アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里 作:Thousand.Rex
「……少し、恐怖を覚えました」
「何をされるのかしらね、彼」
食堂の扉をそっと閉める、クルースがこちらを見た時はヒヤッとした
まあ、因果応報なのだろう、ああなるのは仕方ない
ひとまずここを離れて頃合いを見て戻ってこよう
その場から離れる
すると、遠くから
「先輩先輩! お話があります!」
「? バニラ、どうしたんです、そんなに急いで」
バニラがリンクスを連れてやってきた
「ばにらー、あるくのはやいー」
強引に引っ張られる形で連れてこられたらしい
「ストレイドさんの事で、重要なお話があります!」
「重要?」
近くまでやってくる、走ってきたのか、息が少し乱れている
「で、話って?」
とりあえず要件を聞いてみる
「あの、さっきレンジャーさんから聞いた話なんですけど」
そう言って、バニラがレンジャーから聞いた話を話し始める
……………………………………
「そう、彼と面識があったと」
「はい、それで何か、お力になればと思って……」
レンジャーの話、彼と会ったこと、彼が傭兵時代にやっていたこと
情報量としては少ないが、質は十分だ
「リスカム、どう? 何かこう、ピンときたりとかした?」
火消しのようなことをしていた、正義の味方のように
フランカはその話を知らなかった、リスカムも知らなかったかもしれない
聞いてみる、が
「いえ、特には」
そう返されてしまう
「……なんだか、あまり驚いていないわね」
それどころか、驚愕すらしていない
「ええ、知ってる話ですし」
「えっ、知ってたんですか?」
既に調べた後なのか
昨日の話では死告鳥の話も知っていた
存外、フランカ以上に深いとこまで調べたのかもしれない
リスカムが話し出す
「はい、本人から聞きました、昔」
「「へっ?」」
ストレイド本人から聞いたらしい、どういうことか
「あの、聞いたって、本人に?」
「ええ、そうですね」
「ストレイドから? 火消しみたいなことしてたって?」
「はい、正確にはレイヴン以外に上層部の方から聞いた話もありますが」
「上層部、ですか?」
そういえば上層部は彼の詳しい素性を知っている
ストレイドと関わりの深い彼女になら話すかもしれない
「ていうかあの人、聞いて話してくれるんですか?」
ストレイドの口からきいた、その言葉が信じられないらしい
「まあいつもふざけたことしか言いませんが、聞きたいことは大抵答えてくれますよ?」
リスカムが言う
ストレイドは昔からそういう人だ、教えてと言えば、答えてはくれる
だが今回のように本人が言いたくないことはてんで話そうとしない
素直なのか頑固なのか、それとも気分屋なのか
彼と言う人を理解できる者はいるのだろうか
「じゃあ、わたしのこれは徒労ですか?」
「ええ、そうなりますね、残念ながら」
「そんな~……」
バニラが崩れ落ちる、力になると思ってきたのに役に立たなかった
落ち込むのも無理はない
「まあ、レンジャーさんと面識があったことは知りませんでしたし、無駄だった、ということはないので大丈夫ですよ」
フォローを入れる、少々遅い気もするが
「なによ、それじゃあ上層部から辞めた理由も聞かされているんじゃないの?」
何となしに聞いてみる
「いえ、それだけは教えてくれませんでした、誰にも言うなと言われたらしく」
ストレイドに言われたのだろう
どうやら彼の脅しは天下一品らしい
「そう、なら今から奴らに聞くのが早いわね、締め上げてやる」
そういい、上層部に連絡を取るため通信機器のあるとこに行こうとするが
「おそらく、無駄ですよ」
止められてしまう
「なんでよ、知ってるなら、事情を話せば教えてくれるかもしれないでしょ」
「無理です、知っている人が人なので」
「何? 上層部全員が知ってるわけじゃないの?」
「ええ、知っているのはあの人だけですね」
「あの人って?」
「ほら、レイヴンがいつもクソジジイって言ってる人です」
「……あ~、あの人、そう、なら無理ね」
「? あの人って誰です?」
バニラが聞いてくる
「あの人よ、あのいつもむっつりした顔してる、厳格そうなおじいさん」
