アイドルマスターシャイニーカラーズ ゼノアクティナ 作:双葉敦
一向に戦力増強をしない連盟側指令・透に苦言を呈するアンティーカの咲耶。
一気に戦力を揃えるのは愚策であり、データを集めてより高性能な次世代機を作るまで耐えて欲しいとの透の弁に不信感を抱くも、引き換えに最も適合係数の高い霧子の機体に新装備をつける条件で譲歩する。
そして再戦の機会が訪れ、霧子機の新装備が恐るべき威力を発揮する。
強制的なエネルギーダウンに苦戦する真乃たち。
皆を守りたいという真乃の思いがリミットを超えた時、突如世界が停止する。
そこで真乃は霧子と出会い、お互いの気持ちを語り合う。
真乃は霧子と心を通わせたように思えた瞬間、世界は再び動き出した。
最初に動いた恋鐘とそれに反応しためぐる、その狙撃から恋鐘をかばおうとする霧子。
そして悲劇が起きる。
バシィ。
アルストロメリアのブリッジに鋭い音が響く。
それは灯織が全力で真乃の頬を打った音だった。
「めぐるを殺したのは…真乃、貴方だから。」
「やめろ灯織!」
さらに真乃に手を上げようとする灯織を樹里たちが止めた。
「………」
真乃は何も言わなかった。
正確には何も言えなかった。
「どうしてあの時あの機体を撃たなかったの!答えて、真乃!」
「………」
真乃は答えられなかった。
あの時起きた事は、説明しようとしてもできる気がしなかった。
ましてその影響でめぐるの危機に気付けなかったなど、信じてもらえるとは思えなかったのだ。
「答えられないの?答えたくないの?」
灯織は声を荒げて問い詰める。
「………ごめんなさい灯織ちゃん…私…私…取り返しのつかない事を…」
真乃の瞳から涙が溢れる。
それは頬の痛みからではなく、上手く言葉に出来ない自分へのもどかしさから来るものだった。
「…もういい。真乃がそういう態度なら、もう話す事なんてない。」
灯織は樹里たちを振り解くと、千雪に向かって告げた。
「千雪さん、本日付でイルミネーションスターズの解散を申請します。」
「灯織ちゃん!?」
千雪は驚く。
「これ以上、味方の危機を見過ごすような人に背中を預ける事はできません。それなら一人で戦った方が余程マシです。」
「灯織ちゃん…ごめんなさい…ごめんなさい…!」
真乃は泣きながら謝った。
「謝るなら私じゃなくてめぐるにでしょ?もう聞こえないだろうけど。」
しかし灯織は冷たく突き放し、ブリッジを離れた。
「…ひとまず真乃さんは一時的にクライマックスガールズに編成します。皆、めぐるちゃんの事もあるし今日は何も考えずゆっくり休んで下さい。」
「…はい。」
全員が力なく返答すると、それぞれの部屋へ戻るのだった。
その場で立ち尽くし、泣きじゃくる真乃を残して。
そんな真乃を千雪は優しく抱きしめた。
「…色んな事があり過ぎて、混乱してるのよね、真乃ちゃん?」
真乃は千雪の胸の中で頷いた。
「落ち着いたら…私も一緒に聞くから…灯織ちゃんに、あの時何があったのか話してあげて。…大丈夫、きっとどうしようもなかったんだって…灯織ちゃんも分かってくれるから…」
千雪は真乃の頭を撫でながら慰めるのだった。
〜 〜 〜
「全く君達は…いや、よそう。ただ第三者機関が到着したら遺体は引き渡す。それまでの間に別れは済ませてくれ。」
透は咲耶たちに告げるとブリッジに戻った。
咲耶達は霧子の遺体をコクピットから運び出すと、彼女の自室まで連れて行きベッドに横たえた。
「霧子…霧子ぉ…おおおあ〜っ…霧子ぉ…」
恋鐘は遺体に縋り付き嗚咽を漏らす。
咲耶と結華はその後ろで立ち尽くし、何も出来なかった自責の念と霧子を喪った悲しみに言葉を詰まらせた。
『あれは…敵の母艦か!?恋鐘、撤収しよう!』
