アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里 作:Thousand.Rex
「元……」
「相棒、ですか」
「そう、正確には教官、兼、相棒」
二人が出ていった後、彼のことについて軽く話すことにした
ジェシカはバニラの隣に座り、自分はストレイドがいたところに座る
リンクスを膝にのせて話を始める
「教官、ですか?」
「あの人が?」
二人から意外だと言わんばかりの反応が返ってくる
気持ちはわかる
「きょうかん?」
「そうよ、人に色々なことを教えるのが仕事なの」
「じゃあ、すとれいどはわたしのきょうかん?」
「それとは、ちょっと違うわね」
「でも、いろいろおしえてくれる」
どうやら保護者としての責務は果たしているらしい、勉強とかやらせているのだろう、彼が教える色々は碌でもないことが多そうだが
「教官……ということはあの人は元々BSWにいたってことですか?」
「ええ、そうよ、しかもかなり有名だった。色んな意味で」
「いろんな意味で、ですか」
「まあ、詳しい話は私も知らないし、知ってることも少ないわ。私よりもリスカムの方が知っているでしょうね」
おそらく、誰よりも知っているのではないだろうか、彼の傍にいた人は彼女ぐらいしか知らない
「彼はそこそこ長い間BSWにいたらしいのよ」
「らしいというと?」
「私とリスカム、同じくらいの時期に入ったから」
「ああ、なるほど」
「それで、リスカムが訓練生の時にね、彼が彼女についたの」
今でも覚えている、真面目な人間が多いBSWでは彼の存在は異色だった
「それって平気だったんですか? さっきも結構言い争ってましたけど」
「大丈夫だったと思う?」
「あっ…………いえ、そうですか」
「彼のイタズラ癖は酷かったわ。綺麗な女性がいれば流れる様にお尻を触り、むさい男どもには特製ペイント弾をお見舞いする」
「ええ…………」
「そして上司に何か言われれば、お返しといわんばかりにそいつの恥ずかしい写真を本社のいたる所に張って回ってた」
「えええ………………」
それでさらに上司を怒らせて呼びだされたりしていた、彼は笑いながら怒鳴られていた、怖いものなどないのだろうか
「どうしてそんな人がBSWにいたんですか?」
「さあ、詳しいことはしらないけど、上層部の偉い人が無理やり入れたって話よ」
「無理やり?」
「そう、無理やり」
なぜそんなことをしたかはその人しかわからない、そうするだけの理由があったのだろうか
「しかも彼、BSW七不思議の一人なのよ」
「七不思議?」
「そう、彼はいつも神出鬼没だった、普段は見当たらないのにいつの間にか現れて、気が付けば何かされた後、防ぎようのない災害だったわ」
「人災では」
確かにその通りだ
「でも、そんなことをしてたらクビになりませんか?」
「ええ、そうね、実際クビの話も出たらしいわ」
「ええ…………」
「だけどその度、さっきの上層部の人が止めてたらしいのよ」
「なんでですか?」
「さあね、でも確かだったのは、彼は恐ろしいほど強かったってことかしら」
それなりの人望もあっただろう、だがそれだけでクビを免れる訳がない
その証拠に、BSWの面々を納得させるだけの強さを有していた
「恐ろしい、ですか?」
「そう、凄く、でも、かなり、でもない、恐ろしかったのよ」
彼については何度か調べたことがある、そしてその度におかしな話ばかりが掘り出された
「彼の戦闘記録を見たことがあるの」
上層部に頼み込んで見せてもらった、最初見たときは驚いた
「私たちは警備会社、基本的には護衛対象を守るのが仕事よ、それが最優先」
その記録は異常なことばかりが書かれていた
「少なくとも、誰かを殺すようなことは強制されないし無力化する方が多いわね」
「そうですね、せいぜい動けなくさせるぐらいです」
護衛や鎮圧が目的なら殺す理由はない
「だけどあの人が相手取った人は、ほとんど殺されてるわ」
「えっ」
「それって、つまり」
「彼は殺すことに容赦がない、一応殺すなって言われてる場合は生かしてるって話だけど」
「あの、それは…………」
「あの人、かなり危ない人なんじゃ」
言いたいことはよくわかる
「彼の中でも一応ボーダーラインはあるみたいなんだけどね。それでも、あれは一人がやる量じゃなかった、数百人は殺してる」
