アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里   作:Thousand.Rex

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山猫

それからは二人で旅をした

 

「リンクス、地図取ってくれ」

 

「ん」

 

「サンキュー」

 

行き先はストレイドが決めてその後をついていく

 

「お、見ろよ、随分長い行列じゃないか

 

「どうしてあんなにならんでるの?」

 

「なんでも、有名なグルメスポットらしい」

 

いろんな都市を二人で回った

 

「……あんまりひとがいない」

 

「そりゃまあ、ゴーストタウンだからな」

 

華やかな所から、廃れた場所まで

楽しいこともあったが、時には寂しい時もあった

 

「悪いが、しばらく一人で待っててくれ」

 

「わかった」

 

行った先ではよく、一人で待たされることがあった

それが何故か、最初はわからなかった

聞いてみたら

 

「仕事だ」

 

そう言われた

なんの仕事をしているのかは聞かなかった

 

「待たせたな、ほれ、遊びに行くぞ」

 

「うん」

 

それでも最後には戻ってきてくれた

彼は一緒にいてくれた、色んなところに、一緒に歩いてくれた

 

 

 

そんな日々を重ねるうちにストレイドのある特徴を覚えた

 

 

 

「……けむたい」

 

「ん? ああ、悪い、煙草の吸い過ぎだな」

 

荒れ果てた大地に車を停め、休憩と称し彼と惰眠を貪っていた時

なんとなく、抗議した

 

「……………………」

 

「そんな目で見るな、これでも吸う回数は少ないぞ」

 

彼は運転席で寝っ転がり煙草をふかしている

その様子を荷台のあてがわれたスペースから眺めていた

車の中には煙草の煙が充満している

窓は一応開いている、だが排出が間に合っていない

煙草の独特なにおいが鼻につく

 

「けむたい」

 

「煙草ってのはそういうもんだ」

 

もう一度抗議する

だがこれは煙草に対してのものではない

体臭と言うべきか、彼の体からは煙の臭いがする

それは、煙草とは違う、異質なもの

火が燻ったような、焼けたような臭い

 

「……………………」

 

「……そんな純真を形にしたような目で見るな」

 

そして、それに隠れる様に微かに香る鉄の臭い

きっと、鉄ではない、彼の体は鉄で出来てはいない

 

「……すとれいど」

 

「わかったわかった、せめてもう少し数は減らす努力はする」

 

「……うん」

 

一人でどこかに行って帰ってくると、その臭いは濃くなっていた

それが何を意味するか、彼に問いていいのだろうか

 

「なんだ、まだ何か言いたいか?」

 

「ううん」

 

「ならじっと見るな、人の顔なんざ面白くはないだろ」

 

聞けば、答えてくれるだろう

彼は嘘はつかない、不必要な嘘は

そして、この問いに虚偽で答えることを彼は好まないだろう

話してはくれるはず

だが聞いたところで何かできるわけでもない

これは、彼の仕事に関することだ

 

「……つぎは、どこいくの?」

 

「チェルノボーグだ、なんでも楽しい騒ぎがあったらしい」

 

「そう、わかった」

 

車の運転席で寛いでいたストレイドが起き上がる

運転をするのかと思ったがどうやら違うらしい

窓から顔を出し辺りを見回す

 

「どうしたの?」

 

不審に思い訪ねる

 

「……いや、エンジン音がしたから何かいんのかと思ったが、お客さんか」

 

耳を澄ませる、確かにタイヤが転がる音とエンジンの駆動音が聞こえる

彼の車のエンジンは動いていない

にもかかわらず機械音がする、その音は少し遠い

近くに誰かいるらしい、彼の口ぶりから察するに近づいてきているようだ

 

「……あの車、あいつか」

 

「だれ?」

 

「奇妙な知り合いだ」

 

白い車、そこそこ大きい、キャンピングカーの類だろうか

こちらに近づいてくる

隣で停まり、窓を開ける

 

「やあ、迷子君」

 

「よう、堕天使ちゃん」

 

青い髪の女の人が顔を出し挨拶をしてくる

 

「奇遇だね、こんな所で」

 

「まったくだ、なんか用か?」

 

頭上に光輪、ラテラーノ人だろうか

角が生えているのが気になるが聞いていい事かはわからない

 

「特にないよ、見覚えのある車が停まってたから来てみただけさ」

 

「別人だったらどうするつもりだったんだ」

 

「その時は、間違えたっていえばいいのさ」

 

「なるほど、参考にさせてもらおう」

 

「なんのだい?」

 

「美人を酔わせて連れ込んだ時のごまかしに」

 

