アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里   作:Thousand.Rex

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真意

騒々しい攻防戦を強制的に終わらせた後

リスカムとレイヴンはどこへ行くともなく歩いていた

 

 

 

「いい加減にしてください」

 

「まあまあ、そろそろ勘弁してくれよ、未遂で終わったんだから」

 

先ほどのふざけた行動に対して口を酸っぱくして文句を言う

さすがにあれはシャレにならない、監視についていてほんとによかった

 

「止めなければほんとにやるつもりだったんですか?」

 

「もちろん」

 

「……………………」

 

どうやら本当に捲るつもりだったらしい

綺麗な女性を見るなりお尻を追いかけるのは昔から変わらない

相変わらずにもほどがある

 

「あなたの女癖の悪さは昔から変わらないんですね」

 

「おうさ、これを変えたら俺は俺じゃなくなる。アイデンティティって奴だ」

 

そんなものが自己を確立する要素であってたまるか

上層部からの通達で教官につけられたのだが、何を考えて人につけたのだか

 

「まったく、どうしてあなたと組まされたのか」

 

「文句ならあのクソジジイに言うんだな」

 

「いい加減、節操というものを覚えてください」

 

「覚えたら、やってもいいのか?」

 

「……ほんとに、ああ言えばこう言いますね」

 

この男、口から先に生まれたのではなかろうか

昔のように減らず口を叩きあいながら歩き続ける

曲がり角までやってくる、すると

 

「――――チッ」

 

レイヴンが急に足をとめる

 

「なんです? どうしたん――むぐっ!?」

 

そして、何も言わずこちらを引き寄せ曲がり角の先に見えないように隠れる

口を覆われる、息が苦しい

 

「? …………」

 

意味が解らず、とりあえず何から隠れたのか、周囲の状況を確認する

耳を澄ませる、すると

進もうとした先から小さく声が聞こえてきた

 

「ふらんかふらんか、つぎはあっち」

 

「ちょっとまって、あんまり走っちゃだめよ」

 

リンクスとフランカの声だ、昨日とは打って変わって元気に歩き回っている

かなり周りの人に馴れたらしい、子供らしく無邪気にはしゃいでいる

遠くに行ったのか、声が遠ざかる

 

「……行ったか」

 

レイヴンが安堵の息をつく

 

「……………………」

 

引き寄せたまま、レイヴンがあちらの様子を見ている

腕を叩き、離せと意思表示をする、口に手をあてがわれたままだ

呼吸は出来るがそれでも苦しい

 

「おっと、悪い」

 

こちらの状態に気づき、解放される

そして何事もなかったかのように二人と離れる様に歩き始める

 

「さて、次は何処に行こうか――」

 

「レイヴン」

 

呼び止める

 

「……どうした、道の真ん中に立って、通行の邪魔だぞ」

 

道をふさぐように、レイヴンの前に立つ

 

「聞きたいことがあります」

 

問いかける

 

「なんだ?」

 

「いま、どうしてあの二人から隠れたんです」

 

先ほどの不可解な行動を

あの二人の視線から逃れようとしたことを

その意味を、問いかける

少しの間、沈黙し

 

「…………何故だと思う?」

 

そう、聞き返してくる

 

「……答えるつもりは、あるんですね」

 

「ああ、ここだと場所が悪い、変えるぞ」

 

 

……………………………………

 

 

「それで、聞きたいことは?」

 

場所を変え、ロドスの甲板にやってきた

昨日と同じように、レールに二人で並ぶ

レイヴンが先ほどの質問の意図を聞いてくる

 

「そうですね、では単刀直入に」

 

先ほどの行動の意味、そうした理由

そして

 

「何故、リンクスから隠れたんですか」

 

なぜリンクスから逃げたのか

 

「会いたくないからだ」

 

「どうしてです」

 

「そうする理由があるからだ」

 

はぐらかされる

 

聞きたい答えが返ってこない、

必要なことを引き出すには、もっと核心に触れなければならない

 

「フランカ達に彼女を預けたのは、別行動するためですね?」

 

「ああ」

 

