アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里 作:Thousand.Rex
「どうしたどうした! 威勢がいいのは口だけか?」
「いい気になるな!」
ジェシカが戦線からはぐれて少しあと
三人は倉庫の方に来ていた
「ぜぇ、ぜぇ、まって、ください、二人とも」
バニラが後ろでバテかけている、どうにか付いて来ている状況だ
「いい加減に諦めろ!」
「そいつは無理だな、一度も触られてない」
対する二人は疲労している様子が一切見られない
それどころか、叫ぶ体力も、相手を挑発する余裕も残っている
「体力バカが、すぎますよ、はぁ」
というかあの二人、最初からずっとあの調子だ
バニラは一応、ハルバードを持ちながら走っている、体力の消費はあちらより多い
だがそれでもあの二人はおかしい、永久動力でも体に仕込んでいるのではなかろうか
「この、さっきからひらひらと……!」
「ハッハッハ! 鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
「本当にふざけた奴だな!」
何より恐ろしいのは、チェンのあの男への執着心だろう
ずっとつかず離れずの距離を維持している
「おっと、今のは惜しいな」
「くそっ! 馬鹿にしてくれる…………!」
それをギリギリの距離でかわし続ける男も男だ
「というか、なんでそんなに怒っているんですか……」
あのひと、あんなに怒りっぽかっただろうか、もう少し冷静な考えをしていたはず
よほど頭にくるようなことを言われたのだろうか
「っと、失礼するぜっ!」
男がすぐ近くの倉庫の一室の扉を蹴り開ける、チェンがすぐに追いすがる
「待ってください!」
バニラも続いて入る
中はそこそこ広い、各所に物資の詰まったコンテナが置いてある
「自分から追い込まれる趣味でもあるのか?」
チェンが言う
倉庫の出入り口は今入ってきたところだけだ
なぜ自分から逃げ道を失くすようなことをするのか
「いやなに、そろそろお開きにしようかなって思ってな」
「ほう、つまりおとなしく捕まる、ということか」
「まさか」
そういい、かかってこいと手招きしてくる
何か企んでいるのか、警戒しながら近づいていく
「フッ!」
チェンが一気に距離を詰める
「おっと」
男が倉庫の奥に下がる
チェンがさらに肉薄する
「いい脚力だ」
「うるさいぞ」
前に飛ぶように前進する、同時に拳を突き出す
もはやタッチするつもりはないらしい
「おお、こわいこわい」
そういいながら横にかわし、そのままチェンと立ち位置を入れ替えようとする
「はぁっ!」
そこにバニラが割って入る
男の動きを遮るように、ハルバードを縦に軽く振り下ろす
「むっ」
「たぁっ!」
男が避けるために後ろに下がる
バニラが続けて突きを放つ
「チッ!」
避けるために後ろに飛ぶ
そのまま突きの慣性に乗って背を見せる様に回り、水平に薙ぎ払う
「フンッ」
「なっ!?」
男がハルバードを蹴り上げ、軌道を大きく逸らす
相手の予想外の動きにひるみバニラの動きが止まる
「ハッ!」
そこでチェンの蹴りが男の顔に飛んでくる
それをスウェーでかわし、バック転につなげて更に後ろに下がる
「っと」
男が壁を背にする
「もう逃げ場はないな」
男の正面にチェンが立ち、すかさず横にバニラが立ちはだかる
後ろに道はない、疑似的な袋小路が出来上がる
「観念するといい」
「確かにこれは、少しまずいな」
男が言う、ふと、バニラの方に視線を向ける
「ん? 金ヴルのお嬢ちゃん、その制服、BSWか?」
「へっ? 金ヴル?」
「金髪ヴイーヴル、略して金ヴル」
「あ、あ~……」
「納得している場合か」
チェンが呆れたように言う
「さて、一緒に来てもらおうか」
「嫌だね」
「ここからどうするつもりだ?」
「どうするかね」
「また何か、お得意の挑発でもするつもりか?」
「さすがに、ここから口八丁で乗り切るのは難しいな」
「ならおとなしく――――」
「だから」
男の目つきが変わる
「手八丁でいかせてもらう」
「なに?」
瞬間、男の手にはいつの間にか銃が握られていた
それはバニラの方に向いている
「へっ?」
「しまっ!?」
男が引き金を引く
乾いた音が響いた
「ッ!! こいつっ!」
バニラが撃たれた衝撃で後ろに倒れる
顔からは赤い液体が飛び散っている
「―――ッ!!」
チェンが高速で踏み込む
抜刀、横なぎに払う
だがまた手ごたえが無い、男はいない
奴の背には壁があった後ろには下がれない
剣の軌道からして横にはいけない
何より視界にとらえた、奴は上に跳んだ
頭上を跳び越え後ろに回るつもりだろう
(なら、着地を狩る!!)
