アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里   作:Thousand.Rex

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「おい!  車から降りやがれ!」

 

「これはこれは、新手の追いはぎかな」

 

あの不思議な傭兵と出会ってしばらく

いつものようにトランスポーターとして各地に赴いていた

 

「いいからさっさと降りろ!」

 

「なにやら焦ってるみたいだね、どうしたんだい?」

 

荒れ果てた大地、どこまでも広がる命を感じぬ荒野

そのどこでもない、名前のなさそうな一点

 

「テメエには関係ねえ!  早く車を渡せ!」

 

「関係なくはないね、現に脅されてるじゃないか」

 

どこからともなく現れた誰か達に道をふさがれていた

 

「この女っ……!」

 

「一体どうしたんだい? 随分、怯えているけど」

 

三人組、各々武器を持っている、恐らくは盗賊か、だが様子がおかしい

このだだっ広い荒野の中で徒歩でいる、足を持っていないのだ

 

「まあまあ、落ち着きなって」

 

「落ち着いていられるか! 早くそこから降りろ!」

 

「聞く耳持たない、ていうのはこういうことかな」

 

脅しに来るときも走ってきた、車もバイクも、三人を乗せて動くための足がない

こんな所、歩いてくるはずがない

なによりこの盗賊もどき達、怯えている

まるでこの場にいない何かに注意を払うように辺りを見回している

 

「女! ニヤニヤしてないで車を渡せ!」

 

「嫌だよ、こんな所歩き回る趣味はない」

 

「くっ……! こっちは喋ってる暇は――――」

 

賊の一人が逆上して叫ぶ、その時

一瞬、視界の隅に何かが映った、黒く、微かにチラつく光

 

発砲音

 

「ひっ…………!」

 

脅しに来ていた男の後ろで何かが倒れる音がする

男は引きつらせた顔を音の鳴った方に向ける

倒れた音でなく、乾いた音がした方へ

 

「あ、ああ……」

 

「……見たことある顔だね」

 

そこには男が立っていた、いつか見た黒い男

拳銃を手に、怯える漢を見据えている

その銃からは硝煙が漂っている、撃ったのはこの男だろう

 

「手間をかけさせるな。面倒が嫌いなんだよ、俺は」

 

「い、嫌だ、死にたくない……」

 

一人残された盗賊が命乞いをする、黒い男はそれを見て考えるそぶりを見せる

 

「死にたくない。なるほど、よくわかる」

 

手の中で拳銃を弄びながら地に伏して縋る男に話しかける

 

「人としては真っ当だ、当たり前の感情だ。そりゃ誰だって死にたかないさ」

 

「なら、どうか見逃してくれ! こんなとこで死にたくない!!」

 

「そうさな、どうしてやろうか」

 

くるくると回していた拳銃が止まる、ゆっくり上着の内側に持っていく

それを見た盗賊が安堵の息を吐く、同時にニヤリと笑う

 

止めた方がいいだろうか、恐らく隙を突くつもりだろう

そんな風に手助けしようか考えていると盗賊が動いた

 

「……くたばれっ!!」

 

持っていた獲物を黒い男に向けようとする、その時

 

「がっ!」

 

乾いた音がする

 

盗賊が後ろに弾かれる

 

「速いね、得意なのかい?」

 

「ああ、ずっと昔からこうなんだ。さっと頭に持っていって撃つ、こうも手軽な方法はない」

 

黒い男は拳銃を構えていた、先ほどのように硝煙が漂っている

 

「仕事かい?」

 

「その通り、こいつで終わりだ」

 

拳銃を内側にしまう、これ以上人を撃つ気はないのだろう

 

車から降りて、なんとなく彼に近づいてみる

 

「やあ、久しぶり、迷子君」

 

「覚えてたのか、久しいな、堕天使ちゃん」

 

この男に見覚えがある、いつか暗がりの中であった傭兵

随分変わった感性の流れ者、よく覚えてる

 

「いやはやすまんな、取りこぼしが迷惑をかけちまったみたいだ」

 

「そうでもないよ、大して時間はとられてない」

 

ストレイド、そんな名前だったか、変わった名だ

迷子などと自分から名乗るのは恥ずかしくないのだろうか

 

「私はいいのかい?」

 

「いい、別段目撃者を殺せとは言われてない」

 

「そうかい、ならいいさ」

 

「ああ、それでいい」

 

上着のポケットから煙草とライターを取り出し火を点ける

煙を吐きつつこちらをじっと見てくる

 

「なんだい?」

 

「別に、ちょっとな」

 

そういう割には何か考えている、しかめっ面でこっちを眺めてくる

 

「何か聞きたいことでも?」

 

「まあ、あるにはある。俺が聞くべきことじゃないがな」

 

質問でもしたいのか、それとも前のように口説きにかかるのか

なんにせよまたおかしなこと言ってくるのだろうかと身構えていると

 

「……なあ、お前、よく笑うな」

 

「私かい?」

 

「他に誰かいるか?」

 

「いたね、さっきまで」

 

言いながら視線を横に向ける、そこには三人の人の死体がある

 

