体を捉えた。
「こっちに向かってくる!?」
先程まで戦場を彷徨っていた砲撃型の敵機が、自機めがけて突っ込んできたため、真乃は動揺した。
「真乃、一人で相手はしないで!数で有利なんだから、仲間と一緒に応戦しなさい!」
夏葉の指示が入る。
「は、はいっ!近くの人は…凛世ちゃん、お願い!」
「了解…しました…」
凛世が真乃機の応援に向かう。
真乃は恋鐘にライフルを放つも、敵の装甲は厚くダメージはあまり与えられなかった。
「摩美々の痛み…倍返しとよ!」
恋鐘のバズーカが真乃を捕らえる。
放たれた砲弾は、見事に真乃機の左腕を吹き飛ばした。
「きゃああ!!!」
「真乃さん…!」
凛世が恋鐘に薙刀で斬りつけるが、恋鐘はバズーカ1門を盾代わりに防ぐと、腰部のレールガンを展開し凛世に向けて放った。
「………!」
至近距離からの砲撃を躱せず、腰部に直撃される凛世。
「凛世ちゃん!?」
それを見て助けようと向かってきた智代子に咲耶の援護射撃がヒットした。
「うわあっ!」
一気に3体を戦闘不能にされた連合側。
「あれは砲撃型じゃないの?接近戦で凛世が負けた…!?」
めぐるは驚きながら恋鐘を狙撃するも回避される。
「…さすがにトドメをさせるほど相手は待ってくれんとね。けどあんダメージならいつでもやれるばい!」
恋鐘は他の増援が来る前にその場を離脱した。
「…このっ!」
灯織は結華を相手に剣を振るうも、こちらの癖でも知っているかのように躱された。
「ていやあー!」
同じく果穂も大剣を振り回すが、結華は絶妙な距離の取り方で間合いを外し、ライフルで応戦するのだった。
「こちらの動きが…読まれてる?」
「全然当たりません〜!」
二人がかりでも敵に全くダメージを与えられず、灯織と果穂は相対する敵機に違和感を感じた。
「どうして当たらないのって顔してるんだろーねー。さーて、どうしてだろうねー?」
操縦スキルの差はそれ程なかった。
しかし結華機には敵機のスペックや行動パターン解析を行う『スキャニングアイ』という機能があった。
それにより灯織と果穂の機体の特徴や武装、攻撃範囲等を解析し、的確に回避していたのだった。
一方夏葉は咲耶と交戦していた。
「武装からしてめぐると同じ狙撃タイプ…なら私の距離に持ち込めば…!」
多少の被弾は覚悟で夏葉は突撃する。
対する咲耶も正確な射撃を行うが、重装甲の夏葉機には致命傷を与えられなかった。
「格闘タイプか…なかなか厄介な敵がいるね。結華、そっちの解析が終わったら恋鐘とスイッチしてこちらの解析を頼むよ。」
「りょーかーい。こがたん、データ送ったから後はよろしくー。」
「分かったばい!」
灯織たちに恋鐘の砲撃が襲う。
「くっ!」
その隙に結華は離脱し、咲耶と交戦する夏葉機の解析へ向かった。
「悪ぃ、敵艦の監視で遅れちまった!」
そこに樹里が夏葉の加勢に駆けつける。
「樹里はこちらに向かってる機体の相手をお願い。私はあのスナイパーを倒すわ!」
「結華、そちらに飛行型の機体が向かってる。解析してくれれば私が狙撃する。」
「オッケー!ちょっと待ってねーっと…お、可変機のようだね。なるほど、その分機体剛性は高くないみたい…うん、細かいけどこの変形部分、ここをピンポイントで狙える?」
「問題ない。」
高速で移動する樹里機のピンポイント狙撃という難題に、咲耶は難なく答えた。
結華の送ってきたデータを基に、夏葉と距離を取りながら樹里機に狙いを定める咲耶。
通常なら不可能と思われる狙撃でも、咲耶の動体視力と機体の固有性能『鷹の目』によるロックオン機能があれば可能となるのだった。
「捉えたよ。」
咲耶の狙撃は見事に樹里機のウィークポイントを撃ち抜いた。
「うおおおお!?」
予想外のダメージに墜ちていく樹里機。
「樹里!?」
それでも樹里はなんとか海面への墜落前に機体を立て直した。
