アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里   作:Thousand.Rex

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12/16 修正


死告鳥

 

「やれやれ、結局引き分けか」

 

「ふむ、いい鍛錬だった」

 

国を離れて一週間、例の警備会社の奴らを叩きのめしてきた帰り道

 

「功夫ってなんだ、新手の呼吸法か?」

 

「それ即ち、自然と一体になることなり」

 

「人など元より自然の一部だろうに、差がわからん」

 

「君が望むなら、いつか達することが出来る」

 

「なんだ、弟子入りしろってか」

 

暗い夜道を老人の車に乗って走っていた

 

「まったく、素手でどうして壁を壊せる、零距離から吹き飛ばせる」

 

「それこそ功夫を練らねばならん」

 

「それがわからねえんだ、それが」

 

感想としては素直に楽しかったといえる内容だった

殺し合いでなく競い合い

後先を気にすることなく実力を振るうのが気持ちいいとは思わなかった

 

「君こそ素晴らしい早撃ちだった」

 

「そりゃどうも」

 

「照準と射撃を同時にするとは、これは単騎で無双できるのも頷ける」

 

「あんたも無双してたろ、普段からあんななのか」

 

「いや、もう少し控えめなのだが…………なに、随分熱くなってしまったよ」

 

「そうかい、それはよかったよ」

 

正直恐ろしい爺さんだ

模擬弾とはいえ当てられたら痛い筈

なのに怯むことなく突っ込んでくる

二丁持ちじゃなきゃ捌ききれん

 

「ま、いい経験だったということで済ますかね」

 

「いい経験、か」

 

「なんだ、口元緩まして、気持ち悪い」

 

助手席でのんびりしていると老人が笑ってみてくる

 

「前を見ろ、安全運転を知らんのか」

 

「そうだな、すまない」

 

前を見る、だが依然として笑ったまま

 

「……何か面白い事でもあったか?」

 

「ああ、大いにある」

 

「ある?」

 

現在形なのは何故だ

 

「なんだよ、顔になんかついてるか」

 

「いや、もう少しかと思ってね」

 

「なにがだ」

 

「君が人を知るまで」

 

「……………………」

 

この男に言われたことを思い出す

人の温もりを知らないと、そう言われた

 

「……それがどうした」

 

「ふむ、憎まれ口に力がないな、自覚しているという事か」

 

「別に、せいぜい違和感を覚えてるだけだ」

 

「立派な変化だよ、少年」

 

「……けっ」

 

なんとまあ優しい目を向けてこれるものだ

今の俺には、とても出来ない

 

「少年、君は長期契約をしているといったな」

 

「ああ、あの花屋とな」

 

「それが終わったらどうするのだ」

 

「終わったら、か」

 

契約が終わったら、つまりあの二つの国の問題が何かの形で解決したなら

その時、俺はどうするか

 

「少年、もしよければ」

 

「あん?」

 

「私たちのもとに来ないか? 警備会社で、同じように護るのだ」

 

「……護る」

 

「ああ、あの国を護るように、世界の人々の為にその腕を振るわんか?」

 

「……………………」

 

これは、あれか

スカウトか

 

「あんた、今回の件、それが目的か」

 

「そうだ、君ほどの実力者がどこにも属さずにいるなどもったいない」

 

「ふうん」

 

「君さえよければ、だが」

 

「……………………」

 

「いかがかな?」

 

熱烈なアピールだ

そうまでして誘われるような人材じゃないと思うが

 

「そうさな、面白そうだ」

 

「……ふむ」

 

「だが断るよ、爺さん」

 

「そうか、それは残念だ」

 

面白そうな話だが正直面倒だ

組織に属する、つまりは面倒な人間関係があるという事

あの国の状況を見てきた身としてはただの鎖にしか見えん

自分で自分を束縛するなど馬鹿のやることだ

それに

 

「あの花屋、きっと何とかして俺を引き留めようとするからな。また別の契約でもさせるに違いない」

 

「そうか、そうだな」

 

