アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里   作:Thousand.Rex

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救われぬ憤り

「足、痛むんじゃないか?」

 

剣士に語り掛ける

 

「休んだらどうだ、楽になるぞ」

 

その相手は、何も応えない

 

「こっちは手荒な事はあまりするなって言われてるんだ、これ以上の加減は出来ん」

 

剣を支えに立ち上がるアヴェンジャー、その眼に諦めは感じ取れない

 

「止まれよ、そろそろ、疲れるだけだぞ?」

 

「……断る」

 

碌に力の入らない足で構えをとる、傷口から血がこぼれる

 

「無理するな、その足で勝てると思うか?」

 

「……勝ち負けではないのだ、傭兵」

 

「そうか」

 

「これは死合だ、勝負ではない、殺戮だ」

 

剣士は止まらない、ストレイドに視線を向ける

怒りを、憎悪を、覚悟を乗せて

 

「この世界への、不条理な病への、虐げられることを許した自分への、復讐なのだ」

 

男の眼には炎が揺らいでいる、その熱は悪人が抱くようなものではない

正義と言っても差し支えのないもの、死なすには惜しい、だが

 

「ここで、生き永らえるわけにはいかない、死ぬまでだ、私はまだ、戦える」

 

止めるなら、殺せ、それがこの男の言い分だ

意固地になっているわけではない、自棄になっている訳でもない

これが、この男の抗い方なのだろう

終局を見いだせない鉱石病に、それらを振りまく天災に、止むことのない迫害と差別に

化け物などと呼ばれて、故郷を追われたものや、最愛の人から離された者もいるだろう

この感染者の集団は被害者の集まりだった

彼らを真の意味で先導していたのはこの男だ

彼の言葉には力を感じる、人を惹きつける類の物

この集団の中で誰よりも優しく、誰よりも仲間を想っている

その心は善人だ、そうでなければ後を付いてくるものはいない

だからこそ、今回の件で責任を感じているのか

止められなかったことに、己も賛同せざるをえなかったことに

 

「哀しいな、あんた」

 

「同情など、意味は成さん」

 

「もっと別の、違う形で会いたかったもんだ」

 

「そんな事、今更嘆くことではあるまい」

 

この剣士はわかっている

彼らの怒りの向く先は正しくないと、その矛先を向けるものがこの世に存在しないことを

それでも憎まずにはいられなかった

そうしなければ心が壊れることがわかっていたのだろう

 

「いいだろう、ならわからせてやる」

 

その感情は真っ当なもの、人だから抱けるものだ

そして、それを理解したうえで塞き止てやれるのは壊れた人だけだ

 

「それなりの覚悟はしておけ、ヴェンジェンス」

 

銃をしまう、構えをとる

手を開き、片方を前に、その少し後ろにもう片方を

重心を後ろ脚に、前足は軽く持ち上げる

 

「覚悟など、とうに出来ている」

 

自分の体に意識を向ける、体を蝕む石のかけらに

 

「なら、ついでに死ねるように祈っておけ」

 

光がちらつく、黒い火の粉が燃え上がる

 

「……何に祈れというか」

 

復讐者が剣を後ろに下げ片手に添える

 

「決まってる、誰も救わない神様にだ」

 

 

 

 

 

居合いの構えをとる

鞘はない、代わりに手で刀身を抑える

どうせ片手で振る技だ、大した違いはない

目の前の男に意識を集中する

男の体には光が纏われている、おそらくアーツだろう

足が痛む、片方を潰され、歩くことはままならない

避けることもできない

だが男は銃をしまった、構えをとった

接近戦、先ほどの武術だろう

あくまで殺すつもりはないらしい

気絶か、もしくは腕を折るつもりか

なんにせよ奴は近づいてくる

その一瞬でかたが付く

無論ただで終わるつもりはない

最速の剣技をもって奴を切り伏せる

男の光が手に集まっていく

黒く、何処か禍々しい光

男はアーツユニットを介さずにアーツを使っている

そして、あんなアーツは見たことはない

光を自在に扱う所を見るに、奴も感染者か

どんなものかはわからない、一部の動きも見逃せない

 