逆手から順手に持ちかえ、振り向きざまに切り払う、が
「なにっ!」
「じゃあな、嬢ちゃん」
男はすでにはるか遠く、扉の方にいた
「クッ!」
男が外に出る、追おうとして、逆に振り返る、今はバニラが優先だ
失態だ、頭に血が上りすぎた
奴があまりにふざけすぎていたせいで武器を持っている可能性を懸念していなかった
自分のミスだ、奴の銃口は彼女の眉間を指していた、おそらくは即死だろう
横たわるバニラに駆け寄る
「クソッ! あいつっ!」
奴の動きを見ていなかったわけじゃない、いやしっかり見ていた
そのうえで反応に遅れた、それほどに
一縷の望みをもって抱き起す
「ぴゃあああああああああっ!!」
「うおぉぉ!?」
瞬間、急にバニラが起き上がった、驚いて変な声が出てしまう
「ぴゃあぁぁぁっ!!」
だがそのことにバニラは気づいていない、それどころか奇声を上げている
「なんだ? どうした?」
生きていたことよりもその声に注意が向く
「あばばばばばぶぶぶぶぶ……」
その顔は真っ赤に濡れている
「あばばばばぁ…………だじげでぇじぇんざぁん」
「ああ、どうした、何を食らった」
「がらいんでずうぅぅ…………ずごぐがらいんでずうううううぅぅ!!」
「辛い?」
そしてようやく、鼻につく異臭に気づく
「これは、唐辛子か?」
いつの間にか暗くなった艦内、男が倉庫の部屋を出る、すると
「はぁっ!」
「とりゃぁ!」
両側から二人の少女が飛びかかる、メランサとカーディだ
「おっと、今日は随分モテるな」
前に飛ぶようにして避ける
続けて銃声
「ッ! あぶねっ!」
足元を弾が飛んでくる
「動かないでください!!」
少し離れた位置にジェシカがいる
「またBSWかよ、これで二人目だ」
「そろそろお縄についてもらうよ!」
「抵抗はお勧めしません……!」
メランサとカーディが男の後ろを取る
「やれやれ、モテる男は疲れるねえ」
男がそう言うと
「そこの男、手をあげなさい」
そんな声が聞こえた
「ん?」
暗闇の中からBSWの制服を着た女性が浮かんでくる
「おーおー、これで三人目だぜ、嫌になって――――ッ!!」
男が何か言おうとし、目を驚きで開かせる
「聞こえませんでしたか、おとなしく手を――――」
女性が途中で言葉を切る
「…………レイヴン?」
「……………………」
男は何も言わず、手を上げている
「……………………」
女性も男の名前らしき単語を言って、無言になる
「…………えっと」
「お知合いですか?」
「えっ、そーなの?」
三人が聞いてくる、だが二人とも何も言わない
「あいつっ! どこに行っ…………た…………?」
倉庫からチェンが出てくる、が、異変を感じたのか、押し黙る
「四人とも」
「「「「?」」」」
そこそこ離れた位置から誰かが声をかけてくる、そこにはフランカがいた
彼女は女性と男以外の面子に手招きをしている、必死に
どうやらあちらに来てほしいらしい
状況が理解できぬまま行ってみる、すると
「チェンさん」
「――ッ!! あ、ああ、なんだ?」
すれ違う瞬間に女性に呼び止められる
「確認したいことがあります」
「ああ」
「体に触れればおとなしくする、このクソ野郎はそう言ったんですね?」
「……ああ、言った、な、うん」
普段の彼女の言動からは予想できない言葉が出てきて困惑する
「わかりました、ありがとうございます」
そういい、一歩、踏み出した
ズンッ!
「「「ひっ!」」」
音が重い、歩幅はいつも通りなのに
バチィッ!
「「「ひっ!」」」
女性の角に雷光がともる
女性は一歩ずつ、男に近づく
「……あ~、初めましてお嬢さん」
男が口を開く、女性が応える
「ええ、お久し振りです、レイヴン」
「…………はい」
男が静かに返事をする
「いつぶりでしょうか」
一歩、踏み出す
「…………十日ぐらいじゃね」
二歩、踏み出す
「そうですね、三年ぶりです」
三歩、踏み出す
「…………そんなに経ってたっけ」
四歩、踏み出す
「ええ、経ってます」
五歩、踏み出す
「…………弁解の余地は?」
バチィッ!
「ありません」
「「「ひいいいいいっ!!」」」
「よし殺せ」
「いいでしょう」
女性の拳に雷が灯る
「くたばれえぇぇぇっ!!」
「うぼあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
その日、リスカムのスキルに新しくリスカムブローが追加された
全体の進捗としてはここで折り返し、というところでしょう
まあ、急ぐ理由は大してないのでゆっくりやります
リスカムブロー
ケルシーパンチ並みに強そうじゃありませんか?