アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里 作:Thousand.Rex
「本当に、いい加減にしてください」
「はい…………」
オーキッドへのセクハラ騒ぎの後、三人は再び歩き回っていた
「流石に堂々としすぎよ、あなたは」
「はい、反省してます……」
「猛省してください」
だが先ほどとは様子が違う
リスカムとフランカは穂先を取ったモップの柄を肩に担ぐ様に持っている
それにストレイドがぶら下げられている、逆さづりで
狩猟された獣でも運んでいるような構図になっている
「あの、二人とも、もちっと高く上げれてくれないか?」
「嫌です」
「そんな面倒な事、したくないわね」
「なら下ろしてくれ、そうすれば楽になる」
「駄目です」
「頼む、このままじゃハゲちまう」
「寂しい頭になった方が素敵だと思うわ」
さっきから運んでいる二人の身長がさほど高くないのもあり
吊り下げられたストレイドの頭がガリガリ削れている、中々痛そうだ
「許してくれ、こんな年で毛根を死滅させられるのはごめんだ」
「いっそのことスキンヘッドにしたらどうです?きっと似あいますよ」
「嫌だ! 豆電球等と煽られるのだけは嫌だ!」
「いいですね、その時は盛大に笑ってあげます」
わざと頭を引きずりながら歩いていく、行先は特に決めていない
流れるままに歩いていく、通りがかる人が白い目で見てくるが今は気にしない
「ねえリスカム、さすがに可哀そうになってきたんだけど」
「ほう、これでも足りないぐらいなのですが」
「俺はそんなに罪深いことはしてないぞ」
「してます、大いに」
「いい加減、私も周りの目が気になってきたのよね。そろそろいいんじゃない? 無駄に疲れるだけだし」
「……まあ、いいでしょう」
フランカの言う通り無駄な疲労が溜まるだけだ
それに変な噂が立つかもしれない、いやもう立っている気がするが
しかたなくストレイドを結んでいた縄を解く
「これに懲りたら二度とあんなことはしないように」
「すでに二度以上やってるが」
「……やはりもう少し吊っておきますか」
「すまん、妄言だ、忘れてくれ」
「一言多いのよ、あなたは」
自由になるなり減らず口を叩き始める、相変わらずの男だ
「で、ここはどこらへんだ?」
「食堂のあたりよ」
「ほう、病院食か、興味がないな」
「違います、いや違うくはありませんが、普通の料理もあります」
今いるところはロドスの食堂付近だ
ここに住む人々の大半がここで食事をしている
ピークは過ぎたがまだ人はいそうだ
「そういえばあなた、ここのご飯は食べたことあるの?」
フランカがストレイドに聞く
「いや、食ってないな、ここに来たのは初めてだ」
「……それなら昨日から何を食べていたんです、部屋に誰か運んでくれてるんですか?」
そういえばストレイドがロドスにいる間に物を食べているところを見ていない
個別に食事を渡されていたのか
「いや、俺の車に積んであったレーションを食ってたが」
「……ロドスの人に言って作ってもらえばよかったのに、あなた一応、客人扱いなのよ?」
「その客人に逆さ吊りという磔刑を施したのはどこのどいつだ」
「それ以外食べてないんですか?」
「ああ、病院の飯はまずいイメージがあるから食いたくない」
「そんな訳ないでしょ、ちゃんと美味しいわよ」
どうやら碌なものを食べていないらしい
「なら、食べてみますか? 印象が変わるかもしれませんよ」
なんとなく、リスカムから提案してみる
少し嫌そうな顔をする
「いや~、あんまり気乗りがしないな、不味くなくても食いでがなさそうだ」
「だから食べてみようと言っているんです。試す前から決めつけるのはよくありません」
「む~、まあ、そこまで言うなら少しだけ……」
説得に成功する、もともと興味はあったのかもしれない
食堂の扉を開ける、中にはまだ何人か人がいる
こちらに気づき顔を向けてくる中に、近づいてくる人影が一つ
「あ~、ストレイドさ~ん、こんにちわ~」
クルースだ
のんびりとした口調で、三人に話しかける
「よう、細目の嬢ちゃんじゃないか、遅めの昼食か?」
「そんなところ~」
二人は面識があるらしい、確か最初に遭遇したのがフェンとビーグルを含めた三人だったはず
ひと悶着あったと聞いたがどこか友好的だ
なんでも、ストレイドにむけてクロスボウを撃ち込んだ、とか
「リスカムさんとフランカさんも~、これからご飯なの~?」
「ええ、少し遅いですが」