「せいぜい渡るさ、あそこを拠点に、色んなところを旅してまわればいい

それで戻って、奴らに聞かせてやる、それぐらいがいいだろう」

 

「ふむ、羨ましいな、そうすることの出来る君の心が」

 

「あんたもすりゃあいい」

 

「残念ながら私には責務がある、老いぼれとしてのな」

 

「はっ、やっぱり窮屈なんだな」

 

老人は楽しそうに笑う

きっとそれに釣られたのだろう、俺の口元も緩んでしまう

なんとまあ、平和なものか

こんなものがあったのか

 

「……きっと、理解できるんだろうな、そのうち」

 

「ああ、君なら出来るとも」

 

これは花屋が目指すものの一部だろう

睨み合いなどない、恨み言もない

幼稚な喧嘩だったなと

いつか、笑い話にするための

 

「そうだ、少年」

 

「あ?」

 

なんとなく、いつか来るであろう未来を想像していたら声をかけられる

 

「そろそろ教えてくれてもいいのではないか?」

 

「なにをだ」

 

教えろとは何か

 

「なに、君の名だ」

 

「……なんでまた、店主が言ってたろ、あんたの前で」

 

「ああ、聞いていた、もちろん覚えている」

 

「ならそれで――」

 

「だが、聞きたいのだ、君の口から、君の名を」

 

「……変わってるな、あんた」

 

「そうでもないよ」

 

知っているならそれでいいだろうに

まあここで断る理由はないのだろう

 

「わかったよ、教えてやる」

 

「ああ、聞かせてくれ」

 

「俺の名前は――」

 

言おうとして

 

「―――っ!?」

 

「む、あれは……」

 

気づく、気づいてしまう

「煙か、遠いが、赤く光っている」

 

「……おい、この方角は」

 

「ああ、あの二つの国がある方だ」

 

胸がざわつく

あの煙の上がり方を知ってる

 

「……まさか、嘘だろ」

 

「少年、車を飛ばす、掴まっていろ」

 

「いや、車じゃ遅い」

 

「何を言って……おい! 少年!!」

 

あれは火だ、炎の上がり方だ

あっちには、国は二つしかない

あの二つしか、存在しない

車のドアを開ける

それに気づいた老人が停車する

 

「少年! なにを――」

 

車じゃ遅い、確実に間に合わない

 

「する―――っ!?」

 

体から黒い光が立ち上る

地面を蹴る、土が抉れるほど強く

 

「――少年!!」

 

老人の声が遠くなっていく

 

「くそ! 間に合え! 間に合ってくれ!!」

 

そんなことはどうでもいい

今は急がねばならない

あの光は人工的なもの

 

戦火だ

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだ、これは」

 

火災地にたどり着く、そこは

 

「なにが起きてる」

 

軟弱者の王の国

足を踏み入れるまでもなく何が起きたかわかった

この感覚を俺は知っている

鼻につく火薬の臭い

せき込むほどに濃い煙

そして

 

「おい! 何があった!」

 

隠しようのないほどの、鉄の臭い

それに比例して並ぶ、いくつもの死体

叫ぶ、大きな声で

 

「誰か! いないか!」

 

倒れる者たちからは生気を感じない

ピクリとも動かない

 

「くそ!!」

 

どうしてこんな地獄が広がっている

なぜ、戦争が起きている

 

「っ!? 銃声だと!?」

 

なんで、ありもしない兵器の音がする

 

「なんでだ! クソッタレッ!!」

 

音の方に走る、そこには

 

 

「武器をとれ! 戦え!」

 

「隣国と戦うのだ!!」

 

 

「……何をしている、お前ら」

 

銃を構える兵士と

 

「何故、銃を持っている」

 

それを向けられる国民

 

「何故、民に向けている」

 

その横には

 

「何故、引き金を引いている!!」

 

血を流して倒れる人々

 

「貴様は!」

 

「レイヴンか! 丁度いい! 貴様も我らと共に……」

 

「やかましい!!」

 

近くにいた奴を殴り飛ばす

そのまま胸倉を掴んで首を絞めつける

 