『嫌ばい!こいつ等全員霧子の仇ばい!』
『こがたん!まみみんの時と同じ事を繰り返すの!?』
『…!』
『今は霧子の回収を優先すべきだ。違うかい?』
『………了解たい。霧子ぉ…』
3人は霧子機が落ちた海中に向かい、引き上げると母艦へと帰投したのだった。
「…結華、しばらく恋鐘だけにしてあげよう。」
咲耶は結華に声をかけ、二人は霧子の部屋を出た。
「結華、ちょっと良いかい?」
「?」
「今回の件…何か違和感を感じないかい?」
「どゆこと?」
「あれだけ機密保持と言っていた透達が、霧子を連れ帰った事に何も言わずすんなり受け入れた点だよ。」
「あ…あ〜確かに。」
「なら摩美々の時と何が違うか?」
「…あの新装備!」
「そう考えると辻褄が合う。今思えばあの装備、最初から別の目的のために作られた気がするんだよ。」
「それは女の直感ってやつ?」
「さてね…ただ透達が私達に教えられない事をしているのは、確信に近いかな。」
「…んで、それを私に言うって事は、私に何をさせたいのかな?」
「すまない…透達があの新装備をどのように調達して、そして回収したデータをどこに送っているのか、調べてほしい。」
「そりゃまたヤバそうな橋だねえ…けど仕方ない、現役情報学部生のハッキング能力、見せちゃいますか!」
二人が話していると、霧子の部屋の扉が開いた。
「恋鐘…もう…!?」
咲耶と結華は部屋から出てきた恋鐘を見て絶句した。
恋鐘はその美しい緩やかなウェーブがかかった長い髪を襟元から切り落としていた。
「恋鐘…その髪は…」
「霧子への餞たい。ここじゃそんぐらいしか持たせてやる事はできんけんね…」
「こがたん…」
「うちは決めた。あいつら全員霧子の元に送るとね。それまでこの戦いは終わらん、終わらせんね。」
「恋鐘…」
咲耶も結華も恋鐘にかける言葉が見つからなかった。
〜 〜 〜
真乃は格納庫にいた。
そこには回収しためぐる機の残骸があった。
コクピット付近の爆発によりめぐるの遺体はほぼ残っておらず、機体の残骸と彼女の愛銃だけが佇んでいた。
「めぐるちゃん…私、おかしくなっちゃったみたい…こうしてめぐるちゃんの機体を見ても、めぐるちゃんを思い出しても…涙が出てこないよ。」
真乃はめぐるの機体に語りかけた。
「ねぇめぐるちゃん…私、どうしたら良いのかな…どうしたら、許して貰えるのかな…」
誰もいない格納庫で真乃は呟いた。
「私…もう戦えないよ…こんな私じゃ…誰も、何も守れないよ…」
それから数日は、両陣営とも機体の修復に費やしたため交戦はなかった。
その間に動ける者は訓練と作戦立案を行ったが、真乃が部屋から出て来る事はなかった。
「…真乃ちゃんの様子はどう?」
千雪の問いに智代子が首を振る。
「食事もほとんど摂ってないみたい。食べなきゃダメだよって部屋まで持って行ってはいますけど…」
「そう…最悪彼女は戦えないと考えて、5人体制で作戦を考えないといけないわね。」
「真乃さん…あたしたちに何かできないでしょうか?」
果穂が心配そうに千雪に尋ねる。
「果穂ちゃんは優しいわね…けど、これは真乃ちゃん自身の問題なの。あの子が自分で立ち上がろうとしなければ、周りがいくら励ましても逆効果になる事もあるわ。」
「そうなんですか…」
しゅんとする果穂。
「そういう事なら真乃は立ち直るのを待つしかねーか…それより問題は灯織だよ。アイツずっと一人で訓練してるし、このままじゃ単機突撃とかやりかねねーぞ。」
樹里は灯織の心配をしていた。
「灯織ちゃんにはちゃんと皆と連携するよう私から言っておくわ。ただここまで全く出て来ない敵の残り3体が不気味なのよね…」
「温存している…という訳でもないでしょうから…何か目的があるとは思いますが…」