「この人に食べさせてみようって話になって」
「そ~なの~? ここのご飯、食べたことないの~? ストレイドさ~ん」
「ああ、なんだか気が進まなくてな」
「もったいな~い、ここのご飯はおいしいよ~、せっかくだから食べていきなよ~」
本当に、友好的だ、不気味なほどに
「……………………」
「ねえリスカム、クルース、なんだか笑ってない気がするんだけど」
フランカが聞いてくる
クルースは今、笑顔でストレイドと話している
だが、どこか不穏な空気を感じさせる笑みだ、何か企んでいる
「ねえ、どうしてあんなに怒ってるのよ、彼女」
「……そういえば、昨日、やらかしましたね、あの男」
昨日、射撃訓練場で起きたことを思い出す
ストレイドはビーグルにむけて、例のペイント弾を撃ち込んだ
ビーグルにむけて
「フランカ」
「ええ、わかったわ」
ストレイドに気づかれないように、ゆっくり部屋を出る
クルースとビーグルは仲が良い、フェンと一緒にロドスにやってきた幼馴染だ
そんな彼女に彼は狼藉を働いた、クルースが放っておくわけがない
おそらく、何かやるつもりだ、巻き添えを食らわないうちに避難する
「ほらほら~、こっち、空いてるよ~」
「おっと、誘ってくれるとは嬉しいな」
ストレイドを席に誘導する、ちらりとクルースがリスカム達を見る
特別なにも言おうとしない、狙いは彼だけらしい
二人が外に出る
「ん? あの二人はどうした?」
「さっき、別の人に話しかけられてたよ~」
「そうか、ならいい」
何も疑わずクルースについていく
席に座れと促さられる
「で、ここは何がオススメなんだ?」
「ここのは全部おいしいよ~、だけど一番は~、彼女の作る料理かな~」
そういい、近くの少女にクルースが手招きする
青い髪の少女だ、どこか活発そうなイメージがする
ストレイドの前にやってくる
「初めまして! あなたがドクターの言ってたお客さんですね!」
「ああ、ストレイドだ、よろしくお嬢ちゃん」
「わたしの名前はハイビスカスです! ハイビスって呼んでくださいね!」
「ほう、随分フレンドリーだな、全ての女性がこれぐらい友好的ならいいのに」
「? なんのことです?」
「いや、なんでもない」
いつも通りの戯言を口にする
クルースは後ろで笑っている
「ハイビスちゃん、ストレイドさんが~ここのご飯、食べたことないって言ってるの~」
「え? そうなんですか?」
「だから~、ハイビスちゃんのおいしいご飯、作ってあげて?」
クルースがそう言った瞬間、周囲の人々が何も言わずに席を立つ
「? 周りの奴らはどうしたんだ?」
「さ~、気にしなくていいんじゃな~い?」
「ふむ、そうか」
どこか違和感を感じながら話を進める
「おいしいご飯ですか? わたしが?」
「そう~、せっかくだから~おいしいもの、食べてほしいでしょ~?」
「そうですね、わかりました! わたしが! 腕によりをかけて! 作りましょう!」
そういい、ハイビスカスが厨房に消えていく
「なんだ、ハイビスの嬢ちゃんは料理が得意なのか?」
「うん、そ~だよ~」
ストレイドの疑問にそう答える
「そうかい、そいつは楽しみだ」
「それじゃ~、わたしはこれでしつれいするね~」
「ん? 何か用でもあるのか?」
「うん、人に呼ばれてるの~」
そういって、クルースも消えてしまう
ストレイドは一人、料理ができるのを待つ
そして、ハイビスカスがやってくる
「お待たせしました! こちらをどうぞ!」
出来上がったものを渡される
「……? これはなんだい? お嬢ちゃん」
それは、彼の常識の範疇から外れたものだった
「サンドイッチです! それと紅茶と簡単なサラダです!」
「……ほう、サンドイッチか、なるほど」
そこには、何も挟まれていないサンドイッチと見た目には大して違和感のない紅茶と、嫌に種類の多いサラダが置いてあった
「……ちなみに、何サンドなんだ?」
聞いてみる
「ハムとレタスときゅうりとトマトを抜いたハムサンドです!」
「……そうか」
それはハムサンドなのか、そもそもサンドイッチなのか、ただの食パンなのでは、耳はないが
いや、もしかしたらマーガリンは塗ってるのかもしれない
いやでも結局食パンだ、サンドイッチじゃない
「その、なんだ、独特だな、うん」
「ええ、ロドスの皆さんの健康を考えて作った料理ですから! 自信作です!」
「……………………」
何か言おうと思ったがそんな自信満々な顔をされてしまうと何も言えない
どうすればいいのか
「さあ! どうぞ! 召し上がってください!