「何をしている、お前ら……!」

 

「あがぁ……ま、て、レイヴン、はなしを……」

 

状況が理解できない

いや、起きていることはわかる

わからないのは、どうしてこうなっているかだ

 

「なんでこんなことになっている!! どうして戦争が起きているんだ!!」

 

「やめ、ろ……はなしを……」

 

「聞いてるだろうが! どうして兵が民を撃っている!」

 

どうしてか錯乱している自分を律することが出来ず、答えることができない兵士に詰問をする

そこに、タイミングを見計らったかのように

 

「やめたまえ、レイヴン」

 

悪意が隠せていない男の声がする

 

「テメエか、これを始めたのは」

 

声の主に顔を向ける

 

「ついにやりやがったのか、クソ野郎」

 

「違うな、私ではない」

 

そこには、臆病者がいた

 

「嘘をつけ、お前以外に誰がやる」

 

「いるだろう、もう一人」

 

自分の勝ちにばかり固執した王

花屋の祈りを踏みにじり続けた愚か者

 

「何を言ってる、奴がやるわけがないだろう」

 

「そうだな、私も意外だった」

 

奴の言葉に耳を貸すな

 

「あの日和見しかしない奴が手を出すはずがない」

 

「だが、実際手を出した」

 

「……なに?」

 

恐らく嘘だ、攻勢を優位にするために俺を味方につけるつもりだ

 

「ああ、本当に驚いたよ、人質がいるにもかかわらず、攻撃を仕掛けてきたんだから」

 

「……どういうことだ」

 

信じるな、何かある、裏があるはずだ

 

「君が消えてすぐ、我らの防壁に襲撃が起きた、爆弾による急襲」

 

「爆弾?」

 

「そう、何処から調達したかは知らぬが、あちらから攻撃してきたのだ」

 

おかしい、そんな近代兵器、奴は持ち得ていないはず

 

「なんとも驚いた、まさかあっちから始めるとはね、きっと狂ってしまったのだろう」

 

「……奴が狂うわけがないだろう」

 

「だが実際、こうなっている、事は起きたのだよ、レイヴン」

 

平和を望み、安寧を願った奴が狂うわけがない

いや、今やるべきことは奴への疑念を募らせることじゃない

 

「我らはただ、反撃しているのだ、正当性のある戦いだ」

 

「おい、臆病者」

 

「……なんと、いや、君はあちらの王に毒されていた、信じられないのも無理はない」

 

「黙れ、必要なことのみ答えろ」

 

「いいだろう、なにかな?」

 

勝ち誇った顔で言う、今すぐ殺してやりたい

 

「その銃は何だ」

 

「これかな?」

 

「ああ、お前も、あいつもそんなものは持っていなかったはずだ」

 

「そうだな、持っていなかった」

 

「なぜある」

 

「なに、ちょっとした偶然だよ」

 

奴の大仰な仕草に苛立ちが募る

 

「襲撃を受けた後、ある商団がきてくれたんだ」

 

「商団?」

 

「ああ、彼らは我らに武器をくれた」

 

「……なに?」

 

「武器だよ、銃だ、簡単に武力を手に入れることが出来る兵器だ」

 

「武器商人だと?」

 

「そうだ、非常時だということで格安で売ってくれた、我らの備蓄で賄える範囲で」

 

「……おい」

 

「なんとまあ優しい方々だったか、兵力で劣る我らの為に、不意打ちで窮地に立たされたものに分けてくれた」

 

「おい」

 

「戦意はないなどと言っておきながら牙をむいた奴への反撃に出るのを助けてくれ――」

 

「おい!!」

 

「……何かな」

 

「何かなじゃねえ、わからないのか」

 

「…………何を?」

 

こいつ、どうして王などになれたんだ

どうしてこんな簡単な策略を見抜けない

 

「襲撃と、商人の現れるタイミングに、なぜ違和感を抱かない」

 

「……違和感?」

 

「そうだ、上手すぎると、タイミングが良すぎると思わなかったのか」

 

