アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里 作:Thousand.Rex
一刀、上段で振り下ろす
それを躱され、銃口を顔に向けられる
引き金を引かれる前に横に逸れる
銃声、頬を鉛玉が掠めていく
そのまま上半身に向けて薙ぎ払う
男が大きく身を反らして避ける、そのまま後ろに回転して下がる
「……まるで曲芸師だな」
「なんだ、サーカスは嫌いか」
斬って、突いて、払って、その都度軽い身のこなしで躱される
「ほら、突っ立ってないで動け」
もう一度銃口を向けてくる、見える様に
発砲、四度、リズム良く撃ってくる
それらをすべて弾き、接敵する
やや前傾姿勢をとる、剣は下段に構える
「フッ!!」
一息で懐に潜る、一閃、男の胴を泣き別れにするつもりで振る
それを
「甘い」
蹴りで軌道を狂わせられる、剣は胴よりはるか上、男の頭上に飛んでいく
身をひねり、上げた足をそのまま突き出す、蹴るのではなく、拳で打つように
体に達する前に間に片手を滑り込ませてクッションにする
防ぎ、衝撃を逃すために後ろに跳ぶ
「ふむ、それなりに修羅場はくぐってるらしいな」
「……………………」
追撃することもなく男が喋る
先ほどからこの調子だ、相手は攻めれるタイミングで攻めてこない
今も、撃てば命中していたはず
「……………………」
「お、随分熱い視線を送ってくるな、野郎にモテたくはないんだが」
挑発か、それともただの減らず口なのか
様子見ともとれるその行動はなんのためか
何を考えているのかわからない男だ
「……………………」
「……受け答えぐらいはしてくれないか? かえって不安になる、男と寝る趣味はないんだ」
「……貴公、何を考えている」
「というと?」
いつの間にか集団に合流し、いつの間にか消えていた男
黒い髪、赤い目、そして外見では人種を判別できない謎の多い男
「目的は何だ、我々を殺しに来たのではないのか?」
男の後ろを見る
BSWの制服を着た兵と白髪のフェリーンの少女が同士と戦っている
敗れたものは地に伏せている
だが不可解なのは皆、動けない程度に痛めつけられているだけということ
死人はいない、この場には
「先の行動と比べると辻褄があわない、殺傷目的の罠に対して戦闘は無力化優先
貴公らの行動は矛盾している、何を目論んでいる」
だが前の爆発で多くの人が死んでいる
爆発に巻き込まれたもの、その後の崩壊で圧死したもの
やり方が違う、人命を重視しているのか、それとも逆か、もしくは効率的なのか
戦闘指揮を執るものの行動と先ほどの罠は別人が考えた様に見える
そして罠を仕掛けたのはこの男、情報を流したのも男のはず
こうも違いがあるのはなぜか
「なんだ、そんなことか」
「立案者は貴公ではないのか」
「ああ、違うくはないが、違う」
「……………………」
「今ここに来てる面子はロドスとかいう製薬会社だ、俺以外は」
「雇われたのか」
「いや、お手伝いだ、ここの情報を流しておいて、はいさよならって訳にもいかんだろ?」
「……………………」
「ロドスのトップはお優しいらしい、お前たちを殺すつもりはないと、甘い奴らだねえ、そう思わないか?」
どこかわざとらしく言う
どうやらこれはロドスの仕業らしい
あの感染者の軍勢をもつ、レユニオンにいた時に幾度か刃をあわせた組織
同じような構成で、目的も、やり方も正反対の集団
確かに彼らなら無為な殺しはしないだろう
そこに流した理由はわからないが矛盾している理由はわかった
「……それで、貴公も今はそれに従っていると?」
だが罠を仕掛けたのはこの男、しかし他と同じように殺してはいない
積極的に攻めてこないのも決定的な一撃を与える為だろう
死なさない範囲のダメージを与えるための隙を作るために
「そうだ、今は、な」
「そうか、なら、あれは」
「爆発の事か、決まってる、あれは殺すために仕掛けたものだ、俺の独断で」
「……………………」
「さて、謎解きは終わりだ、ほらこいよ、仇は目の前だぞ?」
手を招いてくる、かかってこいと
「……なるほど、殺しに来い、ということか」
男が不敵に笑う
素直に憎むべきか、感謝をするべきか
俺を恨め、ということだろう
仲間を殺されたことに
怒りを、積もった怨嗟を、吐きださせてやるとでもいうのか
「いいだろう、ならば殺す、覚悟しろ」
「きな、ヴェンデッタ、せいぜい遊んでやる」
地面を蹴る、男に向けて一直線に飛んでいく
突きを放つ、鋭く、素早く、最短で
横に避けられる、銃口を向けてくる
踏みとどまり肘を曲げる、直角に体の動きを変える
銃に向けて肘打ちを飛ばす、剣を振るだけが剣士ではない
男がこちらの狙いに気づき銃を下げて少し下がる
「もらったっ!!」
「残念」
肘打ちの体制から片手で水平に剣を振る
それ読んでいたのか、向かってくる剣を銃床で腕ごと上に弾かれる
軌道が逸れる、剣を持った手は頭より上に上がる
