アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里 作:Thousand.Rex
コンコン
「どうぞ」
「失礼」
バニラとジェシカに昔話をした後、二人が出ていき、入れ違いにドクターがやってきた
「ストレイドはいないのか?」
「ええ、リスカムと車を取りに行ったわ」
「車? まあ、ガレージに余裕はあるからいいか」
その手には、おそらくストレイドのものであろうパスポートが握られている
渡しに来たんだろう、だが少々遅かった
「放送で言っていたから来たんだが……入れ違いになったか」
「それはストレイドの分?」
「ああ、渡しておくだけ渡そうと思ってな」
そういいドクターがコーヒーを淹れ始める
カップを二つ、フランカの分も入れているんだろう
「さっき、バニラとジェシカとすれ違ったんだが、暗い顔をしていたな、何かあったのか?」
「ええ、ちょっと昔話をね」
「それは彼に関することか?」
「ええ」
「もしよければ聞かせてほしいんだが」
「いいわよ、でもまた長話をするのはごめんね」
「掻い摘んで話してくれればいい」
「そう」
フランカの分を渡し、正面に座る
リンクスは、まだ眠っている
「簡単に言うと、もともとBSWにいたのよ、彼」
「……彼が? 本当に?」
ドクターが疑念に満ちた目で言ってくる
誰でもこんな話を聞かされれば信じないだろう
何も知らなければ自分も信じない
「それで、リスカムの教官についていた」
「まともに務まったのか?」
「ええ、存外まともにやってたわよ」
自分で言ってておかしい話だとは思う
あんな性格の人間が誰かに教えられるとは思えない
だけど、リスカムは彼の教えを守っていた、彼がいなくなった後も
「あの二人が仲がいいのはそれでか」
「そうよ、でも二人の前で仲がいい、って言っちゃだめよ」
「ああ、わかった、私もリスカムブローは食らいたくはない」
苦笑する、傍からみれば仲良く見えるがそれを指摘すると二人とも揃って否定するのだ
それがまた、仲良く見える原因なのだが
「それで、どうしてリスカムは彼に噛みつくんだ?」
「昔、ちょっとあったのよ」
「……そうか」
あまりペラペラ喋るわけにもいかない、二人の大まかな状況がわかればいいだろう
ドクターが別の質問をしてくる
「…………彼の人種は何か、知っているか?」
人種、彼はほかの人と違ってこれといった特徴がない
同じように体に何もついていない人種はいるが彼女たちとは雰囲気が違う
「いいえ、私も知らないわ。彼の記録を見たけど非公開になってた」
「非公開?」
「それも、本人の強い希望によりって」
「ふむ、誰か知っていたりとかは?」
「たぶん、リスカムなら知っているんじゃないかしら」
非公開、しかも本人が隠していた、何か理由があるのだろう
わざわざ詮索する理由もない
「もう一つ聞きたいんだが」
「なにかしら」
「彼、いやに神出鬼没なんだが、どうやっているんだ?」
「さあ、昔からそうだったから、すばしっこいってのもあるけどそれだけじゃ説明できない時もあるわね」
「これも、リスカムが知っていたりするのか?」
「ええ、でもおそらく彼女も喋らないでしょうね」
「なぜ?」
「ストレイドに口止めされてるって話だから」
昔聞いてみたら、そう言われてしまった
もったいぶらずに話してくれればいいものを
「BSWに聞いたら答えてくれるかな」
「無理でしょうね、上層部は彼に脅されてるから」
「脅されてる?」
「なんでも、俺の情報を漏らしたらお前らの顔を真っ赤にしてやるって」
「……あのペイント弾か、確かにやられたくはない」
彼が作ったペイント弾は数多の人々に恐怖を与えている
自分は食らったことはないがあんな醜態、晒したくはない
「わかった、ありがとう、私はこれで失礼する」
「そう、ああそうだ、リンクスはとりあえず私……BSWの皆で面倒を見るわ」
「そうか、わかった、部屋はどうする?」
「私たちの誰かの部屋に泊めればいいわ」
「わかった、ストレイドが戻ったら渡しておいてくれ」
そういって、パスポートを渡してくる
そこには彼の写真が添付されている
「相変わらず、軽薄そうな顔をしてるわね」
ドクターが出ていき、フランカとリンクスが残される
外は少しづつ暗くなってきている
「いやー、思ったより時間がかかったな」
「ええ、誰かさんのせいですけどね」
「いい運動になったろ?」
「おかげさまで」
車を回収した後、二人は甲板に来ていた
ストレイドは落下防止のレールに寄りかかり
リスカムはその隣に同じように並ぶ
「まったく、最初から車で行けばここまでかからなかったでしょうに」
「いいじゃないか、たまには」
そういって、空を見上げ始める
「なんです、また空を見てるんですか?」
「ああ、駄目か?」
「別に構いませんが、何が面白くて見てるんです?」
「なに、どうにも目に付いて仕方ないんだよ」
夕日が見える、夜が近い
この男のせいで何もできなかった、一日無駄にした
せめて射撃訓練でもしようかと思っていると
「お、見ろよ、カラスが飛んでるぜ」
「ああ、ホントですね、渡りの最中でしょうか」
「さあな、だとして、あいつは何処に行くんだろうな」
空を見上げる、カラスがぐるぐる飛んでいる
「そういえば、レイヴン」
「なんだ」
「あなたの名前の由来って、カラスでしたっけ」
「ああ、そうだな、飛んでる姿が羨ましくって名乗り始めた」
「……そうですか」
カラスがどこかに飛んでいく
「……ストレイドと、名乗ってる理由は?」
もう一つの名の由来を聞いてみる
「そうだな、行く当てもなく、さ迷い歩いているから、だな」
「それなら、ワンダラーでも良かったのでは」
「ワンダラーの、ダラー、の部分が好きじゃない」
「なぜです?」
「なんとなく」
そういって、二人とも黙りこくってしまう
「……………………」
「……………………」
「リスカム」
「なんです」
「フランカは、どんな具合だ?」
そんなことを聞いてくる、鉱石病に罹ったと話したからだろう
「症状の進行は遅いらしいです、源石製品への接触も注意しています。よほどのことがなければ悪化はしないでしょう」
「なら、後は夢の治療薬ができるのを待つだけか」
彼なりに心配しているのだろう
少し安心したような顔をする
「レイヴン」
今度はリスカムが話しかける
「なんだ」
「リンクスは、鉱石病には……」
「ああ、罹ってない、大丈夫だ」
「……そうですか」
汚染地帯には近づけなかったのだろう、保護者としての責任は果たしているらしい
それを聞いて安心する
「リスカム」
「? なんで―――ッ」
声をかけられた瞬間、懐かしい感覚が襲う
昔散々感じたもの
とっさにしゃがむ
パンッ!
「……ええ、やると思いましたよ」
「おお、よく避けたな、上出来だ」
レイヴンの手には銃が握られていた
実弾は持っていなかったからそのままにしておいたのだが
「やはり没収しておくべきでしたね」
「安心しろ、実弾は撃たん」
後ろを見ると少し離れたところが赤く染まっている
ペイント弾を撃ったらしい、油断ならない男だ
「掃除をしている人が怒りますよ」
「関係ないな、それじゃフランカのところに戻るぞ」
「まだいますかね、結構時間が経ちましたけど」
「いなかったら、探せばいい、なんなら呼び出すさ」
「やめてください、ロドスの皆さんが困惑します」
「いいな、面白そうだ」
「やめなさい」
二人は艦内に入っていく、日が暮れる
今回、かなり短いですね
まあ書くことがないのはいつもの事ですが
あ、今回はないです