これは、商人たちによる策略だ

ずる賢いクズ共の謀略だ

 

「その襲撃は商人達が画策したものだ」

 

「へ?」

 

「お前に武器を買わせるための、下手な三文芝居だ」

 

「……何を言って」

 

「それはこちらのセリフだ、ボンクラ」

 

まったく大した商魂だ

そうまでして稼ぎが欲しいか

 

「いいか、お前は嵌められたんだ、あっちからの攻撃に見せかけられて、それで唆された」

 

こんな奴に、あいつは手間取ってたのか

 

「この戦争を引き起こしたのはあいつじゃない」

 

「いや、でも、実際あっちも銃を――」

 

「それこそ正当防衛だ! このカスが!!」

 

幼稚に過ぎる、王の器など欠片も見受けられない

指導者ではない、先導者にもなれない

 

「いいか、よく聞け」

 

こんなのに、あいつの願いは潰されたのか

 

「この地獄を広げたのは、お前だ」

 

「まさか、そんな訳が……」

 

今更気づくか、なんとまあ愚鈍な事だ

今すぐ殺すか、それでなくても殴り飛ばすかしようと思ったが優先すべきはそれではない

やるべきことは生存者を集めることと、その避難

それから武器を持つ者の無力化

なんとかして頭を冷やそうとしているところに

 

「それじゃあ、奴は、奴の、家族は……」

 

その言葉が、鮮明に聞こえてしまった

 

「おい、なんて言った」

 

「は?」

 

「あいつの家族が、なんだって」

 

「いや、その」

 

嫌な予感がした

 

「答えろ、何をした」

 

「えっと、あの」

 

「答えろ」

 

「あ、あいつが、やったと思って」

 

最悪の答えが頭をよぎる

 

「あっちから始めたから、だから、みせしめに――」

 

その言葉は、最後まで聞かなかった

 

「…………へ?」

 

体が勝手に動いた

 

奴の言葉を聞きたくなくて

 

あの暖かなものを、穢されたと思いたくなくて

 

偽りの王が弾かれたように倒れる

 

「なっ!」

 

「レイヴン! なにを――」

 

民に銃を向けていた兵も同じように倒れる

 

「……レイヴン、君は」

 

「うるさいぞ、あんたは生存者を集めろ、火の勢いが少ない方に」

 

近くで脅されていた民が俺を見る

 

「……そうか、君はそれが本業だったな」

 

「ああ、そうだ」

 

俺の手には、二丁の銃が握られていた

 

 

 

 

 

「……………………」

 

あれから国を走って回った

 

「……そうか」

 

生存者を捜しつつ、民に戦えと強いる兵を殺しつつ

 

「こうも、脆いものだったか」

 

焼けた家屋を、見る影のなくなった街並みを尻目に走った

 

「……なるほど、笑える話だ」

 

俺が来るのを待ってくれたおばさんも

 

「狂おしいほどに、笑える話だ」

 

いつか、勝手に人のものをいじくった整備士も

 

「これが、結末か」

 

不器用な、あの主人も

 

「これが、終わりか」

 

暖かく迎えてくれた、あの家族も

 

 

「なんとまあ、哀しいことだ」

 

 

なにもかも、黒く焼け焦げていた

 

 

「……どれが、誰だよ」

 

一週間前、そこにはあったはずの家

勝手にドアを開けて、だけど誰も叱らない

かわりに優しい笑顔を向けてくれた、花屋の家族

そこには何もない

あるのは、全焼した家と

見せしめだろう、黒く焼け焦げた人型のものが三つ、置かれていた

 

「……真ん中は、奥さんか」

 

大人程のサイズが一つ

 

「で、こっちがあいつら」

 

その両端に、少し小さいのが二つ

 

「……嫌がらせか、クソ野郎」

 

片方には、赤い花が添えられている

枯れかけたそれに、見覚えがある

児戯のつもりで送ったもの、照れる姿が見てみたくて渡したもの

 

「……………………」

 

悲しかった

 

「……クソ」

 