「……ああ、いただきます」
ハイビスカスは善意で作ってくれている、無下には出来ない
仕方なく口にする
「…………(もぐもぐ)」
「どうですか?お口に会いますか?」
味がない、などと言っていいのか
それとも、素材本来の旨味を味わえとでもいうのか
ここでそう指摘したらこちらが悪い気がするのは、気のせいなのか
「(ゴクン)……ああ、おいしいよ」
「お口にあったようで良かったです」
その場しのぎでそう返事をする、いやあってはいないのだが
無心に頬張り続ける
だがなんの味もないパンをむさぼり続けるのは無理がある
口が乾燥する、流し込むついでに紅茶を飲む
「ッ!?……この紅茶、どういう代物なんだい?」
だが、紅茶から味がしない
「えっとですね、カテキンとカフェインレスの紅茶です!」
「……そう、か」
紅茶独特の渋みはカテキンという成分からきている、それを抜いた以上味がするわけがない
しかもカフェインもない、おそらくこれに入っているのはビタミンとかそのあたりの栄養素だけだ
ついでに甘みもない、砂糖も、ましてや蜜の類も入っていないだろう
これでは色のついているただのお湯だ
唯一の救いは、サラダにそこそこ味のするドレッシングが付いてることだろうか
何とかして完食する
「……ごちそうさま、美味かったよ、お嬢さん」
そういい、その場を離れようとする
「あっ、待ってください、まだメインディッシュが残ってます!」
「……メイン、つまり、そういうことか」
どうやら今のは前菜だったらしい、まだ何かあるのか
ハイビスカスが厨房に戻っていく
「……死刑宣告、なるほど」
逃げるなら、今しかない
「やってくれる、細目の嬢ちゃん」
だがそうすれば、彼女の厚意を無駄にする
おそらく、悲しむだろう
ストレイドという男は、女性に涙を流させるような男ではない
「……………………」
その場に留まる、逃げ出すという選択肢は彼にはない
「お待たせしました! こちら、コーンポタージュになります!」
そういって器を渡される、それは
「コーン、ポタージュか……」
「はい! 体にいいものを沢山入れたわたし特製のポタージュです!」
黒い、得体のしれない何かだった
「……………………」
熱してもいないのにぐつぐつと煮えたぎっている、黒い煙も吹き出ている
おかしい、ポタージュ要素が見当たらない、ついでにコーンも
これはコーンポタージュなんて優しさにあふれたものではない
もっと別の、この世すべての悪を含んだなにか、暗黒物質だ
「……………………」
はたして食えるような代物なのか
渡されたスプーンを持ったまま、何もできない
「? どうしたんですか? 食べないんですか?」
ハイビスカスが不審に思い聞いてくる
「……大丈夫だ、問題ない」
ここで食べれない、などと戯言を言う気はない
一匙、すくう
勇気をもって、すくったそれを、口に入れる
「―――ッ!!」
その後、リスカム達と合流した彼はこう言った
「宇宙の味がした」
補足を一つ
紅茶を味のもとはカテキン、と言っておりますが
実際にはアミノ酸とかその他諸々も入っているので多少の味はするはずです
ですが、まあ、そんな細かいことまで気にする必要はない、そう思いましてそういう感じに書いてあります
ちなみに、カテキンと書いてありますが、人によってはタンニンの方が聞き覚えがあるかもしれませんね、カテキンはタンニンと呼ばれる成分の一種だとか
まあ詳しい話を知りたければ調べてください
ところで、ドクターが飲まされてるカフェインレスコーヒーですが
どうやってカフェインを抜いているんですかね?
追記
タイトルが原作のコーデと被ったんで変えました