アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里   作:Thousand.Rex

49 / 81
12/16 修正


課せられた引き金

結果を言うと

 

「……………………」

 

「えと、その、ごめんなさい……」

 

思いっきり頭を叩かれた

その後はずっと煙草をふかしてた

月が見えるまで、ずっと

 

「あの、すとれいど、おこらせたかったわけじゃなくて……」

 

「わかってる、ちょっと黙ってろ」

 

声をかけてもこんな感じで取り合ってくれない

おろおろしながら彼が動き出すのを待つしかなかった

 

 

………………………………

 

 

「……リンクス」

 

「は、はい……」

 

煙草のストックもなくなり、灰皿が名残りを受け止めきれなくなったころ

ようやく口を開いた

 

「それは、誰かさんの入れ知恵か?」

 

「ううん、ちがうよ」

 

「なら、お前が自分で決めたのか?」

 

「うん、わたしのいしで、ただしいとおもったことをいったの」

 

「……正しいか、まあ間違えてはいないんだろうな」

 

いつか見た、悲しそうな顔をしている

苦しそうな、割り切れていないような

無理やり自分を納得させている、そんな顔

 

「リンクス」

 

「はい」

 

「その道は、確かな正道だ」

 

「はい」

 

「だが、ひとたび踏み入れば後戻りはできない、きっと、一生拭うことのできない後悔の念に晒されることになる」

 

「……はい」

 

「その先に天国はない、あるのは祈りと、それを嘲笑う邪悪だ」

 

「……………………」

 

「それでも、歩くか?」

 

「はい」

 

断固とした決意を見せる

 

「……わかった、お前の意を汲もう」

 

「じゃあ……」

 

「ああ、鍛えてやるよ、せいぜい理性のある獣に仕立てあげてやる、覚悟しろ、山猫」

 

「やった!」

 

合意を得た、彼を助けることが出来ると、それがわかった

彼の視線を気にすることもなくはしゃいだのを覚えている

 

「……まったく、どうしてこう、進ませたい方向に行かせられないのかね、俺は」

 

「すとれいど」

 

「なんだ」

 

「わたし、がんばるね」

 

「……ああ、期待してるよ」

 

その言葉には、彼の決意を感じた

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

斧を持った男が倒れる

 

『いいか、撃つときは手足を撃て、武器でもいい』

 

その近くにはバニラが倒れている

 

『そうすれば大抵は止まる』

 

驚いた顔で男を見ている

 

『それでも動き続けるような奴がいたなら俺に言え、お前には荷が重い』

 

音で察したのか、リスカムがこちらを見ている

 

『だけど、もし俺がいなくて、自分の身か、もしくは大切な誰かが危険な状況に陥っていたら』

 

その表情は、どこか驚きよりも、何かを悔いているように見える

 

『お前しか助けられない状況なら、ここを撃て』

 

倒れていく男を見る

 

『ここを撃てば、そいつは止まる』

 

その姿からは、感情を感じない

 

『うたれたひとはどうなるの?』

 

ただ、わかることは眉間に穴が開いているという事

 

『それは、その時に知るべきことだ』

 

そして、開けたのは自分だということ

 

彼があの日、自分に言った言葉はどんな意味を持っていたか

 

一生拭えないとはどういうことか、その時に知るべきことは何か

 

頭ではわかっていた

 

そして、これを彼が遠ざけていた理由も

 

男が力なく倒れる

 

その姿に、見覚えがある

 

生を感じない、暖かな感覚を与えてくれたあの人もそうだった

 

あの男の人も、同じように倒れていった

 

同じことが起きている、あの時と同じ

 

優しい笑顔を向けてくれた人、誰だっただろうか

 

『振り向かずに歩き続けなさい』

 

女の人の声が頭に響く、あの人の隣にいつもいた

 

その間に、わたしがいた

 

『あなただけでも、生きて』

 

最後に見た時、お腹を抑えていた、手の隙間からは赤い液体が流れていた

 

燃える家屋の中でわたしを一人、外に出してくれた

 