なのに、涙は出なかった

 

 

 

 

 

 

もう片方の国に渡った

あの花屋がある方

まさしく、その場所に

 

「……………………」

 

「やあ、レイヴン、間に合ってしまったか」

 

今まさに燃え尽きようとしている店

かつて色とりどりの花で飾られていた小さな城は、面影を残していなかった

 

「……結果は出たな」

 

「……そうだね」

 

どこか疲れたような笑みを見せる店主

その手には、一丁の銃

随分古い、装填の為の機構を動かすレバーの付いた銃

 

「反撃には、出たんだな」

 

「そうだね、皆が、せめて国らしく抗おうと言って」

 

「……そうか」

 

二つの国を繋ぐ道

両国の兵が、国民が、そこで殺し合っている

 

「……すまない」

 

「君が謝ることはないよ、レイヴン」

 

たった一週間、空けただけだ

 

「いや、俺のせいだ」

 

「違うよ、悪いのは僕たちさ」

 

五年、それだけかけて積みあげてきたものは

 

「俺が、あんな軽はずみなことをしなければ……」

 

「君は、悪くないんだ」

 

たったの七日間で崩された

 

「……事の仔細は、理解してるんだな?」

 

「ああ、あまりにもタイミングが良かったからね」

 

武器商人の存在も、あちらが謀られたことも、こいつは知ってる

 

「……言わなかったのか」

 

「言ったさ、でも、手遅れだった」

 

手遅れ、とは家族の事か

 

「あんたは、怒らないのか」

 

「怒ったよ、でも、きっと、意味はない」

 

殺されたのは、知っているのか

そのうえでまだ、優しくあろうとしてたのか

 

「……わからん、何故そうも受け入れられる」

 

「そうだね、きっと、君への罪悪感からさ」

 

「……何の事だ」

 

少し考えれば可能性は見えたはずだ

いつかの俺と同じように、狙うものはいたはずだ

食い扶持だと、稼ぎ時だと

 

「僕たちは、君に謝らなければいけない」

 

「……………………」

 

謝られる理由は、ない

 

「僕たちは、君の善意に応えることが出来なかった」

 

この優しい王は、罪を犯していない

 

「これじゃあ、宿にも泊めてあげることが出来ないね」

 

「……謝るな」

 

「すまないね」

 

「謝るなよ、頼むから」

 

この国の誰も、しまいにはあの臆病者も

 

「僕たちは、君に甘えていたらしい」

 

誰も、罪は犯していない

 

「君の優しさに、君の強さに」

 

罪人は、一人だ

 

「君がいたから実現できていた、あの小さな平和に、麻痺していたんだ」

 

滅びを運び入れたのは、たった一人の罪人だ

 

「償う方法があればいいのだけど」

 

「……ない、そんなものは」

 

どうして、まだ、そんな顔を向けられる

 

「僕は、王の器ではなかったようだ」

 

どうして、笑みを向けることが出来る

この王の願いを消し去ったのは俺だ

彼が許しを請う必要はない

それをするのは、俺のはずだ

 

「……俺を、憎めよ」

 

「できないよ、それは」

 

「憎んでくれ、頼む」

 

「駄目だよ、レイヴン」

 

「そのまま、俺を殺せ」

 

「君は悪くない、自責の念に駆られる必要はない」

 

「頼む、どうか、せめて」

 

「レイヴン」

 

「恨み言の一つも、言ってくれ」

 

「駄目だ」

 

どうして、この男は許せる

こんな不条理を、なぜ受け入れられる

俺が間違えなければ、正しい方向に進んでいれば

こうはならなかったのに

愛そうと思った者たちが、殺し合うなんてことにはなるはずがなかったのに

 

「……………………」

 

「レイヴン、一つ、聞いてくれるかな」

 

「……なんだ、店主」

 

店主が銃を向けてくる

 

「この哀れな王の、最後の願いだ」

 

銃口でなく、持ち手を

 

「心優しい友人に、叶えてもらいたい」

 

それが意味することを理解した

 