「おや、ゲスな事を考えてるね」

 

何やら話した後、こちらを見る

ニコニコと笑いながら見てくる

 

「へえ、噂は本当だったんだ」

 

「噂? なんのだ」

 

「君が子供を身籠らせたって噂」

 

「悪趣味だな、誰から聞いた」

 

「君の噂の出どころなんて決まってるじゃないか」

 

「……数が多くてわからん、仕方ない、全員ボコすか」

 

「おやおや、可哀想に」

 

女性が窓を閉め、ドアを開けて外に出てくる

 

「どうだい、コーヒーでも飲みながら話でもしないかな」

 

「その先は、期待していいのか?」

 

「残念、今回も見送らせてもらうよ」

 

「なんだ、ツレねえな」

 

彼も外に出る、こちらを見る

 

「ほれ、お前も来い」

 

「……うん」

 

どうやら誘いに応じるらしい

 

…………………………………………

 

「で、彼女は何者だい?」

 

降りた後、女性の車から簡易的なキャンプ用品を取り出し焚火をつけて三人で囲むことになった

 

「見ての通り、ただのツレだ」

 

「なかなかに不釣り合いなコンビだね、見ただけじゃわからないと思うよ」

 

女性の名前はモスティマというらしい

ストレイドと交友があるのは会話でわかる

 

「一般人から見たら大して不思議な事じゃねえよ」

 

「その見た目でかい?」

 

言いながらカップを渡してくる、湯気が立っている

中にはチョコレートに近い色合いの飲み物、甘い香りがする

 

「おうこら、子供にコーヒーを飲ませるな」

 

「大丈夫だよ、チョコラテだから」

 

「……随分オシャレな飲みものだな」

 

「そうでもないよ、簡単に作れるものだから」

 

「そうかあ?」

 

一口飲む、チョコの味がする

 

「どう? おいしいかい?」

 

「うん、あまくてあったかい」

 

「それは良かった」

 

「火傷するなよ」

 

「わかった」

 

同じようにカップを渡されながら気にかけてくる

 

「それで、どういう馴れ初めだい?」

 

「なんだ、随分踏み込んでくるな、お前らしくない」

 

「なに、深い付き合いを好まない君がこんなことしてるんだ、気にならないわけがないだろ?」

 

「……そうだな、らしくないのは俺の方か」

 

「そうだね、まあ話したくないならそれでいいけど」

 

「ならお言葉に甘えよう」

 

ストレイドと出会ってから彼の知人に会うのはこれが初めてだ

モスティマは彼のことをよくわかっている、親しいのか

 

「もすてま」

 

なんとなく、声をかける

 

「おや、なんだい」

 

「すとれいどとは、なかよしなの?」

 

その質問に笑顔で答える

 

「さあ、私には判断できないね」

 

「? どうして?」

 

だが返された答えは、意味の解らない答えだった

 

「なに、君には関係のないことだよ、気にしなくていい」

 

「……わかんない」

 

「だろうね、詳しく言えばわかるかもしれないけど、君に聞かせるには少し早いかな」

 

「むう」

 

「納得してないね、まあ思考を巡らせるのは良い事かな」

 

「あまり困らせるなよ」

 

「そうだね、この話はここまでかな」

 

手元のカップを揺らして渦を作る

それを眺めながらモスティマの言葉の意味を考える

 

「……堕天使ちゃんや」

 

「なんだい、迷子君」

 

「これ、しょっぱいんだが」

 

「塩コーヒーだからね、多めに入れといたよ」

 

「殺す気か?」

 

「まさか、体には悪いけど大丈夫さ」

 

「大丈夫じゃねえだろ、それ」

 

「……………………」

 

二人を見る限り、仲が良いように見える

誰が見ても同じことを言うだろう

ストレイドが顔をしかめている、コーヒーの味ではなく、恐らくは彼女の態度だろう

彼は頭が回る、彼女の言葉がどういう意味か理解しているのだろう

話せば、聞けば答えてくれるだろう

だが聞いて何かできるわけではない

これは彼女の問題なのかもしれない

 

「で、彼女はいい子なのかい?」

 

「というと?」

 

「なんだか随分、君に懐いているようだけど」

 

「本人の前で言うか」

 

「いいじゃないか、彼女もそれを否定するつもりはないだろうし」

 

「うん、すとれいど、すき」

 

「ほら」

 

「……なんだかイケナイことをしてる気分になってきた」

 

「まあ、不審者だね、傍から見たら」

 

塩コーヒーに口をつける、しかめっ面がひどくなる

 