「だ、大丈夫だ…!けどこいつら強え…!」
「うわああああ!」
そこに果穂の悲鳴が聞こえる。
夏葉が振り返ると、恋鐘と交戦していた灯織と果穂が一方的にやられていた。
恋鐘機の連射に全く接近戦の距離に持ち込めず、2機は為す術もないまま被弾していく。
「めぐる!灯織達のフォローを!」
「了解!チョコは真乃と凛世のカバーをお願い!」
夏葉の指示で灯織たちの援護に向かうめぐる。
「そうはさせないよ。」
「きゃああっ!」
そこに咲耶の狙撃が入り、めぐる機はライフルを持つ右腕を破壊された。
「めぐる!?」
「ごめん夏葉さん、しくじった…!」
やがてアンティーカの面々は母艦を背に防衛線を作ると、夏葉達を一斉射撃で追い込んでいった。
~ ~ ~
夏葉は逡巡した。
最早自軍の戦闘の継続は困難であり、撤退しか選択肢はなかった。
「…完全に読み違えたわ、ここまで圧されるなんて。」
「どうするの夏葉ちゃん!?」
敵の攻撃から必死に真乃たちを庇いながら智代子が尋ねる。
撤退するにも問題があった。
このまま下がれば、損傷の激しい真乃や灯織、凛世や果穂たちが敵に捕まり命を落とす可能性は高かった。
全員が逃げ切るためには、敵に隙を作らなければならない。
夏葉は一呼吸すると、覚悟を決めた。
「………私が隙をついて敵母艦に接近し、相手の注意を引きつけるわ。そしたら…」
「そしたら?」
「全員全力でこの空域を離脱しなさい。」
その言葉の意味する所を知って、樹里が叫んだ。
「待てよ!それじゃ夏葉が…」
樹里の言葉を遮るように夏葉は語りかける。
「こういう役目は年長者に任せなさい!…大丈夫。必ず…戻るわ。」
「馬鹿野郎、カッコつけてる場合かよ!せめてアタシも一緒に…!」
樹里は食い下がるが、夏葉は諭すように優しく言った。
「千雪と約束したのよ。全員、無事に帰すって。…生き残れば、諦めなければチャンスは来るわ。皆を頼んだわよ…樹里。」
夏葉の覚悟を察し、樹里をはじめ全員が何も言えなくなった。
「行くわよ!」
そう言うと夏葉は背中の大型ブースターを使い、一気に加速を開始した。
「!?」
「突っ込んでくる?」
夏葉の突撃に迎撃しようとするアンティーカの面々。
その横を潜り抜け、夏葉はまっすぐ敵母艦・ノクチルへと向かった。
「しもうた!抜かれたばい!」
「やらせる訳には…」
「あっ!」
結華が気付く。
「さくやん、残りの連中逃げてく!」
「何だって?」
夏葉を追おうとしていた咲耶が振り返ると、他の機体は一斉に撤退を始めていた。
ダメージの少ない飛行形態の樹里機に損傷の激しい真乃たちが掴まり、動ける機体は自力で戦闘空域を離れていった。
「どうする?」
「…なるほど、尊い自己犠牲ってやつだね。」
「あいつら追うばい?」
「…いや、その気高い意志を尊重し、ここは彼女の策に乗ってあげよう。」
「じゃあ…」
アンティーカの4人が母艦の方へ振り返ると、夏葉機が待ち構えていた。
「全員であの機体を討つ、できるだけ苦しませないようにね。」
そう言った咲耶の言葉が聞こえていたかのように、夏葉は言い放つ。
「言っておくけど、私は諦めの悪い女よ!」
「畜生…ちくしょおおお!」
樹里の叫びに誰も応えず、逃走する連合側7体。
それぞれが己の無力さを痛感していた。
アルストロメリアに帰投した7人は、すぐにブリッジに駆け上がった。
「夏葉、夏葉の反応は!?」
しかしその問いに千雪や甘奈も甜花も答えなかった。
「…!」
ジュエルの反応板を見て、樹里は持っていたヘッドギアを落とした。
智代子と凛世は泣き崩れた。
灯織とめぐるはやるせない気持ちに視線を落とし、真乃は涙を浮かべて口元を押さえる。
果穂が絶叫する。
「うあああああーーー!!!」
反応板の光は、9つだった。
「その後、夏葉さんが帰ってくることは…ありませんでした。」
第五話 終