 

 

どうか、この二つの国を

 

君が護ってきた、小さな国を

 

君の善意を踏みにじった愚かな国を

 

護り手たる君の手で、終わらせてほしい

 

 

 

「……ありがとう」

 

何も言わずに受け取る

 

銃のレバーを引く

 

中身の詰まった薬莢が飛び出る

 

元の位置に戻す

 

次の弾が装填される

 

銃口を差し向ける

 

「いつか、君に改めて言いたかった」

 

狙いは、眉間

 

「僕が、ここの王だと」

 

俺の、いつものやり方

 

「いつか、殴ってほしかった」

 

何故、こういう時も、狙いがブレない

 

「それで、笑いあいたかった」

 

どうして、引き金に指をかけれる

 

「いつか、ここが」

 

どうして、涙が出ない

 

 

「君の居場所になれば良かったのに」

 

 

「……………………」

 

どうして、笑って逝ける

 

「……なんで、こうなる」

 

昔から、なにも変わらない

傍にいたものが消えていく

 

「……これが、望む結末か」

 

あの日の子供たちも

 

「これが、最後の願いか」

 

あの家族も

 

「肯定できん」

 

この王も

 

「否定させろ、頼む」

 

理解しかけた先から消えていく

 

「……クソ」

 

悲しいのに

 

「……………………」

 

どうして、泣けない

 

 

 

それから俺は、店主の願いを叶えに行った

 

無意味に殺し合う両国を止めるため

 

圧倒的な暴力を振るいにいった

 

どいつもこいつも見たことある顔

 

俺を見て、俺に気づいて、笑いやがった

 

安堵の顔を見せやがった

 

片っ端から殺して回る俺を見て、怯えることをしなかった

 

抵抗せずに、殺されていった

 

どうして、逃げない

 

どうして、救われたような顔をする

 

どうして、俺を責めない

 

どうして、許して逝ける

 

死んでいるのに、殺されているのに

 

どうして、笑顔を向けられる

 

 

この日、俺は初めて真の意味で人を殺したのだろう

 

罪のない人々を、護ろうとしたモノを

 

護りたかったモノに、護りたかったモノを壊させないために

 

誰にも、罪を犯させないために

 

発端は不条理な出来事だ

 

悪意を持つ奴らの姦計に巻き込まれたからこうなった

 

愚かな守り人が目を離したからこうなった

 

役割を忘れたから、己に出来ることを理解しなかったから

 

殺すことしか出来ないのに、護ろうなどと考えたから

 

身の丈に合わぬ夢を見たのが原因だ

 

偽善を善と勘違いしたのが間違いだ

 

この日、罪を犯したのはただ一人

 

下らぬ幸せを望んだ者

 

人のふりに、暖かさを感じた者

 

 

 

 

その日、地図から二つの国が消えた

 

それをやったのは、たった一人の傭兵だったという

 

 

 

 

 

「……………………」

 

「……少年、何があった」

 

「何も、ただ不条理なことが起きただけだ」

 

「この屍の山は何だ」

 

「俺が殺った」

 

「……なんと」

 

「俺が、全て殺した」

 

「……少年」

 

「残ったのは、名残りだけだ」

 

「生き残りは」

 

「捜せよ、爺さん、そのために来たんだろ」

 

「わかった」

 

「そうだ、爺さん、聞きたがってたろ」

 

「……何をだ」

 

「俺の名前、聞かせてやるよ」

 

 

 

「この世の全てを殺し尽すもの」

 

「ありとあらゆる善を屠るもの」

 

「ありとあらゆる悪を食む者」

 

「流れる様に、命を攫うもの」

 

「救いも、願いも、なにもかもを否定する」

 

「死を告げる、黒い鳥」

 

 

 

「死告鳥、レイヴンだ」

 




重苦しい話にすべきか、少し軽くするか
考えるだけならタダですがなんとも難しい
ちゃんとした人なら細部まで書き込むのでしょうが
まあ、私はただの小説家のパチモンなのでこれぐらいでいいでしょう
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