その後、あの女の人はどうなったのか

 

思い出せない、いや、思い出したくない

 

だが思い出さなければならない、これは、現実だ

 

あの日、知らない大人達がやったことと同じことが起きている

 

それと同じことをわたしはした

 

認めなければならない

 

あの人たちは、あの日、殺された

 

そしてわたしも、人を殺した

 

 

 

 

 

「え? 何が起きたの?」

 

目の前で兵士が弾かれたように倒れる

 

『あ、生きてる、わたし』

 

バニラがそんなことを言う

 

「今の、ジェシカ?」

 

バニラがよろよろ立ち上がるのを見ながらジェシカに聞く

 

『いえ、違います、そんな余裕はなかったです』

 

否定する、その視線は近くの少女に向いている

 

『それなら……リンクスちゃん?』

 

「……………………」

 

件の少女は何も喋らない

それどころか銃を下して、バニラの方をじっと見ている

 

「……リンクス?」

 

リンクスの異常に気付き話しかける

彼女の銃からは硝煙が漂っている

撃ったのはどうやら彼女らしい

 

『フランカ、リンクスを避難させてください』

 

「え?」

 

『早く、理由を説明してる暇はありません』

 

リスカムから急かされる

リンクスに異常が起きているのはわかる、彼女のもとに向かう

 

「リンクス、どうしたの」

 

「……ふらんか」

 

彼女はどこか遠くを見ている

肩を揺する、グラグラと力なく揺れる

 

「わたし、うったの、いま」

 

「ええ、あの状況でよく当てたわね」

 

「ばにらがあぶなかったから、しんじゃいそうだったから」

 

「……リンクス?」

 

「だから、いわれたとおりにしたの」

 

俯く、何かをこらえる様に、手を握りしめながら

 

「たすけるためにうてって、すとれいどにいわれたとおり」

 

「それは……」

 

「それで、うったの」

 

泣きそうな声で、叫びそうな声で、訴えてくる

思い出す、ストレイドは言っていた

人殺しはさせていないと

 

「ねえ、ふらんか」

 

「……何かしら」

 

「あのひとは、しんだの?」

 

「……………………」

 

「わたしがうったから、しんだの?」

 

確認しようとしているのは、認めたくないからか

それとも、自分の罪を自覚しようとしているのか

少し前にストレイドが言った言葉が頭を横切る

 

『リンクスを頼む』

 

その言葉の真意は、なんだったのか

あの時は理解できなかった

 

「……頼むって、そういうこと」

 

どこか絶望したような目で見上げてくる

 

「ふらんか……」

 

今の彼女は戦えない、発狂してないだけましかもしれない

小さい体を抱き上げる、通信をいれる

 

「リスカム、私たちは一時撤退する」

 

『了解です、バニラ、あなたも後ろに下がりなさい、邪魔になります』

 

『いやでも……』

 

『ならフランカの撤退の援護をしなさい、これでいいですか』

 

『……了解です』

 

リスカム達の会話が聞こえる

 

『レイヴン、早く来てください、出し惜しみしてる暇はありません』

 

『……わかってる』

 

後ろを見る、リーダーがランチャーを構えて撃とうとしている

狙いはこっち、間にリスカムが入る

引き金を引こうとする、そのとき

 

『そこまでだ、デカブツ』

 

黒い奔流がリーダーに向けて飛んでいく

その渦の中心にはストレイド

近衛に囲まれたリーダーに向けて、飛んできた勢いのまま蹴りを放つ

リーダーが吹っ飛んでいく、光を散らしながら近衛達の中心に着地する

 

『レイヴン、そこは危険です、退避を』

 

何処からともなくやってきた彼に動揺しつつ周囲の兵が武器を構える

 

『なあ、お前ら』

 

ストレイドが声を出す

 

『世の中、思い通りにならないことばかりだよな』

 

ストレイドの視線は近衛に向いていない

 

『確かなものを目指していたはずなのに、理想とは違う結果が襲ってくる』

 