男が拳を握る、打つつもりだろう
だがそれを打たせるつもりはない
「取ったぞ、傭兵」
残った手で剣を掴み、上段の構えに無理やり移行する
振り下ろす、男も攻撃に移っている、相打ちになるがこちらは斬撃
同じ一撃でもこちらが重い、その後の有利はとれる
読みには勝った、これで仕留められなくとも男の気勢はそげる
「残念と言ったはずだが?」
「っ!?」
男が足を踏み込みほぼ密着し、銃を持つ手をこちらが振り下ろす前にぶつけてくる
打撃の為ではなく抑える為に
振り下ろしが中断される、だが相手も動けない
ここまで近いなら効果的な打撃は打てない、銃も撃てない
少し距離を離せば持ち直せる
体を離そうと一歩下がる
「そいつは悪手だ、復讐者」
男が動く、こちらの一歩に合わせ前に出る
同時に体全体をひねる、男がぐるりと回る
背の半分を向けてくる、逃げるためではない
これは、攻撃だ
「ッ!? ぶっ……かっ!」
体当たりをするように背をぶつけてくる
最小限の移動距離で、最大の勢いを乗せて
見たことはない、だが聞いたことがある
どこかの国で動きのタメが極端に小さい武術があると
鉄山靠、これはその武術の基礎といわれる技だ
胸にあたる、肺と心臓が一瞬止まったような感覚に陥る
酸素が吐きだされる、足が止まる、体が上手く動かない、そのくせ意識だけははっきりしている
男が足をあげる、膝を曲げた状態で体の中心に持ってくる
そして突き出す、先ほどのように体全体をひねり回転のエネルギーを乗せて飛ばしてくる
「ぎっ…………がっ!!」
鳩尾にあたる、骨が軋む音がする、声にならない悲鳴が上がる
後ろに勢いよく飛ばされる、倒れないように踏みとどまる
続けて銃声、一度だけの音、少なくともそう聞こえた
片足に痛みが走る、膝のあたり、関節部位だろう
力が入らずに後ろに倒れる、上半身だけでも身を起こす、撃たれた傷を見る
痛みを感じるところには弾創があった
だがおかしい、銃声は一度、にもかかわらず傷口は複数
膝に四つ、穴が穿たれている、そこから遅れて血が流れだす、四つ同時に
「……これは、どういうことだ」
巧みな技からの不可思議な現象
自分の身に起きたことだとういうのに理解ができない
「なに、タネは簡単」
男が喋りだす、銃を回しながら、不敵に笑いながら
「ただの早撃ちだ、速いだけの、な」
「これほどとは……」
戦場から少し離れた通信車両の中でドクターは一人、そんな感想をこぼしていた
車両の中にはモニター、そこにはドローンを介して戦場の映像が映っている
モニターには倒れるアヴェンジャーと彼を見下ろすストレイド
「ドクター、彼は一体……」
隣には通信オペレーター、ドクターの補佐をするためにいる
他にも護衛の為の職員が何人か配備されている
もしもの時の保険だと言われアーミヤに付けられたロドスの無名のオペレーターだ
彼らは戦場で戦うものが安心して戦えるためのサポートを担っている
「映像解析、終わりました」
「ありがとう、見せてくれ」
他に車内で待機していた職員のもとに向かう
そこには先ほどのストレイドとアヴェンジャーの戦いが映っていた
熟達した武術に注意深く聞かなければ勘違いするほどの射撃
それらをスローにしたものとアーツ反応があったかどうかのレーダー
「反応、ありません」
「そうか」
確認したかったのは件の射撃
あれは一瞬の間に四発撃っていた
気づけたのは運がいい、ドローンのマイクの性能が良かったのだろう
あの時、射撃音が重なって聞こえた、早撃ちが得意と言っていたが速過ぎる
もしやアーツを使ったかと思ったが反応はない
反応がないということは自力でやったということ
「これ、人間業じゃないですよ」
「ああ、だが彼は実践してみせた、恐ろしい話だが」
アップになったスローの映像にはストレイドが四度引き金を引いているのがわかる
指は一度も引き金から外れていない、細かく、最小限に、最速で動かしている
銃の方も早撃ちに合わせているのか、規格品より次弾の装填が早い
スライドが忙しなく動いている、排莢はぎりぎり間に合ってるぐらいか
「一芸を極めた、とはこういうことか」
「芸、ですか」
「ああ、殺人的だがな」
なにより恐ろしいのは銃口を向けてから撃つまでのタイムラグがないということか
少ないのではなく、存在しない
よほど修練を重ねたのか、それともその領域に至る必要があったのか
常人では避けれない
「これ、最初の方はブラフですか?」
「そうだろう、でなければ初撃からやっているはずだ」
そして、彼は得意を活かす方法も知っている
最初にあえて見えるように撃ち、その速度にわざと慣れさせる
それで慣らさせた相手に本来の速度で繰り出せばまず引っかかる
「だが銃だけではない、彼は武術にも精通している」
「剣って、あんなにひょいひょい弾けるんですね」
「真似をしようとは思うなよ?」
「できません、あんな事」