「……いざ」

 

「――――フッ!」

 

走る、真正面から近づいてくる

地を滑りながら、最短距離で

間合いに入る、十分に届く間合いだ

抜刀一閃、いかに奴の反応速度が早かろうといなせるものではない

見てからでは間に合わない、動こうと思った時には剣は奴の命を断っている

 

剣を抜く、男の首に向けて

 

刃が伸びていく、男の視線が剣を捕らえる

 

男の手は剣に向かっている、弾くつもりだろう

 

だが間に合わない、人の反射神経では抑えられない

 

剣が首に到達しようとする

 

その時、男が笑う

 

「知ってるか、復讐者」

 

男の手が光る、正確には纏った光が

 

光から粒子が迸る、周囲に拡散させるためではない

 

手の動きとは反対、まるで何かの噴出機構のように噴き出される

 

それは運動エネルギーでも生んでいるのか

 

男の手が不自然に加速する

 

首を切り落とす前に剣に手が到達する

 

「その手の細い剣は横の力に弱いんだ」

 

剣を持つ手に衝撃が走る、同時に何か金属が折れたような音

 

腕が強い力で上に持ち上げられる、体全体が上に持ってかれ、大きな隙ができる

 

半ば万歳でもしているような恰好だ

 

「ボディがガラ空きだ」

 

大地を強く踏みしめる、黒い光が再び男を包む

 

背を中心に集まっていく、男が構える

 

片方の肩をこちらに向け、反対側の手を猫の手のように開く

 

一歩、足を踏み出す、同時に体の向きを入れ替える

 

反対側の手をこちらに突き出す、ひねりながら

 

黒い光が先ほどのように噴出する、加速する

 

掌底、爆発的な速度を乗せて飛んでくる

 

鳩尾に、まっすぐに

 

直撃する、肺が圧迫される、心臓が一瞬止まる

 

骨の砕ける音がする、肋骨がやられたか

 

男の手は胸にめり込んでいる

 

体が曲がる、足が地についていない

 

「チェックメイトだ、しばらく寝てろ」

 

突然男の手の感触がなくなる、男が遠くなっていく

 

離れたのではない、離されたのだ

 

体が後ろに吹っ飛んでいる、風切り音が耳に響く

 

男がこちらに手を振っている、笑いながら

 

「……終わらせては、くれんのか」

 

後頭部に硬いものが当たる

 

アヴェンジャーの意識は、ここで落ちた

 

 

 

 

 

 

『へ? なんです? 今の』

 

バニラの声が聞こえる

 

『……吹き飛んだ、後ろに』

 

ジェシカの呆然とした声が聞こえる

 

『あなた、今、変な動き方したけど……』

 

フランカがレイヴンに話しかける

 

「なに、手の速度を加速させて、剣を弾いて、そのまま十八番を打った、それだけだ」

 

大したことではないと、そんな風に言う

彼の視線の先には、掌底を打ち込まれ吹っ飛んでいったアヴェンジャー

一瞬の間の後、撃ちだされたかのように勢いよく飛んでいった

まったく馬鹿げた武術だ、誰がこんなものを彼に教えたのか

 

「本当に、応用が利くようになりましたね」

 

「まったくだ、おかげで弾薬代が浮く」

 

銃を取り出し、こちらに向ける

 

「がっ!」

 

「いっ!?」

 

「……ありがとうございます」

 

「礼には及ばん」

 

相手取っていた兵の足を撃ちぬく

転んだ兵から離れて周囲を確認する、動く影は見当たらない

 

「フランカ、そちらは」

 

『こっちも誰もいないわ、敵影なし』

 

後ろを見る、フランカ達の方には敵はいない

 

『すとれいど、おしごとおわり?』

 

「いや、後は寝てる奴らを縛って運べ、終わりはそれからだ」

 

『はーい』

 

リンクスが元気良く返事をする

 

「さて、生きてるかなっと」

 

レイヴンが倒れたアヴェンジャーに近づいていく

その近くには、折れた剣が転がっている

 

「……折ったんですか? 素手で剣を」

 

「ああ、といっても細身の剣だから出来た話だ、普段からやってるわけじゃない」

 