千雪の不安に凛世が答える。
「えっと…作るのに…時間かかってるとか…」
甜花が呟いた。
「今何て、甜花ちゃん?」
「え、えっと…すごく強いのを作ろうとして時間かかってるとか…あうう、ただの思いつきでしゅ!」
「オモイツキ!オモイツキ!」
デビ太郎が甜花を真似る。
しかし千雪はしばらく考え込んで言った。
「いえ、その可能性はあるわ…むしろ何で今まで気付かなかったのかしら。」
「ひぃん…えっ?」
ふざけないでと怒られるかと思った甜花だったが、予想外の千雪の反応に戸惑った。
「…そもそもIDOLLは何故人型なのか。これは全く軍事訓練を受けていない女の子たちが操縦者…IDOLLのマスターとなるのに、人型が一番動かすイメージがしやすいからなの。」
「確かに戦闘機とか戦車を動かせって言われても出来る気がしないですね…」
智代子が頷く。
「思念で動く兵器だから、自分の身体を動かす感覚に近い方が受け入れやすいと考えられたのね。そして所持する武器も人類が現在使用している物の方が扱いやすい…つまり私達人類に合わせた物を用意するのが連合側の指針なの。」
「ジャスティスロボみたいなものですね!」
果穂は目を輝かせ、千雪は微笑んだ。
「だから連盟側もそうだと思った…いえ、思い込んでいたわ…実際にこれまで戦った5体は皆の機体とそう形状や武装に差はなかったから。」
「つまり…残りの3体は…」
今度は凛世が千雪に問う。
「…こちらの想像を越えた形、もしくは武器を持っている可能性が高いわ。そしてこれまで出てこなかったのは、その機体開発に時間とマスターの慣れが必要だった…それならしっくり来るわね。」
「マジか…あの連中だけでも手強いのに、更に強い奴等が…」
樹里が動揺する。
「…でも、こちらには実戦経験がある。」
「灯織?」
いつの間にかブリッジに灯織が入って来ていた。
「敵の性能は未知数だけど、逆に言えば実戦経験がない初戦が叩く好機だと思う。千雪さんはどう思いますか?」
「そうね…これまで皆は死線を潜ってきて、実戦の怖さも良く分かってるものね…新型が攻め時と退き時を見誤る可能性も考えられるわ。」
千雪は灯織に一旦同意する。
「ただ敵に比べこちらの武装が劣っているのは事実よ。…本当に申し訳ないと思うけど。追加装備が用意できるまで、くれぐれも無理はしないで。」
「…了解です。」
灯織はその瞳の奥に、めぐるの仇を取るという戦意を滾らせていた。
〜 〜 〜
ノクチルのブリッジで透は何か考えている様子だったが、ふと隣にいる円香に尋ねた。
「円香、アレの進捗状況は?」
「…現状で70%という所。けどアフカルのデータが手に入ったから、ここからはそれ程時間はかからないと思う。」
ふむ、と透は頷くと今度は反対側にいる雛菜に声をかける。
「雛菜、彼女達の仕上がりはどう?」
「やは〜、かなり良い感じかも〜。早く戦わせろって煩いぐらい〜。」
なるほど、と言うと最後に透の前でノクチルの制御を行う小糸に確認した。
「小糸、敵艦の動きは?」
「ぴゃっ!?え、えっと…うん、透ちゃんの予測通りだよ。ま、まだ仕掛けてくる様子はないね。」
そうか、と呟く透。
「頃合いか…それじゃそろそろ削っていこうか、不要な要素をね。」
そう言うと透は発令を出した。
「ノクチル発進。目標は敵母艦。」
透は顎の下に手を組み言った。
「遊びは終わりだ。」
「4時の方向に敵影確認!距離…3000!えっ…この大きさ…これは…敵母艦です!」
甘奈が千雪に報告する。
「…来たわね。」
千雪は覚悟を決めると発令した。
「全機、迎撃準備!母艦が出てきたと言う事はおそらく本格的に戦う準備が出来たと考えられるわ…皆、新型には特に気をつけて!」
