アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里 作:Thousand.Rex
――――夢を見る
今は聞こえることのない、優しかった声が聞こえる
憎たらしい笑顔が浮かんでくる
いつの間にか彼のことを信じきっていた
共に戦えることに誇りを感じていた
だけど、いつも苦しそうな顔をしていた
私には、どうすることもできなかった
「…………はぁ」
寝苦しさを感じ、暗い自室で目を覚ます
酷い夢を見た
懐かしい日々の記憶、いなくなった人との思い出
「……」
別に特別親しかったわけではない
少しの間、一緒にいただけ
「今更、こんなことを思い出したところで……」
誰に聞かせるでもなくぼやく
三年も前の話、本当に今更だ
それも突然消えた男のこと
今の彼女、リスカムにはもう関係のない話だ
「顔でも洗えばすっきりするかな」
のそりと、ベッドから出る
普段の真面目な彼女からは想像できない緩慢な動きで洗面所に向かう
心なしか重く感じる足取りで洗面器の前に立つ
「…………むぅ」
鏡に映る自分の顔が目に入る
ヴイーヴル特有の一対の角、灰色がかった銀色の髪、
むっつりとした、機嫌が悪そうに見えなくもない
まだ少し幼い印象を受ける顔
周りの評価はそんなところだろうか
蛇口から水を出し手で受け止める、顔に思いきりたたきつけてタオルで拭く
そこまでやって少し落ち着いた
「さて、今日も一日頑張ろう」
気合いを入れるために両手で頬を叩く
リスカムの一日が始まる
ふざけた夢を見た
自ら離れていった場所で、昔と同じように笑う自分
共に過ごした時間は少なかった
だけど、唯一背中を任せられた奴だった
真面目で融通の利かない奴だった
それでも、あいつ以上に信頼できるやつはいなかった
夢見てはいけないことだ
忘れるべきことだ
思い出してはいけない
二度と失くさないために離れたのだから
暗い荒野、大きく広がる荒れ果てた大地
そこに停まる一台の車
「……あー…………あっ?」
狭い空間で男は目を覚ます
見慣れた空間、男が乗り回している愛車だ
外観はボロボロだが、軍用車のような強固な出で立ちで、悪路を走れるようにかタイヤも通常の車に比べ厚く大きい
茶色を基調とした地味な色合いのボディには所々弾痕が残っている
座席は前の二つ、後ろは荷台になっている
操縦席は所々ヤニで汚れ、ハンドル横の灰皿は吸い殻であふれている
荷台スペースは四隅に柱をたて上に防水シートをかけ屋根のようにし、簡易的なキャンピングカーのようになっている
中には生活用品から仕事道具とあらゆるものが散らばっている
「おはよう」
「あぁ、おはよう……」
そんなごちゃごちゃな空間に不自然にものが区切られたスペースがある
そこには比較的きれいな寝袋とそこにしか入れないからか、
寝袋の上にちょこんと座る白髪の猫のような耳と尾を持つ少女がいた
「うるさかった」
「……悪かったな」
白い少女が不機嫌そうに言う、寝苦しかったのか男は先ほどまでうめき声をあげていたのだ
少女の言葉に男は雑に答えた
「だいじょうぶ?」
「問題ない」
二人の簡素な会話が始まる
「おなかすいた」
「そこにチョコバーあるだろ」
「くった」
「……三十本ぐらい、在庫なかったか?」
「くった」
「マジかよ」
男にとって衝撃的なことを軽く答える少女
「……他に食えそうなもんないか?」
「くさ」
「なんて?」
「ざっそう」
「…………」
「くえそうなざっそう」
「……そんなもん食うなよ」
「おなかすいた」
「わかったわかった、少し早いが出発するぞ」
淡々と会話が交わされ、男が車を動かすために身を起こす
少女はそんな男の動きを何となしに見つめていると、ふと、窓に男の横顔が移る
年は二十歳前後ぐらいだろうか、彼女は男の年齢を聞いたことがない、漆黒の髪に伸びすぎない程度に適当に整えられたぼさぼさ髪
そこそこ整った顔に、その中で際立つ二つの真っ赤な目
そして次に目に入るのは、
出会ったころから変わらない、苦しそうな顔
どうしてそんな顔をしているのか、彼女は知りたいと思ったことが何度もある
だが聞けなかった、聞く勇気が湧かなかった
聞けば、男が少女を置いて消えてしまう気がして
彼女にとってそれは自分が死んでしまうよりも恐ろしいことだった
「車、動かすから隣来い」
「わかった」
男に言われ座席に移ろうとする
「とおれない」
「……そっちから直接来れねえって言ってるだろ」
「とおれない」
「回ってこい」
が、座席の間に隙間があるとはいえそれは少女が通るには小さすぎる
男に言われて外から回ろうと少女が荷台から飛び降りる
「ちゃんと降りれたか?」
「だいじょうぶ」
少女が後ろから回って隣の席のドアを開ける
トン、と地面を蹴って座席に飛び乗る
「いすがたかい」
「お前が小さいんだよ」
男が言うように少女の背はかなり小さい
二人がならんで立って男の胸に届くかどうか
車高が高いこともあり少女には乗り降りするにも一苦労なのだ
「なにたべる?」
少女が男に問いかける
「なんか」
再び雑な答えが飛んでくる
「なに?」
「美味そうなもん」
「たのしみ」
「そうかい」
簡素な会話をまた交わし、普段よりまともなものが食えると知って少女の機嫌が少しよくなる
「リンクス、地図とってくれ」
「ん」
「サンキュー」
男が彼女、リンクスの名を呼ぶと、また少しリンクスの機嫌がよくなる
彼女は自分の名前を随分気に入っている
「ただ飯食いに行くわけじゃねえんだぞ」
「わかってる」
ならいい、と男が答えエンジンをかける
リンクスが慌ててドアを閉める
二人を乗せた車が動き出す
ちらりとリンクスは男を見る
そこにはいつもと変わらない横顔
車が土煙を巻き起こす
行先は、龍門
この世界の経済を回す都市
一匹の子猫と一羽の鳥
彼らの目的は誰も知らない
アークナイツの世界観をそこまで把握していないので怪しい設定のところがあります
男の車は軍用ジープをイメージしています
これが最初の投稿で小説を書いた経験もございません 誤字脱字も目立つでしょう
つたない文章が続きますが気にいっていただけたなら幸いです
恋愛ものではないですよ