「ひゃく…………」
「ボーダーラインですか?」
「なんでも、武器を持ち殺意をもって来る奴は殺すって」
「殺意、ですか。敵意じゃなくて?」
「敵意の場合はセーフって言ってたわね」
本人に聞いたことがある、覚悟のないやつは殺さない、と
「でも、殺すといっても一人では限界があるんじゃ」
「そうね、普通なら単身で暴れるのには限界がある」
バニラの方に視線を送る
「バニラ、あなたならわかるんじゃないかしら」
「へ? わたしですか?」
名指しされきょとんとした顔をする、何故指名されたかわからないのだろう
「あなた昨日、彼に撃たれたわね?」
「はい、撃たれました」
「その時、何ができた?」
「えっと……」
「別に叱ろうってわけじゃないわ、あなたは昨日、彼の強さの片鱗を味わってるのよ。ゆっくり思い出してみて」
「…………はい、そうですね、あの時はチェンさんと一緒に捕まえようとして――」
顎に手をあて頭をひねる、バニラが昨日のことを思い出そうとする
「捕まえようとして?」
「捕まえようと、して…………」
軽い口調から、少しづつ色が消えていく
「…………そうです、ちゃんと見てたんです。チェンさんと二人で囲んで、あの人が何か言って、いきなり、気配が変わって」
バニラの顔が青くなっていく
「視界に捕らえてたはずなのに、見えなかったんです。いつの間にか銃を握っていて、それを、私の顔にむけて――」
今更怖くなってきたんだろう、無理もない、やられた側は何が起きたのかわからないのだ
何か動こうとしても、すでに手遅れになっている
「それで、撃たれて、気が付いたら、天井が見えてて、チェンさんに抱き留められてて……」
体が震えている、もうやめさせた方がいい
「ごめんなさい、それ以上は思い出さなくていいわ」
「バニラちゃん、大丈夫、落ち着いて、ね」
ジェシカと二人でなだめる、あの時、もしかしたら死んでいたのかもしれない、そう考えてしまったのだろう
これは常人には出来ない彼の技だ、彼にとっての常套手段、理論上だけの最高速の屠り方
ただ一度、引き金を引くだけで殺していく、非凡な業
狙われたなら、生きることは叶わない
「ごめんさい、話を変えるわね。そうね、リスカムと組み始めたころの話をしましょう」
話題の方向を変える、これは続ける必要はない
代わりに彼女との馴れ初めでも話そう、この話なら問題ない
「あの人、さっきも言った通りレアキャラだったのよ、探しても見つからないってことで。だけどある日、リスカムが入って、彼女の教官についた」
「なぜですか?」
「さあ、誰が付けたのか、話題になってたわ。同時に、リスカムを探せば彼がいるってことでもみんなの話題になってた」
「まるで天然記念物ですね」
「そうね、まさにそういう感じだったわ」
実際、彼と彼女の周りには人だかりができていた
「それでね、あの人、自分で作ったペイント弾があるのよ」
バニラが体を震わせる、やはりさっきの話はすべきではなかったのかもしれない
いまはかまわず続ける
「彼、それでよくリスカムにイタズラしてたのよ、彼女が油断してる時に、バン、って」
あの時のことを思い出す、あれは笑うのは我慢できなかった
「すごく面白かったのよ? 彼が撃つたび、リスカムが真っ赤になった顔でひいひい言いながら全力疾走してたんだから」
「……あのリスカム先輩が、ですか?」
「ええ、しかもあの人、わざわざ水場の遠い所で撃つのよ。そのうえ周りには人が多い、人だかりの中を掻き分けて走ってたわね」
「…………やられたくはないですね」
「それでもう一つ、彼についての不思議があるのよ」
これに関しては詳しいことが何もわからなかった
「彼ね、作戦中も神出鬼没なの」
「というと?」
「そうね、例えば作戦中、部隊を二つ展開しているとする。片方が終わってもう片方は終わってない、援護にいこうってなるわね?」
「はい」
「でも駆けつけるのに十分ぐらいはかかる距離なのよ」
「はい」
「なのに彼だけ一分かからずに一緒に混ざって暴れてるの、不思議でしょう?」
「え、どうやってですか?」
「さあ、わからないわ、しかもあの人、リスカムと組んでからもそんなことをしてたのよ。彼においてかれてえっちらおっちら走ってたわ」
まあいつの間にか彼と一緒に現れるようになったが