「了解!」
真乃を除くメンバーが順次出撃準備に入る。
「それじゃ智代子機、行きますっ!」
「凛世機…推して参ります…」
皆を見送ると千雪は甜花に指示を出した。
「当艦は戦闘空域後方で待機。もし戦況が悪化したら、速やかに全機収容して撤退できるよう備えてね。」
「りょ、了解…!」
「もう一度確認するけどよ、今回もし敵の新型が現れてもまともに相手はしないんだよな?」
樹里が凛世に尋ねる。
「はい…どのような相手か分からない以上…不用意に近づくのはやはり危険かと……」
「これまで戦った紫色の3体を、この前みたいに分断して叩くんだよね…けどイルミネーションスターズは灯織ちゃんだけの現状で、上手くいくかな…」
智代子が不安そうに話す。
「3体を倒すのは厳しいだろうな…だからアタシが砲撃型と狙撃型の注意を引きつけっから、凛世たちで遊撃型を囲んで倒してくれ。果穂達の接近戦をチョコがランチャーで支援する訓練は散々やっただろ?頼むぜチョコ!」
「ううっ…責任重大…」
「敵艦が見えてきたぞ…あっちも出てきたな…!?」
「反応が6つです!見た事ないのがいます!」
果穂が叫ぶ。
「やはり出てきた…なら!」
「灯織!?」
灯織はそれまで話していた作戦内容を無視して突撃した。
「千雪さんも皆も…敵に怯えすぎてる!慎重と臆病は違う!」
「あのバカ!」
樹里は灯織を追った。
「作戦変更だ!こうなったらアタシが灯織を支援すっから、凛世たちは紫色の連中を上手くあしらっておいてくれ!」
「…了解…いたしました…ご武運を…」
凛世は2人を心配しつつ、樹里の指示に従うのだった。
「敵は5体…あの桜色の機体が不在だね。」
咲耶が望遠で前方を確認しながら言った。
「新入りは手ぇ出さんでよか。うちらでアイツら叩き潰すとね。」
「恋鐘!?」
咲耶は恋鐘に注意しようとしたが、その前にストレイライトの冬優子は媚びた声で恋鐘に同意した。
「は〜い、先輩たちの戦い方、勉強させてもらいますぅ〜。」
「…ふんっ!」
冬優子の話し方は気に食わなかったが、一先ず主導権は自分達にあると確信した恋鐘は敵陣へと攻め入るのだった。
「いいんすか冬優子ちゃん、あの人達に任せて?」
すんなり恋鐘の指示に従った冬優子に同じストレイライトのメンバーであるあさひが尋ねた。
「バカねあさひ、アンタまであの連中と同レベルなの?ああいう手合いは適当に合わしておけば良いのよ。先に戦わせてどっちも弱れば、後で好きなだけ嬲れるじゃない。」
「うわ、冬優子ちゃんマジエグくない?」
もう一人のストレイライト、愛依が引き気味に苦笑した。
「いーのいーの、精々ザコ同士削り合って貰いましょ。私達は高見の見物よ。」
「そんなもんなんすかね。私は早く戦いたいっすけど…」
そう話している間に恋鐘たちが敵の先鋒と遭遇したようだった。
「来た…紫のチームが先行してる…けど!」
灯織はめぐるの直接の仇である恋鐘機を見つけ、齒軋りした。
「…先に新型を叩く!お前はその後!」
「灯織!先走るな!」
樹里の制止は灯織に届かなかった。
「まずはこの2匹ばい!」
恋鐘は灯織と樹里に照準を合わせると、最初から全砲門で攻撃を行った。
「…!」
しかし灯織は集中力を研ぎ澄まし、その砲撃を見事に回避するとそのまま恋鐘機の横を通過して行った。
「灯織!」
樹里は必死で灯織を追いかける。
「待たんね!お前らの相手は…」
灯織たちを追おうとする恋鐘に、凛世達が攻撃を開始した。
「…こいつら!」
「恋鐘、落ち着こう。数的不利があるより現状の3対3の方が相手しやすい。まずは目の前の敵を倒す事に集中しよう。」
咲耶が恋鐘を窘める。
「…分かったばい。」
恋鐘は舌打ちすると、凛世たちに狙いを定めて砲撃を行うのだった。