その目は、こちらを向いている

 

『こんなはずじゃなかった、後悔するしかない選択ばかりが責めてくる』

 

じっと、悲しそうな目でリンクスを見ている

 

『不条理な話だ』

 

周囲の兵が襲い掛かる

 

『まったくもって、不条理だ』

 

『レイヴン!』

 

彼は静かに、手を動かす

 

『悪いな、リスカム』

 

その手が腰に伸びる

 

『チャレンジ失敗だ』

 

 

 

瞬間、幾重にも重なった射撃音が聞こえた

 

ストレイドの周りの兵が音と同時に後ろに倒れる

 

弾かれたように、力なく

 

ストレイドがその中心で拳銃を握っている

 

一丁ではなく、二丁

 

両手に携えている、銃口からは硝煙、足元には空の薬莢

 

周囲の兵がさらに襲い掛かる、十人か、もっといる

 

動く、精密に、冷徹に 最速で、

 

再び射撃音、重なりすぎて不協和音に聞こえる

 

襲い掛かった近衛全てが倒れる

 

その顔には、確かな傷跡

 

眉間に一撃、穴が開いていた

 

 

 

「レイヴン!!」

 

彼の周囲の兵士が倒れる

倒れたものは動かない、頭から血を流している

さらに発砲、こちらに向かいながら敵を撃つ

 

「レイヴン! 殺害はなしだと――」

 

「そんな甘いことが言える状況か?」

 

合流、リロードする

通った道には何人もの死体、三十程はある

 

「リスカム、バニラは下がったな」

 

「……はい」

 

後ろを見る、バニラはフランカと合流、ジェシカと二人で敵を抑えている

 

「最近のルーキーは人の話を聞かんらしい」

 

銃を構える、発砲

バニラたちの周囲の兵が倒れていく

 

『え? ちょ、なんです、これ?』

 

『ストレイドさんです』

 

『あ……』

 

「ようバニラ、隊列は崩すなと言ったはずだが?」

 

バニラに話しかける、その語気は、少し強い

 

『……でも、リスカム先輩を一人にするのは――』

 

「仲間を案じて行ったのはわかる、だが助けに動いていいのは状況が把握できている奴だけだ」

 

『……はい』

 

「その仲間思いに免じて今回は見逃す、だが次やったらその可愛い角と尻尾をむしり取る」

 

怒っている、先ほどのバニラの行動は事実上の命令違反だ

彼がまだBSWの人間なら容赦のない処分を下していたかもしれない

許したのはバニラが彼の指示に賛同してなかったことに気づいていたのもあるだろうが

 

「以後、留意しろ」

 

『……了解です』

 

「フランカ、リンクスはどうだ」

 

『……どうだと思う?』

 

「わかった、ジェシカ、バニラ、フランカと一緒にリンクスを連れて撤退ラインまで下がれ」

 

『でもそうすると――』

 

「同じことを言わせるな、下がれ」

 

『……はい』

 

バニラが渋々承諾する

作戦行動においてチームワークは要だ

誰か一人が勝手なことをすればどうなるか

彼女は先ほど身をもって知った

そして起きてしまった、リンクスの異常が

 

「レイヴン、あなた」

 

だが勝手な事と言えばこの男もそう

正当な理由こそ付けていたがあそこでアヴェンジャーをドクターの傍に運ぶ理由はなかった

 

「無理やり戦線離脱したのは、まさか」

 

「それは後だ、フランカ、頼んだ」

 

『……………………』

 

返事がない、後ろでフランカはリンクスを抱きかかえてこちらを見ている

 

「なんだ、ボケっとしてる暇はないぞ」

 

『ええ、わかっているわ、ストレイド』

 

「なら、さっさとしろ」

 

『すぐに退く、でもこれだけは言わせて』

 

「なんだ」

 

彼女の眼はまっすぐにレイヴンを見つめている

 

『あなたを殴る、この子の痛みの分だけ、覚悟しておきなさい』

 

「わかった」

 

『……だから嫌いなのよ、理屈で動く奴は』

 