「心配してたよ、彼ら」

 

「なんでだ、こいつが一緒にいるのは知ってるはずだぞ、理由も」

 

「だから心配なんだよ、自分たちに知らせたことがらしくないって」

 

「まるで自分勝手に動いている様に言うな」

 

「実際そうじゃないか、とても迷子とは思えないほどあちこち渡り歩いてる」

 

モスティマの言葉に疑問が浮かび上がる

 

「? すとれいど、まいごなの?」

 

迷子とはどういうことか

この旅で彼が道を間違えたことはない、知っている限りは

今回も順当に進んでいる、間違えた道は行っていないはず

 

「違う、名前の意味だ」

 

「なまえ?」

 

「そうだね、ストレイドって名前の意味さ」

 

名前、意味、そういえば自分の名前も意味があったはず

山猫、だったろうか

 

「なんだってそんな名前にしたんだい?」

 

「別に、意味が似てるから名乗ってるんだ」

 

「意味、か、どういう事でだい?」

 

「あちこちに渡るからだよ、迷った末に行きつくんだ、必ず、どこかに」

 

「……なるほど、こっちの噂は本当らしいね」

 

「なんだ、知らなかったのか?」

 

「知らなかった、かもしれない程度にしかね」

 

「聞きゃあよかったのに」

 

「噂通りなら、君、かなり危険な人だからね。正面切って問いかけるつもりはないよ」

 

「今、正面切ったよな」

 

「大丈夫、この子の前ならふざけたことはしないだろう?」

 

そう言ってこちらに手招きする

誘われるままに行ってみる

膝に座らさられる

 

「……なんだ、気に入ったか?」

 

「いやなに、こうすればいざという時盾に出来る」

 

「信用無いな、まあそれでいいさ」

 

モスティマに体を預ける、暖かい、人の温もりとはこういうものか

膝に座ったことなどこれが初めてだ、中々いい、凄くいい

なんだか安心する、顔がにやけてしまう

 

「おや、こっちも気に入ったみたいだね」

 

「それは結構、おっと、失礼」

 

すると何かの音が聞こえてきた

何度か聞いたことがある、誰かが歌っている曲

女性の声、元気を分けてくれるような感じがする

 

「へえ、君、その子の曲聴いてるのかい?」

 

「なんだ、知ってるのか、どっかの郵送会社のアイドルなんだが中々いい

特に見た目が良い、汚れを知らない無邪気な顔がいい」

 

「うん、やっぱりやめとこうかな」

 

「何をだ」

 

「なんでもないよ、ほら、早く出てあげたらどうだい?」

 

「ああ、悪いな、少し外す」

 

ストレイドが席を立ち、上着のポケットから音源である携帯端末を取り出して離れていく

モスティマと二人、残される

 

「さて、名前を聞いてなかったね、なんていうんだい?」

 

「リンクス」

 

「へえ、リンクスか、彼にしては随分希望に満ちた名前にしたね」

 

「? やまねこが?」

 

山猫のどこに希望があるのか

彼は似てるからというだけでこの名前を付けたといっていた

 

「なんだ、そっちの意味かい?」

 

「ちがうの?」

 

聞き返すとじっとこちらを見てくる

 

「……ふむ」

 

頭に手を置く

 

「にゃー」

 

そしてぐしゃぐしゃに髪をかきまわす

 

「なるほど、猫だね」

 

「ちがうの?」

 

「違うくはないだろうね、でももう一つ意味がある」

 

「どんな?」

 

聞くと彼女は笑って

 

「君には、まだ早いよ」

 

はぐらかす

 

「……わかった」

 

仕方なく諦める

その反応が意外だったのか、彼女の顔から笑みが消えている

 

「君、聞き分けが良すぎないかい?」

 

聞き返してくると思っていたのか

予想外の言動に驚いたらしい

何を考えて聞くのをやめたか、遠回しに聞かれ、答える

 

「……だって、おしえてもらういみがないから」

 

「おや、ひねくれてるね、彼の後姿しか見てないせいかな」

 

そう言いながら抱きしめてくる、両腕を前に、優しく

 

「どうしたの?」

 

「なに、子供はこうすれば落ち着くと聞いたからね、試しにやってみたんだ」

 

「どうして?」

 

「なんだか悩んでるみたいだから、丁度いいから聞いてあげよう」

 

「……なやみ」

 

「ほら、話してごらん」

 

確かに悩んでいることはある

だがさっき知り合ったばかりの人に話していいのか、そっちに悩む

 