肯定する、続けて言う

 

「……リンクスからわざと離れているんですね?」

 

「ああ」

 

肯定する

 

「……どうしてです?」

 

「何故だと思う?」

 

聞き返される、まだ足りない

真正面から攻めてばかりでは何も聞きだせない

 

他の事から埋めに行く、

 

「レイヴン、どうして、ロドスに来たんです?」

 

「言わなかったか?」

 

ロドスにいる理由、手紙の送り主だと言っていた

だがそれだけで、わざわざここに来るような男ではない

なにより、彼は偵察隊の時にこちらの動きを把握していた

ビーグルを手伝ったのも、リンクスを助けに来たのも、偶然ではない

 

「先日、こちらを手伝った意図は、なんです」

 

「なんだと思う?」

 

また同じように聞き返される

手伝った理由はロドスに、俺は味方だと意思表示をするためだろう

入り込んだ後、ある程度船の中での行動に勝手がきくように

ならどうして、そうまでしてロドスに接触する必要があったか

現時点で、彼がここに来る理由は何か

 

「……ここにいるのは、リンクスが関係しているんですね?」

 

「……………………」

 

問いかける、何も言わない

言いたくない、言外に、そう言ってくる

だが予想はついている、リンクスに何をするつもりか

なぜ預ける必要があったのか、なぜ離れる必要があったのか

なぜ、だんまりを決め込むのか

 

「あなた、まさか」

 

この男は、またやるつもりだ

自分にやったことと、同じことを

 

「昔と同じことを、リンクスにしようとしているんですか?」

 

「ああ」

 

肯定する、正直聞きたくなかった

この男はまた、何も言わずに消えるつもりだ

誰にも、何も言わずに、残していくつもりだ

 

「……なぜです?」

 

また、蒸発するつもりなのか、しかも小さい子供を相手に

 

「少し考えれば、わかるだろ」

 

「わかりません、そうする理由は――」

 

「ある、そうしなければならん」

 

断固とした決意を感じる、彼の中では納得しているらしい

 

「……またそうやって、何も言わずに消えるつもりなんですか?」

 

「ああ、それがあいつのためだ」

 

「どこがです……」

 

彼がここに来たのは、リンクスをロドスに預けるためだ

恐らく、傭兵をする以上危険な目に合う、彼女の安否を思っての事だろう

それでどこか安全なところに彼女を置いていけないか、そう考えた

そしてここに目を付けた、鉱石病の危機から世界を救おうとしているロドスに

善意で動く彼らなら、おいてかれた少女を捨てることはしないだろうと

 

「置いていく必要は、あるんですか」

 

「ある」

 

「一緒に連れ歩くぐらい、出来ないんですか」

 

「ぐらい、なんて話じゃないな」

 

「ですがあなたなら、それぐらい出来るでしょう」

 

彼の戦い方を、生き方を、知っている

一人でふらふらと渡り歩く、そして、目に付いた人に片っ端から声をかけていく

遊んでいるように見えて、その実、誰かを助けるために動いている

手紙を渡した一番の理由も、放っておいたら傷つく人が出るからだ

彼は罪のない人が犠牲になるのを傍観出来る人ではない

リンクスを拾ったのも、その性格が関係しているのだろう

その戦い方が、どれだけ冷酷にみえても、彼は最後には命を優先していた

 

「無理だ」

 

だが否定される

 

「無理ではありません」

 

「いや、無理だ、そんな、手緩い世界に俺はいない」

 

子供を連れて戦い続ける、戦火の中を、確かに厳しい話だ

だがここに来るまで彼はそれをしていたはず

甘い男と言われても、出来るはずだ

質問を変える

 

「なら、どうして」

 

「……………………」

 

「どうして、彼女を拾ったんです」

 

リンクスと出会った経緯、聞かされてはいない

そこに何か理由があるかもしれない

 

「道端にいたからだ」

 

わかりやすく誤魔化そうとする

昔から変わらない

 

「嘘が下手ですね、あなたは」

 

「ああ、元より吐くつもりはないからな」

 

なら最初から素直に言えばいいのに

 