「あれ、2体がこっちに向かってるっす。」
あさひが灯織たちの接近に気付く。
「はあ?使えない人達ね〜やだやだ。」
「とりま撃っとく?」
愛依が冬優子に確認する。
「…いえ、どうせならここまで来させましょ。折角だし楽しませて貰わなくちゃね。」
冬優子は舌なめずりして答えた。
〜 〜 〜
「このっ!」
恋鐘は目に入る敵機に砲撃を行うが、樹里達が戻るまでの時間稼ぎに徹する凛世達に距離を取られ、命中させる事が出来なかった。
「逃げてばかりでどがんすると!かかって来んね!」
「こがたん落ち着いて!あの子たちまともに戦うつもりないっぽいよ!」
結華は恋鐘を制止する。
「結華の言う通りだ。こちらの弾数だけ浪費させられるのは後々響く。今は様子を見て攻め時を待つ方が良い。」
咲耶が説得する。
「霧子の仇が目の前におるのに、お見合いせえ言うと!」
「恋鐘!…気持ちは分かるがこんな時こそ冷静になるんだ。焦っては好機を逃す。今は耐えるんだ。」
「…了解ばい。」
恋鐘は唇を噛み締めながら敵機との交戦を止めた。
一方灯織は冬優子達の機体を目視できる距離まで近付いていた。
「見た所私達の機体と形状的な差はない…なら武装に注意すれば!」
灯織は敵機からの狙撃に備えてジグザグに飛行しながら、ワインレッド色の3体に接近していった。
「それじゃコイツは私が可愛がってあげるから、あさひ達は後ろの奴を殺っときなさい。」
「了解っす。」
冬優子の指示を受け、あさひ達は樹里機の迎撃に向かう。
冬優子は灯織機に狙いを定め、腰から鋸刃剣を抜いた。
「さあ、良い悲鳴を聞かせて頂戴。」
「あれは…敵も近接戦型?なら私の領域…!」
灯織は両腕にそれぞれ剣を持つと、冬優子に斬りかかった。
それを軽々と鋸刃剣で受け止めると冬優子は言った。
「格上に真正面からぶつかって来るとか、滑稽を通り越して哀れね。」
「黙れ!」
灯織は再度斬撃をしようと振りかぶる。
次の瞬間に背後に強い衝撃を感じた。
「ぐはっ!?」
コクピットの警報機が鳴る。
警告表示を見ると、背部主推進器が破壊されていた。
「…どうして?どうやって?」
灯織は混乱した。
敵は鋸刃剣以外の武装を抜いていない。
なのに背部の主推進器は破壊されていた。
樹里との交戦を始めた他の新型2機からの支援攻撃とは思えなかった。
「おバカさぁん。」
冬優子はそう言うともう一方の手に手斧を持ち、素早く灯織機の右腕を叩き斬った。
「きゃあああ!」
さらに鋸刃剣の狙いを左腕に定めると、そちらも豆腐でも切るかのように斬り落とすのだった。
主推進器を破壊された灯織は逃げる事すらできず、両腕をもがれ冬優子機に頭部を鷲掴みにされた。
「さあ、楽しい時間の始まりよ。」
武器を突剣に持ち替える冬優子。
「ひっ…」
灯織はこの時、敵が何をしようとしているのか理解した。
「灯織!」
樹里はあさひ達と距離を取りながら応戦していたが、灯織機が掴まった事に気付き加勢に向かおうとした。
「冬優子ちゃんの邪魔はさせないっすよ。」
そう言うとあさひ機から2つの小さな球体のようなものが射出された。
「何だ?」
それらは樹里機に近づくと、そこから強力な射撃を行ってきた。
「何っ!?」
予想外の攻撃に被弾する樹里機。
「まー冬優子ちゃん怒らせたくないしぃ。悪いけどやられちゃってよ。」
更に愛依機からも2つの歪な長方形が射出され、あさひのポッドより破壊力の高い攻撃を行ってきたのだ。
「ぐわああっ!」
多方面からの攻撃になす術なく追い込まれる樹里機。
それはあたかも2対1が6対1になったような状況だった。
〜 〜 〜
「灯織ちゃん!樹里ちゃん!」
千雪は2人に呼びかけるが、余裕がないのか2人からの応答はなかった。
