アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里 作:Thousand.Rex
事の始まりはなんだったのだろうか
暗い荒野を歩いていた、一人で、あてもなく
荷物も何もない、手ぶらで歩いている
どこに行きつくかはわからない、行きつけるかも
ただ歩く、止まってはいけない気がして
立ち止まったら、誰かの願いを裏切ってしまう気がして
誰もいない荒野を歩き続ける
「……………………?」
すると一台の車が近づいてくる
武骨な見た目の車、舗装されていない道を走る為だろうか
かなり厚いタイヤをつけている、そのせいで車高が高く運転席が見えない
目の前で止まる、男が降りてくる
「よう、こんなところで散歩か? チビ」
黒い髪に紅い目、黒いジャケットを羽織った男
真っ黒い人、それが最初の印象だった
「良くないな、ここら辺は荒れてるぜ、遊歩道代わりにするには適してない」
「……だれ?」
この人物を自分は知らない
今まであったことはない筈、その割には馴れ馴れしい
「おっと、名前を聞くときは自分からって言われなかったか?」
「……だれに?」
「親御さんだ」
親、おや、言葉を聞いてもパッとでてくる人物がいない
なにより、何故かその言葉に現実味がない
「…………おや」
「ああ、お前さんを育てた人だ」
「……………………」
単語の意味は理解できる、だがそれに連なる人物が記憶に見当たらない
「どうした?」
「……わたしの、おやはどこ?」
「さあ、初対面のガキの家族の事なんかわかるわけがないだろ」
そういって男は遠くを見やる、振り向いて同じ方を見る
見えたものは、遠くで立ち上がる煙、その下で赤く燃える何か
「…………もえてる」
「そうだな」
「なにがもえてるの?」
「燃えてはいけないもの」
男の顔を見る、そこには
「……ないてるの?」
「まさか」
酷く、悲しそうな顔が映っていた
「……チビ、どうしてここにいる?」
「ここ?」
「そうだ、どうして荒野に一人ぼっちでいるんだ」
「……………………」
考える、自分がなぜここにいるか
だが何も出てこない
そも記憶自体がおぼろげだ
ついさっき、男の車が見える直前までの事しか思い出せない
自分はどうしてここにいるのか
「わからない」
「何がだ」
「どうして、ここにいるかが」
「そうか」
思い出せない、それがどういうことか
忘れてしまったならばまだわかる、それはその程度の事柄だったということ
だがこれは違う、今までの人生全てを思い出せないのは忘却ではない
「……おもいだせないの」
「何がだ」
「じぶんが、だれだったか」
「……そうか」
思い出したくても思い出せない
記憶の棚を開けようとすると手が止まる
無理矢理にでも動かしても、今度は棚自体が遠ざかる、そんな感じだ
これは、思い出していけないと、そういうことか
この事実を受け入れることが自分にはできないということなのか
「……………………」
「チビ、一つ聞きたい」
「なに?」
今更記憶の混濁に気づいた自分に驚きながら男の声に耳を傾ける
「どっからきた、どうやってここにきた」
「どうやって……」
どうやって、それならばなんとかわかる、これ以外に移動方法はない
「あるいてきた」
「シンプルだな、まあそれしかないか」
男が自分の足を見る
何も履いていない、裸足だ
土にまみれ、所々擦り切れて血が出ている
「どうして歩いてたんだ」
歩いていた理由、何故だったか
誰かの声が頭に響いた
「……あるけって」
「……………………」
「ふりむかずにあるきなさいって、いわれたの」
優しい声、誰だったかは思い出せない
だがここまで歩いてきたのはそれが理由のはずだ
「なるほど、それで言われたとおりにしてたと」
「……うん、たぶん」
男がもう一度煙を見る
「チビ、疲れてないか?」
「……なにに?」
「歩くのに」
突然の問いかけに戸惑いながら答える
「……つかれてない、だいじょうぶ」
「フラフラしてた気がするが」
「だいじょうぶ、まだ、あるける」
正直辛い、足は棒のようで、傷口はジンジン痛む
それでも歩くべきだ、歩かなくてはいけない
誰かの最後の願いを叶えるために
「……わかった」
男はそう言い近づいてくる
そして
「わっ!?」
「疲れてるなら、休むべきだな」
問答無用でこちらを担ぎ上げる
「お、おろして……」
「断る」
じたばた暴れる、だがどうにもならない
運ばれるままに運ばれて行く
「わたし、とまっちゃだめなの」
「ほう、でも休め」
「へぶっ!」
そのまま車の荷台に放り投げられる、すぐに降りようとする、が
車の車高は高い、降りるには飛ぶ必要がある
この足でそれができるか、いやできない
おそらくは着地時に踏ん張りきれずに転ぶ
転んだところでまた男にここに戻されるだろう
実質閉じ込められたような形になる
「ここにいろ、俺は少し用がある」
「いや、わたしはあるくの」
「歩く前に靴を履け、あと長旅できるように荷物もだ」
「でも――」
「くどい、そんな死に体で荒野を闊歩できると思うな」
「……それでも、あるくの」
反論にならない反論
このまま歩けばどうなるか、自分のような子供でも予想はつく
それでも、立ち止まってはいけないと半ば強迫観念に似たなにかに突き動かされる
なんとか降りようと模索していると男が諭すように話しかけてきた
「歩きたいなら、歩き方を覚えろ」
「……あるきかた?」
「ああ、正しい道を歩くための歩き方だ」
男の言葉に、妙な力を感じた
「お前に道を歩く方法を教えてやる、いつか、お前にそれを願ったやつが報われるように」
「…………ねがい」
「そうだ、チビ、お前の背に乗ってるものは存外重い、今のお前じゃ背負いきれん」
その言葉に、なぜか哀愁を感じた
「せめて一人で背負えるようになるまでは俺の傍に居ろ、俺と歩け」
最後の言葉に、酷く寂しい善意を感じた
「……あるいてくれるの?」
「ああ」
「いっしょに?」
「しばらくは、だ」
誰かが傍にいてくれる
そう聞かされ、理解したら力が抜けた
抵抗する気も失せた、荷台の中で座り込む
きゅるるるる
「あっ」
「お?」
ついでに腹も鳴ってしまった
「なんだ、腹減りか?」
「……うん」
それなりに切羽詰まっていたのか、空腹にも気が付けなかった
「オーケーだ、そこらへんに固形食糧やらお菓子やら色々ある、適当に食ってていいぞ」
「……いいの?」
「数だけは無駄にある、好きなだけ食え」
荷台の中を見渡す、暗くてわからないが荷物がごちゃごちゃ散らかっている
その中に小さなビニールで包装されたものが見える
「これ?」
「それ」
包装を剥がす、中から黒いような茶色いような棒が出てくる
甘いにおいがする、おいしそうだ
かじりつく、サクサクと小気味いい音がする
「美味いか?」
「あまい」
そのまま夢中でかぶりつく
「よろしい、じゃ、おとなしくしてろ」
男の言葉と、突如湧いた黒い光に反応し目を向ける
「………………?」
だが、そこにはもう男はいなかった
「……あ」
そして大事なことに気が付く
「あのひとのなまえ、きいてない」
これが、ストレイドとの出会いだった
そろそろ終わると思っていたらまた長引きそう
トントン拍子に終わらせるつもりだったんですがなんだか味気ない気がしてやめました
一章程度の規模で終わるつもりだったんですがね、まあゆっくりやります