「……聞かせてもらっていいですか?」

 

「何をだ?」

 

「どうして、彼女と会ったのか」

 

「……………………」

 

何も言わず、煙草を取り出し、口に咥え、火をつける

 

「…………」

 

彼が吸い終わるのをおとなしく待つ

 

「……………………」

 

「……放り投げないでください」

 

吸い殻を船の外に投げ捨てる

なんとなしに注意する、だがいつもの減らず口がない

レールに体を預けて、話し始める

 

「リスカム、あいつはな、俺の無力さの象徴なんだ」

 

意味の解らないことを言ってくる

 

「象徴? 彼女が?」

 

なぜ彼女が象徴になるのか、意味が解らない

 

「一年ぐらい前の話だ」

 

レイヴンが、語り始める

 

 

あいつは元々、小さな集落に住んでいた

 

その日を過ごしていくのに精一杯な小さな所

 

だけど、そこに住む人たちはそんな当たり前で、幸せな日常を過ごしていた

 

だがある日、近くをある武装集団が通りがかった

 

そいつらは偶然通りがかっただけだ、何か理由があっていたわけじゃない

 

だが、不幸なことがそいつらを襲っていた

 

物資が枯渇してたんだ、特に食料が

 

そいつらは流浪の一味だ、どこかから分けてもらうか買うしかない

 

近くには、その集落しかなかった

 

最初は話し合おうとしていたんだろう、だが集落にも他に分け与えるほど貯蓄もない

 

そのうち、一味の方が限界を迎えた、このままでは餓えてしまうと

 

集落は小さい、大した戦力はない、自分たちから身を守る力も

 

奴らはやった、自分たちの為に、略奪を選んだ

 

当然、集落は勝てない、奪われるまま奪われ、殺されるがままに殺された

 

奴らは証拠を残さないように火も放った、足が付かないようにと

 

そうして全て消えた、何もかもが黒く焼け焦げた

 

その時、一人だけ生き残った、それがあいつだ

 

 

「……それがどうして、あなたに繋がるんです」

 

「その時、俺はそいつらを追ってたんだよ、仕事でな」

 

誰かから雇われたのだろう、もしくは懸賞金でもかかっていたか

 

「それで、近くに集落があるって聞いて、嫌な予感がした」

 

奴らの行く先に、彼女の集落があった、それを知らなかったらしい

 

「そしたら、案の定、煙が上がってた」

 

気づいた時には手遅れだった

 

「間に合わなかったんだ、俺は」

 

彼は、後悔しているのか、その顔は、昔のまま、苦しそうにしている

 

「もう少し早くついていれば、あいつの居場所は無くならなかっただろうに」

 

「だけどそれは、あなたのせいでは」

 

それは不確定要素だ、別に集落が襲われたことを仕方ないで済ますつもりはない

それでも、間に合わない時は間に合わない

 

「いいや、俺が悪い、奴らの状況を調べなかったのが原因だ。周囲を襲う可能性があるなら、もっと早くに殺るべきだった」

 

もっと早く動けたはずだ、自責の念に駆られているのだろうか

 

「……それで、向かう途中にあの子がいたんですね」

 

「ああ、ふらふら歩いてたんだ、たった一人で」

 

「……………………」

 

「燃える集落が見えた、すぐにわかった、生き残りだろうと」

 

リンクスは唯一の生き残り、そして助けられなかったのは、己が悪いと

 

「それで、拾ったと」

 

「ああ、放っておいたら、くたばるのは目に見えてるからな」

 

罪滅ぼしのつもりだろうか、彼は悪くないはず、だけどしなくてはいけなかったんだろう

そうしなければ、せめて誰か一人だけはと、そう思ったんだろう

 

「……武装集団は」

 

「俺がただで済ますと思うか?」

 

彼は強い、恐怖を覚えるほどに

全員殺されたか、それ以上にひどい目にあっているか

だとしても奴らのことをかわいそうだとは思わないが

 

「……もう一つ、聞きたいことが」

 

先ほどの話だけでは納得できないことがある

もう一度問いかける

 