おそらく彼女はこの事象のタネを知っているだろう
「あとは、そうね、よく戦術指揮官の話を聞かずに動いてたわね」
「え、それって規定違反じゃ」
「そうよ、だからあの人、独断執行のライセンスを持ってたわね」
「そもそもどうして違反なんて」
「あの人、さっきは恐ろしい人って言ったけど、仲間思いなのよ。誰かが処理できない事態に遭遇したとき、真っ先に向かってたの」
「真っ先に、助けにですか?」
「そ、それで邪魔だって言って撤退させてたの。自分が殿を務めて、最後の一人になるまで残ってた」
ライセンスを取った理由も指示をいちいち待ってたら間に合わないからと言っていた
「仲間思い……ですか」
「ええ、どれだけ危険な状況でも仲間を助けることを優先してた。けして悪い人じゃない」
その言葉を聞いて安心できたのだろう、バニラの顔から陰りが消える
「リスカムも最初は毛嫌いしてたわ。だけど彼のそんな姿を見て信頼するようになった。まあ、最後まで彼のやり方には反発してたけど」
彼の戦い方は人命を軽視しているように見える
リスカムの理念とはかみ合わなかった、よく口論していた
「あの、ならどうしてあの二人あんなに喧嘩ばかりしてるんですか?」
ジェシカが聞く
「理由はいろいろあるわ。顔に激物撃ち込まれたり、気が付いたらおもちゃか何か付けられてたり、彼のやり方に文句を言ったり、でも一番はやっぱりあれね」
「あれ?」
「て、なんです?」
二人が聞いてくる
いつのまにか寝てしまったリンクスの頭を撫でながら話す
「リスカムの訓練生の修了日、あの人ね」
あの日の彼女の顔を思い出す、泣きそうな顔で捜していた
「いきなり、消えちゃったのよ」
「消えた?」
「BSWからですか?」
「ええ、そうよ、誰にも何も言わず、いなくなってしまった」
彼女にも、何も言っていなかったのだろう
あの日、彼女は暗くなるまで彼を捜し回っていた、必死に
翌日、上層部から彼女に連絡が来た
レイヴンはBSWを辞めた、と
何を言えばいいのかわからない、そんな風な顔をしていた
「その、リスカム先輩はそれであんな風に?」
「おそらく、そうでしょうね」
あの二人、曲がりなりにも相棒だったのだ、最後の方はお互いに信頼しあっていた
なのに何も言われなかった、かなり傷ついたはずだ
せめて何か、別れの言葉ぐらい言ってほしかっただろうに
「そこに今回彼が現れた。積年の恨みもあるでしょうけど、あの態度は仕方ないわ」
自分も同じ立場ならそうするだろう、それに、彼に非がある
「まあ、それに関しては二人の問題よ。私たちがとやかく言うべきではないわ」
「……はい」
「わかりました…………」
バニラとジェシカの顔が沈んでいる、あの二人にそんな過去があったとは思わなかったんだろう
ジェシカがふと聞いてくる
「あの、どうして、ストレイドさんは名前を変えているんです?」
なぜ、レイヴンと名乗らなくなったのか、予想はついている
「二人とも、今から話すことは誰にも秘密よ」
「え?」
「…………はい、わかりました」
「心して聞いて」
二人が頷く
「彼はね、BSWに入る前も傭兵をしてたらしいの。各地を転々と渡っていたらしいわ」
昔、調べたことがある、リスカムがあまりに悲しそうな顔をしていたから
「それは、ある小さな国同士の戦争で起きたことよ」
彼につながる情報があればと思って調べたのだ
「すれ違いが原因で起きた戦争だったの」
それが、こんなことに繋がるとは思わなかった
「武器商人たちの横流しが原因で起きた戦争、二つの国はハメられただけ」
彼女には、伝えていない
「国民は皆、戦いたくないと言っていたわ、だけどそれを軍が許さなかった。見せしめに殺し始めた、こうなりたくなければ戦えと」
これはおそらく、彼の罪だ
「相手側も同じことをしていたわ、国のために死ねといいいながら、国民を殺し始めてた、それを、彼は見ていた」
一生かけても滅ぼすことのできない罪だ
「ある日、両国の兵士は皆殺しにされた」
「それをやったのは、レイヴンだった」
「その日から、彼は
「死を告げる黒い鳥」
「
フランカ視点になっていたと思います(おそらく、きっと、メイビー)
BSW七不思議、ありそうじゃありませんか?
どっちがバニラでどっちがジェシカかわからない?
心の目で見てください