「凛世ちゃん、戦況はどうなってるの?」
千雪は凛世に通信を行う。
「先程お伝えしたように…突撃した灯織さんを連れ戻すため…樹里さんが向かいましたが…以降連絡が取れません。かなり…危機的…状況かと…思われます…」
「こっちも助けに行きたいけど紫チームのプレッシャーが凄くて…!千雪さん、どうしよう?」
智代子が通信に割り込んで報告する。
しばらく思案した千雪は、智代子達に告げた。
「…あと10分だけ持ち堪えて。それでもし状況が変わらなければ…アルストロメリアで戦闘空域に突入します。」
「千雪さん!?」
「皆をこれ以上失う訳にはいかないわ。…甜花ちゃん甘奈ちゃん、少しお願いできる?」
「千雪さん何処へ?」
「…私達の大切な、あと一人のメンバーと…もう一度話してくるわ。」
そう言って千雪はブリッジを離れるのだった。
真乃は自室のベッドの上で膝を抱えながらうずくまっていた。
「真乃ちゃん、入るわね。」
ノックの音がして、千雪が部屋に入って来た。
「…少し話しても良い?」
千雪は真乃の隣に座ると、話しかけた。
「今、皆は必死に戦ってるわ。けど敵の新型が現れて、状況は良くない。…ううん、このままだと全滅だってあり得るわ。」
「………」
真乃は何も答えない。
「…この状況を変えられるのは、真乃ちゃんだけなの。お願い、もう一度皆のために立ち上がって…」
「………私が。」
「?」
「私が…戦っても…何も変わりません。…ううん…きっともっと…酷い結果にしてしまいます…めぐるちゃんの時みたいに…」
「………」
今度は千雪が何も言えなかった。
しばらくの沈黙が真乃の部屋を支配した。
そこから話し出したのは千雪だった。
「…本当は真乃ちゃんが落ち着いてから渡そうと思ってたんだけど。」
そう言って千雪はジャケットの内ポケットから封筒を取り出した。
「開けてみて。」
千雪は努めて優しく真乃を促した。
「…手紙…!?」
中にあった便箋を開くと、そこには真乃が良く知っている筆跡で文章が綴られていた。
「………めぐるちゃんから、生前に預かったものよ。夏葉が亡くなって、あの子なりに考えて…私に遺書を託していたの。」
「………」
真乃は文章に目を通していった。
「ご両親に宛てたものと、もう1通…真乃ちゃん、灯織ちゃんに宛てたものがそれよ。」
そこには夏葉が亡くなって自分も死ぬかも知れないという恐怖、それを隠すため懸命に明るく振る舞っていた事、そして臆病な自分を支えてくれた真乃と灯織への感謝が書かれていた。
「それを読んで、もう一度どうするか考えて。それでも戦えないなら…申し訳ないけど、アルストロメリアは皆を助ける為戦場に突入するわ。沈むかも知れないけど、許して欲しい…」
そう言って千雪は真乃の部屋を出た。
真乃はめぐるの遺書を読み進める。
それは最後にこう書かれていた。
『…もし私が死んでしまっても、真乃たちは自分を責めたりしないでね。それで二人が険悪になったりしたら、私はそれが一番悲しいから。私達は完璧じゃない。一人で何もかも出来ないし、上手くやれない事だってあると思う。まあこれを読んでるって事は私がドジった訳だろうから、図らずもその証明をしちゃってる事になるんだろうけどさ。』
めぐるらしい砕けた文言で遺志が綴られていく。
『…だからこそお互いを思いやれるし、支えられる。それこそ本当の強さだって私は信じてる。もし私がいなくなっても、2人はお互いを信じて、助け合ってね。私達はイルミネーションスターズ、お互い寄り添ってその輝きを増す地上の星なんだから!』
真乃の手が震える。