「……なんだ」

 

「彼女と、会わない理由は?」

 

ただ拾っただけなら、わざわざ彼女から逃げる理由はない

まだ何か、知らないことがある

 

「あいつは、記憶がないんだ」

 

「記憶、ですか?」

 

それはつまり、何も覚えていないということだろうか

 

「ああ、それで、唯一知っている俺に、依存してる」

 

「それがどうして、会わないことになるんです?」

 

唯一知っている、彼に会う前のことを覚えていないのだろうか

依存しているという話は、理解できる、彼女の行動は少しおかしかった

他に人がいる状況でも、真っ先に彼のもとに向かっていた、周りに目を向けずに

だがそれがなぜ会わないことにつながるのか

 

「簡単だ、ここの奴らに馴れさせる。そうすれば、俺がいなくなってもどうにかなる」

 

「……なりませんよ」

 

ここの奴ら、ロドスの人々に馴れさせる、自分に依存したままではいけないと思ったからか

そうすれば、彼が消えても、依存対象が消えても、知っている顔があるならどうにかなる

そう考えたのだろう、だがそれは、彼女のためにはならない

 

「いいや、ここのリーダー殿は甘ちゃんだからな。あんな子供がおいてかれたら引き取るだろうよ」

 

「……なりません」

 

「なら、そうさせる」

 

「駄目です」

 

彼は、やると決めている

それを曲げることは、難しい

 

「レイヴン、どうしても、彼女と居られないんですか?」

 

もう一度、聞いてみる

 

「ああ、俺じゃあ護れない」

 

彼の口から出た言葉に、納得ができない

 

「嘘です」

 

「嘘じゃない」

 

「いいえ、嘘です、あなたは強く、誰かのためにに自分の都合を捨ててまで動く人です。そんなあなたが、彼女を護れないはずがない」

 

BSWにいた時、彼は誰よりも先に誰かを助けに行っていた

どれだけ不利な状況でも、仲間の命を優先した、護りきった

なによりそれを傍で見ていた、彼が成し遂げられないわけがない

 

「買いかぶりだ、俺はそんな立派な奴じゃない」

 

「……そんなつまらない冗談、やめてください」

 

二人して黙ってしまう

レイヴンがもう一度煙草を取り出し、吸い始める

さっきと同じように、終わるのを待つ

 

「リスカム」

 

「……なんです」

 

「昔話をしてやる、ある小さな国同士で起きたこと、新聞の片隅にも載らなかったことだ」

 

その話を、自分は知っている

 

 

 

二つの国はいがみ合ってた、といっても口喧嘩程度の規模だがな

 

互いが互いに邪魔だった、国土とかそういう政治的な問題で

 

だけど、それでも、互いの利害を認めながら少しづつ歩み寄ってたんだ

 

俺はそれを見てたんだ、そんな歪で、不器用な関係が面白くて

 

どんな結末を迎えるのか、見てみたくなって

 

そのうち、輸送団の護衛とか、そんなことを手伝うようになった、両方の国のを

 

あっちに行ってこっちに行って、中々面倒だったが、少しづつ知り合いも増えていった

 

宿に泊まると不愛想なおっちゃんがサービスしてくれたり、子供たちが俺を見て駆け寄って来たり、初めて友人と呼べるような奴もできた

 

一つ所に留まるのがあんなにも楽しかったのは初めてだった。永住するのも悪くない、不覚にもそう思っちまった」

 

だがそれは、長く続かなかった

 

二つの国は、歪な関係だった、どうして国交が成り立っているのか不思議なくらいに

 

そこに、武器商人が目を付けた、金を稼げると思ったんだろう

 

まず片方に適当な集団を雇って襲撃させた

 

大した被害はいらない、火種を作れれば十分だった

 

やられた国はあっちの国の仕業かと思い始めた、ついに攻撃してきたのかと

 

そこに現れたのが商人たちだ、やつらは戦争を企んでる、そう仄めかして

 

反撃に出なけらばやられる、武器は私たちが売ってやろう、そう言って

 

そして動いた、火が点いちまったんだ、誰にも消せなかった

 