「大抵の人が当てはまるんですが……」
「まあ、そうね、うん……」
「納得しない」
上層部の人たちはいつもむっつりした顔をしてる
よほど悩ましいことがあるのか、ただ単にそういう顔なのか
そんなことはどうでもいい
「ほら、徒手空拳で何でもかんでも解決しちゃう人、いるでしょ?」
「あ~、あの人ですか……」
BSWの上層部には昔、前線で活躍してたものもいる
中には荒唐無稽な伝説を残したものも
そのうちの一人に素手で戦場に出たものがいる
己の肉体一つで戦場を戦い抜いた男だ
今は隠居しているが、その戦闘力は健在だ
「上層部で唯一、レイヴンが言うことを聞いてた人です、なんでも彼がBSWに入る時のことに関係してたとか」
「知ってるのがあの人だけじゃあ、絶対無理ね」
「……地味にすごいですね、あの人が逆らわないって」
その人物は、ストレイドがBSWに居たことに深くかかわっているらしい
辞めた理由を知っているのも、そのあたりが関係しているのだろう
「あの人、上層部の中でも一番頑固なのよ。たぶん、いや絶対に、話してくれないわね」
「そこは人情家、というべきだと思いますが、あの人、レイヴンの事気に入ってましたし」
「……おかしいですね、脅されてるとかそういう話じゃありませんでした?」
確かに上層部はストレイドに脅されている
口を滑らしたら、次の日には顔面が真っ赤に染まっているだろう
だが、その歴戦の老兵だけは別だった
ストレイドは、彼に対しては敬意を示していた、嫌ってたが
なんでも、嫌いじゃないが嫌いなタイプ、とか
「あの、ちょっと気になることがあるんですけど……」
「なにかしら?」
バニラが聞いてくる
「その、ストレイドさんがBSWに入った理由って何なんです?」
「ああ、そういえば話してなかったですね」
真面目な人の多いBSWで、彼は対極の性格をしている
どうして所属することになったか、リスカムが話してくれる
「簡単に言うと、ハメられて入ったんですよ、彼」
「ハメられた?」
「なんでも偽の依頼をふっかけられて、当時のBSWの最高戦力全員で取り押さえられたと」
「なぜ?」
「ちなみにそれをやろうと言ったのは、先ほどの方です」
「……なぜ?」
「たしか、そのまま野ざらしにしておくのが勿体なかったからと。それで強制的にBSWに所属させたと」
「…………Why?」
「さあ、少なくとも、嘘ではないですよ」
そういって、その話を終わらせる
「まあ、とりあえず事態が進展してないということはわかったわ、これっぽっちも」
「ええ、そうですね、どうしたものでしょう……」
振出しに戻ってしまった、いや、賽の目すら触れていない気がする
すると
「ねえねえ、みんな」
「おや、どうしました、リンクス」
リンクスが喋りだす
「いったいなにをなやんでるの?」
「「「……………………」」」
言えない、リンクスのことについて悩んでいるとは
本来なら言うべきだが彼女の状況を考えると話せない
「別に大した事ではないですよ」
リスカムがはぐらかす
「そーなの?」
「ええ、そうです」
これは、彼女に関係することだが、彼女を巻き込む訳にはいかない
随分ややこしい状況だ
「ねえねえ、りすかむ」
「はい、なんでしょう?」
リンクスがリスカムに話しかける
この二人、何気にまともに話すのは初めてではなかろうか
「れいぶんって、だれのこと?」
「……ああ、そうですね、あなたは知らないんでした」
彼のもう一つの名前を聞く
リンクスは、ストレイドという名前しか知らない
レイヴンという名に聞き覚えがない
「レイヴンとは、ストレイドの昔の名前ですよ」
「すとれいどの?」
「ええ、昔、彼が名乗っていた名前です、いまはストレイドですが」
「へー、そーなんだ」
笑顔でそういう、本当に、笑うようになった
これも、ストレイドの目論見通りなのだろう
「ねえねえ、りすかむ」
「ええ、どうしました」
続けて聞く
「どうして、れいぶんってよんでるの?」
「……それは、そうですね……」
「……………………」
そんなことを、聞いてしまう
フランカとバニラも、気にはなっていた
どうして、レイヴンと呼び続けるか
彼は今、ストレイドと名乗っている
レイヴンとはもう名乗っていない