構造上、かなり脆い造りなのは知っている

切れ味と、それを活かすためのスピードを生み出すための流れるような刀身

自分の盾でも横から殴ればできるだろう

ただそれは、相応の質量と威力を必要とする

レイヴンは盾のような重く、鈍器になるようなものは持っていない

にもかかわらず折った、しかも素手で

加速させた、とは言っていた、それでも素手で出来ることではない

足りない質量を速度で補ったというところか

アヴェンジャーの最後の剣は酷く速かった、見切ることは難しい

その軌道に合わせたのか、相手の鋭い剣筋も利用したのだろう

速度が大きければ大きいほど衝突時の反動は大きい

 

「レイヴン、手は平気ですか?」

 

「ん? ピリピリする」

 

「無茶をしますね」

 

「仕方ない、殺すなってオーダーだからな」

 

見誤れば死んでいたかもしれない、片手を失くしていたかもしれない

そんな危険を冒してまで動くのはこの男の悪癖なのか

 

「あなたの事だから妥協して撃つかと思いました」

 

「なんだ、死体が見たいか?」

 

「……そういうわけではありません」

 

仕事だから、命令だから

言われて仕方なく殺さない

別に殺しが好きという訳でもないだろうに

なぜこう誤解させるようなことばかり言うのか

 

「いいじゃないか、ここでこいつを殺してたら言うこと聞かなきゃいけないのはお前だぞ?」

 

「そのチャレンジ、取り消せませんか?」

 

「駄目だ、乗ったのはお前だ」

 

『ストレイド、状況を』

 

ドクターが通信を入れてくる

 

「見ての通りだ、片割れは潰した、重要参考人だ」

 

『わかった、他も残党を狩っているような状態だ、余裕があるなら周りの援護を』

 

「まあまて、デカブツが見当たらん、そこらの奴らの介抱もしなきゃならん」

 

『そうだが戦いは終わっていない、負傷兵の治療はあとで出来る、今は戦闘の終了を―――」

 

ドクターとレイヴンの会話の最中、異音がした

 

『うわっ! なんですかっ!』

 

『今のは、爆発ですか?』

 

爆発音、かなり近い

すぐ近くのビルの残骸、かろうじて面影を残すコンクリートの塊

その下層部の外壁に、煙が巻き上がっていた

 

『ちょっと、まだ爆弾残ってたの?』

 

フランカがレイヴンに文句を言う、だが

 

「……………………」

 

彼は何も言わず、煙の先を見る

 

「レイヴン、今のは」

 

「ああ、俺のじゃない、各員、構えろ」

 

『何があった』

 

「このパーティのホストだ、よかったな、本命だぞ」

 

盾を構える、銃口を煙に

レイヴンも隣で銃を構える、その視線は、アヴェンジャーに向けられている

 

「どうしました、アヴェンジャーは動けないはずですが」

 

「いや、ここに置いとくのは邪魔かもしれないと思ってな」

 

「? どういうことで――――」

 

瞬間、何かの噴出音

音源は、煙の先

そこから人の頭ほどの大きさの塊が飛んでくる

 

「なっ!」

 

「ッ! クソッタレッ!」

 

物体を見た瞬間、反射的に体が動く

レイヴンと一緒に気絶したアヴェンジャーに駆け寄る

その近くに塊が着弾する

 

『ちょっ!』

 

『先輩っ!』

 

『リスカム! ストレイド!』

 

『…………もえてる』

 

焦げた空気が辺りに広がった

 




アーマードコアを知らない人の為に軽く解説を
ヴェンデッタ、ヴェンジェンス
この二つは復讐者という意味の言葉です
前者はイタリア語、後者は英語
アークナイツで出てくるアヴェンジャーも同じ意味を持っています
上の二つはACのある作品に出てくる機体名で皆大好きデロリアンを搭載してます
あとその続編でも腕部パーツで同じ名前のものが存在します、中々の素敵性能です
ACのサントラにも同じ名前の楽曲があるので興味がある方は聞いてみてください















『扱いずらいパーツとかって話だが、最新型が負けるわけねえだろ』

『行くぞおおぉぉあ!!』
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