「大丈夫だよ、彼のことはだいたい知ってる、その界隈じゃ有名すぎる人だからね」

 

「そうなの?」

 

「そうだよ、きっと驚くだろうね、彼が何者か知ったら」

 

「……そうなんだ」

 

「おや、心当たりがあるのかい?」

 

こちらの反応で気づいたのか、聞いてくる

彼については彼女の方が自分より知っている

なによりこの場に彼はいない

多少後ろめたいが絶好の機会であるのは確かだ

 

「……あのね、もすてま」

 

「なんだい」

 

「わたしは、すとれいどがすき」

 

「そうだね、さっきも言ってた」

 

「だから、こまらせたくないの」

 

「困らせたくない、か、何故だい?」

 

「あのひとは、わたしにはおもいものがあるっていったの」

 

「重いもの?」

 

「うん、せおいきれないほどにおもいって」

 

何を意味して言ったか、今でもわからない

だけど耐えられないと、彼は言った

 

「それでね、いっしょにせおうっていってくれた」

 

「そうなんだ、なるほど、彼らしい」

 

「だけど、せおってもらってばかりで、わたしはなにもできない」

 

「……それは、どういうことだい?」

 

彼には負担をかけている、それが嫌というほどにわかる

出会って以来、彼は自分と一緒にいた

その弊害が、先ほど形になって表れていた

 

「わたしは、あのひとのしごとがなにか、なんとなくわかる」

 

「その年で気づけるのは、少し驚いた」

 

「だけどあのひとはかくそうとしてる」

 

正体を知られることを恐れているわけではないだろう

彼はただ、心配をかけたくないだけだ

ストレイドは自分の身に起きたことを知っている

空白の部分を埋めることが出来る

だがそれは、きっと酷な現実なのだろう

勘付かせない為か、意図しないタイミングで記憶がぶり返すことを危ぶんでいるのか

どっちにしろ彼が隠すことは、自分の記憶を呼び覚ますのに必要な事柄だろう

 

「だから、たすけたいの、せめて、かくさなくていいって、それだけでもつたえたい」

 

「ふむ、まあ言うだけはタダだと思うけど」

 

「でも、いえない」

 

「なんでだい? 彼は人の話は聞く人だよ?」

 

「だから、いえない」

 

「……そうか」

 

彼は優しい、故に人を気遣ってしまう

可能性を徹底して潰そうとしているのも、こちらを想ってのことだ

だからこそ問題が起きている

先ほど、彼らと言っていた、仕事上の付き合いか、ただの友人か、そこまでは判断できない

だが自分にかまけていなければその人たちに心配させるような事にはならなかった

 

「うごいても、うごかなくてもめいわくになる、わたしはどうすれいいかな」

 

いっそのこと彼の傍を離れられればいいのだが恐らくは連れ戻される

放っとけば死ぬと、そう言いながら自分から面倒事を背負いに行くだろう

 

「……これはまた、恐ろしい子供を拾ったね、彼は」

 

「どういうこと?」

 

「ああ、気を悪くしないで、悪い意味で言ったんじゃない、いい意味で言ったんだ」

 

「いいいみ?」

 

「それは置いといて、リンクス、君にアドバイスをしてあげよう」

 

「……うん」

 

モスティマの言葉に集中する

 

「君は、自分が動くことで返って彼の負担になる、そう思ってるんだね?」

 

「うん」

 

「なら、余計に動くべきだ」

 

「どうして? めいわくかけちゃう」

 

「だからさ、動いてない状態じゃ今のまま、負担になってることは変わらない」

 

「……うん」

 

「変わらないから、なら変わる方に賭けてしまえばいい」

 

「いまよりひどくなるかも」

 

「そうだね、その時はその時さ、でも悪くなるとは限らない」

 

「……………………」

 

「リンクス、人は流れるままに流れるものだよ、流れるためには、まず動き出さなきゃいけない」

 

この人の言葉の意味はわかる、立ち止まっていては結果が出ないとそう言いたいのだ

街から街へ行くとしても止まっていては辿りつけない、歩かなくては姿を見ることすら許されない

結果はおろか、過程すら踏む事が出来ない

ならばそもそも変わる権利すらないという事だ

彼女の言う通り、変えようというなら動かなくては、だけど、不安がある

 

「……むう」

 

彼は、喜ばない

きっと、苦しそうな顔をさせてしまう

彼は今、優しい道を歩かせようとしている

残酷さの欠片もない、ただ暖かな道、子供が歩くに相応しい、わだかまりのない正道

間違いではない、正解ではあるのだ

彼が自分を拾ったのは、歪な子供にしない為

けして重荷に潰されぬよう、まともな心を持たせるための優しい道

 