何か理由があるのだろうと、フランカも遠慮してストレイドと呼んでいた
だがリスカムだけはレイヴンと呼び続けている
聞きたかった、だが聞きずらかった、なんとなく
「別に、大したことではないです」
リスカムが話しだす
「彼は昔、BSWという警備会社にいたんです」
「けいびがいしゃ?」
「はい、人の命を守る、そんなことをしてるところです」
「そーなの? おまわりさんみたいなこと?」
「少し違いますがまあ似たようなものです。それで私とコンビを組んでたんですよ、少しの間」
「こんび?」
「はい、相棒、ですね、大事なお友達といえばわかりやすいでしょうか」
「おともだち?」
「ええ、お友達です」
「りすかむとすとれいどは、おともだち?、なかよしなの?」
「……はい、そうですね、ええ、」
凄い苦虫を噛み潰したような顔で肯定している、よほど嫌だったのか
「それで、昔からレイヴンと呼んでいたんです、そのせいで、今更別の名前で呼ぶのに違和感があったんですよ」
「いわかん?」
「はい、例えば、バニラがいきなり、ソーダ、と名乗り始めたら、変な感じでしょう?」
「……ソーダ」
「アイスの味かしら」
「外野は静かに」
「ばにらが、そーだ」
「ね? 変な感じでしょう?」
「うん、まずそう」
「どうやらソーダ味は嫌いらしいわね、良かったわね、バニラ」
「何に喜べばいいんですか……」
「まあだいたいそんな感じで、ストレイド、と呼ぶのに抵抗があったんです」
「そーなの?」
「はい、そうです、納得してもらえましたか?」
「うん、わかった」
「「……………………」」
どこか、嘘くさい
おかしなところは無いが、リンクスを納得させるために作った話に聞こえなくもない
もっと別の理由がありそうだ
バニラも同じ気持ちなのだろう、微妙な顔をしている
「・・・おともだち」
ふと、リンクスが一人、そう呟く
なにか、引っかかることでもあったのか
「ねえねえばにら」
「え、と、どうしたの?」
リンクスが急にバニラに話しかける
「わたしは、ばにらのおともだち?」
「……うん、そうだよ」
そう言ってくる、どこか、不安そうな顔で
バニラが肯定する
「ほんと?」
「うん、本当、お友達」
「フランカも?」
「ええ、そうよ、大事な大事な、お友達」
「…………おともだち、えへへっ」
フランカも肯定する、それを聞いて、眩しい笑顔を向けてくる
別に、嘘を言ったわけじゃない
だが、これもストレイドの目的なのだとしたら、素直に喜べない
確実に、彼の計画は進んでいる
おそらく狙い通りに彼が消えて受けるショックは致命的なものにはならないだろう
それが良い事、という訳ではないが
「……………………」
「? どうしたのよ、そんなじっと、リンクスを見つめて」
ふと、リスカムがリンクスを見ていることに気が付いてしまう
「……リンクス」
「なーに?」
話しかける
「あなたは、レイヴン……ストレイドの事、どう思ってます?」
「すとれいど? どうして?」
「いえ、なんとなく、聞いてみようかと」
「……えっとね、やさしい」
少し考え、一言そう言う
「……そうですか」
「あとね、かっこいいっ!」
楽しそうに、嬉しそうに、そう言う
「あとねあとねっ! へんなかおっ!」
「……変な顔?」
彼女の中でのストレイドの評価を聞いていたら何かいきなり方向性が変わった
そんな不思議な表情をしてただろうか
「……変な顔、ですか、具体的には?」
その言葉の理由を聞く
「えっとね、なんだかこう、くるしそうな、どこかかなしそうなかおしてる。なんだかこう……わりきれてないような、そんなかお」
「……そうですか」
「そう? 私には薄情というか、軽薄そうな顔に見えるけど」
「ああ、わたしもそういう風に見えます、はい」
フランカとバニラの意見が一致する、が
「私は概ね、リンクスと同じ意見なんですが」
「あら、そうなの?」
リスカムは分かれてしまった
「いや、そんな何かを憂うような人ですか? あの人」
バニラの言いたいことはわかる
自分のやったことに悪気を感じない、そんな気がする
「そうですか? 彼、結構責任とかは感じるタイプですよ?」
「すとれいどは、そんなむせきにんなひとじゃないよ?」
そう言う、彼の傍に居たものにしかわからないことなのだろうか