『あともしこの戦いを生き抜いたら、私は富士山に登ってみたいな。真乃は山登りが趣味って言ってたし。遺書に書くようなことじゃないけど、真乃と灯織と私の3人で、日本一の山を登ってみたい。そこから眺める景色を想像するだけで、何が何でも生き抜くぞって思えるから。…願わくばこの手紙が見られる事のないよう、頑張るよ。皆の笑顔という、色とりどりの輝きを守るために!』
便箋に雫が落ちた。
『Dear my best friends from Meguru』
最後に英文で締めくくられた遺書を真乃は読み切った。
しばらくして真乃は顔を上げた。
その瞳には輝きが戻っていた。
第八話 終
おまけ
『摩美々「と夏葉」の機体解説コーナー』
「それじゃ恒例のこのコーナー、始めるわよ!」
「あのー、本編はめっちゃシリアスな空気なんですけどー、やっちゃって良いんですかねこれー。」
「大丈夫よ!どうせこれを見てる人はそこまで空気を気にしてないわ!」
「何気に読者ディスるのは止めて下さーい。」
「それじゃ今回のゲストは…めぐると霧子ね!」
「どうも〜。いや〜やられちゃいました!」
「よろしく…お願いします。」
「霧子おひさー。ようやく顔見知りが来てくれて助かったー。」
「摩美々ちゃん…元気そうで…良かった…」
「死んでるのに元気っていうのはどうなの?」
「それを言うと現在進行形で元気すぎる人が隣にいるからー。」
「何か問題でも?」
「ありませーん…」
「それじゃ解説いくわよ!今回は…」
「えっと、わたしたちアンティーカの機体を紹介します…」
「それじゃ解説、いっくよー!」
LA-01(摩美々機)
・機体色はチームカラーの紫とパーソナルカラーの明紫
・主武装は曲刀×1、マシンガン×1
・接近戦〜中距離戦に対応できる機体、軽装甲、機動性は高い
・マシンガンで牽制しつつトリッキーな動きから接敵、曲刀で致命傷を与える戦法を得意とする
LA-02(恋鐘機)
・機体色はチームカラーの紫とパーソナルカラーのピンク
・主武装は肩部キャノン砲×2、腰部レールガン×2、バズーカ砲×2
・遠距離からの砲撃を想定された機体、重装甲、機動性は低い
・本来は軽装甲だったが恋鐘が常に前に出るため重装甲に換装
LA-03(咲耶機)
・機体色はチームカラーの紫とパーソナルカラーの濃緑
・主武装は大型ライフル×1
・遠距離からの狙撃支援タイプ、軽装甲、機動性は高い
・確実に標的を捉える「鷹の目」と、結華との連携により敵機弱点を撃ち抜く高精度な射撃により撃破率は高い
LA-04(結華機)
・機体色はチームカラーの紫とパーソナルカラーの空色
・主武装は中型ライフル×1、グレネード×2
・中距離での戦闘と敵機分析を行う、中装甲、機動性は平均的
・本機固有の「スキャニングアイ」機能により、敵機の装甲状態、武装、エネルギー残量等を解析可能
LA-05(霧子機)
・機体色はチームカラーの紫とパーソナルカラーの薄水色
・主武装は中型ライフル×1、バルカン×2
・本機は特務機で主用途は同陣営機の現地修理及びエネルギー補給
・追加装備「アフカル」を起動する事で、周囲の敵機からエネルギーを吸収する
「こうして見るとそちらの機体は固有機能とかあって高性能ね。」
「元々連盟の方が技術力は高いという設定みたいなのでー。」
「めぐるは気になる機体ある?」
「うーん…やっぱり私と同じスナイパー役の咲耶機の活躍が気になるかなー。」
「咲耶さん…本編でもわりと中心的な位置だから…今後も活躍…すると思う。大変だとは…思うけど。」
「何かこっちでのんびり座談会してるとー、早めにリタイアして良かったかもーって思わなくないかもー。」
「え〜私はもっと真乃や灯織と絡みたかったな〜。」
「それじゃ今回はここまでね!次回もお楽しみに!」
「お楽しみに…」