あとはもう想像通り、ドンパチの始まりだ、町は燃え、人々が逃げ惑う、文字通りの地獄絵図

 

中には戦うべきではない、そう言って止めようとする奴もいた

 

だがその願いは聞き届けられなかった、そして反逆者としてそいつらを殺し始めた

 

大人も、子供も、戦わないのなら裏切り者として殺された

 

護りたかったモノが目の前で崩れていった、護ろうとしたモノの手で

 

 

 

「……あなたは、その時どうしたんです」

 

「軍の奴らを殺して回った、戦うものがいなくなれば戦争は終わる」

 

「それで……」

 

「ああ、全部殺した、残ったのは、名残りだけだ」

 

「……………………」

 

殺す必要はあったのか、そうする事でしか終結させられなかったのか

詳しいことはわからない、だだ、わかっていることは

その日、彼は虐殺を行う二つの国を、圧倒的な暴力をもって殺しつくした

死告鳥、それから、そう呼ばれることになったことも

 

「そこに、護りたかったモノはどこにも残らなかった。その日立証されたのは、俺には何も護れない、その事実だけだ」

 

「……それでも、あなたは誰かを助けるために動いてたじゃないですか」

 

BSWにいた時、彼は仲間を助け続けた、誰よりも早く

市民が巻き込まれた時も、体を張って守っていた

自分が死に目にあった時も、彼は来てくれた

あの戦争を強引に終わらせたのも、逃げ惑う人々のため

理不尽に巻き込まれた人たちを助けるためだ

生き残った人はいたはずだ、護ったという結果は残っていたはずだ

 

「そうだな、そうする事で、目を背けてただけだ」

 

それらは、罪滅ぼし等という言葉で済ませることが出来る話ではない

彼に根付いている信念のはずだ、罪悪感だけで続けられるわけがない

誰かを救う、それが彼の行動理念のはずだ

 

「……でも、それは彼女を置いていくことにに繋がりません」

 

「繋がるさ、護り続けることが、俺にはできない、失うことしかできない」

 

「……………………」

 

「だから置いてく、それが最善だ」

 

レイヴンが口を閉じる

彼は決して無力ではない、何も言わずに置いていくことにもつながらない

ここで終わらせてはいけない

 

「だからって、何も言わずに行くんですか」

 

「ああ、一緒に行くって言い出すからな。ただ知ってるだけの奴に付いていって死ぬだなんて笑い話にもならん」

 

知っているだけ、というには彼女はあまりに懐きすぎている

少なくとも、彼の温もりに安心感を覚えるほどに

あれは依存だけで説明できるものではない

 

「だけど彼女は、あなたのことを信頼してます」

 

彼女の彼に向ける目には、確かな信頼が感じ取れた

それに気づかない男ではない

 

「知ってるよ、紛い物とはいえ保護者だからな」

 

「なら、彼女の気持ちもわかってるはず」

 

「ああ、だからこそ、あいつを傍に置くことは出来ない」

 

「何故です」

 

そこまでわかっていて何故一緒に居ようとしないのか

 

「あいつには、生き抜くための術を教えた、この意味が解るな?」

 

教えた、彼が、それが何を意味するか

 

「……戦い方を教えたんですか?」

 

戦い方、つまり人殺しの方法を教えたということ

 

「ああ、万が一俺が死んでも、生き残れるように」

 

「……………………」

 

「そんなことをガキに教える奴が、近くにいる訳にはいかんだろ」

 

だから一緒にいられない、そう言いたいのだろう

 

「安心しろ、人は殺させてない」

 

「……安心できません」

 

「だよな」

 

一線は超えさせていない、そう言ってくる

彼なりの配慮なのだろう、この先彼女が生きていくうえで毒が残らぬよう

小さな子供が不純物にならぬように、自分と同じ人種にしない為の

 

「なら、置いていくなら、どうしてロドスに来たんです。保護させるだけならもう消えてしまえばいいでしょう」

 

もし本当に置いていくつもりなら、とっくにいなくなってもおかしくない

わざわざロドスに滞在する理由もないはずだ、まだ何かある

 