二人には、一体なにが見えてるのか
リスカムがリンクスに向き直る
「リンクス、彼のことは好きですか?」
「へっ!?」
「あら、大胆」
唐突な事を聞き始める
「そういう意味ではありません。彼の人間性を好きかどうか、それを聞いてるんです」
「あっ、そうですか……」
まあこんな子供にそんなことを聞く理由は、そういう意味しかないだろう
「すき? すとれいどのこと?」
「ええ、彼と一緒にいるのは、楽しいですか?」
「うん、たのしいよ、いろいろとおしえてくれるの、だいじなこととか、おべんきょうとか」
「そうですか、それは良かった」
リンクスの答えに、そう微笑みかける
「ねえ、りすかむ」
「なんでしょう」
「りすかむは、すとれいどのこと、すき?」
「What!?」
「あらあら、大胆」
「同じ説明をする気はないですよ」
今度はリンクスが聞き返す
「すき?」
「そうですね、嫌いではないです」
「……すきじゃないの?」
「いえ、どちらかと言えば好きですが、正直にそう言えるような人ではないので」
「どうして?」
リスカムが渋い顔をする
「……昔、色々ありましてね」
「どうしたの? つれこまれたの?」
「……Oh」
「…………あの人、なんてことを教えてるの」
「後で百発ぐらい殴っておきますか」
「いいわね、ついでに節操のないムスコも切り落としましょう」
「?」
まあ流石にこの子に見える範囲で情事には及んでいないだろう
先ほどのも彼の普段の言動で覚えただけかもしれない
「まあリンクスには関係のない事です、それを抜きにすればあなたと同じ気持ちでしょう」
「そうなの?」
「彼は信頼に足る人物です、あなたが彼を信じる様に」
「そっか、よかった」
「? 良かった、とは?」
その言葉の意図は、なんなのか
「だってりすかむ、すとれいどのそばにいるとき、ずっとおこってるみたいなかおしてるから」
「……まあ、ええ、そうですね」
「子供は騙せないわね」
本当に、彼女は聡い、実はストレイドの計画も見抜いていそうだ
存外、彼が彼女に仕込んでいるのは、この辺りが関係しているのかもしれない
「さて、とりあえず、もう一度情報を見直すしかないですね」
話を切り上げリスカムが状況をまとめようとする
「ああいたいた、リスカム、フランカ、バニラ、ちょっといいかしら」
「おや、ブレイズさん、どうしました?」
ブレイズがやってきた
三人に何か用があるらしい
「何か用かしら?」
「うん、ちょっとしたお話だよ」
彼女から話しかけてくるのは珍しい、だいたいいつも、彼女はドクターの手伝いをしてる
「ドクターがね、ストレイドさん、だっけ? その人と一緒に来てくれって」
「ドクターが?」
このタイミングで呼んでくる、となると用件は限られる
どうやら動き出すつもりらしい
「わかったわ、今呼んでくる」
「まだ食堂にいるでしょう、捜してきます」
「で、バニラは教官からお呼び出し」
「え、あ、はい、了解です、あ、でも」
「わたしはー?」
そうなるとリンクスの傍に誰もいなくなってしまう
「リンクスは、そうですね、どうしましょうか」
リンクスを置いていくわけにもいかない、どうしたものか
「あ、じゃあ私が預かるよ」
ブレイズが進言する
「いいんですか?」
「うん大丈夫、そのあたりを一緒に散歩してるんでしょ? 楽しそうじゃない」
彼女は優しい人だ、預けても問題はないだろう
「わかりました、少しの間、この子をお願いします」
「ええ、任せて」
「リンクス、このお姉さんと一緒にいてね」
「わかったー」
リンクスを預けストレイドを探しに、フランカとリスカムは食堂に向かう
「ところでリスカム」
「なんでしょう」
「レイヴンって呼んでる理由って、何なの?」
「……別に、なんでもないですよ」
「教えてくれてもいいじゃない、相棒でしょ?」
「別に、下らない事です、わざわざ話す理由はありません」
「まあいいわ、気が向いたら、話してくれるかしら?」
「……ええ、その内」
そろそろ本当に二章が終わります
予想以上に長くなりました、まあ場面切り替えで区切っていたのが原因なのですが
もう少しきれいにまとめたいものです
さて、これ以上書くことがありません、困りものですね
ラップランド
ソープランド
ソ ー プ ラ ン ド