後ろから別の前衛オペレーターが覗き、感想を言う
早撃ちにも驚いたが接近戦でアヴェンジャー級を圧倒させたのもふざけた話だ
奴らを一人で相手取るなど、ロドスのエリートオペレーターでもそうはいない
へラグかシルバーアッシュか、前衛のとりわけ優秀なものしかできないだろう
そもそもあの鋭い剣技を素手で弾くなど、原理では出来ても誰もやろうとはしない
「これって、映画とか本とかでよく出る武術ですか?」
「ああ、実物は私も初めて見た」
クンフー、だったかハッキョクケン、だったか
実名は知らないが隙の少ない技だったはず、実戦的な格闘術とも
「あの連撃から撃たれたら避けれませんよ」
「というか、誘い込むとこからやってるのか」
「これであんなにやらしいことばっかり言わなければ素直にかっこいいと思えるんですがね」
職員たちがストレイドの戦いの感想を言いあっている、戦闘中なのだが
まあ気持ちはわかる、まるでびっくり人間大賞でも見させられた気分だ
「あ、ドクター、ここ少しだけ反応があります」
「どこだ?」
「この、背中ぶつけたとこです」
体当たりのところで微かな反応がある
加速紛いと言っていた、威力を増すために使ったのか
「……紛い、か」
紛い、加速のようなもの
つまり加速とは違うということ
『嘘は嫌いだとも言った』
少し前に言ったこと
あの言葉通りなら本当なのだろう
もしかしたらモスティマのように時間認識を狂わせるものかと思ったがそうではないらしい
「他に、何かわかったことは?」
「いえ、特には」
「わかった、引き続き調査を」
「了解です」
ドローンのモニターに戻る
『さて、痛い目みたのはそっちだったな』
ストレイドがアヴェンジャーに話しかけている
アヴェンジャーは倒れたまま、上半身を起こしている
『レイヴン、終わったならこっちに』
リスカムが近くで数人を相手に孤軍奮闘している
「……レイヴン、カラスか」
レイヴン、彼の昔の名前
意味はカラス、あの空を飛ぶ鳥だ
黒い羽に、不気味な鳴き声
その姿に人はさまざまな言い伝えを残している
あるものは神の使いと
あるものは凶兆の前触れと
そしてあるものは、死を告げるものと
レイヴン、死告鳥、数年前の戦場のデータに少ないが情報があった
戦場に突如現れ、そしていつの間にか消えている
残されるのは、死体だけだったと
過去にロドスが交戦したことはないらしい、顔はわからない
だが彼がその人物だということは確かだろう
「……何事もなければいいが」
この胸騒ぎは、杞憂だろうか
彼は、信頼に値する人物か
一応こちらの言う通り今のところは不殺を決め込んでくれている
あのアヴェンジャーに対しても無力化を優先した
『ドクター、こちらはそろそろ終わりそうです』
アーミヤの声が聞こえる
『こちらもだ、デカいのとやらは見ていない』
チェンの方も終わりかけているらしい
「わかった、ストレイド、そちらは」
『あ? 片割れなら目の前で転がってるぞ』
『ならこちらを、おしゃべりはそこまでに』
『ストレイド! サボってないで働きなさい!!』
『失礼な、ボス戦を終わらせたってのに労いのねの字もないのか』
『……おかしいですね、アヴェンジャー相手に息一つあげてないなんて』
『は~、凄く速かったです』
『はやうちならわたしもできるよー』
『え? ちょっ! はやいっ! くるくるがはやいっ!』
『……ねえ、ライフルは両手で撃つものじゃなかった?』
『はい、そうですね』
『両手より片手の方が速いってある?』
『今、目の前で実証されています』
『リンクス、銃を痛めるからあまりやるなっていったろ』
『む~……』
「……………………」
一番人数が少ないのに一番平和な気がする
「ストレイド、ホントにリーダーは二人なのか?」
『ああ、もう一人確実に居るはずだ、デカブツがな』
「その割には見当たらないが」
『そうだな、数も少ない、あの妄信的な奴らもいない、マジで計算間違えたか?』
「奴ら?」
『まあいい、どうせ話のわからん奴だ、捕まえるならこいつだけだ』
「いや、あの、奴らとは?」
『気にするな、出てこないに越した事はない、鉄仮面、どこにいる?』
「……チェン達の、後方に車両が何台かある、君の車もあるとこだ」
『わかった、先にこいつを連れてい――』
「どうした?」
ストレイドがいきなり黙り込む
『いやなに、大した奴だと思ってな』
「ドクター、アヴェンジャー、立ち上がりました」
モニターを注視する、そこには
「……一筋縄ではいかないか」
闘志を燃やす剣士がいた
少し投稿が遅かった気がするのでもう一つ
意外とさっくり終わってしまいました、もっとこう、濃い描写にできませんかね
ところでアークナイツの世界って炬燵があるんですよ
炬燵という単語があるなら刀って単語もあるんですかね、侍はともかくとして
そのあたりはキャラのアーカイブを見ればわかるんですかね
追記
刀あるやんけ(カッターのセリフ見ながら)