アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里 作:Thousand.Rex
First contact
それは、ある晴れた夜の事だった
「~~~~~♪」
暗い荒野をどこかで聞いたような鼻歌を口ずさみながら車を走らせる
特別夜道を走る理由はない、急いでいる訳ではない
ただなんとなく、走っていた
辺り一面、闇に覆われている、人影はおろか獣の影も視認できない
そんな中で走らせる理由はない、それを理解してもなお、走らせている
「~~~~♪ …………ん?」
車のライトを頼りに走っているとあるものが目に入った
暗闇の中で何かが一瞬、蠢いた
獣にしてはおかしい、警戒するはずだ
唸り声の一つや二つ、聞こえるはず、なのに何もない
だけど気のせいとも思えない、先ほど確かに動いた、なにかが
注意深く目をこらして見てみる、暗闇で何かが動いている
人型の影が一つ、その近くに大きな影が一つ
こちらはライトをつけている、恐らく気がついている
だが盗賊なら、数が少ない、一人の盗賊などそうはいない
なによりこちらを見ても逃げ出さない辺り、敵対してるわけではないのだろう
車を近くに止め、降りてみる
危険だとはわかっている、ただなんとなく、気になったのだ
ゆっくり近づく、人影はこちらに一瞬振り向き、元の方向に向き直る
声をかけようか、考える、そうして気づく
「…………ゴツイね、随分」
人影は何かを持っていた
人一人分はあるのではないかと思わせる長さの何か
それは持ち手とストックが付いている
先端には、そこそこ大きな穴が開いている
見たことのある代物だ、これを使ったことはないけども
人影は座っている、どこか遠くを見つめている
すると音が聞こえてきた、幾つかのエンジン音と、それと同じだけの回転音
影が動く、握っていた獲物を構える
その数秒後、けたたましい音がした
一瞬、火花が散る、そして熱を帯びた何かが飛んでいく
「お見事」
「そりゃどうも」
それから一拍おき、爆発が遠くで響いた
音の方からは炎が上がっている
続けてもう一発、銃声がする
また爆発、もう一台が炎上する
「…………あいつは、逃がすか」
「いいのかい?仕事だろう?」
「ああ、だがまあ、物資は壊した、あれはただの先導車だ」
黒煙を上げる車両の横を残された車が走っていく
声の主が立ち上がる、そして大きな影に近づき、何かのスイッチを入れる
「おっと、眩しいね、随分」
「お前の車も眩しいだろ、で、誰だ?」
人影と、大きな影の正体がわかる
ライトが点灯した奇妙な姿の軍用車と
「君、何者だい?」
「それ、こっちのセリフだと思うが」
黒髪、赤目、黒い上着
「珍しいね、何も付いてないなんて」
「そう言うお前も、随分珍しいが…………」
身体的特徴のない、誰か
その手には大きなライフルが握られていた
「それ、スナイパーかい?」
「そうだ」
「随分ゲテモノだね、対装甲車用じゃないか」
「役には立つ、いまさっき見ただろ」
「そうだね、素晴らしい腕前だった」
そのライフルに、スコープはついていない
ホロやドットも、付いていない
あるのは申し訳程度に付属している簡素な照準器だけ
「サイト、付けないのかい?」
「邪魔だ、覗く暇があるならこっちで狙った方が速い」
銃のセーフティをかける、どうやら仕事は終わりらしい
「で、お前さんは誰だ? 協力者なんかいた記憶はないが」
「そうだね、一言でいうなら通りすがりかな」
「ほう、こんな夜道を女が一人で走るか。ライトもつけて走って、狙われても文句は言えんぞ」
「おや、殺し屋にしては優しいね、もしや傭兵かい?」
「そうだ、日々日銭を稼ぐことしか能のない流れ者だよ」
「ただの流れにしては腕が立つ気がするけど」
「ただの傭兵、そういう風にはもう、生き残れないのさ」
「なるほど、世の中は誰に対しても世知辛いらしい」
男はライフルを肩に担ぎ、こちらをじっと見る
「…………ふむ」
「なんだい? 怪しいものではないけれど」
「怪しいだろ、どう考えても」
そうしてしばらく、こちらを見続ける
「…………上玉だな、ちと胸が貧相だが」
「おや」
そのままこちらに近づき、空いてる手でこちらの手を取る
「お嬢さん、今夜は随分冷えると思わないか」
「そうだね、肌寒いと感じるぐらいには冷える」
大仰に、まるで騎士のように跪く
「そうだろう、それで、温まる方法を知ってるんだ」
「へえ、どんな方法だい?」
わざとらしい、何を企んでいるのか
「なに、ちょっと着替えるだけだよ、温まれるようにな」
「なんだか怪しいね、何を言いたいんだい?」
段々狙いが見えてきた、そういうことか
「とても素敵な服装を知っている、君が君らしく輝けるための素敵なものだ」
「そうかい、私も心当たりがあるね、そういうの」
残念な人なのかもしれない、この傭兵は
「なら、いかがかな?」
「でも残念、バーズデースーツは着こむつもりはないよ」
「…………読まれたか、ツレないな、お嬢さん」
手を離し立ち上がる、使っていたライフルを車に載せる
「で、実のところ、何者だ?」
「通りすがりだけど」
「その割には落ち着いてる、普通怯えて逃げていくもんだぞ、あんなもの見せられたら」
顎で遠くを示す、そこには燃え盛る車両が見える
確かに普通は逃げ出すだろう、自分も殺されるではないかと思うはず
ただ、この男がその手の類ならもう攻撃はしてきてるはず、されていないということは問題はないだろう
「うん、そうだね」
「お前も殺しに慣れてる類か? 随分若いが……」
「そういうわけじゃないよ、必要があればやるけど」
「ほう、肝が据わってるな」
言いながら煙草を口に咥え、ライターを取り出し火を点ける
「まあこんなご時世だ、とやかく聞くつもりはない」
「そうだね、色んな人がいるからね」
「それじゃ、俺はこれでおさらばするよ」
運転席に乗り込む、人と話すのが嫌いなのか、もう行ってしまうらしい
見送ろうかと思って、思い出す
車のドアをノックする、窓を開けて顔を出してくる
「なんだ?」
「聞くのを忘れたことがあってね、いいかな」
「いいぞ、なんだ」
「君、名前はなんていうんだい?」
聞き忘れていた、聞くタイミングがなかった、という方が正しいか
「ああ、レイ…………じゃない、ストレイドだ」
「…………レイ?」
「気にするな、大したことじゃない」
窓を閉めようとする、それを止める
「まあまあ、私がまだ名乗ってないよ」
「ん? 故も知らん奴の名前を聞けと?」
「冷めてるね、まあ私も人のことは言えないか」
「…………そうか」
「ああ、気にしないで、私はモスティマ、縁があればまた会おう、迷子君」
「縁があるならな、堕天使ちゃん」
車を発進させる、男はどこかへ去っていく
「…………縁か、あるかな、彼とは」
正直、名前を名乗る理由も、聞く理由もなかった
どうして聞いたのか、人肌でも恋しいのか
「そうとは思えないな」
あり得ない可能性を捨て、車に戻る
運転席に乗り込み発進する
行先は彼とは逆
「…………変わった人だったな」
暗い荒野を、一人走る
今までの文だと読みにくいかと思って少し変えました
これの方がいいなら各話の修正の際にこの直し方をさせていただきたいと思います
というか私の文、読みずらいって知り合いに言われました
参考までにこうした方がいいよ、とか言っていただけると幸いです