「このまえもそうだったが、よく怯えずにいられるものだ」

 

「そうかな」

 

「そうだよ、これは異常な事だぞ? 前といい今回といい人死にが起きている、笑うような事じゃない」

 

この肉塊を作ったのは彼だ、この変わった男が生み出した名残り

 

「そうだね、人が死んでる。でもそれだけさ」

 

「……黒いわけだ、その輪っか」

 

「おや、このリングの意味、知ってるのかい?」

 

「ちょっとだけだ、詳しくは知らん、知る理由もない」

 

しかめっ面が更に酷くなっている、何か彼の気分を害すようなことを言ったらしい

そのまま男が踵を返す、どこかに向かって歩き始める

 

「どこいくんだい?」

 

「車、少し離れた所にあるんだ」

 

どうやら近くにあの奇妙な車があるらしい

まあこんな荒地、徒歩で歩くのはあまりよろしくない

移動に足を必要とするのは当たり前だ

 

人だったモノに目を向ける、三人、走ってきた盗賊

 

「ねえ迷子君」

 

「なんだ」

 

「どの辺りにあるんだい? 君の車」

 

「あっち」

 

適当な方向を指さす、その方向には荒野が広がっているだけ

車など、視界には映らない

 

「迷子君、提案があるんだ」

 

「言ってみろ」

 

傭兵が軽くこちらを振り返る、随分、怪しんでいる

隠れて見えないが片手は上着の銃に伸びてるだろう

 

「さっき、私は君に助けられたわけだ」

 

「まあ、そうだな。意図したわけじゃないが、俺のミスだし」

 

「ならお礼をするのが筋、そうだろう?」

 

「……わかったぜ、この前の誘いに「違うよ」……何故だ、完璧だったはず」

 

こちらに体の正面を向けてくる、手は下げられている、警戒は解いたらしい

それなら平気だろう、襲ってくるような人ではない

 

「それで、なんだ」

 

「送ってあげるよ、車まで」

 

「……なに?」

 

…………………………

 

 

 

「…………」

 

「で、こっちでいいのかい?」

 

「ああ、こっちでいい」

 

彼を車に載せて荒野を走る

 

隣に人がいるなど、初めてではないだろうか

 

「見当たらないね、君の車」

 

「少し遠いんだ、なら仕方ない」

 

この男を乗せた理由、大したことではない

気になったのだ、なんとなく

その奇妙な容姿が、どこか漂う死の香りが

自分以上に狂った、その感性が

 

「長くなりそうだね」

 

「そうでもない、話してればすぐに着く」

 

「意外だね、君から話そうとするなんて」

 

「そうか?」

 

「そうだね、人と話すのが嫌いだと思ってた」

 

変わった男だ、人殺しにしては人の心を見ようとする

冷たい人間には見えない、なのに平然と殺した

 

矛盾してる、一体どういう心情で生きているんだろうか

 

「そもそもそれが狙いだろ、話したいことでもあるんじゃないか」

 

「正解、聞きたいことがあってね」

 

「いいだろう、彼女無し独身、経験人数は天文学的数字に至る素敵なダンディだ。一夜限りの関係なら喜んで」

 

「そうじゃないよ、ごめんね」

 

「……どうにも上手くいかん、なんでだ」

 

隣で腕を組んで唸り始める、こうして見るとただのナンパな男だ

直前の行為を気取らせる雰囲気がない、余程慣れている、そう考えるのが自然だろう

なら、あの噂はアタリだろう

 

「さて迷子君」

 

「ん、なんだ」

 

「君、傭兵だったね」

 

「そうだな、通りすがりの傭兵だ」

 

「あちこち、回ってるんだろ?」

 

「ああ、色々な所に行ってる」

 

「なら聞いた事ないかい?」

 

「なにを」

 

随分前、彼にあった辺りだろうか

旅先でこんな話が出回るようになっていた

 

「とある不思議な傭兵団がいるって」

 

「へえ、どんな?」

 

「なんでも、紛争とか、争いのあるところに現れる組織らしいんだ」

 

「当たり前じゃないか、傭兵なんだから」

 

「不思議なのはここからさ」

 

傭兵、その割にはおかしな話が良く出てきた

そう名乗るには、少々、行儀がいい

 

「なんでも、どの勢力の味方でもない、独自の勢力らしい」

 

「ほう」

 

「いつの間にか現れ、いつの間にか消えている、戦争を終局に導く組織。そんな感じの噂なんだ」

 

「変わってるな、変人の集まりなんだろう」

 

「そうだね、変わってる」

 

「きっと正義の味方を気取りたいんだろう」

 

「だろうね、そうでなければ依頼もなしに動かない」

 

「……ふん」

 

聞いた話でこう言っていた

戦争を憎む、変わった組織だと

その割には武力行為に勤しむ、矛盾した組織だと

 

「それでね、そこの構成員にこんな人がいるらしい」

 

「……言ってみろ」

 

「じゃあ遠慮なく、黒髪赤目、耳も何もない、変わった人種の男」

 

丁度隣に該当する人物がいる、組織の特徴にも、一致する

 