フランカ達が撤退を開始する、ジェシカが聞いてくる

 

『お二人だけで大丈夫ですか?』

 

「ああ、一人で平気だ」

 

問いにそう答える

 

「一人とはどういう――」

 

「リスカム、お前もフランカの援護に回れ」

 

言い終わるまに遮られる

フランカ達と一緒に下がれと言いたいらしい

だがそうするとこの場に残るのは

 

「なっ、一人でやるつもりですか! あの数を!?」

 

「ああ、所詮は有象無象だ、問題はない」

 

残るのは、彼一人

視線を向かってくる集団に向ける

リーダーが立ち上がり、その周囲を護るように兵が付いている

数は多い、今までの比ではない

ほとんどの戦力がリーダーの周りにいるだろう

 

「手っ取り早く殺る、どうせ放っておいても害のある連中だ、鉄仮面、文句はないな」

 

『文句しかない、増援を待て』

 

「断る、決定権は俺にある」

 

二丁の拳銃を握る、紅い目を細める

寒気がする、地面の感覚が遠い

気を抜いてしまえば膝を着いてしまいそうなほどに

 

「……全て殺す気ですか」

 

「そうだ、殴り飛ばして気絶させるなんてやり方じゃ処理しきれん」

 

意思を感じる、それを今まで覆せたことはない

 

「ここで無駄な血を流す理由は――」

 

「ある」

 

たった一人の男から発せられるそれは、レユニオンの兵士を恐れさせるのに足りるものだった

兵が一人、二人、次々と後ろに下がる

 

「ほう、実力差を理解する程度はあるらしい」

 

レイヴンの視線がリーダーに向く

リーダーが喋る

 

「お前の顔、見たことがある」

 

「だろうさ、少しの間だが世話になったな」

 

レイヴンの言葉の意味は、潜伏していた時の事だろう

 

「……違う、そうではない」

 

「ほう?」

 

だがリーダーは否定する

 

「昔、戦場で見た」

 

メットで隠れて判別しずらいが、怯えているような気がする

 

「……なんだ、死に損ないか」

 

「たった一人で、何人も、何十も、何百人も屠った男」

 

リーダーが、静かに、だがはっきりと口に出す

 

 

 

「死告鳥、なにもかもを殺し尽くす、死を告げる黒い鳥」

 

 

 

「正解だ、デカブツ」

 

リーダーが口に出した単語はレイヴンという傭兵を示唆するもの

 

誰が言い出したかはわからない、正体を知るものはほとんどいない

 

「知っているならちょうどいい」

 

いつの間にか、雇われ達の間で流れた噂

 

「お前たちがこれからどうなるか、俺が何をするか、わかるだろう」

 

争いのあるところに現れ、圧倒的な暴力をもって殺し尽くす存在

 

「ロドス・アイランド、よく見ておけ」

 

いつしか噂でなく、恐怖の対象として語られることになった死に塗れた男

 

「これは、お前達への警告だ」

 

レイヴンが構えをとる

 

「お前達が正道を行くならば手だしはしない」

 

両手を体の前に、片方の銃を上に向け、もう片方は下に向ける

 

「だが、一度でも違えたなら、違えたまま、戻らないのであれば」

 

祈るように、目を閉じる

 

「その時は、こいつらと同じ末路を辿ってもらう」

 

その顔は、悲しみと決意に満ちている

 

「目に焼き付けろ」

 

目を開く、紅い、血に染まったような目

 

「恐怖を刻め、そして祈れ、自らの選択が間違いでないことを」

 

ここにいるのは迷い子などではない

 

「誤れば、俺がいく」

 

昔と変わらぬ狂気を纏った男、殺すことしか出来なくなった善人

 

「世界を殺す邪悪が、お前達を殺しにいくぞ」

 

一羽の鴉が、そこにはいた

 




終わりたいのに終われない
重い話よりも日常会話の方が好きなんですよね
でもまあ物語の完結に必要ということで書いていきます

早く平和な話が書きたい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。