「あいつには一つ、教えてないことがある、それが俺の最後の責務だ」

 

「……それは、なんです」

 

「残念ながら、言えない」

 

「……そうですか」

 

教えていない、彼女にはまだ、用があるらしい

それが終わるまで、彼はいる、ならばまだチャンスはある

 

「話は終わりだ、日も暮れてきた、俺はそろそろ部屋に籠るぞ」

 

レイヴンがあてがわれた部屋に戻ろうとする

 

「待ちなさい」

 

それを呼び止める

まだ、聞かなければいけないことがある

 

「……なんだ?」

 

足を止め、こちらに振り向く

あの日から聞きたかったことを聞く、何も言わず消えた日

聞きたくても聞けなかったことを

 

「どうして、BSWから消えたんです」

 

「……どうしてだと思う?」

 

聞き返される、この男がそうするのには意味がある

 

「わからないから聞いてるんです」

 

「なら、一生わからないままだな」

 

自分の時とは違う、彼女にはまだ、時間がある

 

「……あの子に、私と同じ気持ちをさせるつもりはありません」

 

出来ることはまだある、思い通りにさせるわけにはいかない

 

「レイヴン、ゲームをしましょう。あなたの好きなお遊びです」

 

「……なんだ、リスカム」

 

提案する、彼が反応する

 

「あなたが消えるまでの間に、BSWから消えた理由を突き止めます」

 

「ほう」

 

「当てたら、彼女に置いていく事を言ってもらいます」

 

「……連れてけ、じゃなくてか?」

 

「ええ、彼女のことを考えるなら、保護するのが正しいです。ですが何も言われず置いていかれるのは彼女の心に残ります、一生消えない傷として」

 

彼女を安全なところに置いていくのは譲る、無理強いしてまで連れてかせる必要はない

 

「だからかわりに」

 

そのかわりに別のことをしてもらう

 

「リンクスに、さよならを言ってもらいます」

 

私に向けられる事のなかった言葉を、言ってもらう

 

「……………………」

 

レイヴンが考える、どこか、楽しそうに

 

「いいですね」

 

「ああ、いいだろう、その条件呑んでやる」

 

レイヴンが承諾する、盤面は作れた

 

「言質はとりましたよ、無かったことにはなりません」

 

「安心しろ、俺は嘘はつかん」

 

「下手なだけでしょう」

 

これであとは彼の真意を確かめればいい

リンクスに、あんな気持ちを味合わせるわけにはいかない

ならばこの後どうするか、一度彼の行動を洗うべきだろう

そんなことを考えていると

 

「……ふむ」

 

レイヴンが、ふと手を伸ばしてきた

 

「――ッ! なんです!」

 

自分の頭に、いきなりの事で驚いて後ずさってしまう

 

「いやなに、言うようになったと思ってな」

 

「……はあ」

 

先ほどの事だろうか、正直、ムキになっているだけだが

 

「あのチビが俺に挑戦しに来るか、って」

 

そういって、少しにやけながら船に入っていく

 

「それじゃ、今度こそ俺は籠るぞ、長話は疲れる」

 

そうしてこの場から消えてしまう

 

一人残される、どうやら褒められたらしい

頭に小さな感覚が残っている、そんな気がする

ほんの一瞬、手が触れた、優しく撫でていた

喜べばいいのか、どうすればいいのかわからない

追いかける気も起きない、監視が本来の役目だというのに

なんとなく、昨日彼がペイント弾を撃ったところを見る

そこには、もう名残はない、どんな気分で掃除したのか

 

「……………………」

 

あのペイント弾、よく撃ってきた、顔にむけて

訓練だと言っていた、昔の話だ

 

 

『リスカム、来たな』

 

『なんです、新しいトレーニングを追加するって話ですけど』

 

『なに、難しいことじゃない、これを見ろ』

 

『……それ、例の悪趣味なペイント弾じゃないですか』

 

『そうだ、どんなものかはわかってるな?』

 

『ええ、まあ、それがどうかしましたか?』

 