「何が言いたい」

 

「特別言うことはない、これ以上話すこともないね」

 

「そうか」

 

話したいことはこれで終わり、後は言う必要はないだろう

これ以上、踏み込む必要は存在しない

 

「…………」

 

「……じっと見るな、なんだよ」

 

「いや、変わった人だと、そう思ってね」

 

「お前もだ」

 

なのに、気になるのは何故だろう

前会った時もこうだった、名乗る必要なんてないのに名乗っていた

聞く必要もないのに、名前を聞いていた

 

「……なあ、俺も聞きたいことがある」

 

「なんだい」

 

窓の外を見ながら話しかけてくる、外は荒地だ

見るべきものなど、あるのだろうか

 

「お前、友人はいるのか」

 

「さあ、知人はいる、随分長いこと会ってないけど」

 

「そうかい」

 

それきり喋らない、流れる景色を見続ける

こちらも運転に集中する

 

ほどなくして、二台、車が見えてくる

 

「……事故でもあったのかい?」

 

「ああ、事故を起こした」

 

そこには奇妙な出で立ちの軍用車と

 

「すごいね、横転してるよ」

 

「手間だった、なんとなく捨てておかなかったバイクが役に立つとはな」

 

「何したんだい?」

 

「無人自爆特攻、俺のお気に入りが一台消し飛んだ」

 

横転し、運転席が黒く焦げている大型トラック

 

「なんの輸送だい? これ」

 

「知らない方がいい、俺は仕上げに入る。さっさと逃げた方が身のためだぞ」

 

そう言いながら車を降りる、軍用車に近づいていく

こちらも降りて後を追ってみる

 

「……付いてくるなよ」

 

「仕上げとやらが何か、見てみたくてね」

 

「いいものじゃない、やめておけ」

 

軍用車の荷台を探り始める、その様子を後ろで見る

 

かなりごつい見た目の車、防弾使用なのか、弾痕が付いている

後ろの荷台は変わったことになっている

四隅に柱を立てて上にビニールシートを引っ掛ける

屋根代わりだろう、荷物が濡れないようにだろうか

 

男が紙袋を取り出す、中には色々詰まってるようだ

 

「なんだいそれ」

 

「悪い物」

 

そう言って今度はトラックに近づく

後ろの貨物庫の扉を開く、中を覗いてみる

 

「見るな、毒だぞ」

 

「みたいだね、これは酷い」

 

中には、毒があった、文字通りの毒が

 

「これ、そういうことかい?」

 

「そうだ、源石の違法輸送。自然生成された物でなく、ある意味人口生成されたモノの輸送」

 

貨物庫の中は死体に満ちていた

子供の死体、何十人もの亡骸

その体からは、石が飛び出している

 

「鉱石病で死んだ子たちか」

 

「それを新たな源石として再利用する。エコではあるがちゃんと取り締まられたものではない」

 

「それの阻止、ついでに廃棄、そんな感じかな」

 

「正解、じゃあさっさと離れろ」

 

貨物庫の中に踏み入っていく、防護スーツも何もつけずに

紙袋の中身を取り出して中に撒いている

さすがに中には付いていけない、外から彼を見守っていると

 

「――――して」

 

なにか、聞こえた

 

「…………」

 

「生きてたのかい?」

 

小さく、か細い声

今にも消えてしまいそうな、存在の薄い声

生きていたのか、まだ意識のある子がいたらしい

喜ぶべきことか、いや、死んでいた方がマシだろう

どのみちもう助からない

 

「おねが――――」

 

小さく聞こえる、誰かの声

 

「――ころ――――」

 

聞き取れた部分を繋ぎ合わせれば、こう言っている

 

「おねがい……ころして」

 

酷だと、人は言うだろう、彼はどうするのか

 

「……いいだろう、救ってやる」

 

そう言って、しゃがみ込む

見ずらいが誰かを抱えているようだ

上着の内側から何かを取り出す

 

一度、乾いた音が響いた

 

……………………

 

 

荒野を走る、外には感想の浮かばない景色が流れている

隣に彼はいない、あそこで別れた

いや、別れてほしそうな顔をしていたから、別れたのだ

 

「……変わってる、本当に」

 

人殺しなのに、冷酷さを感じさせない

感情を、暖かなものを持っている

自分には必要ない、奇妙なもの

 

「彼、何者なのかな」

 

個人を知りたいと思ったのは、いつぶりか

それだけ彼は矛盾してた、人にしてはおかしかった

 

「また、会えるかな」

 

遠くで音がする、小さく、それでも確かに腹に響く音

 

酷く遠い、荒野のどこか

 

黒い煙が立ち上っていた

 




本当は一章が終わる前に出そうと思ってたんですよ
だけどまあ、先に本編終わらせないと終わらなそうだったんで本編からやった次第でございます
順序良くやっておけばいいのに、どうして逸るのか

まあ終わらせとかないといつまでも本編終わらないっていう事態になるのを危惧してやったんですがね、裏目に出てますが

ちなみにサンクタのリングですが諸説あるのであまり気にしないでくださいね
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