だけど、自分には相応しくない、そう思ってしまう

理由はわからない、ただの子供の癇癪かもしれない

でも、思ってしまったのだ、間違えていると

確かにその道は正道だ、誰かの願いを背負うことが出来るだろう

だけど、それではハリポテだ、酷く軽い、見かけだけの物

本当の意味で背負えているとは思えない、借り物の器に注いだだけの物

彼も理解しているのだろう、それが最適解でないと

それでも行かせようとするのは彼の優しさだろう

その心を、無視していいのか

 

この答えのない葛藤に気づいたのか、モスティマが微笑みかけてくる

 

「嫌そうだね、いや、不安なのかい?」

 

「うん」

 

「そうか、でも現状を変えたいなら動くべきだ」

 

「……………………」

 

「自分の意思で、正しいと思った事をするべきだ」

 

「……ただしい」

 

正しいとは、どういう意味か

正しさが複数あるのはわかる

ただ、それが彼にとって正しいのか、不安なのだ

 

「そうだよ、ほら、君にはチャンスがある、君には理解者がいる、黒い噂の絶えない人だけどね」

 

チャンス、理解者

 

それは彼と、彼と一緒にいる時間の事を言っているのか

 

彼と、向き合えと言っているのか

 

彼の答えを、否定しろと、そう言うのか

 

間違いではないのだろう、肯定も否定も許される事項だ

彼も、話を聞いてくれるだろう、そうして真摯に答えてくれるだろう

そして、道を示すことをしてくれるだろう

 

「……………………」

 

いつか、彼は言った

願った者が報われるように、歩き方を教えてくれると

 

「……わかった、やってみる」

 

「その意気だ、君は強くなれるよ、リンクス」

 

「……つよく?」

 

「ああ、もしかしたら彼よりも強い人になれるかもしれないね」

 

「ほんと?」

 

「本当、おっと、戻ってきちゃったね」

 

モスティマが会話を打ち切る

ストレイドが戻ってきた、少し不機嫌そうな顔をしている

 

「なんて言われたんだい?」

 

「別に、根も葉もない噂の答え合わせをさせられただけだ」

 

「どんなのがあったんだい」

 

「さっきの隠し子とか、理想の女に仕立てあげるとか、下らんことばかりだ」

 

「おやおや、酷い話だ」

 

「まったくだ」

 

「それじゃ、私はこれで失礼するよ」

 

「なんだ、終わりか、まあいいが」

 

「そうだ、餞別にこのセット、君にあげるよ」

 

「……セットって、このキャンプの?」

 

「そう、『どこでもワクワクキャンプ隊』って商品だったかな」

 

「安っぽい名前だな」

 

「実用性はあるよ」

 

そう言ってモスティマが車に戻ろうとする

 

「おい、モスティマ、聞きたいことがある」

 

それをストレイドが呼び止める

 

「なんだい」

 

「ロドス・アイランド、レユニオン・ムーヴメント、この二つに聞き覚えは」

 

「……製薬会社と、感染者による軍団、これぐらいしか知らないね」

 

「そうか、まあ概ね同じだな、引き留めて悪かったな」

 

「いやいや、私も楽しかったよ」

 

そういって今度こそ去る

キャンピングカーが遠ざかっていくのを見送る

 

「さて、温くなっちまったな」

 

すっかり冷めたコーヒーカップを手に取る

 

「ていうかカップも置いてったのか、あいつ」

 

冷めた上にしょっぱいコーヒー、どんな代物か

一口すすって口をつけようとしない辺りから想像がつく

 

「……荷台に載るか? これ」

 

「…………すとれいど」

 

「ん、なんだ」

声をかけられ、ストレイドがこちらを向く

その紅い目をまっすぐ見る

 

「……どうした、改まって」

 

「あのね、すとれいど」

 

彼女は正しいと思ったことをしろと言った

 

自分の意思で決定しろと

 

「わたしにね、その……」

 

彼はきっと驚くだろう、もしかしたら怒るかもしれない

でも、いつまでもおんぶにだっこでいるわけにはいかない

 

勇気をもって口に出す

 

 

 

「わたしに、たたかいかたをおしえて」

 




モスティマが言いそうなセリフ、なかなか難しいですね
ちなみに書いてないサイドストーリーがあると言いましたがその中にモスティマとの話があります
どのタイミングで書こうか悩んでいますがまあその内に出します
では失礼


ところで新オペのスズランさん、CEOに弱みでも握られてるんですか?
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