『簡単だって言ったろ? これを……』

 

『?』

 

『こうするんだ』

 

『ぶっ!?』

 

『で、お前はこれを避けれるようにしろ』

 

『……………………』

 

『そうすれば、不意な襲撃に対応できるようになるだろう、スナイパーとかな』

 

『……………………』

 

『わかったな? なら、行ってよし』

 

『――――ッ!!』

 

『ハッハッハ! いい走りっぷりだな、しばらく飽きなそうだ』

 

 

 

「……………………」

 

殺意が湧いてきた

あの男の行動に無意味なものはない、だからと言って撃たれたくはないが

今回も、まだ何かやることが残っている、それはリンクスのことを思ってのことだろう

だが、本当に思っているならどうするべきか、あの男に教えてやる

 

 

 

……………………

 

 

 

話し終えた後、なんとなく休憩室にやってくる

 

「あら、リスカムどうしたの?」

 

そこにはフランカと、その膝で眠るリンクスが居た

こちらを見て一瞬目が丸くなったような気がするが気のせいだろうか

 

「……いえ、別に」

 

「……ストレイドと何かあったの?」

 

まあ近くにいるべき奴が居ないのだ、答えはすぐに出るだろう

 

「ええ、そうですね、少しばかり宣戦布告を」

 

「宣戦布告?」

 

……………………

 

 

「……そう、この子と別れるつもりだったのね」

 

「ええ、薄情な男です」

 

フランカに先ほどの話をする

リンクスの頭を撫でながら、言ってくる

 

「でも、彼なりに考えた結果なんでしょう?」

 

「そうですが、それでも何も言わずに行くのはおかしいです」

 

「そうね、それは褒められないわ」

 

リンクスのことを思ってのことだと言った

だが彼女の気持ちを考えずにやろうとしている

そんなことを許すわけにはいかない

 

「で、あたりはついてるの?」

 

「ええ、あの男が聞き返すときは判断材料が揃ってる時です。なら、奴のこれまでの動向を考えれば答えは出ます」

 

あとは答えにたどり着くだけ、それだけで彼女を最悪から遠ざけられるかもしれない

 

「……フランカ、私はやります、必ずあの男の真意を掴みます」

 

決意表明をする、必ずやってみせる

 

「ええ、応援するわ、がんば、って、ね、ブフゥ!!」

 

すると突然、フランカが吹き出した

 

「? なんです急に」

 

様子のおかしいフランカに話しかける

 

「ははっ! 駄目っ! もう耐えられないっ!」

 

「……何にです?」

 

だが笑ってばかりで話してくれない

 

「リスカム、あたっ、あたまをっ、あはははははっ! 最高よ、ストレイドっ!」

 

「…………あたま?」

 

フランカが頭を指さしてくる

いわれて触る、そこには

 

「なっ! これはっ!」

 

小さな四角い箱がひっついていた

手のひらサイズのびっくり箱のような設計

スプリングの先に、人を小馬鹿にするような顔のキャラがひっついている

 

「まさか、あの時」

 

頭を触られた、あの一瞬にくっつけたのだろう

いくらなんでも早業すぎる

そう言えば道中ですれ違った人がこちらをちらちら見ていた

これが原因か

人の頭を撫でるふりしてこんなことをしていたのか

少しでも嬉しいと感じたのがバカみたいだ

羞恥と怒りで頭が埋め尽くされていく

 

「……あ、ああ……」

 

 

「あの男ぉっ!!」

 

 

「はっはっはっはっはっ! もうだめっ! おなかいたいっ!」

 

「んー? ふらんかぁ、どうしたの?」

 

しばらくの間、フランカの笑い声が響いたという

 

 




今回、ちょっと長かったですね
投稿する前にちょろちょろと直してたら気が付いたんですが
私、だいたい二千か三千文字ぐらいで見切りをつけているんですよ
で、今回みたいに長くなるのは説明が多いか、謎解きが多いか、どっちかなんですよ
でも一番文字が多いの、あれなんですよね
なにかって?



マスクドケルシーです

追記

マスクドケルシー五千文字しかなかった


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